シーダには現在手伝っている商人を起点として、商人のネットワークに潜り込むこと。
レナには治療屋を続けてもらうこと。
リフは治療屋でできるであろう厄介なファンを上手くブロックするように。
それぞれに目的を与えた。
レナは同じことを続けてていいのかと聞いてきた。
シーダよりも目標ハードルが低い、というか現状維持だけでいいことに疑問があるらしい。
ライブの杖で治療しないとならないほどの奴は戦闘に関わる奴も少なくない。
オレたちが表舞台に出た時に支持者がいればいるだけいい。
それが兵士になれる人材なら尚よい。
自身の治癒の力を下卑た考えの道具に使われることに不満げな顔をするかなと思ったが、
かしこまりました、そう普段通りに微笑むだけだった。
不満をひた隠しにされて爆発されるのは怖いが、それを聞き出す暇は今はない。
オレは持っていた山のような数のライブを全て部屋に置いた。
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オレはシーダの紹介で、働いている商人のもとへと案内してもらう。
「シーダが世話になっていると聞いてな」
「あ~~!あなたがシーダちゃんのヒモの!」
「ですから、そうではなくて!」
「でも話を聞いているとヒモじゃないのさ」
「あああ!お気を悪くなさらないで!」
「安心したよ」
オレの発言にヒモ扱いしていた商人とオレの気を逸らそうと必死なシーダがぴたりと止まる。
シーダからするとオレはそこまで狭量な人間に見えるのか。
……まあ、オグマとのやり取りを考えれば売り言葉を料金三倍くらいで買っていたし、そうなるか。
「オレは暫く留守にする、その間シーダをよろしく頼む」
「このアンナさんに任せなさい」
自分の胸を叩く。
アンナ、アンナ?
スターシステムなんだかカメオ出演なんだか世界を股にかける存在なのかわからん、あのアンナ?
って、言ったところで怪しまれるだけだ。
ただ、そのアンナであるとするならこれ以上ない信用がある。
そうでなくとも
「アンナ、か。改めてシーダを頼む
っと、一方的に名前を知っているのは無礼ってものだな」
「レウスくんでしょ?」
「知ってんのか」
「そりゃあ毎日のように『今日はレウス様が寝返りを打ちました』だの、
『今日はレウス様がねごとを言いました』だの聞かされてれば名前は覚えるわよ」
「わーー!アンナ様!わーわーわー!!」
薄ぼんやりと感じていたが、オレの側にいる二人の女性はもしかしなくても結構お高めの
いや、まあ……実害もないしそれはいい。
「……まあ、生きているだけでえらい扱いされるの、オレとしちゃ悪い気持ちはしないからいいけどな」
「あらー、ダメな男の発言」
「自覚はある」
「自覚のあるダメ男はもっとヤバいわよ」
「かもな
で、話は変えさせてもらうぞ
アンナと
「私はそれでもいいけれどね、じゃあご用件は何かしら」
「ここじゃちょっと問題がある」
話しているのはカウンター前。
つまりは一般的な店舗の中だ。
「倉庫の中に入れてくれとは言わんが、それなりのスペースが欲しい」
なら、こちらへどうぞとオレはアンナに先導される。
シーダはオレの横に付いた。
案外、こういう風に一緒に歩いたりするのってなかったりするな、と日常的動作に感じ入ったりする。
ちらりと彼女の横顔を盗み見る。
整った造作だ。
これほど美しい女はそういまい。
視線に気がついたのか、彼女はこちらを向いて微笑む。
こういう表情一つで他人を落とすんだろうな。恐ろしい。
案内されたそこは小屋だった。
店主曰くに作ったはいいけど使っていない在庫置き場だそうだ。
「で、ここで何をするのかしら」
「ちょっと待っててくれ」
オレは懐から次々と武器を取り出す。
青狸もかくやという量の武器の山だ。
いや、青狸もといったがあんな風に投げたりはしない、流石に鉄製の武器をポイ捨てするのは危険だ。
……あのロボットもヤバそうな道具を乱暴に扱っているのかもしれんが。いや、青狸のことはいい。
元々、一つの街で自警団を作るために必要だと思って集めに集めた装備だ。
スクラップ手前のものも少なくないが、そういうものは鋳潰してしまえばいい。
今は戦時、武器の素材になるものは高騰していくだろうからな。
あのときに倒したゴメスやガザックの手下、ハイマンの手下、ベンソンの手下を倒して奪ったものだけではない。
サムスーフの砦で手に入れたものの行商が買い取らなかったガラクタも山ほどある。
使い終わったきずぐすりの瓶だとか、何らかの手違いでファイアの書がフォイアの書になってて無用な紙束になっているものとかだ。
サムシアンは何でもかんでも奪うわりに、金にならないものはそこかしこに纏めて
だが、持ち運ぶものの数に制限のある行商にとってはガラクタでも、
これだけの店を構えているのならばやりようがある。
オレはアンナに対してガラクタの再利用をプレゼンしはじめる。
やり手の商人であるアンナは最初こそ聞いているだけだったが、
オレが考えもしないような方法で再利用を提案したりしてくれた。
あっという間に数時間が経過する。
「ふー……で、レウスくんはこれを幾らで売ってくれるの?
