悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第12話 三騎士団

 

 円卓を囲うのは、4人。

 

 その全員が同様に。

 この迷宮島で、知らぬ者の居ない有名人。

 

「今日集まって貰ったのは他でもない。

 現在、この迷宮島は攻撃を受けている」

 

 そう、冷ややかな視線で言った男。

 落ち払った冷静そうな人物。

 白の教会の所属である事を示すバッチ。

 それに似ているけれど、少し違う。

 

 それは、団長だけが付ける事ができるバッチだ。

 この島の陸を守る騎士団の長。

 

 名をユア・オリオン。

 

 白い髪と青い瞳。

 純白の肌を持った、少し小柄な男だ。

 けれど、その意思は凛々しく光り。

 

 何よりその視線は、遥か高みから盤上を見下ろす様に。

 無情で冷徹で、無関心。

 

 

「この島を攻撃するような馬鹿が、まだ残ってるとはな。

 少し前に、馬鹿みたいな数の闇組織を壊滅してから、めっきり減ってやがったのに」

 

 荒々しい口調そういうのは、黒い鎧を纏う男。

 今は兜は外しているが、黒髪に赤いメッシュが見える。

 何より、彼の隣には幼いが黒い龍の姿が見える。

 

 通常、人に懐かないとされるドラゴン。

 幼龍とはいえ、それは無警戒に男に背を撫でさせている。

 

 燃えるような強い意思。

 けれど、それは何処か黒い。

 そんな、雰囲気を揺蕩わせる。

 

 この島の空を守る龍騎士団の長。

 名を、リドラ・アーカム・ヴァレンティ。

 

 

「あいつ等、面白さだけは本物やった。

 そもそも悪の組織なんて、アニメの視すぎや。

 そんなんが本当にあった事にも驚きやし。

 何より、散り様が無様すぎて笑ってしまった」

 

 張り付けた笑みでそう語る女。

 短いエメラルドグリーンの髪は、肩程で切り揃えられている。

 

 大きな鞄を持っている。

 その中身は全て収納用の遺物だ。

 

 商人でありながら。

 海の守護者とも呼ばれる。

 凪船連合(シーユニオン)を率いる長。

 

 神凪綾《かんなぎあや》。

 

 この島の外交や輸出輸入の問題に関して。

 彼女は一級の権限を保有している。

 この島の裏の長とも言える人物。

 

「それで、今度はどんなバカだ?

 この、世界最強の島に仕掛けて来てんのはよぉ」

 

 リドラの言葉に答えるのは、最後の一人。

 最奥、上座に座り、彼等に騎士団の誉を授けた人物。

 この島の支配者にして、大富豪。

 

 ドルイ・バスケット。

 

 

 ――ではない。

 

 

「9年前に、最凶最悪の組織として名を馳せていた悪の組織。

 ニーズヘッグの元幹部、デビルアンデッドよ」

 

 赤い髪を、腰まで靡かせた美女。

 紫のドレスを纏い、化粧には余念がない。

 高級な装飾品を身に着け、自身を着飾っている。

 

 彼女の名前は、エリス・バスケット。

 

 ドルイ・バスケットの婚約者である。

 

「まぁた悪の組織かい。

 異能力かなんか知らんけど。

 ダンジョンで強くなれる探索者の劣化版やろ。

 それで、規模はどんくらいや?」

 

「確認されている人数は1名だ」

 

「はぁ?」

 

 ユアの言葉に、綾は笑い声を上げた。

 

「あははははははは!

 悪の組織ってのはコント集団なんか?

 単身でこの島に攻撃するなんか、ただの馬鹿やんか」

 

「下んねぇ。俺はそんな事で俺を呼び出したのかよ。

 俺は帰るぜクソが」

 

 立ち上がったリドラを止める様に、ユアは口を挟む。

 

「私の所の副団長が言うのだよ」

 

「ギンの奴が……なんだって……?」

 

「彼女は元々、悪の組織へ対抗する異能力者だった。

 そんな彼女が唯一、1対1で勝てなかった相手。

 それが、その男らしい」

 

 リドラは拳を握りしめる。

 何かを思い出す様に歯ぎしりし。

 円卓を殴りつける。

 

「ふざけんなよ!

