悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

10 / 22
第10話 襲撃者

 

「何なのかしら、これは……」

 

 玲がノートPCの画面を指す。

 そこに映っていたのは俺だ。

 

 全裸で、恥部にモザイクの掛かった俺。

 どうやら、昨日の戦いを録画してた奴が居るらしい。

 しかも、それをネットに流したと。

 

「私が気が付いて良かったわね。

 再生数の少ない内に発信元のデータ事破壊できたわ」

 

 でも。と、玲は続けた。

 

「自覚して。

 貴方は、悪の組織の総帥なのよ」

 

 顔を近づけて、請う様に玲は言った。

 その表情をされると、俺も罪悪感を覚える。

 

「分かってる。

 悪かったって。

 もう軽率な行動はしない」

 

「そう、良かったわ。

 それでね……」

 

 玲が俺の手の甲の皮膚を抓り上げた。

 

「どうして、貴方とこの女が一緒に居るのかしら?」

 

 今度は、画面に映る立花吟を指して問われる。

 これはもう審問というより、脅迫に等しい。

 何せ、言い逃れできない証拠がある。

 

 けどまぁ。

 

 

「――何か勘違いしてないか?」

 

 

「そんな戯言で、私を……」

 

「お前の意見なんて知らねぇよ」

 

 そう言った瞬間、玲は怯える様に少し離れた。

 

「っ……」

 

「俺が誰と何処に居ようが、お前に許してるのは助言だけだ。

 お前の能力は有用で、俺はお前に対して多少の情もある。

 だがな、そんなモンは、俺たちの夢に比べればゴミだ」

 

 最重要項目は決まってる

 世界征服、ただ一つ。

 

 感情や仲間が大事じゃない訳じゃねぇ。

 ただ、それらは全て夢を叶える為の方法だ。

 

 失う事にビビって、到達点を忘れる。

 

 その程度で至れる程、この夢は軽くねぇ。

 

「お前を支配するのは俺だ。

 お前が俺を支配する事はねぇ」

 

 

 ――自覚しろ。

 

 

「お前は、俺の参謀だろうが」

 

 目尻に涙を溜めて。

 それが、零れない様に食い縛り。

 東雲玲(しののめれい)は気丈に宣言する。

 

「……だったら、私に命令しなさいよ。

 この島程度、容易に掌握してあげるから」

 

 久々に見た。

 こいつが泣きべそを掻く所。

 そりゃ9年振りなんだからそうか。

 昔は、毎日駄々こねてた癖に。

 

「ちゃんと、大人になったんだな」

 

「貴方と一緒に、そうなりたかった」

 

「報酬の前払いだ。

 この部屋に居る時だけは、俺をお前の好きな様にしていい」

 

 総帥。参謀。悪の組織。

 恋人。休憩。家庭。

 

 仕事とプライベートは分ける派だ。

 

「どうして、もっと素直に言えないのかしらね」

 

「お前の泣き顔を久しぶりに見たかったから」

 

「悪い人。それ病気よ」

 

 そう言って、クスリと彼女は笑う。

 

「今更何言ってんだよ」

 

「確かに、そうね……」

 

 そう言って玲は、俺の手を両手で握る。

 

「言って、貴方はこの世界をどうしたいのかしら?」

 

「ニーズヘッグは復活した。

 世界にそれを知らしめる。

 その為にまずは、この島が欲しい」

 

「…………分かったわ。

 後は任せて、シナリオは私が書くから」

 

 玲の手が、ノートPCに翳される。

 瞬間、画面に謎のプログラムが演算されていく。

 

「それじゃあまずは。

 貴方の敵に、挨拶でもして来るといいわ」

 

「敵ね……あぁ、そうするか。

 お前は本当に優秀だ」

 

「もう……都合いいわね」

 

 

 玲がそう言った瞬間、ノートパソコンが爆発した。

 

 

「おい、火事なるって!」

 

「あぁっ! 今これしかパソコン無いのに!」

 

