悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第19話 悪道

 

 黒い槍先が俺を見る。

 その持ち主の、黒い兜から覗く眼光。

 

 それは、真っ赤に染まり。

 

 言った。

 

「俺とやるって事は、テメェは死ぬって事だぜ」

 

「――そりゃ、随分楽しい事を言ってくれるな」

 

 切っ先がブレた。

 

 赤い閃光が見えた、気がした。

 

 

「――火竜槍撃《フレアストライク》」

 

 

 槍の先から俺へ向けて、道が燃え上がる。

 その速度は、瞬きよりも速く。

 

 神速の突きは、意識を越えて到達する。

 

 俺の身体が、炎に包まれた。

 

「温ぃぞ――

 この程度で、俺が殺せると思うのかよ」

 

 俺は腕を払う。

 巻き起こる突風が、炎を巻き上げ。

 

 空へ飛ばした。

 

 

「ッチ」

 

 

 もう一度だ。

 槍に力が籠められる。

 

 意識を鮮明に。

 視界を鮮明に。

 

 覚悟を、鮮明に、持て。

 

 見ろ。

 

 

「――火水竜槍撃《ダブルストライク》」

 

 

 槍が引かれ。

 圧倒的な速度で腕を振り、切っ先一点に込められた火と水を結合。

 水蒸気を爆発させて、横向きの円柱状に飛ばす。

 

 酷い力技だ。

 

 だからこそ、強力なのだろう。

 

 

「相手が、俺じゃ無けりゃな」

 

 

 中指を親指で弾く。

 突風の弾丸が、水蒸気にぶつかり、その威力を押し殺す。

 

 指の骨が折れて、即座に再生する。

 

 

「火事場にしちゃ、上出来の威力だテメェ。

 けどなぁ、俺はこれでもこの島で1番強い男を自負してる。

 1発2発防いだ程度で、調子に乗ってんじゃねぇよ」

 

 

 初見で、俺の膂力の構造を見抜かれた。

 

 情報を聞いていたとしても、俺が何をしたのかちゃんと目で捉えられたって事だ。

 

「今度は無傷じゃ済まさねぇ」

 

 大きく息を吸い込み。

 

 槍先が煌めく。

 

 

「――四連属龍槍撃(フォースストライク)ッッッ!」

 

 

 4本の突き。

 炎、氷、風。

 3本の槍が、俺の逃げ場を塞ぐように、左右と上に展開された。

 

 目前に迫るラストは電撃。

 流石に殴って止めるのは不可能。

 逃げ場もねぇ。

 

 

「突っ切るか……」

 

 

 呟き終える頃には、俺は一歩目を踏み抜いていた。

 

 疾走と呼ぶは少し無骨。

 腕を振り上げ、合戦に向かう兵士の様に、ただ電撃に向けて突進するだけ。

 

 身体が焼ける。

 身体が痺れる。

 

 身体が悲鳴を上げる。

 

「治せ」

 

 聲を黙らせ、ただ突き進む。

 

 

「――水竜槍薙(アクアウィング)

 

 

 振るわれた槍から、水が飛び出す。

 

 斬撃の軌道に乗った水が、ウォーターカッターの様に俺に迫った。

 

 

 スパッ。

 

 

 俺が、上半身と下半身に割れる。

 

 だが、上だけ残ってれば。

 

 もっと言やぁ、腕さえ治れば問題ねぇ。

 

 

「ケヘ」

 

 

 笑みが零れた。

 

「有り得ねぇ。

 そんなルートも。

 そんな戦術も。

 なんでテメェ、笑ってやがる!?」

 

「ここが俺の、正道!」

 

 振り上げた拳を、振り抜く。

 目前にまで到達せし、黒い騎士へ向けて。

 

 

「――ぶっ潰れろよ!」

 

 

 ッキィィィィィィン!

