エルデンエムブレム   作:yononaka

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HPゲージ二本目詐欺

 折れた槍を杖に、ホルスタットはなんとか立ち上がる。

 よしよし、これでオレも下馬できるってもんだ。

 

「ホルスタット!」

 

 オレは外套からナイトキラーを取り出す。

 あまりアイテムを取り出すのは不可思議な現象にしか見えないだろうから衆目に晒したくはないのだが、

 それを惜しむとこのあともその事で引きずりそうだからな。

 

 ナイトキラーをホルスタットの側に投げて寄越(よこ)す。

 地面に突き立った槍を不思議そうに、或いは疑問を抱えた顔でオレを見やる。

 

「なぜ、わしに槍を投げ渡す

 このまま踏み込んで斬り伏せれば貴様の勝ちだというのに……」

「バカなことを言うなよ、ホルスタット

 オレとお前の……アリティアの決戦がそんな終わりで良いはずもなかろうさ」

 

 武人の扱いをする。今はそれが必要だ。

 ホルスタットは折れた槍を捨てるとナイトキラーを手に取った。

 

「なぜ、そこまでする」

「ここでオレが死んでも、お前が死んでも、オレたちの戦いは永く永く(うた)われることになる

 オレたちは今まさしく、伝説の中にいるんだぜ

 格好悪いまま歴史に名を残すつもりかよ

 なあ、ホルスタット」

「……くく、ははは……ははははは!!」

 

 大きく笑うホルスタット。

 

「……わしの負けよ、アリティアの旗印

 わしのような男を武人扱いしてくれた貴様を、わしはもう討つことなどできぬ」

「そうやって言う奴を殺せるような人間でもないんだよ、オレも」

 

 オレもつられてか、小さく笑って返す。

 

 ナイトキラーを掲げ、ホルスタットは叫ぶ。

 

「グルニアの偉大な将兵たちよ!我が同胞よ!

 アリティアでの戦い、このホルスタットの負けだ!

 わしは死よりも恥ずべき敗北を選んだ!!

 もはやわしに諸卿らの司令である権利などない!!」

 

 だが、とホルスタットは続ける。

 

「願わくば、停戦を聞き入れて欲しい!

 聞き届けられぬというならば、わしの首を討て!

 わしはそれでも構わん、どちらにせよ我らの戦いは……それで終わる!」

 

 最初に動いたのはホルスタットの麾下であった。

 彼らは持っていた武器をその場で鞘に納め、或いは投げ捨てた。

 ホルサードの麾下たちは逡巡していたが、その取りまとめらしきものが言葉を投げかけた。

 

「我らはホルサード閣下の兵

 しかし、名誉こそはホルスタット閣下にあると見ている……

 我らをホルスタット閣下の配下と認めてくださるのであれば、降伏に諸手を挙げて賛同しましょう」

 

 ホルスタットはモーゼスたちが亡き後に城と勢力を能く纏めた。

 彼らにとっての司令官は彼以外には考えられんということなのだろう。

 

「諸卿らがそう言ってくれることにどのような違和があろうか!」

 

 その言葉にホルサード麾下の騎兵たちも同様に武器を捨てる。

 やがて、それらが伝搬し、アリティア主城防衛隊は誰一人として抵抗することなく降伏した。

 

 ……ちょっと、予想よりも出来すぎた結果だったが、まあ、よし。

 

 ────────────────────────

 

 本当は下馬状態で一騎打ちして勝利する予定だった。

 騎乗戦をしたのも、ナイトキラーを渡したのも敵味方ともにその決闘を納得させるためだった。

 そして、ナイトキラーを選んだのは手持ちの槍がそれしかないからでもあるが、

 重さという観点もある。

 あのやべえ技が重い武器で打てないのならばナイトキラーを渡すことで封じられるかもと考えていたわけだ。

 

 ただ、結果は敵軍の降伏。

 敵兵たちがホルスタットの命令で整列する中で、オレはアリティア解放軍全員からの喝采を浴びていた。

 

 我らが勇者、新たなるアンリ。レウス万歳。

 アリティアの英雄レウス万歳。

 

 そこまで評価を上げられると、今後が怖い。

 

 オレはその声に背を押されるように、近づいてきたリーザへと向かう。

 

「レウス……」

 

 潤んだ瞳でオレを見つめる。

 

「私の英雄、無事に帰ってきてくれて……」

 

 彼女はその場でオレへと倒れ込むように胸に飛び込む。

 そうして涙を流しながらオレの名を呼び続けていた。

 

 もしかしたならコーネリアスもこんな風に戦いに挑んで、アイツは帰ってこなかったのであろうか。

 リーザは過去を重ねながらもオレを送り出してくれたのだろうか。

 

 それを思うと、オレは人前だからと彼女を引き剥がすようなことはできなかった。

 


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