式典の日。
アリティア主城の前に全アリティア国民が集まっていたのではないかと思えるほどの人の海ができていた。
こうした際に使われる、正面口のバルコニーに立つのは美しいドレスに身を包んだリーザ。
月光ではなく、陽の光に晒されたとしてもその美しさが衰えることはない。
本当に二児の経産婦なのか、割と成長している長女を持つ母親なのか。
それともコーネリアスが実はとんでもない年齢的な方向の性癖の持ち主だったのか。
オレは緊張のせいか、そんなことをバルコニーの奥、つまりまだ人の目に映らない場所で考えていた。
「アリティアは解放されました!
今日、このときからアリティアは新たな時間を歩み始めるのです!」
リーザは身振り手振りを交えて、演説を続ける。
「アリティア王国は今日を以て国号を改めます!
今日より我らはこの地をアリティア聖王国と名乗り、
アカネイア王国やドルーア帝国に従っていた多くの国が失った
歓声が一際大きくなる。
「我らが聖王国を名乗るその正当性について疑うものはいないでしょう
神が遣わせてくださった、
オレの事は広く伝わっているらしい。
ホルスタットとの一騎打ちだけではない。
モーゼスとの戦いもそこかしこで吟遊詩人が唄っており、彼らにとっては稼ぎの良いナンバーになっているそうだ。
ノルンから聞いた話だが、吟遊詩人が唄う物語のベースはリーザが作ったものだという。
彼女はにやにや笑いながら「愛されてますねえ」などと言ってくる。不敬だぞ。不敬。
「我らのアンリ、アリティア聖王国の英雄レウス様!」
リーザの声にオレがバルコニーへと姿を現す。
昨夜メイドたちが持っていた衣装を結局は纏っている。
そのデザインはリーザが着ているものの対になるようなデザインであり、式典でなければペアルックじみたもの同然である。
「私はアリティア聖王国の女王リーザとして、皆を導きます
ですが、私を、そして国という大きな枠組みに加護を与える存在が必要なのです
アリティア聖王国を代表し、
あなたにアリティア聖王国の
彼女の考えたことはこれだった。
実質的な国家としての信仰対象としてオレを据えることで、
有事の際は神の声として実質的な多くの権限を振るうことができるというもの。
リーザの言葉に続かなければならない。
人間がまるで絨毯かというくらいに並んでいる様子なんて今までで見たこともない。
その誰もが喝采し、聖王の誕生を祝福していた。
「このレウス、今より聖王の責務を以てアリティアに加護を、
アカネイア大陸の中で道を違えた国の全てを正すことを誓おう!」
とりあえずは台本通りに喋れたことにリーザは安堵した表情を見せている。
ここから先はオレのアドリブだ。
「オレはアリティアの加護を担う聖王として、
国に身を捧げたリーザを孤独にするわけにはいかない!
アリティア国民であれば吟遊詩人が唄う魔竜討伐の後にオレが彼女に言った言葉を聞いているだろう!
オレはその誓いをアリティア聖王国の、我らの民の前で真実のものとする!」
突然の言葉にリーザはきょとんとしている。
オレは彼女を優しく抱き寄せ、その指に指環を見せる。
ここに来る前にメリナと相談し、
『白い秘文字の指環』と『青い秘文字の指環』と『ルーンの弧』を組み合わせて作ったものだ。
メリナは随分と手先が器用で、
「巫女が私じゃなかったらどうするつもりだったの?」
などと言いつつも完成したものを渡してくれた。
「リーザ、あの夜の答えをもう一度聞かせて欲しい
──オレに娶られてくれ」
民を見て、それからオレを見る。
「はい……!
永く……、末永くあなたの心の側に私を置いてくださいませ……」
彼女はオレに指を差し出し、そうして契約は強く結ばれた。