悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第1話 不死人の復活

 

 世界の裏で暗躍する悪の組織は数多ある。

 

 その中で、最上の危険度に認定された組織の一つ。

 

 正義の執行者すら恐れた悪逆非道の集団。

 

 名を。

 

 

 ――ニーズヘッグ

 

 

 彼等の旗印は世界征服。

 そんな、大層な夢を実現できる力を持った、数少ない組織だった。

 

 しかし、それもずっと前の話だ。

 ある事件により、組織は壊滅。

 幹部7名及び首領であった女は死亡。

 

 ニーズヘッグは完全に潰れ。

 構成員の殆どは刑務所に入った。

 

 

 その末端構成員の一人。

 つまり俺は、9年振りに外の空気を吸っていた。

 

 

 最終学歴は高校中退。

 行く当てもなく、頼れる家族も居ない。

 

「ニーズヘッグも壊滅しちまったし、さてどうすっかな」

 

 誰にでも無く、そう呟く。

 けれど、それに応える声はあった。

 

「出所おめでとう、(ヒツギ)君」

 

 黒髪の眼鏡をかけた女。

 白衣を纏い、肘を持つ様に腕を組み。

 知性的に見える笑みを浮かべている。

 

 身長は俺より少し低い。

 が、女にしては高い。

 165cm程。

 

 けれど、胸も無くガタイもそれほどない為軽そうだ。

 

「何か失礼な事を考えてないかしら?

 人の身体をジロジロ見て」

 

「いや、あんたみたいな美人の知り合いが居たっけな、と思って」

 

「振った女の事を忘れるなんて、酷いわ。

 私は一目で貴方だと分かったのに」

 

「振った……女……?」

 

 俺に彼女が居た事は無い。

 中学でも高校でも、告白どころか嫌われ者だった。

 そんな俺に女を振った経験なんか……

 

「まぁでもその時の私は小学生だったし、忘れてるのも当然よね。

 色々、育ってる訳だし」

 

 小学生……

 あっ……

 

「あんた……いやお前、(れい)か!?」

 

「やっと分かったんだ、お兄さん」

 

 そりゃ9年振りだ。

 あの時のお前は12歳とかだった。

 今21とかか?

 

「昔は、歳がどうこう言ってフラれたけど。

 次はそんな訳には行かないわよ?」

 

 なんて言って小首を傾げる。

 マセガキが、成長してもっとマセやがった。

 

「俺もう27だぞ。

 無職で金もねぇおっさんだぞ?」

 

「愛にそんなの関係ないでしょ」

 

 そう言うと、少し悲しそうに俯いて。

 

「それとも、私じゃ嫌なの?」

 

 と上目遣いで聞いて来る。

 

「はぁ……

 さっさと本題を話せ。

 まさかそんな話が主題じゃねぇだろ。

 ニーズヘッグの天才ハッカー。

 東雲玲(しののめれい)が、俺に何の用だ?」

 

 今までの何処か可憐で、可愛らしいそれとはまるで違う。

 黒く、影の籠った表情で。

 三日月の様に口元を歪める。

 

 彼女が居たからこそニーズヘッグは大組織となった。

 ネットが中心となった現代。

 玲の力は、世界を制するとまで謡われた我が組織の中枢である。

 

「あぁ、貴方に頼みがあるの」

 

 そう、彼女が言った瞬間。

 車が彼女の後ろから現れる。

 黒塗りの車が3台。

 彼女の後ろに止まり、男たちが出て来て一列に並ぶ。

 

 そして、頭を下げてこう言った。

 

『お勤め! ご苦労様でした!』

 

 お前等……

 一応、秘密結社だぞ。

 目立ち過ぎだろ。

 

 というツッコミが喉から出かかる。

 ギリギリ飲み込んだ。

 

 続けざまに、玲が俺に近づきながら言った。

 

「貴方には総帥の息子に会って貰う。

 一緒に来てくれるわよね?」

 

 そして、俺の腕を取った。

 

 総帥の息子か。

 存在は知っているが、確か総帥は絶縁したと言っていた筈だ。

 

 それが、俺に何の用があるのか。

 気にならない訳が無い。

 

