エルデンエムブレム   作:yononaka

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貴公も、知るがよい

「考えていただけましたかな?」

 

 ホルサードの声。

 その言葉から、どうやら寝に来たってわけでもないようだ。

 相手がいる。

 と、なるとモーゼスか?

 

「そのようなこと、許されることではありません」

「では、あなたを慕って今も反抗を行っている健気な反乱分子がどうなってもよいとお考えで?」

「それは……」

 

 女性の声。

 落ち着いた声音で、ややハスキー。

 側で囁かれたらさぞかし心地の良かろうことだろう。

 

「王族たるあなたが、この剣はファルシオンであると認めればよいのです

 そうなればアリティアは再びあなたとファルシオンの下で一つに纏まる

 あとはグルニアと条約を結べば再びアリティア王族として再出発ができるのですぞ

 悪い話ではないかと思いますがねえ」

 

 内容的に考えても、エリス王女だろう。

 どう考えても不平等条約結ばせて属国にする気満々だろう。

 

「あなたの言葉に従い、条約を結んだとしてそれが平等なものになるとは思えません

 あなたがたグルニアが欲しいのはアリティアという属国でしょう」

「当然、平等な条約にはなりますまい

 お忘れですかな、あなたの国は負けたのです、あなたもモーゼス様に引き裂かれていないのは私が待ったを掛けているからにすぎないのですよ」

「私は王族として、国を辱めさせるような真似は選択できません

 たとえ、この身が引き裂かれようとも」

「では、仕方もありませんな」

 

 ホルサードは諦めたように、

 

「その身を引き裂くなどもったいない

 あなたを辱めさせていただきましょう

 もしもわしの子を孕んでいただければ、あとはなし崩し的にことを進めることも」

「や、やめなさい、人を呼びますよ!」

「どうぞ

 ですが、この階には誰もおりませんし、階下にもわしの手下を見張りを立たせております

 誰も来ることはありません

 辱めよりもファルシオンの認定を選ぶのでしたらいつでも仰っしゃられよ、ひ、ひひひ」

 

 目的よりも下卑た欲求と笑いが漏れ出てるぜホルサードさんよ。

 エリスは戦利品(オレのもの)になる予定なんだ、脂ぎった手で触られたくもない。

 オレは扉をそっと開き、中へと入る。

 

「そこまでにしておくんだな、ホルサード」

「なっ、ど、どこから!?」

 

 この体格の男を切るにはダガーでは足りない。

 グレートソードじゃあエリスもろともになりかねん。

 外套から手品のようにキルソードを取り出し、抜き払う。

 

「賊だ、賊だぞ!出会え!」

「おいおい、ホルサードさんよ

 自分で言ったことを忘れんなよ、叫んでも誰も来やしねえんだろ」

「……く、う……」

「豚のようではなく、せめて騎士として殺してやるよ」

 

 オレはキルソードをもう一振り取り出し、ホルサードに投げ渡す。

 

「ばかな男よ、このホルサードの武芸を甘く見おって!」

「甘く見たんじゃねえ、それに武芸を見せるのはこっちの方さ」

 

 ホルサードとオレが踏み込み、交差する。

 

 一拍置いて、ホルサードが肩口から寸断され、血が間欠泉の如くに吹き出る。

 

「知り得たか、ってな」

「ホルスタット……あとは……頼んだ……」

 

 キルソードをしまい込む。

 ついでにホルサードに渡したやつも回収。お前の墓碑にするにゃあ勿体ないんでね。

 それにこれくらい時間かけりゃ乱れかけた服と居住まいを正す時間にはなっただろう。

 

 オレは改めてエリスに向き直る。

 大きな窓から注ぐ月の光が彼女を照らしている。

 シーダやレナとはまた違うたぐいの美しさだ。

 その佇まいからだけで既に深い優しさを感じることができる。

 ホルサードが暴走するくらいに、特定部位に関しては豊満であった。こりゃあ男を狂わせる。

 

「オレはレウス、あなたを娶りに来た」

 

 彼女は突然の発言にあっけに取られている。

 そりゃまあ、強姦されそうになって、その下手人が眼の前で真っ二つにされ、

 鉄臭い部屋んなかで告白されたらそうなるか。

 

「ホルサードみてえに辱めたり、ウソは吐かせたりしない

 あなたがアリティアと臣民、国の歴史を守りたいのならオレと共に来るべきだ」

 

 オレは一呼吸置いてから続ける。

 

「アリティアを……そこからはじめて、やがてアカネイア大陸を安んじさせるためにも、オレにはあなたが必要なんだ」

 

 彼女は少しだけ惚とした表情をしている。

 もうひと押しか?

 そんな所で声がする。

 

「ホルサード様!何事かありましたか!」

 

「おいおい……聞こえないんじゃなかったのかよ

 立てるか?」

「は、はい」

 

 オレは彼女の手を掴むとゆっくりと立たせる。

 この部屋はバルコニーがないのか……扉から出て走ってコーネリアスの部屋(仮)に、

 可能ならトレントでそのまま下に進む、ダメなら西エリアを突っ走って地上か水路か、だな。

 

「こっからは派手に行く

 絶対に守るから付かず離れずくらいの距離にいてくれ」

 

 彼女は頷く。

 理由があってここからは動けません、なんて言われたらどうしようかと思っていた。

 

「慣らし運転にはちょうどいいか」

 

 扉へと進みながら、オレは外套からグレートソードを取り出す。

 

「オォッ!」

 

 気を吐くように扉に対して大剣を振るう。

 扉の向こうにいた兵士たちは声をあげる暇もなく諸共に叩き割られている。

 こりゃあ、いい。

 

「行くぞッ!」

「はい……!」

 

 隠れんぼは終わり。ここからは大立ち回りして突き進むだけ。

 ここが狭間の地ならメッセージの一つも残しておきたくなる。

 

 *この先、死体があるぞ*


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