エルデンエムブレム   作:yononaka

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聖王の妹

 戦いは決した。

 シーマはジオルを、

 リーザたちアリティア聖王国軍はグラ・ディール軍を、

 そしてオレはシャロンを討ち倒した。

 

 戦いの後、すぐにシーマがオレを探しに現れた。

 

「シーダ王女の居場所がわかったかもしれない」

「どこだ!?」

「サムスーフ領だと、ジオルが死に際に言っていた」

「レフカンディじゃあないのか」

 

 シーマはこくんと頷き、

 

「あそこは窓口なんだって……おそらく人身売買か、そういう類の」

「そうか……」

 

 オレはその情報を噛みしめるようにして、

 

「シーマ、ありがとう」

「お礼なんて、だって、本当ならバルグラムはシーダ王女のところに──」

 

 辿り着けていたかもしれないと言おうとしたシーマにオレは頭を振る。

 

「妹みたいに思えちまったやつを、オレは放っておけなかった

 お前はそんなオレに何となく助けられた

 それでいいじゃねえか」

 

(シーダ王女になにかあっても、私は悪くないのだと、そう言いたいのだな)

 

 小さく笑うシーマ。

 

「残酷な人だ、兄上」

「はははっ、かもな」

 

 兄上と言われて、嫌な気持ちになる男なんてそういねえだろ。

 遠回りにはなったのかもしれない。

 だが、次に向かうべき場所は決まった。

 

 サムスーフ領だ。

 

 ────────────────────────

 

 すぐさま発ちたいところではあるが、戦後処理のことだけは立ち会う必要がある。

 ここまで面倒を見たのだから、戦いの後のことまでは見ておかねばならないだろう。

 

 グラはアリティアに再び統合された。

 その『グラ』という名前は地方の名前としては残されることになる。

 

 アリティアと同じく、グラはドルーアに近く、弱ったここに攻め寄せる可能性は否定できない。

 やるべきことは防衛力の強化とグラ地方の安定化だ。

 

 何者か土地を治めるべきものをアリティアから送るべきであろう。

 その手配はリーザに任せるとして、

 

「グラについてだが」

 

 オレが声を上げる。

 一同──シーマを含めて──はオレを見る。

 

「その前に皆に伝えておくべきことがある」

 

 オレはシーマの側へと歩く。

 

「このシーマは聖王レウスの妹である、隠していて申し訳ない

 長年に渡って行方不明であったのだが、五大侯の手によって拐かされ、

 ついにはグラへと渡っていたのだ」

「へ?」

 

 シーマの間抜けな声が漏れ出る。

 そうだったの、というわけではなく、

 突然この人は何を言い出すのだ、という声だ。

 ただ、この会議に参列している事情を知らないホルスタットの軍師や副官は――

「そうだったのか」

「あの凛々しさはご兄弟であるからだったのか」

「ご兄妹ともに素晴らしき戦功をあげるとは、聖王様万歳!」

 と称賛している。

 

「知っての通り、我が聖王国は愛する妻であるリーザの手腕によって成り立っている

 ただ、アリティアは今大変な時期である

 大義あって我らはグラを取り戻したが、リーザにこの地を任せるのは負担が大きい」

 

 副官達は――

 

「自ら権力を持たず、現人神として広く俯瞰しておられる……」

「女王殿下の仰るとおりの高い視座だ……」

 

 と漏らす。

 ちなみに人が喋っている時にあれこれ言うのはオレからするとマナーとしてどうなんだ、と思うが、

 オレが何度か「忌憚のない意見を」と求めたことで始まったものらしい。

 今は静かにしてくれとでも注意しない限りはこれが常だ。オレが悪い。

 しかし、ああして持ち上げてくれるのはサクラと同じでオレにとって都合よくことが回る潤滑油になるので助かっている。黙らせる理由もない。

 

「誰であろう、我が妹であればこのグラを任せることができる

 この地を聖王姫シーマの庇護下とすることに反対するものはいるか」

 

 拍手が起こる。

 全会一致。

 

「レウス、女王殿下」

 