「分かった」

 

 俺と玲は同じ車に乗り込み、車は発進した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 連れていかれた先はビル。

 元々は、ニーズヘッグの表向きの会社があった場所だ。

 

 その最奥にある社長室。

 その部屋の名前は、組長室に変わっていた。

 

 ノックと共に中へ入る。

 

 金色の壁。

 壁に掛けられた刀剣類。

 俺には分からんが、高級そうな壺や皿も部屋の端に並んでいる。

 

 そして、その中央に男が座っていた。

 俺と同じくらいか、少し年上に見える男。

 染められた金髪で、真っ白な歯を見せる。

 

 全身を煌びやかな装飾品で彩り、隣に女を2人侍らせた。

 

 その男は、入室した俺に手を上げて言った。

 

「まぁ、座れや」

 

 俺は、自分の隣をチラリと見る。

 玲に、どういう事だと言外に問いかけた。

 

 すると、彼女はぽつりと小さな声で言う。

 

「好きにしていいわよ。

 でも、一応話くらいは聞いてあげたら?」

 

 ……3秒程、時間を賭けて考える。

 正直、帰りたい気持ちはあるが。

 帰る家も無い訳で。

 

「ッチ」

 

 舌打ちと共に、俺は男の対面に座った。

 

「で?」

 

 男に視線を向けて、問う。

 さっさと答えろと、怒気を込めて。

 

「睨むんじゃねぇよ。

 見ての通りだ。

 ここは、お前の知ってる悪の秘密結社じゃねぇ。

 つうか、そんな子供の遊びは卒業しろよ。

 お前も良い歳だろうがよ」

 

 そう男が言うと、今度は侍る女が喋り始めた。

 

「悪の組織って何~?」

 

「私知ってるぅ、あれでしょ日曜の朝にやってるやつ」

 

 嬉しそうに笑って、男が女共に語って聞かせた。

 

「そうそう、世界征服とか言ってるガキの遊びだ。

 こいつはその残党で、しょうもねぇ罪で豚箱に入った。

 まぁ、俺は優しいからよ。

 御袋の被害者共に仕事を紹介してやってんだ」

 

 そこまで言って、男の目は俺を向き直る。

 

「俺は、構成員450人を従える黒龍組の組長。

 赤羽龍星(あかばねりゅうせい)だ。元ニーズヘッグの出所者には全員声を掛けてる、お前も入れ。

 人生終わってるお前みたいな人間でも、そこそこ稼げるぜ。

 俺等【ヤクザ】ならよ」

 

「ヤクザ……ね……」

 

 やっと、理解できたよ。

 玲が俺をここに連れて来た理由が。

 

「あぁ。

 金貸し、薬、チャカ、女。

 俺等は全部扱ってる。

 ケツ持ちは、日本一のヤクザだ。

 御袋の残したニーズヘッグっつう看板だけは、有効活用してやったよ」

 

 ニーズヘッグ。

 裏社会じゃ誰でも知ってる。

 最恐最悪の組織。

 

「あははは、御袋もあの世で喜んでる事だろうぜ」

 

 それが、今じゃヤクザか。

 

「けどまぁ、お前の言う通りだ」

 

「あぁ?」

 

 これでも、刑務所の中で結構考えた。

 総帥も幹部たちも。

 あの人たちが全員死んで。

 

 それでも、まだ俺が悪の組織なんてモンを続ける意味はあるのかってな。

 

 無職。貧乏。おっさん。前科持ち。

 ほんと、俺の人生終わってる。

 

 でも、それだって俺の選んだ人生だ。

 俺は、俺がそうしたいと思って悪の組織に入って、悪の組織で戦ってきた。

 

 あの人たちを尊敬してる。

 少なくとも、こいつよりはあの人たちの思いが理解できていると思う。

 

 俺が、ここで辞めたら。

 総帥も、幹部たちも。

 犬死だ。

 

「ケヘ……」

 

 それは、俺の口から出た言葉だ。

 

「ケヘヘヘヘヘヘヘ……」

 

「テメェ、気持ちワリィ声で笑ってんじゃねぇよ!」

 

