ドロップ率、というものがある。
特段説明がいることでもないとは思うが、誰を倒したら、そいつの持ち物は何%で手に入るというものだ。
狭間の地での戦いでは戦った果てに壊れずに手に入った場合は入手扱いとなり、
レア度が高ければ高いほど、持ち主の扱い方が雑だったりして使い物にならないものばかり転がっていることになる。
アカネイアの地においては事情が少し異なる。
倒した相手の持ち物は全てドロップする。
ただ、そのドロップにも2種類あり、一つは「無傷で手に入る可能性が高いもの」。
先程赤い噴水に変えてやったハイマンであれば、リライブの杖が該当する。
もう一つは「手には入るものの、傷物である可能性が高いもの」だ。
先程のハイマンであれば、手斧がそれに該当する。
記憶違いでなければ『新暗黒竜と光の剣』において手斧の耐久値は30。
だが、手に入ったものはいいところ、耐久値は5か6程度だ。
戦闘中に景気よく使っていたが、それでも本来なら20前後は残っているはず。
狭間の地と違って、ここでは絶対に手に入るが品質は保証されないということである。
もしかしたならマルス王子率いるアリティア軍でも同じことはできたのかもしれないが、
彼らは国の王子であり、後には同盟軍の中核ともなる栄光ある戦士たちだ。
火事場泥棒同然の行いを軍規によって禁止していたのかもしれない。
「手斧に、ナイトキラー。この辺りは価値があるだろう
あとは大量の鉄の槍に鉄の斧
売り払えば多少の金にはなるか……」
大っぴらにオレが火事場泥棒をしないのはシーダに悪印象を抱かれたくなかったことに起因する。
死体を漁り、武器を手に入れ、それを売り払うなど王家の人間からすれば唾棄すべき行いであろうからだ。
「おっと、この鋼の斧は高く売れそうだな
それにきずぐすりも嬉しい」
このままサムシアンの拠点も物色したいところだが、流石にその前に合流するべきだろう。
オレは戦利品を『どこかしら』に隠し持つとシーダたちが待っているであろう地点へと移動した。
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オレの姿を見て、シーダは言いたいことが有りげではあったが、レナが駆け寄ったために発言の機会を逸してしまったようだ。
「また、傷を作ったんですね」
そういうレナはどこか嬉しそうにライブの力を解放している。
ほどほどで良いと言うと、そこは素直に聞いてくれる。
余るほどに回復されるとライブがもったいないからな。
疲労も溜まっているし、夜明けまでは警戒しつつサムシアンの拠点で休むことを提案すると一同に否定はなく、そのようになった。
シーダ、レナ、リフはそれぞれが持ち回りで見張りをすることになる。
一方のオレは拠点内で使えそうなものがないか物色するために見張りには参加しないことを告げる。
ちょっとした城並に大きい拠点を漁り切るのは徹夜になるだろう。
とにかく、あるべきものがなかったから、それを探す必要がある。
ワープの杖だ。
本来であればレナが抱えていた貴重な一振り。
七度までしか使えないが、その力は絶大で、一人をほぼ無制限に飛ばすことができる。
マップの中でどこでも、という力だが、現実として存在するここではその範囲はどこまで及ぶかはわからない。
だが、狙われてはならないものを急場で逃がす、オレを大将首の元に飛ばして強引にゲームセットさせるという王道な使い方から、呼び出した傀儡を敵陣に投げ込むような運用もできるし、夢が広がる逸品だ。
欲しい。
とても欲しい。
徹夜を厭わず、オレは探索をする覚悟を決めていた。
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タリスの王女シーダ。
私が何者かは生まれた時から定められていた。
それに疑うこともなく育った。
マルス様とは幼い頃からの繋がりがあって、不思議と私はこの人と添い遂げるのだろうなあと直感していた。
彼も私もすくすくと育ったが、数年前に興ったドルーア帝国によって戦火が各地に拡がる。
アリティア領から辛くも脱したマルス様はタリスへと落ち延びた。
しかしドルーア帝国と盟約を結んだ諸国いずれかの手によってか、或いは戦乱に乗じてだったのか、海賊たちがタリスへと攻め入り……
マルス様は殺されてしまった。
彼が戦下手だったわけではないと思う。
ただ、海賊たちの強さは予想以上だったのだ。
私はどうすればいいかわからなかった。
ただ、きっとずっと一緒にいるだろうと直感していた人が、
己の半身だと思い続けていた人が死んでしまって、
まるで今までの自分が全て否定されたような気持ちになって、
何も考えられなく成っていた。
そこに現れたのがレウス様だった。
最初の印象はどこかの正騎士、というものではなかった。
赤い布で顔や体を隠した姿は自らの所領を失地したような、失礼ながらもそんな印象があった。
ただ、彼は強かった。
尋常という言葉では計れない強さ。
寝物語で話される孤高の英雄アンリにその姿を重ねてしまうほどに。
ただ、破天荒という言葉では片付けられないくらいには破綻した人だともわかった。
お父さまに国か私かを選ばせて、
挙げ句に私を戦利品扱いする。
人を物扱いしてくる無礼な人は見たこともなかったから驚いた。
けれど、その扱いに安堵する自分を見つけた。
半身を失い、定められていたと思っていた運命を失い、歩く力を失っていた私の手を引いてくれる。
乱暴で、慮外者だと言える人であると同時に、奇妙に疼いてはじりじりと燃えるような感情が胸の奥にあることに気がついた。
この感情が何か、私は知らない。
彼との旅の中で私はその答えを知ることができるのだろうか。