悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第22話 天魔嗤う

 

 

 ――赫雷が、舞い散る。

 

 

 散った刃より放たれるは、天を嘲笑う雷鳴の怒号。

 

「ほれ、次は脚か――?」

 

 背より声が響く。

 

 腕が舞う。

 肩より先を失いて、斬り飛ばされた。

 同時に、右翼が落ちて赤が地面を汚す。

 

 軍刀を振り抜いた姿勢で、頬に着いた血を拭い。

 

 天魔が嗤う。

 

「悪魔の血も赤いのか。

 良い事を知れた」

 

 汗が、額を伝う。

 悪魔の目が、揺れる。

 

「今……何をした……?」

 

「見えぬか?

 ならば、次はもう少し遅くしよう」

 

 まただ。

 

 何かが来る。

 対処を、防衛を、用心を。

 しないといけないのに。

 

 何をしていいのか、分からない。

 

 赤い稲妻だけを残して。

 その姿が掻き消える。

 

四性天界陣(クオリティア・ヘブン)!」

 

 全方位を完全に囲う、己が最上の防御魔法。

 理解不能なその攻撃に、対抗手段は浮かばず。

 逃げる様に、一番の魔法に頼った。

 

「ねぇねぇ、ベルゴールくん」

 

 トントンと、肩が叩かれた。

 

 その声は、結界の内部より聞こえる。

 

「だれじゃとおもう?」

 

 首を曲げて、後ろを見る。

 小さな少女が、その背に密着している。

 

 更に奥。

 

 結界に、無理矢理こじ開けた様な破損が見えた。

 

 三日月の様に。

 その紅色の口が、歪む。

 

「わしのような完璧美少女に、こんな事を言われたのだ。

 飛び跳ねて喜ぶがよい」

 

 手に、刀は握られていなかった。

 鞘に納めた刀の代わりに、その拳が大きく引かれて。

 

 

「――命令じゃ、弾けよ」

 

 

 後ろから腰を殴りつける。

 

「ぐっああああああああああああ!」

 

 弾け飛んだその身体は、己が作り上げた鉄壁の結界にバウンドし。

 

 地面と結界を行き来して。

 数十回跳ね跳んだ挙句。

 全身骨折の末。

 結界を突き破り、壁に練り込んだ。

 

「我が命、今度は聞けたではないか。

 その調子で自覚せよ。

 儂の命令を訊かぬとは……

 不幸であると」

 

 下半身だけが壁より露出する悪魔を眺め。

 最凶最悪の総帥は、微笑む。

 

「クソ……」

 

 壁が喋る。

 

「クソ、クソ、クソ……」

 

 パラパラと石礫を崩して、身体を壁から引き出す。

 

「今の結界が、何日分の魔力だと思ってる……

 さっきの魔法の連打で何時間分の魔力だと思ってる……

 僕の貯蔵した魔力を、たかが人間一匹の為に……」

 

「棺とまではいかぬが、随分な不死身っぷりじゃなぁ」

 

「僕の貴重な魔力を!

 どれだけ無駄にしやがる!」

 

「魔力とな……

 それが、其方の力の正体か?」

 

「7年掛けて、人間共から蓄積した魔力……

 まさか、ここまで使わされるとはなぁ!」

 

 圧力が増す。

 片翼の羽で飛翔し、空へ佇む。

 その眼光が、青く染まる。

 

 

「エクストラスキル【魔杖作成(デビルスタッフ)

 

 エクストラスキル【魔力解放(マナリンク)】」

 

 

 斬り飛ばされた腕と羽が独りでに動き始め、悪魔の手元へ吸い寄せられて、融合する様に一本の杖を創り出した。

 腕に羽を纏わせた錫杖の持つ魔力は、その概念を知らないエンテスにも感じ取れるほど絶大。

 

 

「あぁ、嫌だ嫌だ。

 努力すればとか、運が良ければとか、才能があればとか。

 人間如きが、希望に縋るその愚かしさ。

 心底吐き気がするよ。

 ほんの少しでも勝てると思った?」

 

「其方……」

 

「残念だったね。

 僕の勝負は、他の悪魔を出し抜いて魔王へ至る事。

 君達はただの、盤上に配置されたお邪魔キャラだ」

 

 赫い雷を残し、軍刀が悪魔の首を狙う。

 

四性天界陣(クオリティア・ヘブン)

 

 呟く様に発動されたその結界。

 

 それが、一刀を完膚なきまでに受け止めた。

 

 前の物よりかなり小型。

 それはつまり、ベルゴールの反応速度が完全にエンテスに追いついた事を意味している。

 

 バチバチと音を立て、結界と刀が鍔迫り合う。

 

「これが、現実だよ」

 

 エンテスの刀は弾かれた。

 

「この杖を使わせたのは褒めよう。

 ダンジョンコアと魔力接続までさせた事も。

 けど、所詮その程度だ。

 人の中では、最強に近い強さなんだろう。

 でも、そんな下級規格の話、僕等には関係ない」

 