 ニーズヘッグ総帥、ヴィラン名『エンテス』。

 本名を赤羽朱雀(あかばねすざく)

 俺を、ニーズヘッグに勧誘した張本人だ。

 

 その息子だからって、期待し過ぎた。

 

「お断りだ、七光り」

 

「そうかい、だったら海に沈んでから後悔(航海)しとけ」

 

 決め顔で、男はそう言った。

 

 それを見て俺は噴く。

 

「おもろ、ギャグ」

 

「「「えぇ……」」」

 

 女性陣の反応は思ったより良く無かった。

 本人は気が付いてないみたいだけど。

 

 俺が入って来たドアが開く。

 そこから、スーツ姿の男たちがなだれ込む様に入って来た。

 

 数は20人以上。全員が銃を携帯。

 銃口の全てが俺を向く。

 

「最後に聞いてやる。

 黒龍会に入れよ、黒木棺(くろきひつぎ)

 

 男の言葉を聞いて、玲が俺の隣から退く。

 壁際まで後退した。

 

 それを確認して、俺は答える。

 

「お前等じゃ俺の欲は満たせねぇよ」

 

「寝ぼけた事言ってんじゃねぇ。

 金も女も力も、俺は全部持ってる。

 見りゃ分かんだろうが」

 

「ケヘ……お前の方こそ、寝ぼけてんじゃねぇよ。

 俺たちが達成したかった夢はただ一つ」

 

 そうだ。

 他人の失笑も、不可能だと断ずる否定も、俺の行動とは何も関係ない。

 俺が、そうしたいからするのだ。

 

 

「――世界征服、それ以外はゴミだ」

 

 

 男の怒りが頂点に達するのが、俺にも分かった。

 

「やれや!」

 

 銃弾が俺の頭を貫く。

 俺の視界が、自分から発生した血飛沫を捉えた。

 

 額に穴を開けて、俺はソファに倒れる。

 

「馬鹿が、誰が片付けると思ってやがる……」

 

 久しぶりだ。

 この感覚。

 痛みが熱に変わる。

 冷えた身体が熱くなっていく。

 

 気持ちいいなぁ。

 

「心配しなくていいぜぇ、七光り。

 ケヘ、ケヘヘヘヘヘ……

 オレァ、生まれてこの方死んだ事がねぇからよォ!」

 

 ソファから立ち上がり。

 一番近い場所に居た黒服に向けて歩く。

 

「な、なんで生きてる……!」

 

 そう言いながら、黒服(そいつ)は引き金を引く。

 肩に命中し、少し身体が逸れる。

 けれど、それだけだ。

 

「あ、あぎゃっ――」

 

 男の頭を掴み、握り潰す。

 容易くそいつは地獄へ向かった。

 

 吐き出された血が、身体を伝い始める頃には、銃弾によって空いた穴は塞がっている。

 

「はぁはぁはぁ……

 やっぱり、棺君はそうでなくちゃ……」

 

「う、撃て、撃て!!」

 

 身体中、全身に銃弾の雨が刺さる。

 穴が開いて、塞がって、倒れて、立ち上がって。

 

 

 ――アァ。

 

 

 その声は俺の声じゃない。

 

 俺が握り潰した頭から。

 俺みたいに立ち上がる黒服の頭からだ。

 

「なぁ、知ってっかぁぁ?」

 

 起き上がるのは、青い顔の黒服。

 

「ゾンビに殺されるとなぁ、ゾンビに成っちまうんだぜぇえええええええええええ!!」

 

 生まれつき、極度の低体温だった。

 生まれつき、傷の治りが早かった。

 

 高校に入ってすぐの頃、俺は事故った。

 冷たい体を理由に苛められ、屋上から転落した。

 

 でも、俺の潰れた頭は直ぐに再生して、俺は生き返った。

 

 それが、俺の持つ異能だった。

 俺は正義の執行者(ヒーロー)に追われた。

 

 簡単に捕まって研究施設へ送られた。

 切り刻まれ、あらゆる損傷を受け、殆どの病気を体験した。

 

 助けてくれたのはニーズヘッグの総帥。

 こいつの母親に助けられたから今がある。

 

