副題:“天使”は[天使]を『天使』にしたくない。
めちゃくちゃブラコンの姉。めちゃくちゃシスコンの弟。の双子が1人の天才に心を乱されるその姿はめちゃくちゃ性癖に刺さりますね……
昔の事を思い出した。
「お姉ちゃんなんてっ!!……大っ嫌いっ!!」
俺は…ボクはまだなんでも出来るって。信じ切っていたあの時のこと。
ボクが演じる全てはボクであり、俺であり、私であり、アタシであり、吾であり、自分だった頃。ボクは決して常人では届かない“天使”だった。
けどねえ様は…お姉ちゃんはボクという“天使”を気に食わなかったらしい。
ボクと同じ容姿、ボクと同じ姿。もはや半身でなく、同一存在という双子だったのに。
「…………そっか」
あの日、ボク達はいつものように演技についての喧嘩が起きた。
全く同じ存在で声質も似通っていてわざとお姉ちゃんの演技をすればどっちがどっちか分からない程だけど、演技についての考え方だけは全く似ていなかった。
いつものようにボク達は声を荒げて、けどどこかで納得できる折り目を付けて“ごめんなさい”して、二人で仲直りのお菓子を買いに行くつもりだったのに。
その日のお姉ちゃんはまるで人が変わったかのように静かにボクを見た。
「メソッド演技、それは人格さえも削ってしまう演技。アリサさんの言っていた事は間違いじゃなかったみたいだね」
「お、お姉ちゃん……な、にを??」
意識が遠のく。落ちていく。意識だけが呑み込まれていく。目の前の人にボクが喰われてく。
そう。ボクが最後に感じたのは温かくともまるで泥のように身体にへばりつくような濁った“何か”だった。
「何か、とってもひどい夢を見た気がする。」
そう。少年は跳ね起きる。寝ぼけ眼を擦りながら身体を軽く動かしていくと次第に意識は覚醒してきたのか。少年は琥珀のような輝く眼差しで日の光を浴びて反射するまるで新雪のような銀髪をかき上げる。
「…………ねえ様。ねえ様。」
時計を見るとそこにはもう起きる時間だった。
そう見ると少年の隣で寝ていた……少女だろうか。少年と全く瓜二つの少女が少年の方向を向いて寝ていた。
「……おはよう。千暁」
「はい。おはようございます。」
少年…千暁が声をかけるとその少女、千暁の姉は目を覚まし千暁に声をかける。
寝ていた筈なのに千暁が声をかけた瞬間すぐに覚醒する様を見て千暁はまた尊敬の念を深める。
「千世子ねえ様」
百城千代子。それが俺の姉さま。
双子だと言うのに姉というには些か疑問があるがそれでもねえ様が姉貴分で俺が弟なのだ。ぶっちゃけ未だに双子コーデにしたらどっちがどっちか見分けが付かなくて監督が俺がねえ様にねえ様が俺の演技をしたとしてもだ。(勿論、バレていない)
………演技?と思うかもしれない。
そう。演技。俺たちは役者。俺たちの役割は、観客を虜にすること。
そのためならねえ様は天使であり続ける。
じゃあ改めて。俺の名前は百城千暁。……大手芸能事務所「スターズ」所属の若手トップ女優、通称“天使”百城千世子の弟。出涸らしの“天使がなくては輝けない”弟だ。
「「おはようございます〜」」
俺たちの朝はスターズの社長。星アリサさんの執務室に集まるので始まる。
勿論撮影や打ち合わせが有ればそっちに向かうが、つい前日に撮影が終わった直後のようなものだ。つまりフリーということで次の仕事の説明を受けるためアリサさんの部屋に集まった。
「……おっはーアキラ」
「おはよう。アキラくん」
「おはよう。千世子ちゃん。千暁。」
目の前にあるまるで校長室にあるような重厚なソファーには一人の青年が座っていた。その青年の名前は“星アキラ”。苗字で分かるようにアリサさんの実の息子で俺たちと同じ俳優。最近ではウルトラ仮面で主演をやっていた筈。
いえーいとハイタッチをし、千世子ねえ様の隣でアキラの前に座る。
どうやら結構本格的に話し込む事があるのか空気には次第に緊張にも似た冷たい空気が吹き始める。
「揃ったわね……」
少し経った後、アリサさんが口を開く。どうやら仕事の話だったらしい。
アリサさんの手にはいくつかの紙の冊子がある。
「今回の仕事よ。」
先に2人、確認してちょうだい。とアリサさんから渡される冊子。
今回のドラマはファミリー系。そして俺の役割は“いつも通り”主演である千世子ねえ様を引き立てる生き別れの姉弟設定。
「千暁。また取材が来ているわ」
「はい。分かりました。いつも通り…ですね」
どんな話か読み込もうとした時、アリサさんから声が掛かる。
