エルデンエムブレム   作:yononaka

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無刀赴会

 視界一杯に兵士たち。

 どれもこれもが敵兵だ。

 それらの前に三人のおっさんが現れる。

 

「アカネイアパレスの守護を仰せつかっているボーゼンと申す!」

「同じく、ヒムラーと申します」

「仰せつかってはいないが勝手に守っているジューコフだ!」

 

 三人ともによく通る声で叫ぶ。

 続けてジューコフが

 

「少し話でもしないか、聖王よ!」

 

 そう言って武器を地面に突き刺すとこちらへと歩いてくる。

 どんだけ豪胆なんだよ。

 それともやけっぱちか?

 

「レウス、どうする」

「ジューコフって奴を知っているか?」

「ああ……知っている

 私が前のめりになりそうな時にいつも止めてくれた、よくできた御仁だ」

「不意打ちとかはするタイプだと思うか?」

「そういう手管は好みではないとは思うが、勝つための算段となるなら別だろう」

「なるほどね」

 

 オレも歩き出す。

 ミネルバが引き留めようとするが「ナギとそこで待っていてくれ」とだけ伝える。

 

 結構な距離を歩かされ、ようやく普通に喋れば届く程度の距離まで来る。

 

「ハハハ!

 聖王レウス!国の主とあろう方がなんとも剛毅なことよ!」

「元々単騎駆ばっかやってるんでね、敵兵に囲まれているよりも安全なくらいだ」

「英雄譚を地で行っているという噂はまことなのだなあ

 どうだ、他の二人も呼んでも構わんかね」

「二人でも四人でも呼べばいいさ、何ならお茶会でも開くか?」

「それも面白い、だがそれならば酒宴の方が嬉しいのだが、パレスの方は住人を疎開させてしまっているからな、どの店も休業ゆえ、叶えられん願いだ」

 

 ジューコフは後ろを向き、残り二人との距離を見やり、

 

「わしらもいい年だからなあ、ここまで来るのに随分と時間が掛かりそうだ

 雑談に付き合ってはくれんかね」

「しりとりするよかマシな提案だな」

 

 それにジューコフはまたハハハ!と笑い、言葉を続けた。

 

「ミネルバ王女だろう、あそこにおられるのは」

「隠し立てしきれんよな」

「大変目立つ外見でもあるし、わしはあの方を諫める立場にあったからなあ

 そういうものであれば遠目からでもわかるものよ

 ミネルバ王女は妹君を助けるために聖王閣下に付いたのかね」

「あいつが戦ってるのはあいつの意思であるところが大きいな

 妹のマリアはオレが助けるって約束をした」

「そうか……あの王女が頼れる男を見つけたということか、うむ……」

「おいおい、娘を嫁に出すお父さんでもあるまいし」

「わしにとって王女は娘のような存在でもあるのでな

 まあ、本当の娘は淑やかに育ってくれたのでタイプは違うが」

「余計なこと言ってるって、おっさん」

「おっと……ハハハ!まあ、だが娘のように思っているのは本当だ

 だからこそ頼れた相手が聖王であるのは、誰より安心できる」

「できるのか?」

「相応の責任は取る、という立場ではあろうよ」

 

 手を出すことを確定している風に言われる。

 オレはおっさんにどう思われているんだ、という顔が出ていたのか、

 

「不思議そうだから言っておくが、

 アリティア女王リーザ様とタリス王女シーダ様を手籠にした話は大陸で知らぬものはおらんと思うぞ

 吟遊詩人が入れ替わり立ち代わりでその唄を謡っておるからな」

「あー……」

 

 情報拡散のためにアリティアでは吟遊詩人に手当を出して各地で謡わせている。

 その影響力は凄まじいが、それはそのままオレがどんな奴かってのが伝わっているってことか。

 手籠……いやまあ、そうだな。孕ませておいて否定もない。あるはずもない。

 

「そうだ、それで聞きたかったんだが」

「なんだよ」

「ディール侯爵のシャロン殿からシーマ王女を寝取った上に侯爵殿と同衾したというのは──」

「お待たせした、ボーゼンだ」

「ヒムラー、罷り越しました」

 

 え、何?え?