 ニーズヘッグが無ければ、俺はまだその施設の中だっただろう。

 

 だから、恩くらいは返してやるよ。

 

 (ゾンビ)死体(ゾンビ)は黒服共を睨み、追い回す。

 潰して、千切って、暴虐の限りに殺し続ける。

 

「終末を招ける力。

 人類の滅亡すら可能な力。

 黒木棺は【ゾンビ】なんだ」

 

 そんな俺を見て、玲が狂気的な瞳を輝かせて、そう言った。

 

「ひぃぃぃぃぃいいい!!」

 

「こっちに来るなァアアアア!」

 

「正気を取り戻せぇええええ!」

 

 銃が乱射される。

 けれど、ゾンビはもう死んでいる。

 これ以上死ぬ事は無い。

 

 死体の傷から、俺の細胞が流れる事で、死体はゾンビとなる。

 ゾンビの体内では俺の細胞が増殖。

 ゾンビの殺した人間も、俺の細胞を取り込み、ゾンビ化する。

 

「ケヘヘヘヘヘヘヘケヘヘヘヘヘヘヘ!!!!!」

 

「アァー」「オォー」「ウゥー」「ゲェー」

 

 ゾンビは増える。

 殺す度に増え続ける。

 

「なぁ、赤羽龍星っつたか……?」

 

「あ……あぁ……待ってぐ……」

 

 涙ぐんで、男は腰を抜かしている。

 侍らせてた女の方がちゃんと立って逃げてんじゃねぇか。

 クソダセェなぁ。

 

「俺は別に、ヤクザなんざどうでもいい。

 ただ、目的が違うっつてんだ。

 お前は、総帥の息子だから一回だけチャンスをくれてやる。

 次、俺がダルいと思ったら今度は殺すぞ」

 

 ブンブンと、龍星は首を縦に振る。

 

 それを見て、俺は扉へ振り返る。

 黒服は全員ゾンビになっていた。

 

 

 ――ヒュン。

 

 

 風を切るような音。

 それは、後ろから鳴って。

 

 俺の視線が落ちていく。

 胸より、腹より、腰より下。

 地面を、俺の頭が跳ねた。

 

「アハハハハハハハハ!

 俺に逆らうからこういう事になんだよ!

 テメェは知らねぇかもしれねぇが、世界は変わった!

 異能なんざ、珍しくもねぇ力だ!」

 

 男の中指にはめられた指輪。

 緑の輝きを放つ宝石のそれ。

 

 男はそれを強調する様に、こちらに向け。

 

 

 ――ヒュン。

 

 

 風の刃。

 カマイタチの様な不可視の斬撃が、俺の腕を跳ね飛ばす。

 

「これが現代のチャカ、ダンジョンの遺物の力だ!」

 

「ダンジョンの遺物だぁ?」

 

 ギョッと、龍星は床に転がった俺の頭を見る。

 

「なんで喋れる……」

 

「そりゃ喋るわ。ゾンビだぞ俺ぁ」

 

 っつても、ダンジョンの遺物ね。

 知らねぇ話だ。

 後で玲に聞いとこう。

 

「それより、そんだけかぁ?」

 

 風を刃にして飛ばす。

 不可視の斬撃。

 確かに常識的な力では無い。

 

 けれど、幹部や総帥の力に比べれば、遊びの範疇の力。

 

「ねぇ棺君」

 

 玲が通りの良い声でそう言った。

 そちらに視線を向ける。

 すると彼女は安心するように。

 

「貴方は、変わらないのね」

 

 変わったさ。

 

 歳もとった。

 

 地位を無くした。

 仲間は死んだ。

 帰る場所も消えた。

 

「よくも裏切りやがったな! 玲!?」

 

 龍星が怨みの籠った視線を玲に向ける。

 玲は、その視線を気持ちよさそうに正面から受けて、言葉を返す。

 

「私は最初から、ニーズヘッグの科学者よ」

 

 全てを失った俺にも、残った物はある。

 ニーズヘッグでの俺の役割。

 

