悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第16話 目的と方法

 

「それじゃあ、決行は今日の夜で良いわよね?」

 

 家のリビングのソファに腰かけ。

 玲から貰った書類を眺めながら。

 俺は頷く。

 

 それは、この島を転覆する為の計画書だ。

 

「大丈夫よ。

 貴方と私が居れば、失敗は無いのだから」

 

 後ろから、俺の首に腕を絡ませて。

 玲は続ける。

 

「それと」

 

 冷静に、一切の動揺なく。

 東雲玲は、悪役面で言った。

 

 

「貴方が探索を一緒にしてた男の子。

 白の教会に捕まったから」

 

 

「は……?」

 

「大方、街の監視カメラの映像でも調べたのでしょう。

 それで、貴方との関連性を見出した。

 M.Dの服用者と戦った時の映像と、護送車を襲った時の情報。

 それで、貴方がデビルアンデッドってバレていたのだし」

 

「どういう事だ。

 なんでそれを知ってて……」

 

「護送車を襲うのは必要な事よ。

 相手の表の戦力は調べられても、秘匿された戦力はやっぱり実際に相対して確かめるしか無かったもの」

 

「違う。

 お前なら、白の教会がソーラを襲う事に気が付いてた筈だ」

 

「えぇ、勿論」

 

 首を捻り、玲と目を合わせる。

 

「別に、構わないでしょう。

 あの男の子と、孤児院の子供と、別組織の老婆が死ぬだけ。

 作戦には何の差し障りもない」

 

「あいつは組織に入れるつもりだった」

 

「やっぱり……

 けれど、自分の事も自分で守れない人間なんて要らないわ」

 

「それを決めるのは、俺だ」

 

「私がそれを伝えても、貴方にできる事は何も無いわよ。

 まさか、あの古びた教会を守るつもりだったのかしら?

 そんな事をすれば、私たちは受け手に回る事になる。

 必要な戦力は倍増し、ドルイ・バスケットに逃げられる恐れもあるわ」

 

 玲の説明は、酷く正解で、分かりやすく。

 そして、真っ当に悪党らしい物だった。

 

「今夜の作戦を必ず成功させる。

 その為に、彼等には死んでもらうべきでしょう。

 重要なのは、『方法』じゃなくて【目的】なのだから。

 私たちの目的は、世界征服ただ一つ。

 その為の犠牲が、例え私であったとしても、切り捨てて。

 それが、昔に貴方から教わった。

 ――私の信じる在り方よ」

 

 その言葉に、間違いは一カ所も無い。

 ソーラが死のうが。

 ロゼが死のうが。

 ガキ共が死のうが。

 

 大の為に、小を切り捨てる。

 それが、悪党のプライドだ。

 

「はぁ……

 お前、俺が絆されたとでも思ったのか?」

 

「……」

 

 ジッと、彼女の眼光が俺を見る。

 本心を探る様に。

 

「お前の言う事は正しい。

 その上で、俺はソーラを守る必要はある」

 

 あいつは重要だ。

 何せ。

 

「あいつは俺の弱点を知っている」

 

 俺がそう言った瞬間、玲の目が揺らいだ。

 

「貴方の……弱点……?」

 

「ポーションだ。

 ポーションの治癒能力は、俺の体内のゾンビウイルスを分解する。

 つまり、俺を殺せるかもしれねぇ現状唯一の方法だ。

 それを、ソーラは知っている」

 

 作戦って言っても、俺と玲だけじゃできる事は高が知れている。

 今回も、殆どは俺の能力による力技だ。

 

 だから、俺を含めたゾンビを一撃で無力化できる。

 ポーションという情報。

 それは、死守しなければならない物だった。

 

 不安、なのだろう。

 その気持ちはずっと、俺に伝わっている。

 

 俺が、何処かに消えないか。

 俺が、目的を思い直さないか。

 俺が、死なないか。

 

 最近じゃ。

 

 メンヘラとか。

 病んでるとか。

 依存症とか。

 

 そんな風に言われる位。

 こいつの心は限界を迎えている。

 9年の月夜で、東雲玲は疲弊している。

 

 だから、人一倍、不安になる。

 

 仲間に、子供に、老婆に。

 俺が、情を持たねぇのか。

 

