稲妻が迸る。
アランの突撃の後に続くように彼の麾下が進撃する。
その勢いを削ごうと、稲妻が部隊の横っ腹に叩きつけられた。
「調子に乗るなよ、敗残兵ども」
防衛隊の主力でもある勇者が
泰然自若とした雰囲気に兵士たちが飲まれそうになるが、そこに手槍が投げ込まれる。
勇者はそれを容易に盾を使いいなした。
「お前の相手は私だ、勇者」
「アリティアの敗残兵如きがオレに挑むか」
フレイは返答もなく、馬を走らせる。
「騎兵どもはバカの一つ覚えで
サンダーソードを構え、放つ。
それと同時にフレイは放たれた雷撃に向かって小瓶を投げ込んだ。
勇者の一撃で割れたそれが電撃を一瞬で霧散させる。
「何!?」
勇者がその様子に驚き、
何が起こったかの答えを得る前に強い衝撃が体を揺さぶり、意識は消える。
フレイは出撃前にレウスに呼ばれていた。
「こいつを持っていってくれ」
「銀の槍、それに……聖水ですか」
「その銀の槍はジェイガンの遺品だと聞いている、
アリティアの騎士であるフレイがそれを受け継ぐべきだろう」
「……感謝致します」
「聖水の方はちょっとした使い方がある」
彼が教えたのは自分に振りかけるのではなく、
魔力そのものにぶつけるという荒っぽい手段だった。
聖水の許容量を超えた魔力であれば意味はないが、
許容内であれば聖水の効能とぶつかりあって魔力が霧のように蒸発するのだという。
大体の魔道士には無意味でも、魔力が低い勇者であれば有効な手段であるらしい。
本来であれば長時間、身を守ってくれる道具を一回こっきりで使ってしまう奥の手だ。
「その使い方をするにはあまりにも──」
「たったそれだけで勝率が上がるんだったら、無料みてえなもんだろう
戦後の、アリティアの安定にはお前みたいな騎士が必要なんだ、フレイ」
正直、フレイはレウスに対しては疑念を持っていたのは事実だ。
しかし、戦後のアリティアを考え、
自分が必要だと考えてくれていることを実際に触れさせられると、
考えは変わるもの。
銀の槍が勇者を突き殺し、振り捨てるようにして死体を放り、再び槍を構える。
「……アリティアにレウス様あり!
我らはそれを槍と騎兵を以て喧伝するのみだッ!」
フレイの雄叫びのような宣言に、
勇者を倒した
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苛烈、いや、熾烈を極める戦場で『そこ』だけが静かだった。
サムソンは目の前の敵……城の守りから出てきたドルーアの勇者と睨み合っている。
戦力としては自分が上、だが、問題は相手の持っている剣だった。
誰が呼んだか、それは『
持ち主の正気を奪う代わりに絶大な殺傷能力を与えるという、正しく魔剣。
「……血に酔っているな」
「……」
ぎちり、とドルーアの勇者が獰猛に笑う。
「冷静でなければ……わたしには勝てん」
「……ッ」
その言葉を呼び水に、踏み込み、魔剣が閃く。
サムソンは盾で魔剣を受けるではなく、振るう腕を弾く。
よろめいた相手に対して斧を振るではなく、柄を握っている拳で殴りつける。
魔剣の力か、痛みを感じはしないが、押し込まれるような力にたたらを踏んだ。
「言ったはずだ」
踏んだせいで、地にしかと足を付けては構えられない。
ドルーアの勇者がサムソンの言葉を理解できたかはわからない。
ただ、結果だけは理解できた。
大上段から振り下ろされた銀の斧が剣もろとも勇者を両断する。
「冷静であれば、お前にも勝利の可能性はあったというのにな」
サムソンは元剣闘士である。
彼らは騎士や傭兵のような戦い方はしない。
必要なのは確実さである。
傷を負えば次の戦いに支障が出る。
深手を負えば捨てる同然のマッチアップを組まされる。
だからこそ、無傷で勝つ。
武器を振るうのは相手を殺せると決定した盤面になるときだけ。
必ず殺せる盤面で武器を振るうからこそ、