【読者参加型企画】ゼロから世界を作るなら   作:ぷに凝

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おんぎゃ〜〜〜っ!!(500万歳児)

「テキ、ダナ」

 

彼女は黙っている私に何を思ったか、右手の“炎”を強く滾らせた。

 

それなりに“魔法”を使い慣れた私には、それが私に対する明確な敵意を持って、今まさに放たれようとしていることがわかった。

 

「ハァッ!!」

 

次の瞬間、彼女が手のひらに浮かび上がらせた“炎”が撃ち出された。

 

……ハルに向かって。

 

なんでやねん!

 

「え?」

 

ハルは、突然敵意を向けられたことに呆然としている。当然だ。彼女は私以外に、明確な意思を持った存在と接したことが碌にない。攻撃されることなんて皆無なのだから。

 

まぁ、私も戦い慣れているというワケではないが。

 

私は次の瞬間、瞬間移動的にハルの前に立ち塞がった。目前に、確かな熱と殺傷性を誇った炎が迫る。

 

“事象の地平面”。

 

「……!?」

 

しかし、攻撃が私に届くことはなかった。

 

私が右腕と左腕で“円”を形作ると、そこには光も通さない暗闇が広がり、炎は吸い込まれてしまったのだ。

 

さて、これで話を聞いてもらえるように……。

 

「ッ!!」

 

いやまだやるんかーい。

 

彼女は背に背負った長弓を構え、矢をつがえる。

 

すると、その矢尻に炎がともった。

 

なんと、驚いた。すでにここまで精密な操作ができるようになっていたとは。

 

「ハッ!!」

 

火矢が放たれ、私を差し穿たんと迫る。

 

うーん、このまま攻撃を吸収し続けても、彼女はなんだか、ずっと戦意を失わないような気がするなぁ。

 

そういう“目”をしている。きっと、自分の敵は尽く排除してきたのだろう。

 

それなら、まずは私と彼女の間に横たわる絶対的な力量の“差”を……わかってもらった方がいいのかもしれないな。少々大人気ない気もするが。

 

そもそも目の前にこんな明らかな不審者おじさんがいるというのに、多少の人格否定をしてくるだけのいたいけな少女であるハルを、真っ先に狙ってくるのは道理が通らないというものだ。

 

彼女の敵は私なのだ。私を見なさい。

 

そして、私は彼女の戦意を折るために、まずは彼女の使う技をそっくりそのまま返してしまおう。それが分かり易い。

 

武装変化:(アーチャー)

 

「アァ!?」

 

突然腕が“弓”に変わった私を見て、彼女はギョッとしていた。

 

……やっぱりキモいかなぁ、これ。

 

威力はピカイチなんだけどね。

 

火矢が到達するわずかな時間の間に、私は弓に矢をつがえ、放った。

 

夜明けの一条(ドーンスター)”。

 

「ッ!!?」

 

彼女が放った火矢に対し、私の矢は……いわば“ビーム”だった。

 

光線。それが火矢を容易く飲み込んで、彼女の顔のすぐ横を射抜いた。

 

あと数cmずれていたら彼女の左耳は消し飛んでいた……そんな距離だ。

 

「……」

 

私の矢の軌跡上にあった木々が……尽く、丸くくり抜かれたような傷跡を残している。

 

彼女はそんな光景を見て、すっかり固まってしまった。

 

ようやく落ち着いて話ができそうだ。

 

……

 

……?

 

なんか微動だにしなくなっちゃったけど。

 

 

「気絶してるのでは?」

 

 

……。

 

ヱ?

