悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第21話 魔王

 

 赤黒い髪の女だった。

 容姿は少女にしか思えぬ。

 衣服は和装。

 黒い袴を身に纏い。

 軍服に似合う様な帽子を被る。

 腰には軍刀《サーベル》が差され。

 上から纏った羽衣は、大将を示すレッド。

 

 赤い瞳は、全能を示す様に、悪魔的な魅力を放った。

 

 少女は、倒れた男に近づく。

 

「棺、わしが蘇ったぞ。

 挨拶はどうした。

 ほれ、椅子位用意してもてなせ」

 

 そんな言葉を掛けても、男はピクリとも反応しない。

 

 それを見かねてか。

 角と羽と牙を持つ。

 そんな悪魔が、助言を呈す。

 

「それはもう魂が抜けてる。

 要するに肉体だけの人形だ。

 幾ら呼んでも動く事は無いよ」

 

 悪魔がそう言う。

 けれど。

 

 少女は、その言葉を全て無視して、呼びかけた。

 

「棺、わしが命じておる。

 いつ、わしが従わぬ事を許した?」

 

 いや、命ず。

 

 【立て】

 

「は……?」

 

 魂を抜かれ、生きていると言う事がはばかられる程の状態に置いて尚。

 

 男は、少女の呼び声に応える様に。

 

 ――立ち上がった。

 

「さて其方、わしは黄泉よりの帰還で疲れて居る。

 椅子になれ」

 

 応えは無く。

 行動だけが返答として。

 

 棺は少女の前で、四つん這いになった。

 

「ふん、中々良い座り心地じゃ」

 

 その背に少女が腰を下ろす。

 足を組み、頭をひじ掛けに頬杖を突き。

 不遜な態度で物申す。

 

「じゃが、酒と女が足りぬ!」

 

 その赤い瞳は、怯える女と気を失った女体へ向く。

 

「赤毛の女、名は何と申す?」

 

 まるで、意思が抜け落ちたように。

 プログラムされた音声を出力する様に。

 

「……エリス・バスケット……です……」

 

「ほう、ではエリス」

 

【近う寄れ】

 

 女が歩き始めたのを確認し、少女は満足そうにそれを眺める。

 

「エリスゥ!

 どこにいくのだ……!」

 

 ドルイ・バスケットが叫ぶ。

 

「其方は……なんというか……

 外見上褒める部分が一カ所もないのう。

 【下がって寝ておれ】」

 

 ドルイも、身体を動かし壁まで下がり気絶した。

 

 同じだ。

 話しかけられた全ての人間が。

 一様に指示に従う。

 その瞳から意思を消え失せさせて。

 

「よもや、そこに転がるのは吟か?

 宿敵を気取っておったが、まさかこの程度の魔性に侵されるとは。

 はぁ、撫でてやるから近くに来るがいい」

 

 男を椅子とし。

 女を2人侍らせて。

 支配する。

 

「吟は昔から貧乳(チッパイ)よな。

 9年経てば育つ物も育ちきるだろうに。

 じゃがそれとは逆に、尻は中々良い触れ心地じゃ」

 

 寄らせた立花吟の腰に手を回し、尻を撫でまわす。

 対して、逆側に侍らせたエリスにも。

 

「こっちは爆乳じゃのう。

 揉み心地は最高じゃ!

 肌触りも良いし、己の美醜を理解した反応をしおる。

 初々しさはちと欠けるが、悪くない」

 

 乳を揉みしだき。

 尻を撫でまわし。

 

「ゲヘヘヘヘ……」

 

 エロい顔で、少女は色欲を満たしている。

 

「世の美男美女は全てわしの物。

 財も芸も美も酔も、人も。

 尽くわしの物じゃ」

 

 漸くだ。

 少女の赤い瞳が、漸くソレに向く。

 その光景を見て、理解に苦しんでいた。

 そんな悪魔へ。

 

「さて悪魔、そろそろ其方の話を聞いてやろう」

 

 悪魔と総帥の視線が混ざる。

 

「君こそ名乗りなよ。

 一体どこから湧いた、何者なのかな?」

 

「――其方今、儂に命じたか?」

 

 その表情が、一変する。

 

「あまり、調子に乗るな」

 

【頭が高い】

 

 その瞬間、悪魔の身体が強制的に稼働する。

 頭が大地に引き寄せられた。

 

「僕相手に、その程度の技が通用するか!」

 

 だが、圧倒的な魔力の放出がその異能を弾き返す。

 

 言の葉を耐え、立ち直す。

 

「ほう……?

 ならば褒美に、儂の名を教えてやろうか。

 ニーズヘッグ総帥、【エンテス】じゃ」

 

「エンテスね……

 君は僕が倒した2人の人間より、強いのかな?」

 

 余裕の笑みで悪魔は語る。

 

「倒した……?

 倒せぬから、封じたのであろう」

 

 笑みを返して総帥は煽る。

 

「この男は儂の臣下だ。

 敗北など、許した覚えはない」

 

「それは残念だね。

 とっくにそっちの彼は負けてる。

 何せ、魂が入ってないんだから」

 

 悪魔の言葉に、エンテスは笑い声を上げた。

 

「クッククク……ハッハッハハハハハハ!