 シーマとは寝てない。可愛い義妹だからな。ノータッチだ。いや、ノータッチではなかったか。

 それよりなんだ、え?シャロンと寝たことになってるのオレ。噂は邸だけに留まらなかった。

 死して尚伝説の中に生きるバケモノとなったのかシャロン。勘弁してくれ。

 

「戦いの前にこうして話せる機会を与えてくださったこと、感謝が尽きぬ」

 

 ボーゼンはそう言うと

 

「我らは皆、グルニアの将であるが、アカネイア地方を気に入っておる

 無論、根付いた文化で許容しかねるものは少なからずあるがね」

「五大侯とかか」

「ハハハ!」

 

 ジューコフが横から笑う。

 まあ、そういうことだよな。

 

「その為に我らは今もアカネイアの盾として戦おうと思っている

 聖王閣下、あなたはアカネイアを手にしたあとに、この歴史ある地をどうするのかを伺いたい」

「オレが作る国にはアカネイア王国も、その歴史も、それをありがたがる連中も要らん」

 

 アカネイアは要らん。オレルアンと繋がる王族の生き残りどもなどオレの怒りを増進増大させども、鎮めることはありえない。

 連中が何を考えているかなど興味もない。

 ただ、オレの側にいてくれたであろう者を奪ったのはオレにとっての事実だ。

 

「手始めに貴族どもと、そこに連なるノルダ、風見鶏のワーレンは全て潰す」

 

 誰が彼女(フィーナ)を殺したかなんて、もう興味はない。

 彼女が死んだ背景を作り出した連中は全て纏めて一括りだ。

 

「媚びへつらって貢いできたものを殺す、

 歴史を盾に助命を願ったものを殺す、

 五大侯の腐敗に関わったものは残らず殺す」

 

 完璧な世界などありえない事くらいは知っている。そもそもオレが王の時点で歪になるのは決まっている。

 であれば、オレにとっての完璧を目指せばいい。

 歪んだ形であろうとも、誰がオレを攻めようとも、知ったことじゃない。

 

「アカネイア王国とその息がかかったこの辺りは更地にして、そいつらの死体を堆肥にする

 それを使って、かつての栄華が忘却されるような一大穀倉地帯に作り変える」

 

(アカネイアの……この大陸の破壊者となろうというのか)

 

「得たかった答えは得られたか?」

「……ああ、十二分に

 その意気はまさしく覇王の器なのだろう」

「王族が武器を手に戦うのがアカネイア大陸の流儀だろう」

 

 オレのその言葉に「それには同意しましょう」とヒムラーが横から同意した。

 

「我らの望みは一つ叶えられました」

「まだあるのか」

「我らはグルニア軍人

 粗暴と言われようとも今を生きる神話の力を、我らの力がどれほどまで及ぶか試したくなる生き物なのです」

「及ばなかった時、どうする」

「さて……それこそ敗者には選ぶ権利などありますまい

 殺され晒されようと、堆肥にされようと」

「それは、お前らを負かすのが楽しみになった

 ……話は終わりか?」

 

 纏めるようにジューコフが「ああ」と応じる。

 

「後は戦いで決着を望まん

 会談に応じてくださった聖王レウス陛下の御慈悲に一同より心からの感謝を

 この恩義には聖王レウス陛下との戦いでお返し致す」

 

 三人のおっさんたちが去っていく。

 オレも背を見やるようなことはせず、ナギやミネルバの下へと戻ることにした。

 

 考え続け、肚に溜めていたアカネイアの処遇を吐き出した今、オレがやることは明確になった。

 やがて、戦いは始まるだろう。


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