 あいつは、俺を倒して名実共に最強になったんだ!

 それが、勝てなかっただと……

 じゃあ何か、その男は俺よりも強ぇってのか?」

 

「その可能性があると言っているんだ」

 

 ユアがそう言った瞬間、円卓に亀裂が走る。

 大理石で造られたそれを、握るだけで破壊した。

 

 そんな超人技を容易く行う。

 それが、この島のトップ探索者の握力だ。

 

「まぁまぁ、落ち着きいや。

 そんなの戦ってみれば分かる事やろ」

 

「えぇ、今ここで結束を崩すのは悪の組織を笑えない程の愚行ですよ」

 

 女性陣から、冷ややかな視線がリドラに向く。

 それを受けても、リドラの熱は治まらない。

 

「ざけんな……

 ギンは、俺以外の誰にも負けちゃ行けねぇんだよ」

 

 それを察したエリス・バスケットは、手を二度叩いた。

 

 黒い影が2つ。

 地面に落ちて来る。

 彼等は床に片膝を付き、首を垂れる。

 顔を包帯で覆った暗殺者だ。

 

「彼等は、実際にその男と対峙し生還した者達です」

 

 それを見て、リドラは直ぐに問い始める。

 

「お前等、ランクは」

 

「私はAランク、部下はBです」

 

「まぁ、物差しくらいにはなるか。

 聞かせろ、その男の強さはどれくらいだ。

 まさか、単身でこの島を落とせるなんて言わねぇよな?」

 

 その問に、覆面の男は淡々を応え始める。

 

「デビルアンデッドの能力は確認できただけで3つ」

 

 指を立て、説明し始める。

 

「1つは、怪力。

 山の中を幅10m長さ150m程を、拳一つで抉ります。

 2つ目は、再生。

 手足を全て切断しても5秒ほどで完全回復します。

 そして3つ目は、死体操作。

 殺した相手を蘇らせ、使役します。

 更に、その死体に殺された者も同じ状態になります」

 

「山を抉るだと……?」

 

 リドラの食いつく項目は怪力。

 しかし、他3名は別の同じ項目を恐れた。

 

「死体操作……」

 

「上限数によっては……」

 

「この島を滅ぼす事もできるかもしれませんね」

 

 エリスの危惧する最悪。

 それは、立花吟を始めとしたヒーローが危惧した物と全く同じ。

 

「その男は、9年前終末級異能力者と呼ばれていました。

 それは、世界を滅ぼせる異能。

 少なくとも、そう認識されていたという事です」

 

 元ニーズヘッグ構成員。

 その正体を敢えて明かさず、暗殺者は淡々と報告する。

 

「そんな事はどうでもいい……

 重要なのはそいつが、俺より強ぇかどうかだ」

 

 そう言ったリドラを見て、神凪綾は頭を抱えた。

 

「違うやろ。

 問題は、死体を操るっていう能力や。

 単体の戦力なんか、どうでもええ」

 

 その言葉に、エリスもユアも頷いた。

 だがリドラ以外に一人だけ。

 リドラの言葉に真面目に答える声がある。

 

「彼は、貴方より強いですよ」

 

 時が止まったかのように。

 ゆっくりと、視線がその男に言う。

 場にいる誰もが同じ事を思った。

 

 

 ――空気読めよ。

 

 

 と。

 

「あ?」

 

 けれど、その願いは届かない。

 

「もし、その男に死体を操る能力が無かったとしても、貴方と戦った場合、勝つのは彼です」

 

「お前……

 あんまり、調子に乗るなよ」

 

「貴方と同じ事を、彼にも言われました。

 圧力も殺気も、感覚が受ける全情報が。

 圧倒的にあの男の方が上でした」

 

 リドラが腰に携えた剣を抜いた。

 抜き身の輝きが、電球の光を反射して、暗殺者に当たる。

 

 それでも、男の口は塞がらない。

 