 その程度で勝利とほざくか……?

 其方は将棋でも指しておれ。

 今から其方は儂に命じられ死ぬ。

 にも関わらず、この程度で棺が負けたとは、随分甘い認識をするではないか」

 

「僕が君に負ける?

 君こそ、随分甘い妄想をする。

 君の力は僕には通じなかった。

 言葉を操る君の能力は、純粋な力の前じゃ無力だろう」

 

 そこまで、会話を続け。

 両者、強く互いを睨む。

 

(さて、わしが顕現して居れる時間もそう長く無さそうだのう)

 

(魔力的には召喚獣、精霊に近いか。

 って事は、制限時間ありき。

 何者か知らないけど。

 使い魔如きが、僕に勝てる訳がない)

 

「闘争か逃走か。

 決める(いとま)は、今より先には存在せぬぞ?」

 

「負ける気がしない相手に逃げる意味、ある?」

 

 

 【其方たち、下がって居れ】

 

 

 少女(エンテス)が、黒木棺の背から降りる。

 その声に導かれる様に、三者は立つ。

 そして、彼等は扉の付近まで下がった。

 

 空間は、二者により、完全に支配された。

 

 死人成りて。

 満足ゆく生。

 だとしても。

 

 未だ生き足掻く、其方が儂を呼ぶのなら。

 

「棺、さぞ辛かっただろう……

 一人残された其方の気持ちを汲み取れる者等、現世に存在する筈もなし。

 故に、儂が命じよう。

 良く視。良く考え。良く戦え。

 必ず、その先に答えは存在しておる」

 

「……何を言っているのかな」

 

「何、久々に会った部下を褒めていただけ。

 気にするな。

 さて、死ねば言葉も紡げぬのだ。

 名を名乗るが良い、悪魔」

 

「ベルゴール。

 君が死んで僕の言葉が聞けなくなる前に。

 教えて上げる」

 

 

 【では、ベルゴールよ】

 

 

 心の内で、エンテスはそう言って。

 口に出す。

 

 

 【死ね】

 

 

「だから、効かないって!」

 

 その手に、青い魔法陣が出現する。

 現れるのは氷の槍。

 エンテスへ向けて射出する。

 

 それを見て、少女は腰の軍刀を抜いた。

 

 ――閃。

 

 氷の槍が、切り捨てられる。

 

「僕の魔法を斬った……?

 さっきの人間共よりは、確かに強いね」

 

 そんな言葉を、涼しい顔で流し。

 ベルゴールへ問いかける。

 

「何故、其方は儂の命令を『訊かぬ』?」

 

 黄金の雷が放たれる。

 

「その力は精神に干渉する物だろう?

 けど、僕は魔力で精神をプロテクトしてる。

 そんな小技は僕には『効かない』よ」

 

 それを、難なくエンテスは躱す。

 

「違うな。

 儂の言葉を訊き、実行する。

 それが、全人にとっての幸福じゃ。

 それを何故に拒絶する?

 貴様の為に、言っておる。

 儂が死ぬべきと判断した貴様は。

 ――死んだ方が幸福だと」

 

 赤い瞳が輝る。

 その目に、迷いや戸惑いは一切無い。

 まるで、常に同じ何かを凝視しているかのように

 不動。

 

「儂の意見は他の何より優先される。

 それが、最も全人の為になるからじゃ」

 

 放たれた炎を、剣圧で吹き飛ばし。

 

「狂ってるのか、人間……」

 

 悪魔は更に、魔法陣を展開していく。

 

「狂っている?

 自覚無き馬鹿を王にする事こそ狂乱よ。

 国王、皇帝、大統領、首脳、総理どれも。

 天地見渡す全人中、儂が最も適任じゃ」

 

 一斉に放たれた5つの魔術。

 属性を球体に押し込めた爆裂するそれを。

 

 避けて、

 斬って、

 砕く。

 

 

「この自覚のみが、王の器と知れ」

 

 

 ニーズヘッグ初代総帥。

 悪の組織を創り、一代で最強と呼ばせた。

 ヴィランネーム【全人の皇帝エンテス】。

 

「――我、命ず」

 

 その言葉は、悪魔へ向けた物ではない。

 

 剣を掲げ、天に唾を飛ばす様に放たれる。

 

 その言葉は。

 

「我、天上天下に敵は無く。

 我、全人を導く覇者と成り。

 我、最強へと至るがいい!」

 

 己へ向けて。

 

 

「――異能力【他化自在(たけじざい)】」

 

 

 赤い稲妻が、その身に走る。

 

 放出される圧倒的な魔力、圧力、引力。

 

 総じて――覇気である。

 

「この力を使うのも九年振りか。

 悪魔よ、簡単に死んでくれるでないぞ」

 

 赤黒い覇気を纏い。

 最凶と呼ばれた総帥は。

 

 切っ先を、迷宮の悪魔へと向けた。


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