 消火する俺。

 泣きわめく玲。

 混沌とした2DKの部屋の中から、新生ニーズヘッグの最初の作戦は始まった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 星空が見える夜。

 都心から少し離れた周りに緑が良く見える植林。

 その中を走る道路の左側に、俺は立つ。

 右車線の車が、前から来るように。

 

 日本とはハンドルが逆らしい。

 面倒な話だ。

 

『着いたかしら?』

 

 耳に付けたインカムから玲の声がする。

 このポイントは、彼女に指示された場所だ。

 

「あぁ」

 

『後3分程で車が来るわ』

 

「了解だ」

 

 短く応える。

 

 同時に俺の視界は、自分の衣服へ向いた。

 

 それにしても、よく取ってたな。

 俺が幹部だった時の衣装。

 それにまた袖を通す事になるとは。

 

 羊の二本角の生えた仮面。

 漆黒のローブ。

 目深にフードを被る。

 

 黒の中に、僅かに赤の装飾の入ったブーツと手袋。

 サイズは変わってないらしい。

 

「今になって思うと、中々に子供っぽい恰好だ」

 

『それでも9年前だと、最高峰の科学技術と複数の異能によって作成された一品よ。

 仮面とフードは絶対にとれないし、変声期も内蔵してる。

 貴方の細胞を移植させて、肉体領域を細胞に誤認させる事で、衣服に自己修繕の機能を取り付けた……』

 

「何回も聞いてるけど、訳分かんねぇな」

 

『まぁ、機能さえ知っていればいいわ。

 それに、話してる時間もそんなに無さそうだしね。

 ……そろそろ来るわよ』

 

 ケヘ。

 最近、真面な事をやり過ぎた。

 少し、真面目な仕事もしなきゃな。

 

 エンジン音が聞こえる。

 それが、徐々に大きくなっていく。

 

 車の形状はバスに近い。

 しかし、それよりは幾分か小柄だ。

 トラックとバスの中間と言った所か。

 

 その車が俺の前で停止する。

 ライトの眩しさを鬱陶しく思っていると、助手席の男が車から降りて来た。

 

「何してるんだ君。

 公道だぞ、退きなさい。

 それに、なんだその恰好は!」

 

 その男の言葉を無視して、俺は地面を殴る。

 

「なにを……!」

 

「うぁああああ!」

 

 道路を破壊して、車の足を亀裂に取らせた。

 

「悪いが、旅行はこれで終わりだ。

 帰り徒歩で、問題ねぇだろ」

 

「何者だ貴様!」

 

 男は腰にあった拳銃を俺に向けた。

 それで、威嚇のつもりか。

 

「動くな」

 

「いやでーす」

 

 前に踏み出す。

 警官に近づいていく。

 

「止まれ! 撃つぞ!」

 

「あぁ、撃てよ」

 

 そう言った瞬間、太腿から赤い水が弾ける。

 しかし、俺の歩みは止まらない。

 

 運転席の男も出て来て、2人で銃を構えて発砲を始めた。

 

 俺の身体が撃ち抜かれる。

 しかし損害は、多少体が傾く程度。

 傷は即座に修復される。

 

 6発の銃弾を撃ち尽くし。

 リロードの間に、俺は彼等の目前に到着した。

 

「なんなんだよ……」

 

「やめろ……」

 

 ゆっくりと。

 

 彼等の拳銃に手を置いて。

 

「あ……?」

 

 握り潰した。

 

「は……?」

 

 そして、極めて単純に言葉を使う。

 

「ぶっ殺すぞ?」

 

「うわぁああああああああああああ!!」

 

 一人目が逃げる。

 

「ま、待て! 逃げるな!

 俺を置いて行くなぁああああああ!!」

 

 そう叫び、2人目の警官も追いかけて行った。

 

 車の後ろに回り、トランクを開く。

 それは後部座席とトランクが一体化した様な車だった。

 その中で、1人の男が拘束され座っていた。

 

 男の視線と俺の視線が交差する。

 

 男はまだ若いにも関わらず、黒髪の一部は白く染まっていた。

 それだけではない。

 目はギョロつき、手足は震えている。

 

 横には杖が置かれ、それなしでは男が歩けない事を示唆していた。

 

「誰だお前……?

