エルデンエムブレム   作:yononaka

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サファイザー

 宙に浮かぶ魔道書がそれぞれ起動する。

 ファイアー、ブリザー、サンダー。

 いずれも階位の低い魔道書であり、何か特別な力が加えられているわけではない。

 だが、それを同時に操ることができれば或いは上級の魔道書に匹敵する力となる。

 

 問題はそれだけではない。

 魔力の高さだ。

 

 オレが知る中で最も魔力が高いのはガーネフだろう。

 これは疑いようもない。

 魔道の腕前として考えればガーネフには及ばなくとも、純粋な魔力の高さで言えば比肩するレベルだ。

 

 いつまでもそこらのものを盾にし続けることはできない。

 

 おそらく城の壁を崩した魔法は別に持っているのだろう。

 即座に連発してこない事からそれなり以上にクールタイムが存在しているものなのだろうが、

 それがいつ完了するかの推理する要素もない。

 

「遠距離攻撃ができる奴はそれを頼む

 隙をついて接近戦を挑む

 エルレーン、お前には別に頼みたいことがある」

「はい」

「いざって時のために学院が渡してきた杖あったろ、秘蔵品だって言ってた」

「リカバーですか?」

「あの様子じゃすぐに倒れるとは思えないが、万が一防御がペラペラだったら死なないようにして欲しい」

「蘇生なんてできませんよ、この杖は」

「だから見極めて、やばくなる直前に使ってくれ」

「無茶を仰る

 問題ないダメージだったら攻撃に回りますよ、僕も」

「ああ、頼む」

 

 エルレーンの話が終わった後にサムトーが言う。

 

「レウスさん、俺も行くすよ」

「無茶はするなよ」

「俺の逃げの技術体感してるじゃないすか」

 

 一方でヒムラーは持っていた手槍をジューコフにも分けて寄越す。

 エルレーンは杖を、

 ボーゼン、そしてエレミヤは魔道書を用意し、魔力を練り始める。

 

「行くぞッ!」

 

 オレの声が引き金となって、突発的に始まった死闘の幕が開けた。

 

 ────────────────────────

 

「ボルッ!ガノンッ!」

 

 ボーゼンの掛け声と同時に発動するエレミヤの黒い光。

 二重の爆発は普通の人間なら、いや、熟達の戦士ですら消し飛びかねない破壊力がある。

 

「そぉらよ!」

「ハッ!」

 

 ジューコフとヒムラーの手槍が飛来するが、命中の前にブリザーが発動し、地面に縫い付けてしまう。

 

 だが、十分に近づける時間を稼ぐことができた。

 オレとサムトーが踏み込む。

 今のやりとりでわかった。この相手はそう簡単には死ぬまい。

 

 獣人の曲刀を振るう。『追撃』、『突撃』がほぼ同時に発動する。

 しかし、その一撃はまるで魔道書が身代わりになるかのようにして盾となる。

 魔力そのものが魔道書の物理的な耐久値を高めているようで、紙で作られているはずのそれは鉄鎧すら切り裂く威力がある獣人の曲刀の連撃を食い止めた。

 

 彼女を挟み込むような形で立っているサムトーもそれは見ていたが、或いは見ていたからこそ全力でパチシオンを薙ぎ払った。

 同じように魔道書が盾にならんとするが、衝突の際に凄まじい光が発したと思うと、魔道書はコントロールを失ったように地面に落下していった。

 

 オレの一撃を防いだのを見ていたサムトーも、それには少し表情を変えた。

 

 乱入者はその状況が──オレにはわからない──何かを察知して後ろへと一歩引く。

 

「よくわかんねえけどパチシオンなら当たるんすかね!」

「かもしれん」

 

 周りを浮く魔道書が彼女の腰や背に張り付くように動くと、彼女を輸送するように動き始めた。

 

「あ、逃げるすよ!!」

「『道に留まれ』、『木々を進む』!!」

「へ?」

 

 追いかけつつオレはトレントを呼び出すと飛び乗った。

 彼女の移動速度はと言えば、トレントでも追いかけるのが精一杯で距離を縮めることができないほどだった。

 

 ────────────────────────

 

「レウスさん、何が言いたかったんだろう」

 

 サムトーがレウスの背にそう呟く。

 

「道に留まれ、はここで待て

 木々を進むは最長で十日ほど単独行動する、ですね」

「符牒って奴すか」

 

 エルレーンは「そうです、あまり使う予定はないもののはずなのですが」と言う。

 自らの王が単独行動する自体は可能な限り避けてほしいからこそ、あまり使う予定がない、と濁したのだろう。

 

「エレミヤさん、アレってやっぱ」

「守り人ですね」

 

 二人の会話に入るようにエルレーンは言う。

「何かご存知なら教えていただけませんか」と。

 

「情報をいただければ対策を立てることができます

 レウス様が単独行動するのは今更なので止めようもありませんし、止める気もありませんが……

 お戻りになるなり、予定よりもお戻りが遅いときなり、行動するためには情報は多ければ多いほど助かります」

「レウス閣下にこそお伝えしようと思っていたことなのです、皆様には刺激が強いかと」

 

 刺激が強い、と濁しているがグルニア三将はそれを国家のトップ層でのみ共有するべき情報なのだと受け取る。

 

「ふむ……

 であれば、我々は聞かないほうがよろしいでしょうな」

「我々に口外する気がなくとも、

 知っている人間が多いというのはそれだけで隠蔽強度が下がりますからね」

 

 グルニア三将は城が破壊された状況やいざという時にレウスを追いかけるためにも相応の準備を進める。

 

「レウス様の名代として伺います」

「わかりました、ですがそれを聞いた上で私との敵対をする事はしないと約束していただけますか?」

「それは勿論、レウス様の判断もなく賓客に失礼な真似はしません」

 

「なら安心ですわね」とエレミヤは微笑み、そうして説明を始める。


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