きっつ~~~~。
それがオレの感想だった。
夕食が終わり、目の前でシャロンとシーマがイチャコラとし始めた。
とはいってもべったりべたべたというわけではなく、
指を絡めたり見つめ合ったりと、まあそのくらいである。
いや、きっついのはそれじゃない。
話している内容もさして興味のあるトピックはなかった。
一つを除いては、だが。
「ジオル様から連絡が来てね、近々にグラへ向かわなければならない
シーマも来てくれるね」
「はい、勿論です」
「では挙式はグラであげよう、華々しいものにしようじゃないか」
という内容。
だから何かと言われれば普通の内容ではあるかもしれないが、
貴族の結婚となれば家臣団も兵団も連れて行くだろう。
領内の直接的な部下ではない軍を引き入れる貴族も参列するかもしれない。
(というのは翌日に使用人たちとダベりながら仕入れた知識だ)
先日の夜、シャロンと話したことが実際に動き始めたってわけか。
トピックではないが、気になったことはもう一つある。
シーマが眠そうになってきたのを見たシャロンがお開きにしようと言ったその帰り際。
「バルグラム」
「……はい」
「彼女の抱き心地はどうだったかな?」
そう耳打ちするとシーマのエスコートへと戻っていった。
どういう勘違いをしているのかはわからないが、
ただ、少なくともシャロンからするとオレとシーマの仲が近いという考えているのだろう。
それを非難するわけでもなく、むしろまるで挑発的ですらあるような。
ねっとりした声音から来るものが、実にキッツいものだった。
ただ、キツいというのはこれだけに留まるものではない。
後日も、オレをそれが待ち受けていた。
────────────────────────
その日はシーマが学問の授業の、
ちょうどいい機会だ。
前々から調べておきたかったことがある。
使用人のアプリールが殺された事件だ。
勿論、殺された使用人のことを思って調べたいってわけではない。
オレが雇われたときも前のお馬番がいなくなったと言っていた。
使用人の中でも位が上の人間から聞き出したりしたが、
そのお馬番も殺されていたらしい。
ただ、平民だ。
他にもキッチンスタッフが殺されていることもわかった。
アプリールの前、お馬番の後。
貴族の徒弟をしていた経験があり、平民よりかは社会的には上の立場だ。
お馬番の前には先代シャロンが面倒を見ていた孤児の一人が殺されていた。
順番はお馬番の前。
ここからわかることは、社会的な身分を少しずつ上げていっていること。
そして殺された人間は全員女であるということ。
名探偵じゃあなくたって導き出せる答えがある。
次に、或いは殺人計画のようなものの先でシーマは殺される。
……だが、どこで?
グラに連れて行ったあとで?
いや、試験運用がどうとかを考えれば、儀式のようなものに消費されるのか。
あのあとに何を話したかがわからない以上、ここからは推理のしようもない。
「バルグラム、シーマ様がお呼びです」
などと頭を抱えていると教師役をしている使用人がオレを呼びに来た。
「あ、ああ、悪いな」
「いえ、随分と考え込んでおりましたね」
「シーマ様のことでな」
「ああ……」
意味深な顔をする使用人。
その後に、
「いくらシャロン様がお許しになっていると言われていても、節度をお持ちあれ」
「何の話だ」
「噂になっておりますよ、あなたとシーマ様のことが」
「……どんなだ」
「まさか、そのような恥ずかしいことを面前で言えるわけが」
なるほど……。
どうにも使用人も含めてオレに情報をくれるやつがいたと思ったが、
シーマとオレがシャロン公認の浮気相手だと。
オレに情報をくれた奴らはオレを取り込もうとしているんだな。
「しかし……シャロン様とお過ごしの間はシーマ様の話はなさるのですか?
もしもしておられないなら、いい刺激に──」
どうやら使用人たちの間ではオレとシャロンはデキていて、
オレとシーマの関係はスパイスのためってことのようだった。
貴族社会ってのが爛れてるなんてのはどこであってもよく聞く話だが、話題の中心にされるとこう言いたくもなる。
*ああ、排泄物よ…*