 警官たちは何処に行ったんだよ」

 

 少し、仮面をズラす。

 男に俺の顔が見える様に。

 

「もう忘れたのかよ……」

 

 俺の顔を見て、男は絶句する。

 

 昨日、コイツを気絶させた後の話だ。

 男の身柄は立花吟から島の警察に渡された。

 

 探索者に協力して貰えなければ、大した力も無い組織だが、犯罪者の護送等の雑務はこいつ等の仕事だ。

 

 事件の後、俺とこいつは話せなかった。

 しかし、聞きたい事がある。

 あの薬の出所だ。

 俺は探偵じゃねぇ。

 

 分からねぇ事は、知ってる奴に吐かせて終わりだ。

 

 この護送車のルートと日時は玲が調べた。

 対して凶悪でも無い薬チュウ一人。

 ハッキングは容易だったそうだ。

 

「ま、待ってくれ……

 謝る、謝るから……もう変な真似はしないから……

 こんな身体になって反省してるんだよ、だから……」

 

 涙を流し、縋る様に男は言う。

 地べたを張って、願う。

 

 そいつに俺は嗤いかけた。

 

「昨日振りだな、盗撮犯」

 

「なんで俺ばっかり……悪魔……」

 

「何言ってんだ、寧ろ天使だろうが。

 何せ俺は……」

 

 言い終える前に声が聞こえた。

 強化していた聴覚が反応している。

 

 小さい話声。

 電波を用いて通信しているのだろう。

 しかし、そんな小声も今の俺の耳なら聞こえる。

 

「ターゲット確認。

 処理を開始する」

 

「待って下さい隊長。

 ターゲットの車が停車しています」

 

「それともう一つ。

 ターゲットの付近に警官では無い人物が」

 

「我々の他にも、あの男を狙う者が居るという事か。

 だが、渡す訳には行かん。

 ターゲットを確保しろ」

 

「だったら、アタイに任せて下さいよ。

 一撃で障害を排除して見せますから」

 

「いいだろう。

 スキュラ、お前が仕掛けろ」

 

「了解。

 ラッキー、最近丁度ストレスが溜まってたんだ」

 

 やっと、作戦会議は終わったらしい。

 道路の上にあった森林から、人影が一つ飛び出してくる。

 

「残念だったね。

 アンタはここで死――」

 

「ゴチャゴチャと……」

 

 その人影の頭上に回り込み、ぶん殴る。

 

「うるせぇ」

 

「ギャッ……!」

 

 声からして女であろう。

 そいつは地面に叩きつけられる。

 そのまま、潰死体(トマト)になった。

 

「なんだと……!?」

 

「強いっ……!」

 

 黒いマントを着た集団。

 俺と同じ様に、顔が包帯で隠されている。

 

 人数は計4。

 潰れた女を合わせて5人。

 俺と車を囲う様に現れた。

 

 この盗撮犯を追って来たって事は……

 恐らく暗殺者。

 

 玲が消したとは言え、動画を知ってる奴はいる。

 

 そこから情報が回り、こいつ等まで到達したか。

 もしくは薬の出処か。

 

 今の段階で、盗撮犯を狙う勢力は二種類しかない。

 

 製造元か、製造元を知りたい奴。

 

 俺は後者だ。

 

 そして、他に誰も来ないのなら。

 こいつ等は前者だ。

 

 製造元からすれば、薬の出所を知り、動画で有名になったコイツは早急確実に消さなければならない存在なのだから。

 

「貴様……何者だ……?

 我等に敵対するという事がどういう意味を持つのか、分かっているのだろうな……」

 

 暗殺者達の中で、一番風格のある男。

 一番強い奴が、俺にそう聞いて来る。

 

「ケヘ……教えてやるよ」

 

 俺は嗤いながら、その質問の答えを告げる。

 

「ニーズヘッグ元第8幹部及び現総帥。

 ヴィランネームは【デビルアンデッド】だ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。