 

 

 

その後、なんとか試行錯誤して、最終的に“見えざる手”で身体を持ち上げることで意識を覚醒されることに成功した後、私は彼女と改めて話し合おうとした。

 

……怖がって、近寄ろうともしてくれないんだけどね。

 

話ができる。と言っても、彼女もまた流暢に言葉を扱えるわけではない。

 

当然だ。言葉とは、文明と共に発達するもの。世界中各地で、姿こそ人間に近いが文明は原始人と遜色ない生命が所々存在するだけの今の状況では、むしろ私やハルのように言葉を扱う存在こそ異端なのだ。

 

「…ヒ、キケン。スル、ダメ」

「そう、ダメですよ」

 

私は、彼女との交渉役を自ら願い出たハルを後方から見守っていた。

 

もし彼女がまたハルに攻撃を加えようとしたら、すぐに間に入れる程度の距離を空けて。

 

彼女は……時々私のほうに視線を向けて、目が合うとすぐに逸らしてしまうが、今のところは大人しくハルの話を聞いていた。

 

嫌われてしまった。若い女の子に嫌われるのはおじさんの宿命である。

 

それはともかく。

 

ハルは彼女に対し、とても穏やかに接している。警戒心の欠片も見せていない。そんなハルの様子に絆されてか、最初は我々に対し敵意の籠った目を向けていた彼女も、ハルに対しては友好的……というよりは、なんだか母に優しく諭される子供のような雰囲気を纏わせていた。

 

……今度、私もハルにオギャり散らかしてみよう。

 

「ご主人様、わかりました」

 

マジで?いいの?

 

 

お゛ん゛ぎ゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!

 

 

「……」

 

ごめんて。

 

「……彼女の動機がわかりました。何故世界樹を燃やそうとしたのか」

 

はいはい、それね。そういえばそんな話だった。

 

「ディアナ。それが彼女の名前です。どうやら彼女は“魔法”を扱えるがために、同族のエルフ達から……その、迫害のようなものを受けてきたようで。それで復讐のために……」

 

……迫害かぁ。

 

なんとなく彼女、ディアナの態度から予想したことではあるけど。やっぱあるのかぁ、そういうのは。

 

現世でも魔女裁判とかやってたしね。そりゃ魔法が実際に存在するこの世界では……それも、殆ど魔法を扱えない者しかいない現状では、そうなってもおかしくはない。

 

しかし、迫害というのは同族意識が芽生えないと発生しないものだ。“いじめ”とかもそうだけど、こういった差別、仲間外れというのは集団意識があって始めて成立する。

 

つまり、少なくともエルフ達にはそういった集団意識がある、と。

 

……これは、私が思っていたより根が深そうな問題だな。

 

「……どうしますか?ご主人様。彼女を……」

 

うーん、そうだね……。

 

ハルはどうしたい?

 

「え?私ですか……?」

 

うん。彼女の話を聞いてあげたのはハルだ。

 

ハルの考えを聞きたい。

 

「私は……」

 

ハルは、とても悲しそうな目で……膝を抱えて疼くまるディアナを、見つめていた。

 

「助けてあげたい、と思います」

 

なるほど。

 

素晴らしい。

 

じゃあハル、これから君には、あの子を助けてもらいたいな。

 

「……私が、ですか?」

 

うん。君がディアナのために出来ることをしてあげてほしい。

 

「……ですが、私にはそんなことは出来ません。私にはご主人様のような力は、ありません……」

 

ハル。力というのはね……何も魔法や暴力、この世界に影響を与える権限だけを言うものではないんだ。

 

すでに君は、私の持っていない素晴らしい力を持っているとも。

 

「……私の力、ですか?」

 

うん。その力で……あの子を救ってあげてほしい。

 

「……よくわかりません」

 

今はそれでいいんだ。私は随分長いこと、ハルを縛り付けてしまっていたからね。

 

少しずつ、自分のことを知っていけば……それでいい。

 

きっとディアナと関わっていくことで、その答えも見つかるはずだ。

 

「……了解です、ご主人様」

 

そう。ハル……君は私にはない素晴らしいものをすでに持っているのだ。

 

 

私にはない、“バブみ”をな……!!

