「ああ、ようやく見つけた
アンタが新しいお馬番だろう」
邸の人間がやれやれといった感じで話しかけていた。
誰だこいつ。
お馬番?
ま、いいや、話し合わしとけ合わしとけ。
よくわからんけど頷くのは得意だぜ。
「ああ、邸が広くってな、オレが入ってもいい入り口がわからんかった
表から行くわけにもいかんだろう、馬番がだ」
「ははは、シャロン様はそこまで狭量ではないよ」
案内されたのはお馬番以外にも多くの使用人が集う場所だった。
「前のお馬番が逃げちまって、次がすぐに決まってよかったよ
シャロン様は最近、随分と軍馬を集めてらっしゃるから」
「逃げた?」
「と、思うんだがね
最近多いんだよ、邸から逃げちまうのがね
戦の気配を感じたのかもしれないねえ」
「ああ、軍馬を揃えているって言ってたものな」
などと話を合わせる。
意外とコミュニケーション能力が高いだろう。
こう見えてもVCありのゲームでは必ずオンにするタイプの人間なんだぜ。
「アリティアとの戦争になるって話だけどねえ」
「シャロン様は弓が達者なんだろ?」
実体験だけどな。
悪い腕前ではなかった。
オレの知っている弓使いの実例が
「生前の先代ノア様にご指導を受けていたからねえ」
ノア……メニディ家の当主か。
そいつからの教えを受けてる、か。
「そりゃあ凄い、だったら活躍を期待してお馬番ができるな」
「ははは、仕事ぶりに期待しているよ」
などという話の後に邸の内部を案内される。
使用人が入れる範囲、それと邸の外に立てられた使用人のための
気にしておくべきは絶対に入ってはならないところに一階のエリアが指定されていた。
理由を聞くと、
「牢屋に入れられないような人を拘禁するための場所」
らしい。
現在は使われてないとは言っているが……。
仮にシーダを捕らえているのが五大侯で、
この家の預かりになっているかもと考えると一応見に行く必要があるか。
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「そこのお前、お馬番だったな」
働きはじめて数日。
結構早い段階で拘禁部屋に行ってみたが使われている様子はなかった。
次はディールの部屋か、そこもなかったらどうしたものかな。
と、考えながら食事をとっていると邸の警護役が声を掛けてきた。
「ああ、そうだ」
「中々いい体格をしているな」
「馬の世話ってのは筋力が付くんだ、あんたもやるかい」
「いや、それはいい
それよりもだ、もっと金が欲しくないか?」
兵士へのスカウトかね。
まあ、ここにいてもしゃあないし、河岸を変えるのもありか。
「ああ、そりゃあ欲しいさ」
「だったらいい仕事がある」
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オレはヒゲを撫でながら、警戒しつつも新たな仕事へと赴いた。
「この邸に滞在している貴人の護衛が必要だ」
そう言われて面通しされた相手はシーマだった。
バレたら即、暴力的な手段に訴えかけよう。
流石にシーマを盾にすりゃ何かしら情報は手に入るんじゃないか?
だって兵団二つ他とトレードするレベルで惚れているフィアンセだろ?
「……」
「シーマと申します
……あ、あの、お名前は」
「……バルグラムだ」
入った時にパッと出てきた名前がそれだったのだ。
ただ、誰の名前か全然思い出せん。
狭間の地の……
人の話を聞かない弊害がバッチリ出ている。
これにはメリナも
「バルグラム様、何卒よろしくお願い致します」
「……ああ」
声音を変えているせいで超絶陰キャ感が出ている。
「シーマ様は今日の所はお休みだ、バルグラムは外で待機を」
オレを誘った兵士がそう言うので従う。
外に出たオレに兵士が
「突然声音変えてどうしたんだよ」
オレは窮して答えた。
「女の子と喋ったことがないから……死ぬほど緊張しちまうんだ」
今どき小中学生だって女の子を前にしてそんなんにならねえだろ。
自分のへっぽこな返答に心の中で突っ込むことでしか自尊心を保つことができなかった。