異界渡りの財宝王 ~異世界と地球を往来し、マジックアイテムを持ち帰る~   作:水色の山葵

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美術部

 

「数百年前まで、この世界には確かに魑魅魍魎、妖怪、魔物と呼ばれる存在が居た」

 

 日曜日、朝10時30分。

 俺は、学校の美術室に呼び出されていた。

 

 隣の席には丹生夜見が座り、黒板の前で話す桜井先生を微笑ましく眺めている。

 

「でも、今はそんな物は居ない。

 何故なら、異世界とこの世界を繋ぐ鍵を回収しているから」

 

 そう、拳を握って力説する桜井先生を見て、丹生夜見はパチパチと手を鳴らしている。

 

「次元断層片。

 それはこの世と異界を繋ぐ物質。

 放っておけば、次元断層片を取り込み急速に進化した生物は、自分の世界を滅ぼし、他の世界まで浸食してくる。

 だから、それを未然に防ぐのがこの部の目的よ」

 

「どう考えても、高校生の部活の領分を超越してる」

 

「大丈夫、危険は無いわ。

 貴方が異世界で使っている体は仮初。

 死の危険も怪我の心配もない。

 余裕で部活の領分よ」

 

「……なんで、学生にそんな事やらせるんですか?

 世界の危機なら、自衛隊にでもやって貰うべきだ」

 

「それはダメね。

 肉体生成は、チートと言い換えて差し支えない恩恵だけど、故に色々条件があるから。

 まず、その惑星に存在する人間に最も近い生物の平均的な通常能力と言語能力を保有する事。

 これで病気、重力、気圧で即死とか、そういうのは無くなるわ。

 まぁ、死んでも生き返るんだけど」

 

 身も蓋もない。

 けど、それだけじゃ高校生の俺たちを使う理由になってない。

 

「そして、生成される体は元になった貴方達の年齢の平均的な身体能力を手に入れる。

 これには『技能習得能力』が含まれるわ」

 

「技能習得能力……?」

 

「そう。貴方が行った世界でいうスキル。

 そういうのを自力で獲得して力をつける。

 じゃ無いと、次元断層片の回収は困難なの」

 

 確かに、俺は二週間足らずで結構な数のスキルを獲得してた気もするけど。

 

「だから、その世界固有の異能や能力、技能を習得し易い、つまり凝り固まってない年齢の回収者が求められるの。

 それに適しながら身体が出来上がる年齢が、16才から20才って訳」

 

「……なんか、ちょっと納得させられつつある自分が嫌です」

 

「何よそれ。

 ていうか、勝手に使ったのは貴方でしょ。

 その責任は取って貰うわよ」

 

「……まぁ、バイト代が出るなら」

 

「最高位ランクのギフト保有者なら結構稼げると思うわ」

 

「ギフトって結局何なんですか?」

 

「異世界転移者が獲得する異能力。

 という事しか分かってないわ。

 でも、次元断層片の回収に必須の力よ。

 スキルみたいな世界法則に従ったその世界でしか使えない力と違って、ギフトはどの世界でも使用できる。

 つまり、唯一の引継ぎ可能な能力って訳」

 

 だから、こっちでも拳銃が出せたのか。

 複製が無かったら、流石に異世界で稼ごうなんて思わなかった。

 ギフトが重要ってのは分かる。

 

「でも、このギフトも老化と共に弱体化するから基本的にスカウトするのは若い子の方が良いって事で……理由は3つもある」

 

「あと、花蓮ちゃんが若い子が好きだから。

 今月は何人食べたのかな?

 記憶処理は、私用で使っちゃ駄目だよ?」

 

「夜見、それ以上言ったら殺すぞ」

 

「君……望月君は、こんな人に騙されちゃ駄目だよ?」

 

 丹生夜見が俺を見て微笑む。

 笑顔が暗い。

 怖い。

 

 てかこの部活、性格破綻してる奴しか居ないのか。

 

「あと、これは君が回収して来た次元断層片の回収料。

 渡しておくわね」

 

 昨日の内に、俺が持っていた赤い宝石は桜井先生に渡してある。

 その報酬と言う形で、俺の座る席の机に封筒が置かれた。

 

 中を見ると、諭吉が10枚入っている。

 

「ありがとうございます!」

 

 表彰状を貰う様に、お辞儀しながら受け取った。

 

「うんうん、今後とも精進したまえ」

 

「花蓮ちゃんは受け渡ししてるだけでしょ。

 自分が出してるみたいに言わないでよ。

 ねぇ望月君、私と結婚すればお金に何て一生困らないよ?」

 

 明日死ぬから……とかじゃ無くて?

