ベル・クラネルがオラリオに来て半月を過ぎた。幼いころから世話され、可愛がられたアスフィにローリエ、輝夜にアリーゼとリューにアストレア達、【アストレア・ファミリア】にアーディと一年間、離れていたというのもあってか彼女たちに今までより更に愛され、可愛がられた上に肉体的な意味でも繋がった。
更に同じ【ファミリア】でサポーターのリリルカとも関係を築いているし、主神であるヘスティアは処女神というのもあってか躊躇いはしているが、『待ってて、いずれがボクも……』と予約はされていたりする。
更にナァーザからもベルは積極的に愛され、可愛がられているしシルにアミッド、デメテルなどオラリオに来てから沢山の女性たちに可愛がられ、愛されている。
それは正直、とても嬉しいし気持ち良いし、心地良くて堪らないし、ずっと浸っていたい程である。
とはいえ……。
「(でも、英雄にならなきゃ)」
ベルは駄目になりそうな気持ちに活を入れる事にする。ダンジョンにソロで挑むことによる武者修行を開始する事にしたのだ。
勿論、今回は前からちゃんと相談して皆、受け入れてくれたのだが……。
「(絶対、後で凄く甘やかしたり、愛してくるんだろうな……)」
武者修行を終えたら、更にいつもより自分を愛し、可愛がって来るんだろうなとベルは分かっていたのだった。
ともかく、ベルはソロにてダンジョンへと挑みに行った……。
二
このオラリオには迷宮都市であるが故の特有の派閥形態がある。
それは未だ、深奥であり、本当の意味での最下層が判明していないダンジョンの全てを開拓し、突き止める事やダンジョンにある未知であり、新たな資源の発見などをする『
その等級に応じて探索系派閥はギルドからノルマが課せられたりするが、冒険者登録に際しての便宜や収める税の優遇といったメリットもあったりする。
そんなオラリオの『探索系派閥』の大手の一つはアーディの所属する【ガネーシャ・ファミリア】であり、それよりもさらに大手の派閥こそ【ロキ・ファミリア】であるが……。
『(ま、まずいっ!!)』
遠征を行い、現在は帰還をするためにダンジョンの中層を進んでいる【ロキ・ファミリア】の派閥は焦っていた。
何故なら、帰還の際に遭遇した牛頭人体のモンスターであり、筋骨逞しい肉体を有しながらその咆哮はLV.1の冒険者たちの動きを恐怖で止める力を有すると中層で産出されるモンスターの中ではトップに近い能力を有するミノタウロスの集団と戦い、半数ほど片付けた瞬間、凄まじい勢いで逃走を開始したのである。
モンスターが逃走するという前代未聞の事態に呆気に取られ、機先を制され、【ロキ・ファミリア】は逃走を許してしまう。
そして、遭遇した17階層から16階層へと上がる道を進んでいき、そうして、遂には階段すらも上がっていき、ミノタウロスの群れは16階層へと上層を成功。
しかし、勢いは止まらずこのままだと更に階層を上がっていくという最悪な事態を実現しかねなかったが……。
「(させないっ!!)」
そんなミノタウロス達に対し、月の視界と同調した瞳の力により、ミノタウロス達の致命的な部位や致命的な瞬間を見抜くどころか無理やり生み出していて、更には空間の『間隙』すらも見抜き、生み出しながら虚空を駆け跳ねる白き影。
それは空間の間隙に滑り込んでいるからであり、当然、その動きは異次元的な動きであり、そして、何よりミノタウロス達の間隙を衝くための動きである。
更に白き影は月の視界と同調した瞳を持っているだけでなく……。
「ふっ!!」
手に持っている長槍を唸らせ、振るいながらの舞踏を行うとともに鳴り響くは鐘の音。
槍による轟閃が炸裂する度に鳴り響く轟音はミノタウロス達を呑み込み、消滅させる。
まるで鎮魂歌のようですらある。
そして、ある程度ミノタウロスの数が減らしつつ、中心に到達すると……。
「【
「(す、凄い……あの子……)」
【ロキ・ファミリア】の主力陣の一人であり、美しい金の長髪に美麗な容姿の女性剣士であるアイズ・ヴァレンシュタインはベルの動きや槍の腕、魔法の威力と彼の強さに夢中になった。
「(ま、まさか……しかし……)」
【ロキ・ファミリア】の副首領であり、翡翠色の長髪を後ろで結い、容姿は美麗であり、成熟しているエルフの女性でありながら、更にエルフの中では王族にしてオラリオの魔導士の中では最強と呼んでも良いくらいの実力を有しているリヴェリア・リヨス・アールヴはベルの容姿や鐘の魔法にあまりにも見覚えがあったため、驚きながらベルへの洞察を続ける。
無論、他の者たちもベルへの洞察はするが……。
「困ったときはお互い様ですし、借りとか気にしなくて良いですからね」
笑みを浮かべながら、頭を下げるとベルはその場を去っていく。
『可愛くて良い子だなぁ……って違うっ!?』
微笑ましく愛らしかったのもあり、主神の趣味もあって、女性が構成員の数の多くを占める【ロキ・ファミリア】の者たちはつい、ベルが立ち去るのを手を振ったりして、見送ってしまった。
ともかく、明日にでも自分たちの後始末をしてくれたベルを探し、礼や謝罪をする事に決めたのだった……。