悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第14話 人買

 

 この島に到着して、3日程経った頃だ。

 

 ソーラと出会い、ソーラの夢を聞いた。

 その次の日の事だ。

 

 ソーラに、会って欲しい人が居ると呼び出された。

 それが、この教会の最奥の部屋だった。

 

「この部屋の中に、その人は居ますから」

 

 そう言って、ソーラは去って行った。

 後は一人で行けという事なのだろう。

 俺は、その一室の扉を開く。

 

 そこに居た人物は俺を見て、ポツリと漏らす。

 

「まさか、本当に……」

 

 瞳を震わせて、そいつはそう口に出す。

 それを見て、俺は直ぐにその人物が誰なのか思い当たった。

 

 名を、ロゼ・ノイジャー。

 

「もう一度お主に会えるとは、思っても居らなんだ。

 デビルアンデッド。いや、黒木棺……」

 

 ニーズヘッグとは別の悪の組織で、幹部をしていた女だった。

 

 俺の存在と名を知っている。

 それだけで、この女が本人なのは間違いない。

 

「随分、見違える風貌になったな」

 

 杖を突いた白髪の老婆。

 それは、昔を知る俺には衝撃的な姿だった。

 

「お主は変わらぬな」

 

 その女は、この教会で孤児を育てていた。

 

「そういう体質だ」

 

 教会の地下室。

 子供たちが寝泊まりする大広間の更に奥。

 小さな小部屋で。

 俺たちは、昔話に花を咲かせた。

 

 

「それで婆さん。

 あんたは、今何やってんだよ。

 悪の組織の元幹部が、マジで孤児院のママやってんじゃねぇだろ?」

 

 それは、当然の疑問だった。

 この女の異能は特別な物だ。

 

 この女が居た悪の組織【アグノム】の要と言っても間違いでは無い。

 

 それほど有能な異能であり。

 それほど優秀な人間である。

 

 それがまさか、孤児院等と冗談が……

 

「いいや。

 既にアグノムは壊滅した。

 この島を占拠しようと企み、複数の組織と合同で作戦を決行し。

 見事、打ち負かされたのよ」

 

 冗談めかして、婆さんは笑う。

 憤怒も辛苦も、笑い流す様に。

 

「今の私は、見ての通りただの老婆さ」

 

 皺が増え、瞼の垂れたその顔は。

 籠った意思を押し殺す。

 

「じゃあ、俺の正体知ってるテメェを。

 野放しにする訳には、行かねぇな」

 

 立ち上がり、婆さんの顔に指を向ける。

 殺気を込めて。

 

「フォホホホ」

 

 婆さんは高笑いを上げて、言った。

 

 

「――やってみよ」

 

 

 昔も見た、魔女の様に。

 喜々として、狂気的な。

 笑み。

 

「ッチ、何処がただの老婆だよ」

 

 舌打ちをして手を降ろす。

 こいつには、昔からいい様に利用されてた。

 

「まだまだ若造だな。

 デビルアンデッド」

 

「クソババア……

 で、ソーラに俺を呼び出させた理由はなんだ?

 まさか、昔話する為って訳じゃねぇだろ」

 

「あぁ、お主に頼みがあるのだ。

 だがその前に、見て欲しい物がある」

 

「ほぉ……」

 

 婆さんは立ち上がり、先導する。

 俺は婆さんを追って廊下に出た。

 

 教会の地下には部屋が4つしかない。

 来るときにも見た大広間。

 孤児たちが集まって生活している。

 それと、今の部屋。

 後は婆さんとソーラの私室だけ。

 

 ソーラは住み込みで、ここに金を落としてるらしい。

 

 婆さんは進んでいく。

 

「何があっても、手は出さんでくれよ」

 

 そう言って、大広間の扉を開く。

 食事の並んだテーブルを囲う様に、ガキたちが――

 

 

 全員寝ていた。

 

 

 大人は、壁際に控えるソーラと。

 他には白い制服を着た男が2人。

 大きな袋を広げ、そこに子供達を放り込んでいく。

 

「おぉ婆さん、今年もご苦労」

 

 白の教会のバッチを付けた、2人。

 

「これでこのスラムは今年も安泰だな」

 

 そんな言葉を吐いて。

 正義のヒーローと同じ所属の男たちが宣う。

 あぁ、そうだ。

 

 同じなのだ。

 

 俺を捕らえ、拷問としか呼べない苦痛を与えた組織。

 それは、立花吟を含めたヒーローを纏める組織だった。

 

 このガキ共は、あの時の俺と全く同じ。

 

殺す(ケヘ)

 

 一瞬。

 

「あ――」

 

「は――」

 

 奴等の認識を越えた速度で、首を圧し折る。

 

「クソババア、テメェここで何をやってやがる」

 

 倒れていく男たちを見ながら、振り返って俺は問いかけた。

 

