異界渡りの財宝王 ~異世界と地球を往来し、マジックアイテムを持ち帰る~   作:水色の山葵

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貧困

 

 クソ眠い。

 そのせいか、目の前が暗い気がする。

 身体も重いし、歩きにくい。

 

 それでも何とか、高校まで身体を動かす。

 まだ1年の10月だけど、今の所皆勤賞だ。

 これに傷をつけるのは好ましくない。

 進学……も……まぁ考えてはいるし……

 

 そんな現実を考えると億劫で疲れる。

 やはり、昨日のバイトが響いてるのだろうか。

 背中に何かが乗ってるように重い。

 日差しが照ってるのに、なんか暗いし。

 心なしか視界も狭いような。

 

 いや、登校さえしてしまえばこっちの物だ。

 1限目の国語の先生には悪いが寝よう。

 田口先生は63歳の高齢だし。

 多分バレない。

 

 そんな事を考えながら、俺は教室の扉を開く。

 

「え……」

 

 ドアをスライドすると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

 

 我がクラスの委員長。

 丸い眼鏡を掛け、三つ編みのおさげを左右に垂らし。

 幼げな美人。か弱いお姉さん。

 そんな風に陰で噂されてるお人。

 ちなみに男子からは結構人気。

 

 本人は知らないだろうけど。

 

 そんな、三浦紗枝(みうらさえ)という名前の委員長。

 彼女は、俺を見て硬直していた。

 

「あっ……あぁ……」

 

 そんな、震える様な声が彼女から出る。

 同時に、持っていた書類を落とした。

 

 なんていうか、怖がられてね?

 

「どうかした?」

 

 俺は、そう彼女に聞いてみる。

 

「許して、ください……」

 

 そんな、か細い声が委員長から出た。

 

「やめろっ!」

 

 そう叫びながら、男子生徒の一人が、委員長を庇う様に前に出て来る。

 

「お、お前!

 委員長に近づくな!」

 

 彼は、そう俺に叫ぶ。

 佐久間紘一(さくまこういち)

 俺が、クラスで一番仲良くしてる友達だ。

 正義感が強くて、話しかけられなくても優先席とか譲るタイプ。

 

 で、なんでそいつが俺に怒鳴るのか。

 こいつもこいつで何か怯えてるし。

 

「何?」

 

 と、聞きながら前に出て、手を差し出す。

 俺としては、委員長が落とした用紙を拾おうと思った。

 

 のだけど……

 

 俺の右手に、鞄とは違う何かが握られている。

 

 ――俺の右手に、ライフルが握られている。

 

 あ、これ射的屋のコルク銃だ。

 バイト先から持ってきちまってた。

 寝ぼけすぎだな。

 

 てか、なんか変だ。

 委員長と紘一以外も。

 皆、俺から距離を取る様に壁に寄っている。

 

 

 ――そういや俺、昨日も今日の朝も着替えた記憶がねぇ。

 

 

 そんな事を思い出した。

 その瞬間だった。

 

「っらぁ!」

 

 紘一の靴裏が、俺の顔先数cmまで迫って来ていた。

 

 お前、ライダーキックとかマジか……

 

 だが、その一撃は思ったよりも高威力で。

 俺の身体は若干浮かび、後ろに吹き飛んだ。

 

 その瞬間、視界が開ける様に強い光が目を覆った。

 

 そういや、昨日は射的屋で客引きのバイトしてたんだ。

 キグルミで……

 

 しかも、バイト終わりに看板作ってた人とぶつかって。

 赤いペンキを、全身に被ってたんだった。

 返り血見たいだって笑われたな。

 

 吹き飛びながら、今更そんな事を思い出した。

 

 ライダーキックによって、キグルミの頭がすっぽ抜けた俺。

 それを見て、2人は驚きの声を上げる。

 

「はぁ? お前、(あたる)か!」

 

「え、望月(もちづき)君なの!?」

 

「……おう、ナイスキック」

 

 親指を立てる俺。

 脳震盪か睡眠不足か。

 何とも知れぬ原因で、俺は意識を失った。

 

 

 ◆

 

 

「あのね、望月君。

 バイトをするなとは言わないけどね。

 流石にあの恰好で登校されると怖すぎるよ」

 

「そうだぜ、俺は何のデスゲームが始まったのかと……」

 

 返り血にしか見えない汚れのついたキグルミ男。

 しかも、ライフル所持。

 コルク銃だけど、持ってる奴の外見が怖すぎる。

 そりゃ、ビビるよな……

 

「ちょ寝不足過ぎて。

 中に制服着てたのは憶えてたから、そのまま学校まで来たんだと思う」

 

 ペンキを落とすのは無理そうだから、もう全身赤に染めて来いって雇い主に言われたんだ。

 

 保健室から戻って来たのは1限目が終わった後だった。

 皆勤賞剥奪である。

 キグルミは教室の隅に置かせて貰った。

 

 2限目が始まるまでの10分休み。

 俺は席に座り、委員長と紘一に謝罪している最中である。

 

「お前今、バイト何個してんの?」

 

「まぁ、7個くらい?

 1日に行くのは3箇所くらいだけど」

 

「信じらんない。

 高校生の仕事量じゃないでしょ」

 

「委員長の言う通りだぜ。

 ちゃんと休まねぇと」

 

 休みか。

 そういや、最後に休んだのいつだっけ。

 土日もバイトだし。

 夏休みはマグロ釣りに行ったし。

 

「そうだな、暫く休むよ。

 大学進学も辞めたし」

 

 俺の言葉に、2人は顔を見合わせて聞いて来る。

 

「え?」

 

「なんかあったのか?

