まるで蛇のようであった
総金属で拵えられているキラーランスが、まるで蛇が四方を囲んでいるかのように襲い来る。
レウスはその一撃に防戦一方を強いられている。
ホルスタットは慢心も余裕も見せず、徹底して驚異的な槍技を繰り出し続けている。
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かつて、ホルスタットはカミュと一度だけ手合わせしたことがある。
下半身の制御を利かせないホルサードは何度も宮廷で問題のやり玉に上がり、
その度にホルスタットは裏から手を回し、それを打ち消していた。
だが、
カミュが声をかけてきたのはそのときだった。
「あなたと一度手合わせさせてくださるのであれば、何とかしましょう」
清濁を併せ持つタイプではなく、質実剛健にして愚直なほどに騎士道を進むものだと思っていたホルスタットは訝しみながらも、了承した。
ただ、彼は「本気でこなければ話は無し」だとも言う。
実際の槍を使っての、殺し合い同然の試合。
カミュの槍技は尋常ならざるものであった。
打たんとすれば打たず、打たぬとすれば打つ。
あらゆる機を裏返しにし、必殺にのみ集中した恐るべき技。
直線的な攻めではまるで勝てない。
そもそも読み合いの段階で全ての行動を完全に読まれている。
勝つには技術で上回るしかない。
死地にあってホルスタットが編み出した技こそが、魔槍『鎌首』。
腕足の動きだけではなく、細かな体の制御、それに相手の目の動きをも利用し槍の軌道を読ませないことに特化した技。
それはまるで蛇が獲物を捕食するかのように、想定できぬような角度から牙を剥いているように見せる。
ホルスタットが槍の天賦の全てを懸けて手に入れた魔技である。
鎌首が入ったと直感したそのときに、冷たい穂先が首の前に来ていた。
カミュは魔技すらも上回った。
「また一つ、高みへと進むことができた
ホルスタット卿、感謝する
あなたの望みは必ず叶えられるだろう」
その翌週には訴えは取り下げられ、ホルサードには何のお咎めもなかった。
それ以来、流石のホルサードも反省したのか戦場以外ではそのようなことをすることはなくなった。
あの夜、背を向け去っていくカミュに強い敗北感を持ち、しかしホルスタットはそこに留まらなかった。
カミュへの殺意ではなく、同じ槍の天賦を持ったものとして、彼を驚かせたかった。
見えない努力を続けた中で、彼の魔技『鎌首』は完成していた。
馬上のように、鎧に身を包んだ状態で肉体の可動域に行動制限あろうと、
『鎌首』を打ち出すことができるようになっていた。
槍の天賦、ホルスタットのその技が戦場で放たれたのは今日、この日が最初であった。
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冗談だろ!?
槍があんなうにょんうにょん動くものかよ!!
いや、中国拳法の槍はそういう感じのもあるんだっけ?
だとしても、アレは総金属で出来てるカッチリしたものだ!
とてもじゃないが、攻めれば負ける!
オレは焦っていた。
ホルスタットには隙がない上に、あの槍技を打たれる度に命の火が消えそうになるのを感じている。
まったく隙が見えない。
初遭遇時の坩堝の騎士かよ、てめえは。
攻めれば負ける、攻めれば……。
だめだ、戦技とか読み合いに持ち込んだ時点で絶対に負ける。
それで勝てるような才能がオレにあるならもっとシンプルな問題だ。
であれば別の土台で考えろ。
エルデンリングのボス相手ならどうする?
ファイアーエムブレムのボス相手ならどうする?
何か抜け道は?この閉鎖された状況でできる手は……
──ある。
確実性に欠ける上にどう考えても姑息だが、この状況であれば打てる策がある。
……姑息だどうのって言うなら、狭間の地で
勝てさえすりゃいいんだよ。