マリクはマルスの死を告げた翌日こそ部屋から出てこなかったものの、
更にその翌日には塞ぎ込んだ感じもなく、共に朝食を摂った。
部屋から出てこなかったときは流石にオレたちもどこかに行くわけにもいかなかったので、
シーダ、レナは屋敷で待機、
リフは街の子供達に勉強を教え、
フィーナは共に捕らわれていた人々と炊事の手伝いをしている。
というのも、最近はオレルアンの他の場所から逃げてきたものがこの街に集まってきているのだ。
住人と避難民が一丸となって仮設住宅を作っている。
「騎士様がいなければ我々は避難民を追い返していたかも知れません」
街の人間に感謝をされる。
人間性を失わずに済んだ、と。
オレは大したことをしていない。
避難民には行儀よくしていれば何とかすると伝え、
住民たちには街に人が増えれば立派な自警団を作れるかもしれないと提案した程度だ。
だが、オレの影響力というのはバカにできないものらしく、
「あなたがおっしゃるなら」と従うばかりだ。
そのおかげで諍いもないならなによりというものだが。
逃げてきた避難民を取りまとめていた人間に会うこともできたので幾つかの情報を仕入れることもできた。
オレルアン全土を実質的に制圧したマケドニア軍と、オレルアンの王弟ハーディン率いる狼騎士団の戦いは続いており、
アカネイアの王女ニーナがハーディンのもとに身を寄せたことで一度は敗北したオレルアンの残党軍とアカネイアの一部の軍が結集しているのだという。
結果として、戦いは長期化。
その影響でオレルアン地方そのものの治安が悪化。
衝突を繰り返しているオレルアン中央部から離れた東南側、
つまりこの街からは大雑把に東側ではガルダ海賊とサムシアンの残り滓どもが徒党を組んでいるという情報を得た。
恐るべき生命力、と言いたいところだがサムシアンに関してはベンソンの影響が強いのかもしれない。
もしくは賊を増やすことそのものがマケドニア軍の戦略である可能性もある。
王弟がオレルアンの治安を軽んじれば求心力を損ない、
重く受け止めて退治に乗り出せば戦力が分散される。
善悪はさておけば、悪くない策かもしれない。
ベンソンを始めとして私腹を肥やすためにあれこれと画策する連中を放し飼いにしていると考えれば
統率にかけるコストそのものも極めて安く済むのだろう。
ドロドロとした戦争については考えるだけで体力を奪われる。
だが、次に進むべき場所が見つかったのは悪くない結果と言えた。
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マリクたちとの朝食が終わると、オレは東に進むことを宣言した。
「この街に悪さをする前に合流した賊を叩く」
「いいね~」
フィーナが拍手をする。
こいつにとってオレはどうにも歩く英雄譚製造機だと思っている節があり、
派手なことをすると喜ぶことがわかってきた。
「ただ、フィーナとマリク、リフは残ってくれ」
「えー!なんでー!」
「ぼくも戦えます!」
ほぼ同時にブーイング。
リフは特に異論はないようだ。
「この街の防衛を空っぽにしたくねえんだよ、目に見えた敵勢力はないが、それでも万が一を警戒したい」
フィーナに関しては残ってくれれば街で何か諍いが起きても仲裁できる能力が期待できる、
マリクに関しては大切な人間の死から完全に立ち直っていないだろうから休んでいてもらいたい。
突っ込んで、倒して、物を漁って即帰還。
結構な強行軍になるそれに年寄りを連れ回すのは気が引けるし、何よりリフが街で教えている勉強はこの街の将来のためになるだろう。
生産性のある未来を作ることはオレにはできない。
オレができるのは壊すことばかりだ。
「シーダ、レナ
悪いが手伝ってくれ」
「はい」
「よろこんで」
決して両手に花を楽しみたいわけではない。
この弁明に説得力はなさそうだが。
「早く戻ってきてね」
フィーナが心配そうに言う。
懐かれるのは悪い気はしないが、
その言葉に誓って、焦りすぎてミスをしないようにだけは気をつけねばなるまい。
「ほどほどに急ぐさ
そっちも街をよろしくな」
「うん!」
フィーナたちに見送られて、オレたちは東へと歩を進めた。