「手は出すなと言っただろうに……

 まるで、正義の味方の様な事をするな。

 黒木棺……」

 

「俺の質問に答えろ。

 さもねぇとテメェも殺すぞ」

 

「待って下さい棺さん!」

 

 ババアの元に歩みを進める俺と、ババアの間に、ソーラが割って入る。

 

「その前に、お主に頼みがある」

 

 杖を突きながら、ババアは俺が殺した二人の元まで歩いていく。

 

「ふざけてんじゃ……」

 

 死体の前でしゃがみ込み、それらに触れて。

 

「私の全てを使って願う。

 どうかこの子等を、救ってくれ」

 

 アグノム元幹部。

 ヴィランネーム【否みの女帝(アンチヘルス)】。

 

 ロゼ・ノイジャーの異能力が――光る。

 

「この子達を救う力が、もう私には残って居らぬ。

 だが、お主ならできる筈だ。

 最恐と謡われた、ニーズヘッグのお主ならば」

 

 逆行《リバース》。

 

 そう呼ばれた異能力。

 例え死者であろうが、その時間を巻き戻し。

 

「あれ、なんだ……?」

 

「なんか、意識が……」

 

 蘇す。

 

「早く仕事をしなくて良いのですかな?」

 

「あ、あぁそうだった」

 

「俺たち仕事中だったよな」

 

 そう言って、男たちはまたガキ共を袋に入れていく。

 

「そういや、そっちのお前は新顔だな」

 

「ソーラと同じですよ。

 この男も、たまにここで働いて貰う事になりまして。

 私もこの歳で、色々と大変なんです」

 

「なるほどな。

 よろしく新人さん」

 

 俺の肩に手を置いて、男はそう言う。

 

「まぁ、ガキを育てて出荷するだけだ。

 そう気負う事じゃないさ」

 

 全ての子供を詰め終えた奴等は、それを外に運び出して行く。

 

「それじゃあ、ちゃんと配給はしてやるから次も頼むぜ」

 

「えぇ、助かります」

 

 バタンと、大広間の扉が閉まる。

 

「悪かったな。

 今はこうする他に無い」

 

 俺は、ロゼを睨みつける。

 

「どういう事だ……!」

 

「この辺りの住民は、悪の組織の末席や子孫、家族だった者達だ。

 我等は敗北し。

 搾取されるのは当然の事。

 毎年5才から10才の子供を10人。

 この島に献上する。

 その代わりに、我等は生存を許されている」

 

「それでもテメェ悪の……」

 

 俺の言葉を遮って、俺の言おうとする事を、婆さんは言った。

 

「私は、悪の組織として最期の抵抗をする」

 

 婆さんは、杖を捨てる。

 両膝を付いて、頭を下げた。

 

「誇りも、尊厳も、力も、財も。

 我等は全てを失った。

 だが、ただで願おう等とは思って居らぬ。

 私の異能で、誰でも一人。

 ニーズヘッグの幹部でも総帥でも、蘇らせよう」

 

「……自分が何言ってるか、分かってんのかよ」

 

 【逆行(リバース)】は、強力な能力だ。

 故に、そこには代償が存在する。

 巻き戻した時間の分だけ、『己の寿命』を消費する。

 

 このババアは、俺が知っている限り。

 まだ、30代の筈だ。

 

 けれど、見た目はどう見ても……80以上。

 これで更に、9年の時を消費すれば。

 最悪、死ぬ可能性だってある。

 

「あぁ、分かっているとも。

 だがそれでも、やらねばならぬ時がある。

 私の時間は、今この時の為に存在するのだ」

 

 

 ――だから、どうか。

 

 

「あの子達とこれから献上される全ての子供達を、救って欲しい」

 

 頭を地面に擦り付け。

 ただ、願い続ける。

 

 プライドも尊厳も、若さすら……

 全部無くして残ったそれは。

 

 子供達への愛だったらしい。

 

 

「そういう事なら――お断りだ」

 

 

 総帥と幹部たちは、己の人生を生きて死んだ。

 そこにはきっと、悔いは無い。

 それは、俺が一番分かってる。

 

「俺は、俺の好きにやる。

 婆さん、一つ俺からアドバイスだ。

 ……食器を多めに買っておけ」

 

「お主……!」

 

 婆さんは顔を上げ、驚いたように目を見開く。

 

 俺がガキの頃奪われた物を、俺はガキから奪えねぇ。

 

 

 あぁ、かなり気に入ったぜ迷宮島。

 俺が全部、奪い取ってやるよ。

 

 

 ◆

 

 

 その話を聞いて、東雲玲は言った。

 

「私、子供は嫌いだけれど。

 貴方のそういう所は好きよ。

 だから全部、調べ尽くしてあげる」

 

 

 ◆

 

 

 その話を聞いて、立花吟は言った。

 

「私が真相を確かめて。

 もしも、その話が本当だったなら。

 私には貴方の邪魔はできない……」


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