 

 パイプを殴ったような音と共に、男の身体が弾け飛ぶ。

 

 城の壁に激突。

 

 突き破り、更に奥まで吹き飛んだ。

 

「ホームランって奴かぁ?」

 

 下半身を再生させ、大地を踏みしめながら呟いた。

 

 ――瞬間。

 

「莫迦が。

 ただの、内野ゴロだろ」

 

 赤い光を帯びる黒の鎧が、俊足を以て飛来する。

 

 槍が男の後方で、高速で回転している。

 

 その回転を維持したまま、側面を通し前に出た。

 

 一気に、槍が頭上から、振り落とされる。

 

 その切っ先からは、薄っすらと光る白い煙が出ているように見えた。

 

「凍れ!」

 

 柄の部分を腕で受け止める。

 その箇所は一瞬で凍結し、一気に切断される。

 

「腕一本貰ったぜ!」

 

「じゃあ代わりに、頭を貰ってやるよ」

 

 叩きつける様に右腕を振り抜く。

 

 しかし、槍術という奴か。

 

 槍の尻を蹴り踏み、下へ落ちた刃が再び上がった。

 

 俺の太腿から腰、腹、胸と切り上げ。

 片目まで抉り取る。

 

 だが、俺の腕はそんな掠り傷で止まらねぇ。

 

「ッチ、狂人が」

 

 兜を掌底が穿つ。

 

「イケメンポイント。

 ……1ダウン」

 

 唇から血を流した奴の顔が露わになる。

 

 兜は明後日の方向へ吹き飛んだ。

 

「不死身かよ……

 クソが……」

 

 俺の身体の再生を見て、奴は毒突く。

 

「さっきから、遊んでんのか?」

 

「あぁ?

 煽ってんのかテメェ」

 

「なんで俺の弱点を突かねぇ?」

 

「弱点~?

 あんだったら教えろよクソが。

 まぁ、あるって分かっただけで上出来か」

 

 なんだ……?

 まさか、本気で知らないのか?

 

 ユア・オリオンがソーラを連れて行ったのは昨日だ。

 1日時間があって、聞き出す暇が無かったとは思えねぇ。

 

 この、筆頭戦力に教えられてねぇ訳が……

 

「まさか……

 ソーラは、黙ってたのか」

 

「誰の話してんだよ」

 

 あの馬鹿。

 さっさと言えばいい物を。

 

「警戒してたんだがな」

 

「あ?」

 

「マジで知らねぇならいいや」

 

「さっきから、何をブツブツ言ってやがる」

 

 ポーションを引っかけられたら俺は終わり。

 そう思って臨んでいた。

 

 だがそもそも。

 ハナからそんな戦術が、奴の頭に無いのなら。

 

 警戒も、用心も、歯止めも加減も。

 

 必要ねぇよな。

 

 

「次の一撃で、お前を殺してやるよ。

 ナンバー2」

 

 

 その言葉を引き金に、男は怒髪天に昇る。

 

「殺すぜ。

 確実に。

 絶対だ」

 

「立花吟に勝てねぇお前じゃ、俺には絶対に勝てねぇ」

 

「調子に乗んな。

 あの女は世界最強だ。

 誰も勝てねぇんだよ!」

 

 

「ケヘヘヘヘヘハハハハハハハハ!!!」

 

 

 あぁ、面白ぇ。

 あぁ、馬鹿らしい。

 

 俺は知っている。

 

 あの超人すら、容易く相手取った8人の悪党を。

 

 あのクソ生意気な小娘が。

 

「世界最強だと……?

 嗤わせんのも大概にしやがれ。

 最凶はニーズヘッグだ」

 

 神速の槍が引かれる。

 充填は刹那。

 貫抜きは一瞬。

 

 

「――五龍混槍撃(ノヴァ・ストライク)

 

 

 全霊で。

 

 死ぬ気を貫き。

 

 悪道を進め。

 

 

「これが、悪党(オレ)だ」

 

 

 込められる全てを込めた、最たる拳を。

 

 

 振り抜いた。

 

 

 激突は爆炎と成り、大地を焦がし、天を貫く。

 

 緑の禿げた大地を更に抉り、クレータを造り上げた。

 

 その中心点で、俺の立つ場所だけに芝が残っていた。

 

 

「うっ……ぁ……」

 

 満身創痍。

 騎士は崩れ落ちる。

 

 ……その鎧《プライド》も強さも覚悟も。

 

 何もかも砕け散る寸前だ。

 

 しかし、何より先に根を上げたのはその武装。

 

 黒い槍は、半ばより断ち切れた。

 

 そんな男に、俺は近づく。

 

「俺の負けだ……」

 

 負けを認め、まるで男としてお前を認める。

 

 みたいな、そんな意味わからねぇ面をしてる。

 

「――馬鹿かお前」

 

「あ……?」

 

「お前は今から死ぬんだぞ」

 

 負ければ死ぬ。

 当然の話だ。

 

 戦うのは、その存在を否定する為。

 

 もう、お前という俺への反乱因子へ物を言わさない為。

 

 言論統制って奴だ。

 

 手を伸ばす。

 

「止めっ……待て!