 刀を弾かれたエンテスが、一歩下がる。

 何も言わず距離を取った。

 

 それを見て、悪魔が笑みを浮かべる。

 

 

「――さぁ、行くよ」

 

 

 一歩、悪魔がエンテスへ距離を縮めた。

 杖を床に叩きつけたその瞬間、その後方に。

 

 数十、いや百を越える。

 

 圧倒な量の魔法陣が展開される。

 

 虹色の魔法陣の数々。

 それは一様に、エンテスを照準(ロック)する。

 

「貫け、無限の矢(アルテミス)!」

 

 唖然と少女はそれを見ていた。

 しかしどこか、その表情は歓喜する様に。

 

(あぁ、あの時と同じじゃ。

 よもや、またしても儂を殺そうと立ちはだかるか)

 

 群れを成す彗星群。

 数多連射の矢の嵐。

 

 それを見て。

 

 少女は、軍刀(サーベル)の刀身を撫でた。

 

(のう、龍酔(りゅうすい)……

 其方も、奮い立っておるのだな。

 当然か、復讐を果たせるのだから)

 

 刀身が赫く染まっていく。

 蛇、いや龍の紋様が浮き上がる。

 

「命じよう、龍酔」

 

【全霊解放、羽虫の群れを叩き落とせ!】

 

 

 ――稲妻の輝きが、天へと吠えた。

 

 

 圧倒的な速度。

 圧倒的な剣速。

 

 あっという間に、魔法の嵐が切り捨てられる。

 

「我が名はエンテス。

 三千世界の皇である。

 身の程を弁えよ、悪魔風情」

 

 声が、少し低くなってゆく。

 

「なんだ、その姿……!」

 

 華奢な姿が一変する。

 

「あぁ、儂も歳を食った物だな」

 

 成長している。

 としか、言いようがない。

 身長は伸び、女性らしい膨らみを増し。

 

 何より、威圧感が研ぎ澄まされていく。

 

「幼女相手に本気になって。

 随分と楽しそうだったではないか。

 そういう者を何と呼ぶか教えてやろう。

 この雑魚が……!」

 

 魔王が嗤う。

 

「は? なんでだよ……?

 意味わかんないよ……!」

 

 心底、ソレを馬鹿にして。

 

「我が剣、龍酔に斬れぬ物は無い」

 

 その剣の前に立つ者全て、龍前に並ぶ飯でしかなし。

 

 名付けられた刀銘は――龍酔御膳(りゅうすいごぜん)

 

 全ての魔法を断ち切って。

 全ての魔力を無力化して。

 全ての攻撃を終わらせて。

 

 その切っ先は、悪魔へと向く。

 

「さぁ、撃ってみよ。

 貴様の奥の手、九年前のアレと同じ物を」

 

「9年前……?

 何を言ってる……

 僕がこの世界に来たのは7年前だ。

 9年前に来たのは序列1位の……」

 

 

 そこまで言って、悪魔は一言「あっ」と零す。

 

 

「まさか……あの一撃を……

 序列1位の流星魔法を止めたのは……!」

 

 最凶と呼ばれ、正義の執行者すら恐れた。

 そんな、悪の組織を壊滅させたのは。

 たった一発の弾丸だった。

 

 直径94km。

 最大速度、秒速19km。

 

 隕石と呼ばれる弾丸。

 

 総帥エンテス。

 及び、幹部8名の全霊に置いて。

 その隕石が地上へ到達する事は無かった。

 

 黒木棺以外の全ての幹部と総帥は。

 文字通り蒸発し。

 ニーズヘッグは、壊滅したのだ。

 

「儂は見たぞ。

 太陽にも勝る光の中で。

 月と重なるその幾何学模様を。

 其方が魔力と呼んだ輝きを!」

 

「あれを止めたって言うのか……

 そんなの、そんな奴に……

 僕なんかが勝てる訳……」

 

 震える身体。

 愕然とした表情。

 すっかり、その身から魔力は抜け切っていた。

 

「なんじゃ、あれは貴様の仕業ではないのか。

 つまらん……」

 

 黒い長髪を掻き揚げて、女性的に育ったその身を抱く様な仕草をして。

 見下す。

 

「ならば、この(いくさ)はこれで終いじゃ」

 

 赫い刀を引き摺って、魔王が近くに寄る。

 

「知らぬが仏と言うじゃろう?

 儂は言うたぞ、死ぬべきじゃと。

 其方に勝利は存在せぬ。

 その絶望を、知る前に」

 

 その膝が笑う様に崩れる。

 見上げるそこにて、天魔が嗤う。

 

「ぁ……ごめんなさ……」

 

 右手が刀に貫かれる。

 その手に持っていた黒い宝玉と共に。

 

「アガッ!」

 

 白い何かが、2つ。

 割れた宝玉より、抜け出て行った。

 

「次は其方の命の番じゃ」

 

 そう、刀を振り上げた。

 その瞬間。

 

「なにっ……!」

 

 エンテスの表情が、苦悶に歪む。

 後方より現れ出る。

 

 人骨で創造されし門より、幾本の黒縄が、その身体を巻き上げる。

 

「なんじゃ! この縄は!」

 

 エンテスが振り向くと、その黒縄が門の先へ繋がっている事が分かった。

 その縄が引かれる力は、エンテスの力を無視する様に圧倒的。

 

 一切の抵抗ができない。

 

「ははっ、はははははははは!