幾ら天使の出涸らしと言えど最も天使に近いのは片割れの俺だから。それだけでも一定数の価値が生まれる。そして生まれたその価値に俺は更なる宝石を付ける。
“しっかり者の姉とズボラな弟”という姉弟像はどうやら万人受けする設定の一つだ。
弟の手を引く姉という形は天使という名に新しい付加価値を生み出す。“天使”という偶像的なモノに、“姉”という民衆に分かりやすい価値が。
「千暁。君は本当にそれで良いのかい?」
そう考えていると目の前から声が掛かる。アキラだ。
どうやらアキラの青い眼差しは批判的な色でねえ様を見ている。いつもの発作かと心の中でため息を吐きながらいつものように口にする。
「特に。俺はねえ様の為にある。」
話は終わった。とアリサさんに顔を向けると退室していいと言わんばかりに首を縦に振る。お構いなく。と千暁も一度首を軽く縦に振り部屋を出て行く。
そう。その後執務室での会話を無視して。
「母さん、千世子君……貴方たちは本当に……っ!!」
胸を焼き尽くさんと言わんばかりの激情がアキラを燃やし尽くす。
はあ。めんどくさい事になったと言わんばかりに千世子はわざとらしく大きくため息を吐いた。
「一体何が言いたいのかな?アキラ君は」
「分かっている筈だ……っ!千世子君!!」
そうアキラは勇ましく、そして怒りに震えた声で糾弾する。その声色はまさにバビロンの悪魔を糾弾する宣教師の如く。
「…今のアキラ君の顔は嫌いじゃないよ」
「茶化さないでくれ。千世子君。……僕ももう我慢の限界だ」
そんな顔をするアキラに千世子は静かに微笑む。
アキラはもう既に激情が理性で抑えられる範囲を超えている事を自覚した。
その理由はアキラが千暁と“親友”だからだろうか。それとも単純に昔馴染みだから…だろうか?そう考える千世子にアキラの糾弾は止まらない。
「そもそもおかしな話だ。……元々、天使を指すのは彼1人だけだった」
それを指す事つまりは、天使の座は千世子ではなく千暁に与えられたモノ。
もうそれを覚えているのは当時千暁と千世子と深い関わりがあった者たちだけ。
「千代子君。母さん。あなた達は千暁から全てを奪ったんだ」
「戯言はそこまでかしら。星アキラ」
纏めるならそういうこと。百城千暁は信じて愛している姉と、恩人である星アリサに裏切られ続けているということ。
そんな事は理解できないし不当であるとアキラは声を荒げるが、その意識の隙間にアリサの声が響く。低く、絶対零度と言わんばかりの冷たい声が。
「なら下がりなさい。仕事は後で追って伝えるわ」
「………………っ!失礼する!」
暗に黙殺されたと気がつかないほどアキラは無知じゃない。だがこれ以上は平行線だとアキラは一旦引くことにした。……完全に千代子君と母さんとは相入れない事が起きているとその胸に決意を宿して。
「どうするの?千代子」
「どうするって何がですか?アリサさん」
分かっている癖にとアリサは千代子を見る。
側から見れば凝視しているように見えるがその視線を受けてなお、千代子は静かに微笑んでいる。
「このまま放っておくとあの子」
「ああ。問題ないですよ」
アリサの危惧する“最悪のシナリオ”に千代子は静かに微笑みで返す。その微笑みは確かに誰がどう見ても天使の微笑というのに相応わしい。
だというのに、その笑みには何処か危ない光が滲み出ていた。
「千暁を、私の弟が言葉ひとつで揺れ動くはずが無いですから」
だってそうしたから。そうやって私が抑え込んでいる間は千暁がどうにかなる事も、する事も出来ない。……もし、もしも今の千暁をどうにか出来るのならそれこそ
「千暁の才能は…私を超える。」
アリサはまるで後悔と老いを感じさせる声で嘯く。いつもならそんな事は無いのに。……ああ。それともこの人は千暁を壊しかけたのを今も悔いているというのか。
「………気をつけなさい。メソッド演者は“惹かれ合うモノ”よ」
「運命論ですか?」
「お前の名前は?」
「夜凪景。役者志望。」
………運命の歯車が動こうとしていた。
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百城 千暁(ももしろ ちさと)
誕生日:4月1日
身長:157cm
体重:千世子ねえ様と変わらず
好きな食べ物(公開):チョコレート、クッキー、グミ
好きな食べ物(非公開):いくら、明太子、さきいか
好きな昆虫(非公開):植物の方が好きなので……
好きな映画:ローマの休日、レッズ、トラフィック
備考:かつての“天使”
反応があれば続きを