この日は実に有意義で、そして忙しかった。
行商が立ち寄ってくれたお陰でアイテムの売買ができることが、だ。
アリティア軍であればこういう行商が付いてきてくれるんだろうが、オレの場合はそうはいかない。
ここで売れるものは売り、買い込めるものは買い込まねばならない。
今までかき集めた戦利品をじゃかすかと並べていく。
勿論、どこかの青狸のように目の前で広げるわけにもいかないので別荘から運んできた体だ。
山ほどの鉄の斧に鉄の弓、やや数が少なくはなるが鉄の槍も相当な数がある。
戦利品で残すべきだろうと思えたのはナイトキラーと手斧、キルソード、後はきずぐすりくらいなものだ。
所持数として見て珍しいものでいえば鋼の斧、鋼の剣だろうか。
数が数のせいで買い取りきるには金がないと言われたので、ありったけのライブの杖を要求した。
「あ、ありったけかい?相当な数があるが……」
「何本ある?」
「30と少しだ」
「流石に売り払うものとの物々交換じゃ足りないよな、差額はゴールドで支払うよ」
「そいつはありがたいね」
少し遅れてシーダ、レナ、フィーナが行商とオレのもとに現れた。
「こりゃあまた、べっぴんさん揃いだ
服や宝石もあるよ、よければ見ていってくれ!」
「あー……」
彼女たちの服も戦いでところどころ破れてしまっている。
フィーナに関しては捕らえられていた場所のせいで、汚れている部分が見受けられた。
「だそうだ、好きな服を買ってやる。
着たきり雀ってわけにもいかんから、数日分纏めて買えよ」
「きたきりすずめ?」
「それはいいから、ほら、選べ選べ」
彼女たちは最初こそ申し訳無さそうにしていたが、フィーナが次々と二人にこれが似合うやら、こういうのはどうかだのと着させているうちに盛り上がっていった。
美少女たちの買い物に付き合うというシチュエーションは素晴らしいものがあるな。
「ありがたいですなあ」
「ああ……うおっ!?」
つい同意したものの、気配もなく後ろに立っているリフに心臓が潰されかける。
「ああ、ジイさんも服買っとけよ」
「いえいえ、それらはしっかりと持ち込んでおりますのでな」
暫く彼女たちの買い物を二人で見つめているとリフが再び会話を切り出してきた。
「騎士殿、彼女らが衣服を買うついでにご提案がありましてな」
リフ曰くに、ペガサスは空を飛ぶことはできても戦いに赴けるほど回復はしていないとのことだ。
おそらく精神的なものだろうと。
シーダをこの後も戦わせるのならば兵種を変更する必要があるのではないかという話だった。
───────────────────────────────
ある程度の買い物が決まった段階でオレはシーダに兵種変更の話を持ちかける。
彼女も今の状態の愛馬を戦闘には出したくないらしく、同意してくれた。
弓兵か魔道士のどちらかになってくれというオレの提案に対して、彼女は魔道士を選んだ。
現時点での魔力はそう高いものでもないが、相手の防御能力を考えれば低かろうと大きな問題でもないはずだ。
必要そうだったのでファイアの書を数冊買い足すことも忘れない。
それに加えて衣服の代金で、ここまでの道中で敵を倒して得た諸々で作り上げた軍資金はほぼ使い切った。
廃墟やら城やらで手に入れた分のゴールドがまだそれなりに残ってはいる、路銀に困ることはなさそうだ。
こうして楽しい楽しいお買い物は終わり、別荘へと戻る。
普段着として購入したものをそれぞれが着て、楽しげにお喋りをしている。
至福だ。
こんな光景、狭間の地では見れなかった。
あの場所でのオレの癒やし空間は鳥のバケモノとどこぞの兵士が多対多で殴り合っているのを見ているときだけだった。
まったりとした時間を過ごしていたところに駆け込んできたのは、ここに到着して最初に駆け寄ってきた男。
この街の長だ。
「はぐれサムシアンでも現れたか?」
「い、いえ……マケドニア軍がこちらに向かってきております
どうか我々にお力をお貸しください!
もはや我らはマケドニアの支配を容認することはできませぬ!」
そりゃそうだ。
女子供があれだけ拐われたことがわかった以上、次に何されるかわかったものではない。
「わかった、何とかする」
オレの言葉を聞くと、他の皆も準備に取り掛かった。
───────────────────────────────
本来立ちふさがるべき敵将は不在。
街へと向かってきているのはベンソン麾下のものではないだろう。
「我々はマケドニア軍としてこの街を平穏に保たねばならない!
この街に我らの同僚を討ったものがいる!」
焦りが見える。
フィーナもそれを察しているようで、
「わたしたちが逃げたのを知って、口封じしようとしてるんじゃない?」
その発言は――
「いや!この街こそが同僚を討った者たちの根城であることを掴んでいる!
それ故、この街を今より打ち払い、抵抗するものがあればこれを倒す!
我らが求めるのは降伏と臣従のみだ!!」
というように翻された。
「敵の数は多くない、一気にケリをつけるぞ」
緊張した風に見えるシーダの手をレナがそっと握る。
その行いに落ち着きを得たのか、小さく頷くシーダ。
「まずは前衛から突っ込んで、シーダさんの援護を頼る……でいいよね、レウス」
「ああ、だが魔道士としての戦いはシーダにとって初めて、援護を信頼しすぎるなよ」
ん?
「いや待った、何を抜刀しているんだ」
「レイピアだけど」
「武器種を聞いているんじゃない、子供が何をしようとしているのかって話を」
「私、多分だけどシーダさんと少ししか年変わらないよ
子供扱いしないで」
それを言われると言葉もない。
オレにとってシーダは戦利品であり、武器の如くとして扱っているという背景はあるが、
それとシーダの年齢で戦いを行わせていいという話は別問題だ。
「わかった、戦えるというならそれに越したことはない
なにせ見ての通り戦力と呼べるものは僅かだ」
強く頷くフィーナ。
「だが、折角助け出したフィーナがむざむざ殺されるのは相当に堪える
可能な限りオレの側で戦うって約束できるのなら戦列に加わってくれ」
「まっかせて!」
オレたちを迎え入れてくれている街で『霊呼びの鈴』を使う気にはなれない。
そうなると元々少ない戦力はさらに少なくなる。
フィーナの参戦は実際、助かるのは間違いない。
だが、可能な限り怪我をさせないように立ち回る必要も出てきたわけだ。
「無傷で終わらせられたら、