 待って……」

 

 首を掴み、男の身体を浮かせる。

 

「俺の負けだ!

 俺はもう何もできねぇんだぞ!

 そんな奴を殺して、お前に何の得があるってんだよ!?」

 

「だからよぉ……

 面が気に入らねぇ。

 って、言ってんだろ」

 

「へ……?

 なんだよ、その理由」

 

「命乞いの時間だぜ。

 自称、最強騎士様。

 俺を愉快な気持ちにさせてくれ」

 

「あっ――」

 

 首を強く締める。

 黒目が上がり、目が白くなっていく。

 顔が赤くなり、口から気泡が出始める。

 

「やめっ……

 俺はもう戦えね……

 お前の方が強ぇよ、だから頼む……」

 

 プライド何か、かなぐり捨てて。

 涙を流して男は言った。

 

「どうか……命だけは……

 助けて下さい……」

 

「ケヘ……ケッ……ケッ……」

 

 くつくつと。

 ふつふつと。

 頭が、快楽に満たされる。

 

 後十数秒で、コイツは死ぬ。

 首が折れるか、酸欠か。

 どっちにしても、死という事実は決定してる。

 

 僅かな命。

 僅かな意識。

 

 残された微かな時間。

 

 お前は何を、思い出しているのだろうか。

 

 好きな女の面か。

 家族の面か。

 殺めた誰かの面か。

 

 大昔に忘れっちまった走馬灯。

 

「死ね……!

 死んじまえよテメェ……!

 人を殺すのが、そんなに楽しいかよ……」

 

 それを見れるお前が、少し羨ましい。

 

「俺を殺しても無駄だ……

 クソ悪魔、お前なんかより……よっぽど悪魔見てぇな存在は存在する。

 それは、お前がこの城に入る事を許さねぇ。

 もし立ち入れば、お前は確実に死ぬ」

 

 そうか。

 お前の死期は、それでいいんだな。

 

「面白れぇ。

 悪魔には会った事がねぇ」

 

「ははっ……

 俺は2人あるぜ。

 どっちが勝っても下らねぇが。

 地獄で待っててやる……

 クソ……デビル……」

 

 そう言って、男の意識は落ちた。

 

 そのまま、俺は首を圧し折りにかかる。

 

 

 そんな俺の手から、男の身体が搔っ攫われた。

 

「止めなさい」

 

 月光に反射する黄金の髪を靡かせ、瞳を向ける。

 

「立花吟……」

 

「黒木棺。

 私の前で、人は殺させない」

 

「もう沢山殺したぜ。

 この屋敷に居た探索者共を」

 

「だとしても、もっと殺していい事にはならない」

 

「俺の邪魔はしねぇんじゃ無かったのかよ。

 貸しもあった筈だよな」

 

「ソーラ君は助けた。

 今は安全な場所に居る。

 それで、借りはチャラ」

 

「なんで、ソーラを助けると俺に借りを返せるんだよ」

 

「貴方はあの子を助ける様、私を誘導した。

 と言う事は、あの子は貴方にとって相応に重要な相手という事」

 

「ッチ……

 まさか、ここまで来て帰れなんて言わねぇだろうな」

 

「私も行く。

 この島で行われている事。

 ちゃんと領主に確かめる必要がある。

 そう、私の正義が判断したから」

 

「そうかよ。

 なら、さっさと行くぞ」

 

 リドラを寝かせた立花を一瞥し、俺はリドラを吹き飛ばして開けた穴から中へ入る。

 

「ちょっと待って」

 

 追いかけて来る立花を無視して、城の中を進んだ。


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