エルデンエムブレム   作:yononaka

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ファンクラブ

 前哨戦の結果は勝利。

 大きな被害もない。

 

 元アカネイアの将たちは自分たちの兵に寛大な対応を与えてくれるよう願う。

 オレからしても別に片っ端から首を刎ねて街道に並べるだとかするほどに恨んでいる相手でもない。

 残りたいものは残り、去りたいものは去るように告げたが、その全員が自分たちが従うに値する将の行く先がわかるまで動きたくないと言う。

 

 見上げた忠誠心ではあるのだが……。

 

「最前線の食糧事情的には微妙ですね……

 労働力として使うわけにもいきませんし、タダメシ喰らいを置くには」

 

 エルレーンも困っているようだ。

 捕らえた者を戦力に加えることはできない。

 とはいえ、遊ばせておくわけにもいかない。

 戦場で捕虜を取るということは軍全体にとって高いリスクを抱えるのである。

 

「将と兵をそのまま後方に送るしかないかと思いますが」

 

 エルレーンの言葉にオレ、アラン、ミネルバは「それでいい」という反応をする。

 彼らは全員纏めてホルスタット経由で収容地に送られることになる。

 アカネイア攻めが終わる頃に再会することになるだろう。

 

 捕らえた後、オレは興味本位で軽く面談したがトムスにミシェランの装甲兵兄弟とトーマスは反抗する気もなく、部下の安否のことを聞いてくる程度で恨み節なども吐いたりはしなかった。

 敗北したことを納得しているのと、戦いから離れた事をどこか安堵しているようにも見えた。

 人間、気を吐き続ける事はできない。

 忠君愛国……とは違うか、この場合は。

 ともかくこの地を愛するが故に仲間とも袂を分かって戦い続けるのはどれほどストレスであることかはオレには察しようがない。

 ただ、その表情から文字通り死ぬほど辛いことであったのだけは理解できた。

 

 彼らとは別に、戦況の変化の中で大きなところはパレスの外部からの兵が入ったこと。

 練度はさておいても個々の武勇に優れていそうだという情報もある。

 協力者は誰だろうか。

 オレルアンということはないと思うが、自由都市連盟辺りがテコ入れに入ったのかもしれない。

 もしくは五大侯の手勢か。

 聖王のオレが戦場に出ている間に討ち取りたいと思う相手は少なくないだろう。

 今更増援の一つ二つで首を取れると思われているのは心外なので、このパレスでももう少し華々しい活躍をしておきたいものだ。

 

「ナギ、働いてもらうぞ」

「ばっちりと働こう」

 

 オレの周りにいるのが悪いせいか、ナギの口調はどんどん人間的になっている。

 最初にあったときの神秘性は愛嬌の方へと寄っている。

 プラスに働くこともあって、彼女のそのある種の気安さが彼女に寂しい思いをさせていないようだ。

 このまま行き過ぎたら神竜信仰(ナギファンクラブ)が始まりそうなので警戒は必要だが。

 

 ミネルバがナギに対して「その方は?」と問う。

 

「ナギだ、神竜族をしている」

「ミネルバと申します、神竜族のナギど……今なんと?」

「ナギだ、神竜族をしている」

「……」

 

 ミネルバが固まる。

 この反応しない奴の方が珍しいんだよな。

 

「ただの竜族ではないとは思っていたが──」

「おお、ミネルバは偉いな、ちゃんと竜族呼びなんだな」

「マケドニアはドルーアの隣だ、蔑称で呼ぶような真似はしない

 いや、そういう話ではない」

「神竜様を戦争の道具にするなって話ならもう終わってるんだが」

 

 と、まあこの辺りのお約束は流すとしよう。

 それらが終わった後にミネルバに個人的に聞いてみた。

 

「蔑称で呼ばないのは偉いが、何の悪感情も見えなかったのは不思議だな

 お前の故国は実質的にドルーアの属国にされているんだろう?」

「私はものを知っているわけではないが、竜族が虐げられていたのは理解している

 それに憎むべきは個人ではないし、まして彼らが嫌うような名で呼ぶのは大きな過ちだ」

 

 ミネルバの怒りは義憤だ。

 ただ、それは正しき事のための怒りというよりは自らの道理に重ねて罷り通らない事に怒っている。

 彼女自身が自らと重ねているのか、そこまではわからない。

 

「……ナギ様は自らの意思で戦場に出られるのだな」

「ああ」

「馬廻りという言葉が正しいのかはわからないが、側で戦わせてほしい」

 

 確かにナギにとって明確に対人をするのは初めてのことになる。

 ファーストブラッドで彼女がどうなるかも考えるべきか。

 

「わかったが、」

「が、なんだ?」

「踏み潰されるなよ」

「そこまで間抜けに見えるのか、私は」

「いや、竜の姿が美しい……とかってなって見とれてたら、みたいな」

「ドラゴンライダーだからといって、誰しもが竜に憧憬を覚えると思わないでくれ

 ……まあ、でも、うむ」

 

 一拍おいてから、彼女は小さい声で「気をつける」とだけいった。

 前もって警告してよかった。

 当日はミネルバはオレの側にいてもらおう。


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