「ニーズヘッグの幹部を舐めない方が良い。

 彼と、公平に相対するのは自殺行為です」

 

「その言葉――」

 

 剣の切っ先が、男を向く。

 それを見て、控えていた暗殺者の女は怖気づき、後退る。

 

 けれど、怒りの矛先を向けられる男は。

 全く、微動だにしなかった。

 

「信用させてみろ」

 

 その言葉と同時に、突きが放たれる。

 爆音に近い音と共に煙が上がる。

 

 よく見れば、剣は男の頬を掠めただけ。

 

 けれど男は、一切姿勢を崩していない。

 回避行動を、一切取らなかった。

 

「当たらねぇと高を括ったか?

 ――それとも、俺の突きが見えない程雑魚なのかァ!?」

 

 二度目の突き。

 引きが早い。

 けれど、角度はさっきと違う。

 狙いは、男の更に奥。

 

 反応できていない。

 二人目の暗殺者。

 

 その角度が確定された瞬間、包帯の中から眼光が煌いた。

 

 暗殺者の男の手足に――風が宿る。

 

 一瞬で、男の身体が控える女の前に移動する。

 

「隊長……!」

 

 その場で――二者の他は――誰も認識できない程速い。

 瞬間的な一合。

 

 剣が弾かれ、壁に刺さった。

 剣を受けた暗殺者の男の腕が、裂傷(ズタズタ)になっている。

 

「申し訳ありません隊長!

 私の為に……」

 

 女が駆け寄る。

 切り裂かれた腕に処置を施していた。

 

「掠り傷だ。

 それに、お前の為ではない。

 これ以上部下が減ると、再教育が面倒だと思っただけだ」

 

 そう言いながら、処置を受け入れる。

 

 これが、この一合の顛末だ。

 

「お前、本当にAランクか?」

 

「えぇ勿論。

 ただ、最後に判定を受けたのは1年以上前ですが」

 

「名前を教えろ」

 

「私は暗部です」

 

「だからなんだ?」

 

「……隠染宗時(いんぜんそうじ)です」

 

「そうか。

 ……いいぜ。

 お前の話を聞いてやる」

 

 そう言って、リドラは座り直した。

 その表情には、落ち着きが戻っている様に見えた。

 

 エリスは、それを見て小さく溜息を吐き。

 神凪綾は、同情する様に愛想笑いを浮かべていた。

 

 

 その辺りで、扉が開く。

 

「おーい、エリスー」

 

 そう言って、初老の男が入って来る。

 それを見て、エリス以外の全ての物が傅いた。

 

「儂はそろそろ眠くなって来たぞ。

 お前の子守歌が無いと眠れぬ。

 寝室まで共に行こう」

 

 寝巻を着た、小太りの男。

 齢は50は越えているように見え、エリスと並ぶと「月と鼈」を体現した様な並び立ちになる。

 

 けれど、この場の誰もその男に逆らう事は許されない。

 

 この島の絶対支配者。

 

「畏まりましたドルイ様」

 

「なんだその呼び方は、いつもの様に呼べ」

 

 ドルイの言葉に、エリスは表情を一瞬で変えた。

 

「まぁ、ドルイちゃまったら。

 今日はどんなお歌が良いですか?」

 

「おぉ、まずは膝枕じゃ。

 何を歌って貰うかはその後考えるでの」

 

「わかりました。

 エリスも、ドルイちゃまに膝枕を堪能して頂くのが大好きですよ」

 

「分かっとる分かっとる。

 それでは行くぞ」

 

「えぇ、勿論です」

 

 そう言って、エリスを付き添わせ二人は部屋を出て行った。

 出ていく直前、エリスが振り返る。

 言葉を一つ置いて行った。

 

「ユア、指揮は任せます。

 リドラと綾も協力するように。

 この島の秩序を守る為、即刻件の男を排除しなさい」

 

「「「畏まりました」」」

 

 ドルイではなく。

 その婦人であるエリスに、首を垂れて。

 三者は同じ言葉を口にする。

 

 それが、この島の現状を物語っていた。


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