エルデンエムブレム   作:yononaka

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修繕した裂け目から

「……どういうことだ?」

「そう剣呑な顔をするでないわい、おっかないのう

 説明するから落ち着いてくれ」

 

 オレが旅立ったあと、グラは周辺国家の情勢不安を理由に兵士を駐屯させたいと考えていたが、

 当のグラには明確に戦力が足りていない。

 

 その解決策として隣領レフカンディのカルタス侯が以前より送っていたラブコールを受けた形だ。

 

 この土地はグラのものではあったが、アカネイア、オレルアン、レフカンディを除く五大侯家などの諸領は混沌とする情勢で

 自領安定のために強引な手段(徴発)をすることを選んでもおかしくはないと考えたのだ。

 

 それを防ぐためのレフカンディ軍の駐留であったが、指揮していたカルタスが突如として街を略奪した。

 呼応するように現れたのがグルニアの騎兵たちであった。

 

 襲われた理由など街の人間にはわからない。

 多くの物と人がレフカンディ領へと運ばれたとのは間違いないことだろう。

 

「規模は小さくなったが、街は残っているのは何故だ?」

「カルタスが去ったあと、グラの軍が来て収拾をつけるために修繕をしたんじゃよ」

「もう少しだけ聞きたいことがある」

「ああ、良いとも」

 

 街の住民に付いてきてもらい、付いた場所。

 オレが寝続けていたって宿だ。

 そこには何もない。

 

「ああ、宿には戦えるものもいると考えたんだろうのう、手酷く壊されたよ」

 

 次に向かったのはレナとリフが治療をしていたという施設だ。

 宿の隣にあったので探す手間もない。

 そして、別の意味でも探す手間はなかった。

 存在しないのだから。

 

「ここに、……ここにいた人はどうなったか知らないか?」

「赤毛の優しいシスターと、禿頭の男性だったか……

 気がついたらこの状態、

 どうなったかはわからん、他の住民の話じゃあ誰かに言われるままに街から逃げるのを見たとか……」

 

 一先ず、何とかそれで爆発しそうな感情を押し留めることができた。

 あのレナとリフがシーダを置いて逃げるとは思えないがここで知りようもない事情があるのだけは理解できた。

 何よりも生きているなら、まだ大丈夫だ……。

 

「もう一つ」

 

 そう言って付いてきてもらった場所はアンナの店があった場所。

 街の中ではかなり大きい敷地面積だったが、そこも他と同様。

 

「散々略奪されたのよ、アンナちゃんがやっていた店は大きかったからなあ」

「ここで働いていた青髪の少女がいたろう、彼女は?」

「カルタスに挑んだ姿を見たものがいるが、死体は出ておらん

 アンナちゃんもな」

「……そう、か……」

 

 どうにか、どうにか、オレは感情を抑えている。

 大丈夫だ。

 生きてるなら希望がある。

 

「もしもカルタスの所へ行こうと言うなら無駄じゃよ、

 レフカンディは今オレルアン軍とマケドニア軍の戦いでとてもじゃないが入れる状況じゃあない」

「そうか、色々とありがとよ」

 

 ゆっくりと歩く。

 知った事か、カルタスからだ。グルニア騎兵が来ていたのも気になるが、

 地理的にはレフカンディの方がよほど近い。

 

「旅の人や、言うか迷っておったが……その表情からすると、あんたの大切な人だったのかね」

「そうだ」

「……グラが来たと言ったろう」

 

 修繕をしていったって話はこの住民から聞いたことだ。

 オレは頷いて続きを促す。

 

「わしはグラの民。

 墓の下まで持っていこうかと思ったが……あんたには話さないといかんじゃろうな」

 

 住民は周りに誰もいないことを確認し、それから口を開いた。

 

「グラの兵が修繕の計画を話し合っているときにな、

 ここまで壊すなんて聞いていない、面倒な計画に巻き込みやがって

 そう言うな、レフカンディからは十分な報酬が出されているんだから、

 とそう言っていた……

 街の襲撃はグラも承知の上だったのかも知れん……」

「……そうか、参考になったよ」

「旅の人

 わしは青い髪のお嬢ちゃんに(くわ)(すき)を譲ってもらったんじゃ」

 

 すぐさまグラへと向かおうとした背に彼が言葉を続けた。

 

「直す金も新しいものを買う金もないわしは途方に来れていたときに、

 あなたの作る野菜が市に並んでいると嬉しくなるから、と……

 わしはあの娘の名も知らんのに、あの娘はわしが作った野菜を知っていてくれた

 なのに……あの時にカルタスに挑んだ娘に何もしてやれんかった……」

 

 長い時間を農作業に費やしてきた、皺は多いが無骨で頑丈そうな手を握り、震えさせている。

 

「なあ、旅の人

 どうか、助けてやってくれ……言われずとも助けようが、あんた以外にもあんたの大切な人には恩があるものが沢山いる……

 あの赤い髪のシスターや禿頭の男性にも多くのものが助けられている……

 力もなく、踏み潰され、食い物にされるわしらの代わりに……どうか、頼む」

 

 オレが背負っているエムブレム(ルーン)が王としての資格と資質そのものであるのなら、

 民を安んじさせるのは、アカネイア大陸の王を目指すのなら成すべきこと。

 敵を砕き、葬るのは狭間の地の王であれば何をも比べずに優先すべきこと。

 

 この住民の頼みを聞き入れるのはその二つに背を向けないことでもある。

 

「あんたが思いもしないくらいに、どうにかしてやるよ」

 

 ああ、そうさ。

 誰の戦利品(もの)に手を出したか、教えてやらねばならない。


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