 サムソンが意見具申したいと声を上げる。

 オレはなんだ、とサムソンへ。

 本当はこういうのは全部リーザに頼みたいところだがたまには聖王らしく仕事をせねばなるまい。

 

「聖王姫殿下の護衛、そして聖王レウスが取り戻したグラの守護……

 このサムソンに任せてもらえないか」

 

 お、良いね。

 強い意図を含んだわけではないが、それでもこの展開は心が踊らないと言えば嘘になる。

 

「オレの可愛い妹だ、しっかり守れよ」

「無論、このサムソンの魂に懸けて、万難から守ると誓おう」

 

 終始シーマはその状況に振り回されていたが、グラについてはそういうことになった。

 

 ────────────────────────

 

 会議が終わり、オレはリーザに後事を頼む。

 

「妹だなんて、狡い手ね」

「リーザの義妹でもあるんだぞ、可愛がってやれよ」

「毎日きせかえ人形にしたいくらいだもの、可愛がりたいけれど」

「隣領とはいっても中々難しいか」

「戦後処理の間くらいは好きにさせてもらうけれどね、ふふ」

 

 リーザが淡く笑い、そうしてから――

 

「急ぐのよね」

「流石に場所がわかった以上はな」

「……戻ってきてね、あなた」

「ああ」

 

 口吻を交わし、彼女を離そうとしたところで――

 

「兄上、こちらに……し、失礼!!」

 

 ばったりと目撃してしまい、狼狽するシーマ。

 

「いいのよ、シーマ

 こちらにいらっしゃい」

「は、はい……ええと」

「リーザでいいからね」

「そういうわけには……殿下」

「だめ、せめてさん付けで呼んでちょうだい」

「リーザ……さん」

「よくできましたねえ」

 

 撫で、抱きしめる。

 直線的な母性の一撃にシーマは目を回している。

 

「あ、あの、そうではなくて、兄上!」

「なんだ」

「その……先程の話は」

「妹だってやつか」

「それもそうだけど、グラのことだ。

 私が治めろなんて」

「イヤか」

「そうではなく、その資格が」

「聖王の妹なんだから資格なんてこれ以上ないぞ」

「ジオルが国中を狂わせてしまったんだ、その血を引いた私が」

「なあ、シーマ」

 

「お前が住みたい国はどんなところだ?」

「私が……それは、皆が笑顔で、安心して暮らせるような土地だよ」

「じゃあそいつを目指して復興しろ、わからんことや解決が難しいことはリーザを頼れ

 お前がその血統が忌まわしいと思うのであれば、お前の代から変われ

 その血が誉れあるものだと人々に語られる、ジオルと対照的だと後世に謡われるような為政者になるんだ」

「……果てのないことだ」

「挑むも挑まないもお前の自由だ、どうする」

「当然、進む自由を選ぶよ

 兄上の示してくれた道を進むという自由を」

 

 オレは彼女の頭を撫でると、トレントを呼んで跨る。

 

「じゃあ、行ってくる」

「はい、あなた」

 

 一拍置いて、シーマは声を上げた。

 

「兄上!

 ……戻ってきたら私やグラを見て欲しい、あなたが自慢にできる妹であったかどうかを!」

「ああ、シーマ

 だが、サムソンをあまり困らせてやるなよ

 アイツもオレと同じでお前の頼みを何でも聞いちまうからな!」

 

 目指すはサムスーフ領だ。

 オレはトレントを突っ走らせる。もう立ち止まることはない。

 

 ────────────────────────

 

 走り去るレウスを見送るリーザとシーマ。

 

「兄上は……酷い人ですね」

「ふふ、そうね

 辿り着くのが大変な夢を見せて、それを叶えろって言うんだから」

「はい、だからこそ……私はあの人の妹として、運命に手折られぬよう、支えになれるように復興を目指すことを誓います」

「じゃあ、レウスが帰ってくるまでに素敵な場所にしなくちゃあね」

 

 はい、とシーマは真っ直ぐな視線でリーザから、そしてもう見えなくなってしまったレウスの、

 その進んだ方向を見る。

 

 その瞳の輝きは、彼女の歩んだ人生の中で一番に輝いていた。


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