 首に回された手を引いて、玲を膝の上に乗せる。

 

「……私」

 

「安心しろよ。

 お前が安心できるまで、俺が傍に居てやるから。

 お前は……俺は――失敗しない。

 お前が間違えたなら、俺が拭ってやる。

 それが、ニーズヘッグの【現総帥】だ」

 

 ケヘッ。

 この程度のハンデが無きゃ、面白くもならねぇ。

 

「ごめ……」

 

「黙れ」

 

 雪の様に白い、その首を引き寄せて。

 俺は玲の口を塞ぐ。

 

「んっ……」

 

 うっとりと、玲は俺の顔を見て。

 唇が離れた頃には、その不安は色欲に上塗りされた。

 

 弱点を知られている。

 ポーションを使われるとマズい。

 

 その程度の事で、この俺が仕留められるかよ。

 

「玲、ソーラは何処に監禁されてる?」

 

「白の教会本部にある、地下牢よ……」

 

 スマホを取り出して、メッセージアプリを起動。

 玲から聞き出した情報を、送信した。

 

「ねぇ、誰に送ってるの?」

 

「俺が、この世で一番嫌いな女」

 

「それじゃあどうして連絡先交換してるのよ……」

 

 仕方ねぇだろ。

 言わねぇと逮捕するって脅されたんだから。

 

 

 

 ◆

 

 

 

『孤児院のガキ共と保護者は殺された。

 白の教会本部の地下牢に、ソーラが監禁されてる。

 お前が、本気で真相を知りたいと思うなら、ソーラに聞いてみろ。

 このままじゃ、また昔の二の舞を踏む事になるぜ。

 貧乳女』

 

「死んで」

 

 呟いた言葉を返信し、私は自分のクランの本拠へ向かう。

 

「お帰りなさいませ、立花様」

 

「えぇ、地下室の鍵を頂戴」

 

 受付に居た女性職員にそう問いかける。

 

「団長が誰も居れるなと……」

 

「優しく言っている内に――出して」

 

 銃を抜き、睨む。

 

「あ、はい……」

 

 鍵は簡単に出て来た。

 

 エレベーターで、最下層まで降りる。

 その先にある扉の鍵穴を、さっき貰った鍵で開く。

 

 廊下は、幾つもの留置室に面している。

 捕縛した犯罪者を、警察に引き渡すまで一時的に入れておくための物だ。

 

 今は、記録上、誰も入っていない事になっている。

 

 しかし……

 

 廊下の最奥。

 誰も居ない筈の特殊聴取室から。

 

 

 ――絶叫が響き渡っている。

 

 

 その扉の鍵は、閉まっている。

 鍵は世界に一つしか存在せず。

 きっと、中に居る人物はそれを持っている。

 

 ならば、外から開ける方法は。

 

 一つ。

 

「ブースト」

 

 鋼鉄の扉を、引っぺがす。

 

 金属音が鳴り響き、中に居る人物と私の視線が交差する。

 

「押戸なんだけどね、それ」

 

 部屋を見渡す。

 中心にある拘束椅子に座らされた青年。

 研修で何度も見た。

 ソーラ・レヴィ。

 

 両手両足の爪を無くし、歯を折られ口から吐血し。

 

 幾つもの注射痕の残った姿で。

 

 満身創痍の彼が居た。

 

「貴方は一体何を、してるの?」

 

「ドルイ・バスケット暗殺。

 それは、この島にとって国家転覆罪に等しい。

 彼は、その計画や首謀者の情報を知る証人だ。

 だが、中々を口を割ってくれなくてね。

 緊急性が高いと判断し、拷問している最中だ」

 

 同じだ。

 あの時と。

 全く同じ。

 

 私はまた、間違えた。

 

 

「――ふざけないで」

 

 

 ユア・オリオン。

 団長の視線の動きよりも、ずっと速く。

 私の手は、ソーラ君を抱えた。

 

 拘束具を破壊し、その身体を寝かす。

 

「大丈夫……?」

 

 私の声に、ソーラ君は小さく答えた。

 

「っやく、こんな(じま)……滅びればいいんだ……」

 

 涙を流し、誰かに願う様に。

 彼は、そう言って気を失った。

 

