想像以上にディール家の兵士が強い。
『国を得るために粛々と力を蓄えた』それが伝わってくる。
国の正規兵と変わらぬ、いや、国によってはこいつらの強さは凌ぐだろう。
マケドニアのようにドラゴンナイトがいるわけでも、グルニアのように精強な騎兵がいるわけでもない。
統率された歩兵がこれほどまでに暴れにくい相手であることを学習することになるとは思わなかった。
その時、空から幾つもの稲妻が降り注ぐ。
意思を持つようにオレを避け、周囲を焼き焦がしていった。
「次の準備を」
「承知しました、女王殿下」
アリティア魔道騎士団。
揃いの黒馬に跨がり、リーザに従うアリティアに存在しなかった新たな兵種。
短期間で自らの技術をノウハウ化し、才ある人間によって固められた少数精鋭の特殊騎士団。
時間さえあればリーザはその騎士団をより多く、より正確に仕上げるのだろう。
だが、まことに恐るべきは――
「エルサンダー!」
魔道騎士団の団員が一斉に
撃った方向はちょうどリーザの真上だ。
彼女は空に手を掲げ、指で何かを手繰るようにし、手を振り下ろすと同時に魔道を喚起する。
「ミョルニルッッ!!!」
稲妻が迸る。
まるで神が彼女の怒りを体現するかのように、振り下ろされる度に数部隊が纏めて消し炭に変わった。
彼女は魔道を
彼女の麾下たる魔道騎兵も優れた兵士だが、カダインの駿才には遥かに及ばない。
だが、リーザは女王だ。
人をどのようにして扱えばいいか、どのように配してやれば効率がよいかを瞬時に判断する王たる才を備えた女である。
一人では英雄譚のような戦いができないのならば、束ねて戦う。
一人では魔力が足りないのならば、束ねて扱う。
特権階級的で個々人の技である魔道を、集団運用し指揮するという新たな可能性をリーザは開いたというわけだ。
復讐が人を変えるとは言うが、ここまで変わるとは誰も思うまい。
本来モーゼスが彼女を引き裂いて殺していたはずだが、あいつだけが彼女の危険性に気がついていたのかもな、などと思う。
彼女の周囲はホルスタットが選別したという近衛騎兵が守る。
ここはもう彼女に任せてもいいだろう。
そう思った瞬間にオレはグレートソードを構えた。
何かが見えたと思った瞬間に剣が盾代わりになって矢を弾いた。
矢が放たれた方角にはグラの主城。
そして、一際高いところに弓を持っているシャロンが立っている。
次の矢を構えず、オレを見ていた。
オレが姿を確認したのを理解したのか、片手をこちらに向け、手招く。
「おもしれえ……」
トレントを走らせ、オレは主城へとまっしぐらに進む。
この戦場では最早オレを止めようなどという蛮勇を持ち合わせるものはいない。
オレはそいつらを無視する……わけもなく可能な限り暴れ狂い、蛇行運転をするように敵の数を減らしていった。
倒せば倒すだけ、オレは理解できる。
歩兵に囲まれたときは面倒であったが、主城に辿り着く頃にはディール歩兵が面倒になることはなくなっていた。
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主城の中は静かなものだった。
近習の一人もいない。
「警戒しなくてもいい……バルグラム」
遠くから声が響く。
「こっちだ、早く来てくれ……」
悦に浸るようなシャロンの声。
玉座だろうと思っていたが、それは間違いではないようだ。
「ああ……バルグラム
いや……聖王レウスと呼んだほうがいいかな?」
「別に、好きに呼ぶがいいさ」
「そうか……では、好きに呼ばせてもらうとしようか……、我が愛バルグラム……」
「訂正は間に合うか」
「駄目だよ、もう遅いさ
我が愛バルグラム」
オレは心底後悔した。