エルデンエムブレム   作:yononaka

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Chained

 王子の死を告げられたマリクは目を開いて呆然とする。

 

「本当だ、その死体も確認している」

「……ぼくはマルス王子に何も返せていない、魔道士の道を応援してくれた彼に……」

 

 慰めの言葉など掛けられるものか。

 オレの今までの立ち回りも含めて、それを許される人間ではない。

 

「シーダ、ジイさん

 マリクを見ててやってくれ」

 

 オレはパトロールとする名目でこの空間から逃げ出した。

 

 ───────────────────────────────

 

「レウス」

 

 オレの背にフィーナが声を投げかけた。

 

「どうした、っと、それよりも先は見事だったな

 助かった」

「まさか無理やり教えられてた剣術が役に立つとは思わなかったよ」

「どこぞで聞いたが、レイピアってのは王族の証なんじゃなかったか?」

「証って訳じゃないよ。王族なんかが手習いさせられるものの一つってだけ」

「つまりお前は」

「その話はいいでしょー、今はさ」

 

 横に並んで歩き出すフィーナ。

 

「逃げたでしょー」

「あー……女子供なら抱きしめてやるなんて選択肢も出てくるだろうがなあ」

「かわいい子だったじゃん」

「フィーナはオレが見境のないタイプだと思ってらっしゃる?」

「どうだろーね」

 

 まあ、実際にマリクは少年らしさを十分に残した過渡期の美しさのようなものがある。

 狂わされる奴は狂わされるタイプかもしれない。

 

「正直、マルス王子に関わることが苦手でな」

「なんで?」

 

 オレが現れるために、マルスが犠牲になったかもしれない、なんてことを言えば天動説、地動説に続く自動説の持ち主、世界が自分中心で回っていると考えているやべえ騎士が爆誕してしまう。

 

「オレが遠くから来たって話をしたろ」

「してたね

 狭間の地、だっけ?」

「そういう出自の人間ってのは、ほら、期待されるもんだろ?」

「特にこんな時代だもんね

 勇者とか英雄になってくれそうな人だったら誰でもいい、

 とりあえず崇めておこうって感じになりそうだよね

 特にレウスの場合は強さもあるし、そうなる資格は十分って感じじゃない?」

「ああ、オレもそう思う

 けどな、強くて変わった出自があったとしてもオレはマルス王子にゃなれない」

「マルス王子と同じじゃないとだめなの?」

 

 フィーナは小首を傾げる。

 

「オレがアリティア軍を率いていりゃ、目を引いていたからな」

「目を引いたら何か良いことあったの?」

「少なくともレナを冥府魔道側に引っ張り込もうとは思わなくて済んだろうさ

 ジュリアンが生きてりゃ、善徳の価値ってのを示せたからな」

 

 と、いったところでフィーナには何のことやらだろう。

 しかしそれでも、彼女には話してしまいたくなる魅力があった。

 聞き上手な人間という奴なんだろうな。

 

(冥府魔道に、か)

 

 オグマの言葉を思い出す。

 冥府魔道から這い出てきた亡者。

 亡者と褪せ人にそう違いもないか、褪せ人としてやったことを考えればそれ以下かもな。

 

「そんなことを思っておられたのですか、レウス」

「……聞かれたくない話ってのは、聞かれたくない奴に聞かれるもんだな」

 

 オレはため息を漏らす。

 レナはパトロールに出たオレとフィーナを心配したようだ。

 

「思っていたさ、目を引けていればジュリアンは下手に彷徨(うろつ)かずに真っ直ぐと南下してきたはずだ

 そうなりゃ二人纏めて保護できた」

「悔やんでいるのですか?」

「そのことをか?

 笑ってくれよ、オレはまるで悔やんじゃいないのさ

 ジュリアンが死んでも、ナバールを殺してもな」

 

 歩を止める。

 

「アイツらは大なり小なり戦える力と選択する力の両方を持って運命に抗った

 その結果死んだんだ、それが自由ってやつさ

 だが、オレはそいつらをダシにしてレナを繋ぎ止めようとした」

「レウスはレナお姉ちゃんの自由を奪ったことが苦しいんだ?」

 

 フィーナが言う。

 

「自由ってのはさ、いいものだもんね

 自分の意思が許すなら不自由になったっていいのが自由、矛盾だって飲み干せる強さがあるもん」

 

 でもね、と

 

「レウスはレナお姉ちゃんが一方的に自由を奪われたと思ってるの?」

「思ってるさ」

「だって、レナお姉ちゃん

 わかってないよねえ、レウスって」

「付き合い数日もないお前に何がわかるってんだ」

「それくらいわかりやすい人だってこと」

 

 彼女があははと笑う。

 バカにしているという空気ではないのがわかるのも彼女の人徳ってやつなのだろう。

 もしかしたら縋るような目でもしていたらと思って、一度瞑目して、それからレナを見た。

 

「言ったはずです、あなたの側にいますと

 いつか私の望みを伝えられるその日まで、側にいたいと思っていることは数時間の間では変わるものではないですよ」

 

 不自由を選ぶことができるのが自由。

 オレがシーダに向けた思いでもあることが、自分だけが思うことではなかったことを考えもしなかった。

 

「だってさ、レナお姉ちゃんが優しくてよかったね」

 

 女心のわからん奴めという意味なのか、弱音を許して甘やかしてくれる人という意味なのか。

 

「でもさ、アリティア軍じゃないから嫌だって言うならなっちゃえばいいじゃん」

「なっちゃえば、ってなんだよ」

「アリティア軍にさ」

 


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