「リーザ」
「なあに?」
流石に戦の準備もあるので彼密着距離からは離れている。
「ジオルは──」
「あの子に討たせてあげたい?」
「……ああ、できたらな
父殺しなんざ残酷だろうが、アイツが本当に自由になるためには孤独な場所に落ちた方がいっそ早い」
「這い上がれるかしら」
「這い上がるさ、アイツはそれができる」
オレの答えに満足言ったのか、微笑み、
「でも私にコーネリアスの仇を取らせてもあげたい、そうでしょう」
「そうだ、お前に取っては──」
「私の夫はあなたよ、レウス
それにね」
陣幕の外を見やるようにするリーザ。
「ジオルに復讐するなんて別にいいの
私が復讐したいのはこのグラの地の全てだから」
柔和で優しいリーザのままに、声音だけが冷えていた。
女は怖い。
改めて思う。
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トレントに跨ったオレが一歩前に出る。
服装は悩んだが、結局のところ黒い甲冑に毛皮の外套を纏った。
解放軍の頃と同じような出で立ちだ。
甲冑に関しては聖王への献上品をとアリティアの鍛冶たちが作ってくれたものらしい。
曰く、オレの使い方でどれだけ耐えれるかわからない、聖王陛下への献上品ではあるが試作品でもある。
素直にそう言ってきたらしい。
嘘偽りのない職人への礼を言付けている。
グレートソードを天に掲げる。
「聞けッ!聖王国の勇士たちよッ!!」
オレは声を張り、味方は元よりグラに立つ兵士全てに聞こえるように叫ぶ。
「過日、グラはアリティアのコーネリアスを背後より手をかけた
かつてアリティアの一部であったグラの行いを晴らす時が来たのだ
今よりこの地にあるのは慈悲無き戦いだけである
今よりこの地で行われるのは大いなるアリティアを取り戻す大義ある戦いのみである
グラの将兵よ!ディールの将兵よ!
常の戦場であれば投降の猶予を与えるものだろうが、オレは宣言をした!!
もはや、この地に慈悲はない!!
伏して泣いて、命を捨てよッ!!」
グレートソードを振り下ろし、トレントを走らせる。
やや遅れて、怒号と地鳴りのような音を立ててアリティア聖王国軍も攻めを始めた。
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足並みを揃えることができる傀儡がいない以上は『霊呼びの鈴』は使えない。
温存しておいて使う機会があるかはさておき、無駄になるよりはいい。
シャロンとの戦いで役に立つ可能性だってあるからな。
オレの戦い方は相変わらず、突っ込んで暴れるだけだ。
読み合いこそ上手くなったわけじゃないが、武器の振るい方は変わってきた。
狭間の地で振るう力任せの一撃ばかりではない。
この鉄塊めいた剣でいかにして振るえば効率よく敵兵を砕けるかを理解してきた。
血しぶきの中を駆け抜け、オレは一つ探しものをしていた。
おそらく居るはずのものを。
ディールの部隊を二、三叩き潰した辺りでそれらの軍旗とは異なるものが目の端に入った。
グラの王旗、つまりはジオルのそれだ。
オレがやることは一つ。
周りを蹴散らし、奴を追い立てる。
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なぜ、なぜこのジオルがこのような事に巻き込まれねばならぬ!
王として生まれ、王として生きただけだ。
王は尊いもの、であれば他を犠牲にしてでも生き延びるべきもの。
コーネリアスを討ったのも、私よりも奴が下だからだ。
アリティアなどという地に縛り付けられながらも、私を、このジオルを下に見るような目をしていた!絶対に見ていた!
ドルーアに従い襲った。
だが、そうではない。
恐ろしかったのは事実。
だが、コーネリアスを殺せる理由が見つかったのだ。
恐怖に屈服し、弱い王であると勘違いさせれば服従しているように見えるだろう。
生き延びればいつかは機会がある。
コーネリアスを殺せる機会が巡ってきたように。
「ジオル様!ぶ、分断されました!」
「後ろもです!何かはわかりませんが、怪物めいたものが暴れています!」
兵士たちが叫ぶ。
「え、ええい!どこなら行ける!!」
「ほ、北西です!国境の方は逆に手薄なはずです!!」
「進むぞお!!」
未来へと進軍する。
生き残るのはシャロンでも聖王だかでもない。このジオルだ!!!