まったく、アイデアを先渡しにして、それを含めてガラクタに幾ら出させるかなんていうのは、
商人泣かせなやり口だと思うなあ」
ぶうぶうと非難の声を上げる。
その態度は勿論、お茶目のたぐいであるのはわかるが、実際に悪辣な手ではあろう。
ここで安く買えばアンナの持つ商人の看板に影響が出る。
商人たちは金だけでなく、信用という通貨で仕事に繋げることは少なくないからだ。
「驚きの金額は……」
勿体振るように溜めて
「無料だ」
「そんな怖い話イヤに決まってるでしょ」
ただより高いものはない。
全くその通り。
「金じゃなくて、オレが欲しいのは商人としての力なんだ
アンナ、シーダを育ててやってほしい
オレが戻ってくるまででいい、商人として最低限仕事ができる程度に」
「最低限、ね」
このアンナがオレの知るアンナであるという前提条件はつくものの、
アンナという辣腕商人に対しての最低限。
辣腕であればあるほど他人に対する評価は高くなる、
普通の商人では最低でも一流かそこに食いつける程のはずだ。
「働かせるのがシーダちゃんじゃなきゃ断ってるからね、こんな取引」
どうやらこの取引はハナっから意味がなかったのかもしれない。
アンナ曰く、シーダほどの商人の才能を持っている人間は他にいないのだから、だと。
シーダの人たらしの才覚を考えれば納得するしかない。
「それはそうとして、鎧を見繕いたいんだが」
「それじゃ、戻りましょ」
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オレが愛用している鎧を持ち込んでもいいが、
次にやることを考えるとがちゃがちゃと音がなる装備は控えておきたい。
盗賊めいたルックスの上から寝具にもなるという毛皮の外套をおすすめされた。
その姿、完全に野盗の類。
全身真っ黒だし夜盗の類かもしれんが。
「色々あるんだな」
「そりゃあもう、この辺りで一番の
店に行っても手槍だけ買うだとか、行商人に会ってもライブの杖だけ買うとか、
目的のものにしか目を向けていなかったのでこうして店というものを見て回る経験は、
狭間の地を含めて初めてだ。
前のところは露天商ばっかりだったからなあ。
とは言っても、まあ、特段目を引くようなものはない。
鉄装備、鋼装備、ファイアーの書、サンダーの書、ライブにきずぐすり、鉄塊……。
「こりゃあ、なんだ?」
「あー、漂流物だよ」
「漂流物?」
「港じゃ時々こういうのが流れ着くんだ、海を漂ってきたとは思えないくらいの状態の良さでね
まるでどこかから逃げてきたみたいに現れる
って言っても、それを含めても振り回せるような人はいないけどね」
「含めてもって、他にもあるのか?」
「前にはあったんだけどね、金色で綺麗なハルバード。
アカネイアの貴族様がそれを聞きつけて買ってったよ」
だが、売れてしまったものに見出すものはなにもない。
今は眼の前のグレートソードだ。
「こいつ、持ってみても?」
「ふらついて店を壊さないでよ」
掴み、握り、持ち上げる。
こいつは……お約束を言いたくもなる。
次にやることにゃ不釣り合いかもしれないが、持っておきたい。
この手の特大武器はそのうちに必ず仕事が来る。
「非売品か?」
「不良在庫だよ」
「売ってくれ」
「ただでいいよ、ただで」
勿論、それが真実ではないだろう。
先程並べた諸々の売却品のおつりだと思ってありがたく頂戴した。
鎧の代金とあとはきずぐすり、聖水、扉の鍵あたりもチョイスし、支払いを済ませた。
それはそれ、これはこれ。
これでヒモの印象を脱却……にはならないよな。
身支度を整えたオレが店から出ると、シーダも後ろから付いてくる。
起きないオレの世話をして、目が覚めたと思ったら街を飛び出す。
たまったもんじゃねえよな、シーダからすりゃあ。
「後のことをよろしくな、シーダ」
「はい、レウス様もどうか……ご無事で」
だが、シーダはその気持を飲み込んで、見送ってくれた。