「ニーズヘッグの幹部は7人じゃないわ。

 私を守るという役割を持つ故に、隠匿された8人目。

 存在を知るのは幹部と総帥と、私だけ。

 8番目の幹部。

 ヴィラン名――【デビルアンデッド】」

 

「は――?」

 

 少し強めに地面を蹴る。

 顔と片腕が無かろうが、俺はまだ死んでねぇ。

 

 ゾンビの身体能力。

 それは人間のリミッターをブチ壊す。

 

 超人的な、亜音速に迫る速度を弾き出し。

 

「そういうこった」

 

 一瞬で、首無しの身体が奴の目前に移動。

 拳が、顔面を捉える。

 

 腕の引き、肘、肩、下半身の力の流れ。

 骨格と筋肉の全ての力が限界を越えた……一拳(パンチ)

 

 それは、部屋全体に巨大な風圧を起こす。

 

 ガラスが割れる。

 元ヤクザのゾンビ共事、家具も壁まで吹き飛んだ。

 

「ケヘ、ケヘヘヘヘヘヘ……」

 

 その部屋で立つのは、俺ただ一人。

 久々に、身体が熱くなった。

 

 あぁ、まずい。

 幹部たるもの品を持て。

 そう、死んだ総帥に怒られちまう。

 

 顔を覆って笑みを消す。

 数秒落ち着けば、頭は冷えていく。

 

「これがお前の狙いで、良いんだよな?」

 

「知っての通り私に戦闘能力は無いから。

 これで、円満に黒龍会を脱退できる」

 

「円満ね……確かにその通りだな……」

 

 東雲玲(しののめれい)の異能力。

 それは、電子の可視化だ。

 電子を線の様に捉え、その線を歪める事ができる。

 

 あらゆる電子情報への、完全侵入。

 及び、改竄。

 その能力のお陰で、俺も研究所のデータを抹消して貰った。

 

 真面な刑務所に俺が送られ、普通に9年で出てこれたのは玲のお陰だ。

 

「それで、聞かせてくれんだろうな。

 ダンジョンに遺物ってのは、なんだ?」

 

「新聞とか見てないのかしら?」

 

「外の話には興味ねぇよ」

 

「まぁ、脱獄しなかった時点でそうよね。

 分かったわよ。一から説明して上げる。

 貴方がどうするのかは、それを聞いて決めればいい」

 

「あぁ、そうするよ。

 でも、ここじゃ何だし場所を変えようぜ」

 

 俺は、視界をウロつくゾンビ共に聴こえる声で命令する。

 

「もういいからよ。

 テメェらは、成仏してろ」

 

 言い終えると同時に、ゾンビたちの動きが止まる。

 崩れ落ちて、普通の死体に戻っていく。

 

 残ったのは、俺と玲と。

 

「助げで、ぐだしゃい……!」

 

「なんでもするがら、お願いじまず……!」

 

 泣きじゃくる女が2人。

 

「そうだな。じゃあ、美味いワインを出す店に連れってってくれよ」

 

「飲んだ事あるの?

 捕まった時未成年だったじゃない」

 

「一回だけな、総帥に付き合わされたんだ」

 

「そう、なんだ……」

 

 小さく呟いて、玲は転がった龍星に近づく。

 

 白目を向いて、鼻水と涎、涙で顔を汚す。

 気絶した男。

 

「昔の貴方は悪逆非道だった。

 人の痛みなんて興味も無かった。

 なのに、これを殺さなかったのは、総帥への恩赦かしら?」

 

 俺は、赤羽龍星を殺さなかった。

 拳を寸前で止めた。

 

 それはきっと、総帥を思い出したから……なんかじゃねぇ筈だ。

 

「俺も、丸くなったもんだ」

 

「あっそ……」

 

 玲は龍星のはめていた指輪を懐に入れ、俺の隣まで歩いて来た。

 

 玲は、再生した俺の腕に絡んで小さく呟く。

 

「もう総帥は居ないんだから。

 今度こそ、私を見てね」

 

 俺は、その言葉に聞こえていない振りをした。

 

 視線は、怯え切った女共に移る。

 

「そんじゃ、案内頼むわ」

 

「はいぃ……」

 

「わがりまじだぁ……」


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