オレルアン東部への道。
平坦な道であるため、歩きやすくはあるが、目的地と考える場所まではひたすらに長い道のりだ。
一日の半分は歩き、残りは大なり小なりの休息に当てる。
「普段からどれほどペガサスに頼っていたか痛感しますね」
シーダがそう言って笑う。
だが、ギブアップ寸前の弱音というわけではないらしく、むしろ限界が見えれば見えるほど燃えるタイプなのか、オレが休憩を申し出るまで文句を言わずに歩いた。
王女たるシーダは勿論だが、レナもマケドニアの有力な貴族の生まれだったと記憶している。
貴人であればそろそろ泣き言の一つでも言うかという道中でも文句を言わない。
オレはそれが怖くて休憩を多くしている。
もしかしたならオレが道中の足を引っ張っている可能性すらあるなと考えながら。
二日目も朝早くから歩きはじめ、昼になる頃に聞いていたものが見えてきた。
打ち捨てられた砦だ。
その周囲には騎兵やら弓兵やら盗賊やらがなにかの準備をしていた。
なにか、などというのは勿論知れている。
どこぞへの略奪行為だろう。
出立したあの街であるかもしれないし、この近くに村でもあるのかもしれない。
どうあれ賊どもは殺すだけだ。
神肌縫いを取り出すのを見た二人もファイアの書とライブの杖をそれぞれに構えた。
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「お、オレたちが殺されたところで……他の仲間が黙っちゃいねえ!
お前らがいかに強くても6つの砦を攻略するなんてのは不可の ぐふっ!」
わかりやすく情報を吐きながら死んだ三下のお陰で倒すべき目標数が明確になった。
来る前は倒してさっさと帰る、なんて言っていたがこれは少しばかり時間がかかりそうだ。
一つの廃墟には四、五部隊程度がいた。
強さは正直、サムシアンの一線級からは格落ちしている感じだ。
この辺りで略奪の練習でもさせていたのか、とでも思えるくらいに。
一日で三つの廃墟を落とし、休憩を取る。
その翌日もまた、賊を探す。
発見した最初の廃墟の賊たちを倒し、次のターゲットを探そうとしたがそれはあっさりと完了する。
「兄弟どもを手にかけてくれたのがここにいるってのは知っている!
出てきやがれえ!
オレはゴメス様の右腕!そこらの雑魚とは段違いに強えぜ!!」
声の大きさはゴメスレベルだ。
「私にやらせてください」
シーダが怖い顔で魔導書を開く。
レベルってのが可視化されているわけでもないからどれほど強くなったかは明確ではないが、
今の彼女の強さはゴメスを倒したときとは比べ物にならない。
オレの中で、破壊力はあるが回避も防御もダメ、みたいなイメージが魔道士にはあるが、
この王女様は違う。
攻撃は避ける。致命打は受けない。炎の魔法は二段打ち。
魔力の出力こそマリクよりも相当に下であるが、豪勢な戦力を持たないオレのチームでは死から遠い場所にいる後衛というだけで素晴らしい価値なのだ。
避ける、燃やす。
避ける、燃やす。
繰り返していけばいくほどに、相手の数が減っていく。
「なんだか、仕事ありませんね」
レナが困ったように笑う。
「そんなにライブ振りたいのか?」
「シーダ様には傷を受けて欲しくありませんから」
「……オレは?」
ふふ、と小さく笑われる。
否定がないのがなんだか怖い。