 

 

ディアナを存分にオギャらせ給へ……。私はその様子を遠くから眺めて、ニチャニチャと笑みを浮かべるのみだ……。

 

 

 

さて、ディアナという存在が現れたことで、私のやるべきことは一気に増えてしまった。

 

なにせ、これから一気に彼女のような境遇に置かれる者が増えてくる……なんならすでに、世界中にいるのかもしれないね。

 

それにしても、まさか私の知らないところでこんなに知能の発達が進んでいたとは。

 

この世界の人々は基本的に、私と同じように生殖機能を持たない。そのため、私が生み出さない限りは増えることも減ることもない。

 

いや、減ることはないというのは嘘だな。恐らくこれからは、何らかの原因……例えば事故や戦闘などで、機能停止。つまり死亡する者が出てきてもおかしくはない。

 

素体は人形だ。そこにマナの影響で意思が生まれた。だから死亡と言っても一般的なソレとは異なり、彼らの死は自意識の消滅によって引き起こされる。

 

つまり怪我や病気で死ぬことはない。彼らにとって直接的なダメージとなるのは……精神への過度なストレスなのだ。

 

精神が弱まれば、それがそのまま命の危機に直結する。ディアナは気が強い子のようだったから、強く精神を保っていたけれど……。

 

そうではない者が同じような目に遭えばどうなるか。私はこの問題について深く考えなければならない。

 

そう。今までは好き勝手してきた私だが、今後は新しく生まれる命のことも考えて、この世界を形作らなければいけない。

 

力ある者には、相応の責任が伴う。

 

私はこの世界の創造者として、相応しい振る舞いをしなければならないのだ。

 

……

 

……。

 

「なんですかこれは」

 

動物の骨格で作られたキメラですね。

 

「……」

 

……。

 

違うんだよ。

 

「ディアナが喜びそうなものを持ってきたと言うから、なにかと思えば……」

 

いやいやいや!!話を聞いてほしいんだ、ハル。

 

私は確かにディアナのことをハルに助けてほしいとは言ったよ?でもさ、一方で私が何もしないと言うのはちょっと無責任だと思うんだよね。ほら、一応これでディアナの親みたいなもんでもあるわけだからさ。でも、ハルに一任したい気持ちもあるわけ。そう、どっちの気持ちもある。だから私が干渉しすぎないようにディアナのためにできることはなにかなーって考えた時にあっ、プレゼント贈ろう!ってなったわけですよ。ついでにハルにもいつもの感謝の印として持ってきたよ!はい、どうぞミニキメラ「いりません」はい、すいませんでした。

 

「まぁ、言いたいことはわかります。親切心でこういうことをしようとしてくださっている、ということも……」

 

ハルが両手でミニキメラをにぎにぎしながら、正座している私を上から見下ろしている。あっ、そんな強く握ったら壊れちゃう……。

 

「ですが、私はご主人様に命じられたことはなんであれ、完遂してみせます。ディアナのことも、ご主人様の手をこれ以上煩わせることはありません。気にかけてくださるのはありがたいですが……こういうのは、あの子にはまだ悪影響ですので」

 

“こういうの”だなんて……あらゆる絶滅動物の骨だけで作り上げられた、いわば長い歴史を一つの芸術として昇華させた傑作キメラだというのに……。

 

しかし、確かにディアナには早いかもしれないね。

 

「わかっていただけましたか」

 

うんうん、私は全て理解しているとも。

 

ハルは要するに、ディアナと……そうだね、家族のようなものになりたいと思っているんだろう?

 

「……ま、まぁ、その……」

 

ははは、隠さなくていいよ。

 

そうだね、思えば私は、ハルになんら家族らしいことをしてあげられなかったね。情けないことだ。500万年間、一緒に過ごしたというのに。

 

「か、家族って……その……」

 

だからこそ、ディアナとはそうなりたい。素晴らしいことだ。

 

ディアナのことは……ハル、君に任せた。

 

彼女と共に、一緒の家で過ごすといい。

 

 

「……あ、ありが」

 

 

そんなあなたにこちら!

 

大量の絶滅動物の骨格標本で形作られた、冒涜的な家〜〜!!

 

ここに住むだけで自然破壊と多種族淘汰を繰り返してきた罪深い人間の歴史が一手にわかるという、英才教育にはもってこいの“住む教科書”!厳選されたラインナップと、安心安全の耐震構造で突然の地殻変動にも対応!!

 

さらにわざわざ遊園地に行かなくても常にお化け屋敷気分を楽しめ……あ、待って、それダメだから。それ結構ヤバめの核弾頭だから!!落ち着こうよ!大丈夫だから落ち着いて!!ってかちょっと待ってどっから持って来──。


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