アリティア城、二日目の夜。
状況に変化なし。
二階、三階の東エリアの捜索をしたい。
二階を真正面から進むのは透明にでもなれないと無理だろうが、三階には行ける。
皆大好きトレントジャンプタイムだ。
バルコニーからバルコニーの距離は常人ではとてもじゃないが渡れる距離じゃない。
だが、走らせたトレントを飛ばし、更にもう一段飛べば余裕を持って着地できるだろう。
音で気が付かれちまったら……ま、そんときはそんとき。
「よーし、こっそり頼むぞ、こっそりな」
オレの気持ちが伝わっているのか、高く嘶くことはしない。
はいはい、わかりましたよ、といった感じで顔を振るう。
苦労をかけてすまんね、と馬体を撫でてから騎乗する。
さあ、やってくれ!
手綱を引くとトレントが猛然と駆け出し、ぱんっと飛んだ。
そうして程よい高度で更に飛ぶ。
トレントは見事に対岸に着地してくれた。
オレは頼りになる相棒の首を抱きしめてから霧へと還した。
バルコニーの先には部屋。
元々はアリティア王コーネリアスの私室だったのかもしれない、見事な作りだ。
って、ことはこの階層のどこかに他の王族の部屋もあるのか?
もしくは厳重な警備をしていた
部屋の外から音は聞こえない。
とはいえ、扉を開けたらばったり、なんて状態は避けたい。
『
暫くして、意を決して扉から出る。
デカすぎる扉のせいで音が鳴る。
カチャ、キィ
なんてもんじゃない。
ゴチィ、ギギィ
って感じだ。
勘弁してくれ、潤滑油かシリコンスプレーをコーネリアスの部屋にあるかを探すべきだった。
オレの不安をよそに見回りが来る気配はない。
ならば探索だ、探索を続けよう。
────────────────────────
この階はやはり王族の私室がある。
最初に入った部屋は一番奥、王族の私室というのはその多忙さからか調度品はあれど私物と呼べるようなものは少ない。
しかし、この部屋にはベッドの近くに剣が置かれていたであろうものがある。
刀掛けみたいなやつだ。
そこに本来あったであろうものがないことを考えると、ここはマルスの部屋と予想できる。
異変を感じてか、それとも誰かが彼を呼んでなのかはわからないが、マルスは置かれていたレイピアを掴んで飛び出したのだろう。
次の部屋はマルスの部屋と同程度の広さだが、正直、推理できるようなものはない。
マルスの部屋やこの部屋もそうだが、人が入った形跡がないし、独立したバルコニーもあるので今日も朝日が登ってしまいそうになったらここに潜むのもありだな。
中から鍵を掛けちまえばベッドでぐっすりと寝てもいいし。
いやあ、今日は辛かった。褪せ人の体でも凝るもんだな。
この階で目につく部屋は残り一つ。
それ以外にもこまごまとした部屋はあるが、それらは王族のお召し物を保管する場所だったり、
トイレであったり、調べてもピンと来るようなものはなかった。
その部屋に近づいた辺りで来てしまった。
物音だ。
足音は一人分だ。
名もなき一般人とか、お世話係のメイドさんとかそういうのであってくれれば楽だが……。
物陰で息を潜ませる。
オレはダガーをいつでも抜けるように準備しておいた。
姿が見えてきた。
口ひげを蓄えた、やや肥満体型の男。
ホルサードか!
アイツはアリティアを守護していたグルニアの将だ。
場内になんで、と一瞬思ったが、そりゃ休むよな。
そんで、寝るならいい部屋で寝たいから王族の部屋に来たのか?
こちらに気がついた様子もなくホルサードは懐から鍵を取り出し、解錠する。
そうして室内へと入った。
オレはその背を追って扉へと張り付く。
あいつから何かを聞き出せるかもしれない。