 頑張って貯金してたじゃねぇか」

 

「別に、その貯金を生活費に充てた方が楽だと思って。

 母さんだって、高卒で働いて欲しいと思ってるだろうし」

 

「けどお前、いい大学に入って将来安泰なキャリアウーマンのヒモになるっつう夢はどうするんだよ」

 

「そんな夢を言った憶えはねぇよ」

 

「あはは。

 それなら三年の丹生さんとかにアプローチした方が早いかもね。

 あの人、資産家の娘だし」

 

「だから、ヒモになる夢なんかねぇから。

 委員長も悪乗りしないでくれよ」

 

「……だって、怖かったし」

 

「なんですか、スイーツとか奢ればいいんですか?」

 

「んー、流石に望月君の事知ってて奢らせるのは無理だなぁ」

 

 態々ひけらかす事では無いし、思い出したい事でもないが。

 

 家は貧乏だ。

 

 父さんは俺が11才の時に蒸発。

 母さんは、無職。

 俺は中学からバイトしてる。

 

 それで生活費を賄えてるのは、家が20年前に死んだ爺ちゃんの持ち家で、土地も家もローンが無いから。

 

 別に母さんは弱ってるとかじゃないし。

 生活保護受給には程遠く健康だ。

 ただ、働き方を知らないだけ。

 

 結果的に受けられる国の援助は多く無く。

 

 家は貧乏だ。

 

「あ、二時間目始まるよ」

 

 委員長がそう言うと、彼等も自分の席へ戻っていく。

 一言、言い残して。

 

「なんかあるなら相談しろよ?」

 

「私も、なんでも手伝うからね」

 

 そんな、気のいい奴らな訳だけど。

 相談できる訳ねぇってか、しても意味ねぇよ。

 

 

 ◆

 

 

「母さんが俺の進学の為の貯金、全部ギャンブルで摩ったとか……」

 

 放課後。屋上。一人。

 夕焼けを眺めながら、俺はそう呟いた。

 この時間は何故か屋上の鍵が開いている。

 そう気が付いてからは、今此処だけが。

 

 ……俺の何も考えなくていい時と場所。

 

 まぁ、それでも考えっちまうんだけど……

 

 大学に行きたかったのは、安定が欲しかったからだ。

 今みたいな、不安定な状態じゃ無く。

 もっと高給取りになりたかった。

 母さんの老後とか、ちゃんと考えたかった

 

『ごめんなさい。

 私、風俗で働いて返すから……』

 

『何言ってんだよ母さん。

 そんな事しなくていいから。

 大丈夫……だから……』

 

『そう? ほんとにごめんね?』

 

 そんなやり取りをしたのは、もう何度目になるだろうか。

 30回は越えている様な気がする。

 

 でもやっぱり。

 俺に、進学するような余裕は無いって事だ。

 そもそも今だって限界だし。

 勉強も時間が取れないから得意じゃない。

 

 紘一や委員長に教えて貰って。

 それでも学年100位以内にも入れない。

 

「はぁ……貯金しなくていいなら、もうちょい楽な生活できるもんな」

 

 そんな、堕落的な思考が口から漏れる。

 仕事は疲れる。

 勉強も疲れる。

 

 委員長に、クラスの集まりを毎回不参加って報告するのも申し訳ない。

 紘一が折角誘ってくれる遊びを、何度も断るのは忍びない。

 

「金、金、金……

 金さえあれば……」

 

 親父がまだ居た頃、一度だけ行った。

 回転寿司。バイト以外で行ってみてぇな。

 

 そう、思った瞬間だった。

 

 

 ――ガン!

 

 

 と、何かがぶつかる様な音が、俺の頭上から響いた。

 そこは貯水槽がある場所だ。

 まさか、なんか壊れたのか?

 

 でも、見た感じ水が漏れてる様な感じはしない。

 一応、梯子昇ってみるか。

 屋上と4階を繋ぐ階段の屋根上部分。

 それが貯水槽の位置だ。

 

 何かあるなら、先生に言わないと不味い。

 いや、俺が屋上に入ってたのがバレるのも不味いけど。

 でも、緊急事態なら許してくれるだろ。

 

 恐る恐る、俺は梯子を上る。

 貯水槽の周りを歩いてみるが、それらしい凹凸は無い。

 貯水槽に何かあった訳じゃ無さそうだ。

 

 そのまま半周し、貯水槽の裏まで回り込みながら確認していく。

 

「……なんだこれ」

 

 そこにあるのば、一つの姿鏡。

 隠される様に置かれていた。

 

 布が被せられている。

 でも、サイズとか形状的に間違いなさそう。

 何となく、布を持ち上げて中を確認するとやはり姿鏡だ。

 

 でもなんか。

 

「俺じゃ、ない……?」

 

 鏡は通常、光景を反射する物だ。

 でも、これに映るのは。

 何か、草原の様な景色。

 

「なんだこれ」

 

 そう、俺は不意に。

 いや、不用意に。

 鏡へ手を添えた……

 

「えっ……ちょっと、待っ……!」

 

 その瞬間、俺の手が鏡の先につき抜けて。

 コケる様に、身体ごと中に入った。

 

 

 望月充(もちづきあたる) 男 16才10カ月。

 職業 【バイトマスター】

 称号 【貧乏異世界人】

 LV 1

 攻撃 10

 防御 10

 速力 10

 器用 10

 信仰 10

 魔力 10

 ギフト 【複製(デュプリ)

 スキル 【自己分析(マイステータス)lv1】

 

 

 草原で一人。

 俺は、視界に現れたそんな画面と共に立ち尽くした。

 

「うーーーーーん………………クソ」

 

 15秒程、熟考し。

 

「取り合えず食えそうな植物でも探すか……

 植物学者と山籠もりするバイトしてて良かった」

 

 俺は、そう結論を出して動き始めた。


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