エルデンエムブレム   作:yononaka

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タリスの土を踏み

 サムスーフ領が保有する港は街でこそないが、物資の供給地点としての設備が整えられている。

 以前タリスから渡ってきたときはタリスからガルダの港までで、海流の影響もあってかすぐに到着できた。

 ただ、ここからであれば二日ほどは最低でも掛かるらしい。

 

 オレはこの手の船にはまったく造詣がないので偉そうなことは言えないが、

 櫂船(オールが出ている船)ではなく帆船(帆が大きな船)であるってことだけは見ればわかる。

 この世界で船の話は殆ど聞かないのが気になる。

 

「船ってのはどうなんだ?」

「ええと、それはどういう意味ですか?」

「船ってもんに関する文化に触れる機会がなかったんだ

 どれだけ便利なもんなんだろうなって」

 

 なるほど、と納得してくれた。

 

「確かに船を使うなんてことはあまりないですからね、海風の計算をしたり、

 進めないときは魔道士が強引に風を呼び込んで少しずつ進めたり……」

「櫂船はないのか?」

「オールで漕ぐような?」

「ああ」

「短い距離であれば使われていますよ、タリスとガルダとか」

「今回は?」

「船の種類を問わない話になってしまうんですが、海上は無防備ですから」

 

 この世界には空を飛べる兵種ってのがあるものな。

 確かに空から襲われたらたまったもんじゃないのか。

 

「だから高額なんですよ、漕ぎ手も」

「そもそも船自体がメジャーな移動手段じゃないってことか」

 

 ってことは海賊ってなんなんだろうな。

 船にも乗らずに、と思ったが何故知らないのかって話になると面倒だ。

 

「それに飛兵だけではありませんから」

「っていうと、何だ?」

「沖を進むと飛竜や水竜なんてのもいるそうです、僕も見たことはないのですが

 船の沈没理由の殆どがそれだと聞いています」

 

 ああ、飛兵以外にもで思い出しましたが、と続けるエルレーン先生。

 

「時々は海賊が手漕ぎのボートで襲ってきたりもするらしいですね」

「海賊なのにボートなんだな」

「彼らはあくまで海の近くに住んでいる賊であって船上で生きている賊ではありませんし

 山賊も山で生活している盗賊ってわけでもないでしょうから間違いではないんでしょうね」

 

 と言った所で、使用人がオレたちを呼びに来た。

 授業は終了ってわけだ。

 

「教え上手だな、坊っちゃん」

「よしてください」

 

 と言いつつ、嬉しそうだった。

 

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 ベントも搭乗すると宣言している。

 ガルダ・タリス間みたいな近さじゃないし、交渉になるにしろ、支配するにしろその場にいたいのだろう。

 

 オレとエルレーンはベントとは違う船に乗せられる。

 人を案内できる客室があるのが別のものだったというし、それを断ってベントの船に乗る理由は見つけられなかった。

 目の前にいるであろうに中々行動できない。

 どうせあちらに行ってシーダの姿を探すなら、ここで暴れるのも同じではなかろうかと思い始める。

 

「無理に行動してシーダ王女が乗っている船が出港されるのが一番マズいと思います」

 

 と先んじてエルレーンが釘を刺しに来た。

 冷静な意見だ。

 頷く他ない。

 

 海上では特に何かあるわけでもない。

 客室の中で今後の相談をしたくらいだ。

 

 到着後、エルレーンがそれとなくベントから情報を探る。

 場所が割れればよし、駄目であれば船を潰して逃げる足を失ってから倒す。

 タリス軍と鉢合わせたらオグマを呼んでもらえばいいだろう。

 ……まあ、話くらいは聞いてくれるはずだ。

 

 船は一度、沖合で停泊する。

 主城に近い港はやはり警戒が強く、例え辿り着いても部隊を展開するのは難しいと考えたらしい。

 ぐるりと回って、東側の港まで行くことになったらしい。

 

 再び沖合で夜を待ち、そうして船乗りたちの努力と技術のお陰で夜半も過ぎた頃にサムスーフ軍はタリス島東側の港を降り立ち、部隊を展開することに成功した。

 

「で、どうするんだ?」

 

 と、エルレーン坊っちゃんに代わって面倒事はオレが聞いておくぜといった感じで、

 ベント家の指揮系統を担っているものに問う。

 

「行きがかりで見たが、島の真ん中あたりにある砦を中心に展開していたからな

 まずは捨て駒代わりの連中を突っ込ませてみる予定だ」

「容赦のねえ使い方だな」

「元サムシアンの山賊だ、こんなところでしか役に立てられん」

「んで、その後は?」

「相手の戦力を測れたらサムスーフの正規部隊で戦う

 正規部隊が勝てない相手と事前の捨て駒で判断したら、エルレーン様にお手伝い願うことになるだろうな」

 

 地図を見下ろしながらオレは聞く。

 

「相手が先に攻めてきたらどうする?」

「連中で戦力にカウントできそうなのは傭兵オグマの部隊くらいだ、

 数がいるわけでなし、回り込んで叩くか、城を落とすかとなる」

 

 そうなれば囲んで叩くか、タリス王を人質に取るってことか。

 悪くはない気がする。

 ただ、オグマがどれだけ仕上がってるかにも影響しそうだが。

 

「そういや、切り札はどうすんだ?」

「王女か

 サムシアンどもを一波目、正規部隊が二波目と数えたら、選抜部隊を出す時に使うから三波目に切ることになるだろう

 切らなければ籠城されたりしたときに使う」

 

 シーダを連れてきているのは確定したのは安心できる。

 これで実は持ってきてないとか言われたら頭を抱えていた。

 

 オレが乗っていた船にはいなかったし、荷降ろしを手伝うついでに物資運搬用(兵士も運搬していたけど)の方にもいなかった。

 ってことはやっぱりベントの乗っていた船か。

 

 もうやっちまってもいいんだが……。

 ここで強引に攻めるのは手っ取り早いが、シーダが偽物だった場合は面倒なことになる。

 一番最悪なのはそのタイミングでベントが逃げたり殺されたりすることだ。

 ここで三波目を待って視認できてから行くのは確実だが、敵のど真ん中から救出することになると、

 オレは大丈夫でもシーダの身の安全が確保できない。

 

 今少し悩む時間もある。

 エルレーンにも相談しておこう、と考えた辺りで早くもあの少年を何だかんだと頼りにしている事に気がつく。

 ……あんなこと(フィーナ)もあったんだ、あまり年下に頼りきり任せきりにはなりたくねえなあ。


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