 という疑念が拭えない限り無理です勘弁して下さい。

 

 そう思いながら視線を逸らす。

 

「ぷー」

 

 すると、丹生さんは少し怒り気味に顔を逸らした。

 

 やめてね、報復で殺すの。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。

 この子の精神性には色々問題はあるけれど、一応ルールはあるから」

 

「ルール?」

 

「異世界で暴れて良い代わり、こっちの世界での発散は禁止。

 異世界でも、目的上で敵対的な存在にしか、そういう事はしちゃ駄目。

 それが、私と夜見の間で決めたルール」

 

「この人が、それを守る理由は?」

 

「私が協力しなきゃ鏡は使えない。

 鏡が無ければ夜見も困るわ。

 自分のそういう欲求を満たす場所が無くなるから」

 

「なるほど……」

 

「仲間と一緒に行動すれば、ちょっとは治るかとも思ったけど……

 今の所、入部者63人、退部者62人ね」

 

「全員、丹生さんのあれを見て?」

 

「名前で呼んでくれていいのに。

 照れ屋なのかな……」

 

 あんたはさっきから何を言ってるんだ。

 加虐性癖者に好きも何もあるか。

 

「まぁ、そうね……」

 

 非常に納得のいく答えだ。

 それで、全員記憶消去されて忘れた訳だ。

 俺も、うちの学校に美術部があるなんて初めて知った。

 まぁ、部活内容は全く美術じゃ無いが。

 

「てか、なんで美術部なんです?」

 

「私のギフトが、絵に関する物だから。

 ってくらいかな、言えるのは」

 

 人差し指を唇に当てて、桜井先生はウィンクする。

 って事は、言えない事があるって訳だ。

 聞いても答えてくれる事は無さそうだ。

 

「貴方も、こっちでギフトを使うのは特別な状況じゃない限り原則禁止よ」

 

「バレない位なら、使っても良いって事だよ」

 

「はぁ……

 まぁ、事実上そうね。

 ずっと監視する訳じゃないし、禁じるような方法も無いから。

 でも、ニュースとかになったら結構怒るからやめてね。

 最悪暗殺とか……まぁ、なんでもないわ」

 

 なんでもあるだろ。

 めちゃくちゃ怖い内容だったよ。

 この部活、暗殺される危険性あるの?

 

 全然安全じゃねぇ……

 

「さて、説明はこれ位かな。

 悪かったわね、態々学校まで来て貰って。

 昨日は遅かったし、でも電話で説明していい様な内容じゃないから」

 

「いえ、これ貰いに来ただけなんで」

 

 俺は封筒を大事に持って見せる。

 

「えぇ、次の世界も攻略してくれる事を祈ってるわ」

 

「……次の世界?」

 

「あぁ、次元断層片は基本的に一つの世界に着き一つしか無いわ。

 色んな世界から回収して巡ってるの。

 だから……」

 

 待ってくれ、それって……

 

「君が次行く世界は、あの世界じゃ無いわ」

 

「じゃあ、マナとはもう……」

 

「……あぁ、それって異世界人の名前?

 悪いけど、鏡の力を管理してるのは私よりもっと上の人たちだから。

 貴方をその子に再会させるのは不可能よ」

 

「……マジか」

 

「極力異世界人とは仲良くならない様にって

 ……今更言っても遅いわよね」

 

 あいつともう会えない?

 あいつが芽吹いたら、また話すって約束したのに。

 なんだよそれ……

 

 俺はあいつを裏切るのか。

 かと言って、会いに行く方法は無い。

 

 いや待て。

 あれを複製すればもしかしたら……

 

「別れを惜しむのはよくある事よ。

 あまり、気に病まないようにね」

 

 そう言って、先生は俺の肩に手を置い……

 

 

 ――パチン。

 

 

 と、丹生夜見に手が叩かれた。

 

「何するのよ夜見」

 

「花蓮ちゃん。勝手に触らないで?」

 

「なんで、そんなにゾッコンしてる訳?」

 

「だって、この人はこの世界の人なのに私を殺してくれたんだよ。

 もっともっと、殺して貰わないと」

 

 丹生さんが桜井先生を睨む。

 それを受けて、桜井先生は言った。

 

「貴方、随分と面倒な相手に好かれたわね」

 

 ……本当に、なんとかしてくれ。

 

 と、切実に願うしか無かった。

 でも、先生にそんな意思が伝わる訳もなく。

 

 ムリムリと、手を振っている。

 

 伝わってたわ。

 そんで無理なのかよ。

 使えないよこの先生。

 

「じゃあ望月君、予定も終わったし私に付き合ってくれる?

 君には、私のお父様に会って貰わないと。

 将来の婿候補なんだから」

 

「ちょっと待て、俺の意思をガン無視し過ぎだろ」

 

「断るの?

 けどいいのかな?

 私のお父様、君の事知ったらちょっと怒っちゃうかも。

 付き合ってるのに挨拶も無しかって」

 

「どんだけ古風な親だ。

 ていうか、付き合ってないだろ」

 

「私が付き合ってるって言えば、お父様は信じてくれるよ」

 

「あんた……」

 

「名前で呼んでよ。

 お父様が怒ったら、君のバイト先まで押しかけるかも。

 お父様、この街でお店をやってる人は全員ペコペコしなきゃいけないような人だから、最悪クビになっちゃうね」

 

「脅しじゃないですか」

 

「お願いだよ。

 ――ね? 名前で呼んでよ」

 

「……お供させて頂きます。

 ……夜見さん」

 

「さん……まぁ、いいけど。

 じゃあ行こっか、(あたる)君……」

 

 

 そして俺は知る事になる。

 

 丹生夜見(うにゅうよみ)という人間が、どうして人格破綻者となったのかを。


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