一触即発。
文字通りの状況──
「お止めください!」
それを止めたのも、やはりシーダ王女であった。
「お父さま、私はレウス様を信じます
この方であればタリスを他の支配から遠ざけ、同盟国アリティアの無念を晴らしてくださると……」
「シーダ、我が娘
お前を戦利品扱いするこの男にお前を渡すことなどできるものか」
口を挟むようにオレは――
「戦利品扱いするねえ、ばっちりする
シーダ王女を戦場に駆り立てて、一緒に戦ってもらう
夜には添い寝して歌でも唄ってもらっちゃおうかなあ」
「き、き」
貴様ァ!と、怒号と共にタリス王は遂に玉座から立ち上がる。
「だが、ドルーアとその愉快なお仲間が来るよりよっぽどマシだ
国は支配され、必要であれば村を蹂躙し、臣民を凌辱するだろう連中よりもよっぽどマシだろ
玉座はアンタの血で汚れ、その上に私腹を肥やすことだけを考える執政官が後を継ぐよりも尚マシだ
名実ともに支配するためにシーダをドルーアの有力貴族のボンボンと結ばせて、タリスの歴史は塗り替えられるよりも、絶対的にマシだろう」
地面に剣を突き立てて、がなるようにオレは言う。
「シーダをオレの戦利品にして、タリスと王家の名誉を維持するか」
自分の首をなぞるようにして、
「今暫くの家族団らんと安寧を楽しんだ後に来る確実な滅びを歩むか」
家臣たちはその言葉に対して、未来を想像し、息を呑む。
「どちらがいいか、選択しろ
その権利まで奪う気はない」
タリス王は激怒しながらも、しかし、何かを言う事はできなかった。
アリティアを追われたマルスをドルーアに差し出さなかったのは正しくその未来を回避するためだったからだ。
「お父さま、私の心は既に決まっています
どうか、どうか私をレウス様と共に行くことをお許しください」
「シーダ……すまぬ、私にもっと力があれば、我がタリスがもっと精強であれば」
その家族愛劇場を断ち切るように――
「話は決まったな、さっさと次に行くぞ
こんな島に待っていれば待っている分、状況は悪化するだけだ」
宮廷を出ていこうとする。
それを止めるものは誰もいない。
やや遅れて、もう一つの足音が聞こえる。
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とはいえ、直ぐに次へ向かう訳にも行かない。
そもそもどこへ行こうというのか、ノリで次に行くなどと言ったが……。
シーダは旅装を整えてくると行って離れた。
本来であれば、
主人公であるマルス、腹心であるジェイガン、両翼を担うカインとアベル、
一団の盾であるドーガ、射手のゴードン、
状況が許していればフレイという騎士とノルンという女射手もいるはずだ。
しかし、そのいずれもいない。
戦力はシーダとオレで2騎、7騎も欠損している。
加えて、オレの立場は故知らぬ騎士でしかない。
大義名分ない身分の人間が一体どこまでやれるというのか。
ああ。
ゾクゾクしてきた。
これだよ、これ。
詰んでるとは思えないが、極めて不透明な行き先。
「レウス様」
風を伴って降り立ったのは羽持つ白馬、ペガサス。
「シーダ王女、いや、もうオレのトロフィーなんだから呼び捨てでもいいか」
「……ご随意に」
不承不承って感じだ。
そりゃそうだ。
だが、戦場で敬称略を付けて呼んでいる間に殺されちゃあたまらん。
「ペガサスか、そいつは」
「先程の戦いでは怪我を負ってしまい、隠れさせていました」
「傷が癒えたのか」
「リフ様のお陰です」
「ふぅん」
戦力は増えたのは喜ばしいが、それよりも悩ましいことがある。
が、シーダはそれに対して先回りをして言葉を紡いだ。
「この島の対岸にガルダという港街があるのですが、
そこでタリスが雇っている傭兵が防衛に当たっています」
ああ、そうだそうだ。
思い出した。
次のマップでオグマと、サジマジバーツが仲間になるんだったな。
妙にステータスの伸びが良いのは誰だったか……。
いや、どの作品かでそれも違うんだったよな。
「そいつらを拾って戦力を底上げしろってことか」
「はい、ですが……そこも賊に」
「蹴散らして進めばいいんだろう、それでお前の気が晴れるなら素通りはしない」
シーダの表情から伺い知れるものはない。
怒ってないならなんでもいいか。
ともあれ、トロフィー扱いしたことで大いに信頼は損なわれているだろう。
これが忠誠度があるシステムだったら次章で脱落もありえたから、この世界で良かったと思う。
いや……狭間の地と同じで、ゲームではないのなら普通に脱落もありえる……のか?
「そいつらの腕前は知らんが、さっさと行くに越したことはないな」
「はい、レウス様」
「お、お待ちくだされ!足腰の弱った老人に走らせるのは酷ですぞ!」
とりあえず、この章で脱落者はいないようだった。