 持っていたポーションを彼に飲ませ、私は立ち上がる。

 

 振り返った先に居る、男を睨み。

 

「7年前、貴方は私に言った。

 今、世界で一番血の流れている島がある。

 その血を一滴でも多く止める為に、私に手伝って欲しいと。

 あれは、嘘だったの?」

 

「今、彼から情報を吐かせなければ、争いは激化する。

 この島で、もっと多くの血が流れる事になる」

 

「ソーラ君には、何の罪もないでしょう」

 

「首謀者と行動を共にしていた。

 それに、彼は数年前に壊滅させたテロ組織の子孫たちとも繋がりがあった。

 疑わない方が無理がある話だ」

 

「だからって、こんなやり方!」

 

「やり方を選んでいては、遅れを取る。

 大きな物を守る為に、小さな犠牲が仕方ない時もある」

 

「子供達を他国に売り払っていたのも、それが理由……!?」

 

 それは、確信の無いハッタリだった。

 けれど、団長は観念する様に話始めた。

 

「大国は、探索者という軍事力を寄こせと言って来た。

 遺物だけでは、足りないと言って来たんだ。 

 若ければ若い程、長く使える。

 だから、子供の方が数が少なくて済んだ」

 

 団長の表情を見て、私は思い出した。

 執行者(ヒーロー)を取り仕切っていた局長の顔を。

 この人も、あの人と同じだ。

 

 大儀の為に、小さな犠牲は仕方ないと、そう口にする。

 

 けれど、他の誰もそれを否定しなかった。

 私以外の全てのヒーローが、局長に同意した。

 

 私だけが、子供の様に喚きたてて、それを否定したのだ。

 

 私は、執行者を辞めた。

 そんな私を認めてくれたのは、貴方だった。

 貴方だけは、私の言葉を否定しなかった。

 

 けれどそうか。

 あの時の言葉も、嘘だった。

 

「……貴方のそれは、悪党の理屈だ」

 

 悔しい。

 この人にを悪足らしめたのは、私だ。

 

「君の理想(ひかり)は強すぎる。

 私には、現実(かげ)を踏み潰すのがやっとだ。

 君は、私如きに扱いきれる器では無かったという事だな」

 

「意味が分からない」

 

「だろうね。

 私達凡人の考えは、君の様な最強には分からない。

 君ならきっと、大国にだって物怖じせず吠えて見せた筈だ。

 だが、君が吠えれば、大国は本気になる。

 この島の安寧は、複数の大国同士が睨みを利かせた薄氷の上にしかない。

 君の言葉はそれを破壊する物で。

 私には、君の理想が叶うとは思えなかった」

 

「それはただ、正義から逃げただけ」

 

「君も、変わってきていたと。

 そう思っていたんだけどね」

 

 確かに、私は忘れていた。

 あの時、迷宮で言われた、あの男の言葉が蘇る。

 

 ルールだけが確実な正義では無い。

 そう、知っていた筈なのに。

 なのに私は、確かにそれを信じていた。

 

 法律だからと。

 決まりだからと。

 それを言い訳にして。

 

 だから、調べれば分かった事を調べなかった。

 

 私は、私の中に正義なんて物がない事を、理解するのが怖かったのだろう。

 これじゃあ、団長や局長と同じだ。

 

 

 ――それでも、私は認めた筈だ。

 

 

 研修所で、黒木棺に教えられた。

 私の中には、明確で確実な正義は存在していない。

 

 でも、団長や局長の正義が正しいとは思えない。

 

 だったら。

 

 

 【正義とは何か】

 

 

「答えを求める為に。

 私は、私の全霊を賭し、今の最善を行う。

 ――まずは、貴方の正義を否定する」

 

「君が真実を知る事が、私は怖かった。

 だから、準備は万全だ。

 この島の秩序の為ならば、一度くらい。

 ――最強(きみ)に勝って見せよう」

 

 二丁の銃を両手に握り。

 団長へ銃口を向ける。

 

「一つ、ヒーローをして分かった事もある」

 

「何だい?」

 

「弱い正義に、価値は無いって事」

 

 私は負けない。

 負ければ、私の正義は終わるから。

 

「団長。いや、ユア・オリオン。

 どっちの方が正しいか、勝敗で決めよ」


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