エルデンエムブレム   作:zorsq

73 / 151
狼の戦鬼

「アリティア軍の状況は?」

「元グルニアの兵によって編成されたホルスタット隊は全盛期のアリティア軍と同程度の規模に急成長です

 アリティア・グルニアの混成騎兵隊がフレイが担当している国境警備軍として配備

 私、ノルンの麾下部隊としてドラゴンナイトが小部隊ですが編成されています、

 要撃部隊って奴ですね」

 

 ノルンが告げていく。

 四侠とホルスタットは現在、名を呼び捨てる仲のようだ。

 戦場で敬称付けて呼んでる暇もないしな。

 

「アランは旧アリティア近衛兵団が再編され、治安維持軍を持っています

 サムソンは歩兵部隊を幾つかに分け、それらの取りまとめをしています」

 

 ホルスタットは連れていきたいところだ。

 指揮能力も個人の勇にも優れているアイツこそ、オレの代わりに全軍の指揮権を預けられる。

 あとは……シーマは連れて行かないとならんだろう。

 そうなると本来的には彼女の側にいたサムソンは相性がいいかもしれない。

 弓兵は欲しいけど、ノルンの部隊は運用が違うだろうし……。

 サムソンの歩兵隊に弓使えるのがいたら優先的に持ってきてもらえばいいか。

 

「ホルスタット、サムソン

 グラ攻めに付いてきてくれ」

「この生命、聖王陛下のために」

「期待に背くような真似はしない」

 

 ホルスタットとサムソンがそれぞれに同意をしてくれる。

 

「ねーえ、私も付いていっていいでしょ?」

 

 リーザが抱きしめんばかりの勢いでオレに体重を預けてくる。

 

「……だめ?」

 

 耳朶に触れる近さで囁く。

 オレはぐいと彼女を抱きかかえると耳元で返すように言う。

 

「コーネリアスの仇、取らせてやるよ」

 

 彼女はその言葉に気を良くしたようで、ぎゅうと抱きしめ返す。

 普通なら女王が何をと言うかもしれないが、リーザは女王の前に復讐鬼であることをオレは理解している。

 そうでなければ執念を薪にして魔道を殆ど独学で修めたりはしまい。

 戦場に総大将として立つこともしまい。

 

 リーザがオレのために聖王という立場を作り維持することで愛を見せるのであれば、

 オレは復讐の機会を与えることがそれに報いる数少ない手段である。

 

「レウス様、女王殿下は今日のために一団を整えております」

「どんな?」

「アリティア魔道騎士団、名の通り、魔道の使い手に特化した部隊です」

「弓兵をどうにか揃えたいと思ってたけど、それがあるなら今回は要らんな」

 

 リーザは準備を喜んでもらえてか、にこりと笑った。

 これが復讐のためにじっくりと手をかけて用意した彼女の刃でなく、焼いたクッキーだとかなら可愛らしいと表現できるんだけどな。

 

「陛下」

 

 顔なじみのメイドが側に来て報告をする。

 

「王女の状態は安定されました、精神的にも問題はないと判断します」

「ありがとう、すぐに行くから待っていてくれ」

 

 恭しく頭を下げ、メイドは下がる。

 

「グラ攻めにどれだけ時間が必要だ」

「後詰を副官に任せてよいのでしたら、空が白むまでには」

「準備がいいな、ホルスタット」

「それが努めです」

「では白んだころに出発と皆に伝えておいてくれ」

 

 オレは通路へと出て、メイドの先導に従って進む。

 

 ────────────────────────

 

 薄布ではなく、身分相応の衣服を纏っているシーマがいる。

 疲労した様子はない。

 

「彼女と二人きりにしてくれ」

「承知しました」

 

 メイドはオレの強さを理解しているようで、「襲われたらどうするのか」なんて事も言わずに世話係を連れて退室した。

 

「本当に聖王レウスなんだね、……バルグラムじゃ、ないんだ」

「オレにとってはどちらも同じだ」

「私にとっては……」

「違うものか」

 

 こくりと頷く。

 

「態度は変えてくれるなよ」

「聖王レウス陛下に不遜だって配下の人に」

「お前も一国の王女だろうに、それにオレはバルグラムと偽ってはいたが、心まで偽っていたつもりはない」

「怖い顔で首を締め上げたのも、怖くて泣いた私を抱きしめてくれたのも……残酷だね、聖王──」

「バルグラムでいいさ、そう呼んでくれ」

「……バルグラムは、冷酷で残酷だよ」

「自覚がある」

(たち)が悪いよ」

 

 小さく微笑むシーマ。

 

「もう一度告げなければならない

 オレはグラの王ジオルも、ディール候シャロンも殺す

 シーマ、お前はどうする?」

「お父さまは私を軍備の代わりに売り払ったんでしょう、それくらいは理解できているから」

「シャロンの元に戻るか」

「……」

 

 彼女は自分の手を見て、それから泣きそうではなく、意志力が込められた瞳を向ける。

 

「犬に成り下がりたくない」

 

 自分の喉を撫でるようにして、

 

「私は父にも許嫁にも裏切られた、……バルグラム、あなたにも

 でも、それが私が自分のために生きてこなかった報いだから」

 

 だから、とシーマはオレと目を合わせて続ける。

 

「槍をちょうだい、バルグラム

 一兵卒の扱いで構わない

 私も戦場に連れて行って」

 

 その目、その表情はどこか狩りを行う前の狼のような、獰猛な獣のようでもあった。


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。