 そうだったじゃないか!

 何が最強だ! 何が王だ!

 お前は所詮、使い魔だろうが!

 魔力が切れれば地獄へ戻る。

 不完全な存在だ!」

 

 その笑い声に言葉を返す余裕もなく。

 エンテスの身体は引きずられてゆく。

 

「閻魔風情が、儂の歩みを邪魔するか!」

 

 刀を使って縄を斬ろうと試みるがしかし。

 その縄の頑丈たるや、傷一つ入らぬほど。

 

「く……逆らう手立てはないか……

 腹立たしい!」

 

「消えろ!

 お前さえ消えれば人間なんか家畜と同じ!」

 

 エンテスの感情の発露と同時に、赫雷が放出し黒縄を焼く。

 

「儂を御するとは、まこと忌々しい縄じゃ……」

 

 悟る。

 帰還は、確実の定めであると。

 だから、その瞳は、その声は。

 

 眠りこける、男へ向いた。

 

【棺! 起きよ!】

 

 その声に、バッとゾンビの様に起き上がり。

 

「待ってくれよ、総帥!」

 

 今にも泣きだしそうな子供の様な表情で。

 黒木棺は、そう言った。

 

「馬鹿者が……」

 

 その表情を見て、小さくエンテスが呟く。

 

「棺、すまなかったな。

 夢を叶えず儂は死んだ」

 

「俺も……」

 

 手を伸ばす。

 母親に捨てられる事を拒む孤児の様に。

 

 

 ――置いて、行かないで。

 

 

 そんな思いが、透けて見える。

 

「儂の夢は儂の物じゃ。

 そして、その夢は潰えた。

 儂は死んだ。

 しかし、我が生涯に後悔はない」

 

 追う様に、棺が走る。

 

「待ってくれ、待ってくれよ!」

 

 エンテスはその叫びを、何処か苦しそうに。

 ……けれど微笑んで、拒絶する。

 

「其方を二代目ニーズヘッグ総帥と認める。

 それでも、其方はこちらへ来るか?」

 

 足が減速する。

 足が止まる。

 

 漏れる様に、彼は言った。

 

「……行ける訳、ねぇじゃねぇかよ。

 ロリババア……」

 

「ロリババアじゃと!?

 儂はまだ三十だ……

 棺! ぶっ殺してしまうぞ!」

 

「うるっせぇ、テメェで自爆しただけだろうが!」

 

「ッチ、減らず口は健在か……」

 

 一つ、咳払いをしてエンテスは言い直す。

 

「しかし其方、恰好の良い男になったな。

 生前なら抱いてやった所じゃ」

 

 冗談めかしてそう言うエンテスへ、棺は涙を拭って答えた。

 

「アンタの声は、宝玉の中でも聞こえてた。

 心配すんな朱雀……俺はお前も越えてやる」

 

 不死人なれど、生者のそれより一層強く、瞳をギラつかせる。

 

 その言葉に、最凶の王は心底笑顔でこう答えた。

 

「必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ。

 故に、其方へ命ずる。

 

 ――儂を、越えよ」

 

 

今一時(いまひととき)――儂の言葉を貸してやる】

 

 

 その身が、門の奥へ隠れていく。

 

「まずはそうだのう……

 儂を笑ったその小僧を、殴り飛ばしてしまえ」

 

 

 

 ◆ バタン――!

 

 

 

 あぁ。

 クソが。

 

 アンタは卑怯だぜ。

 あの隕石に挑んだ9人の中で……

 俺だけが生き残っちまって……

 

 どうしたらいいか分かんなくて。

 なんで生きてんのか分かんなくて。

 

 刑務所に引きこもって。

 

「はは、随分自分勝手な人間だったね。

 君如きじゃ僕を倒す事なんて不可能なのに」

 

 また、戻っちまった。

 あの、ガキの頃の何も無かった時に。

 そんな、俺の迷いを知ってか知らずか。

 

 アンタは、たった一言でグチャグチャにしていった。

 

 

「――うるせぇよ三下」

 

 

 自覚しろよ、俺様(クソッタレ)

 俺は……二代目ニーズヘッグ総帥。

 『黒木棺』だ。

 

「俺は!

 負ける事なんざ、許されてねぇ――」

 

 アンタの言葉を借りてやる。

 

 アンタを越える、そのために。

 

「赫い……」

 

 震え声で、悪魔は呟く。

 

「なんでお前が……」

 

 俺の身体に纏わりつく、赫雷(そのこえ)が!

 

 

 俺が総帥になった、何よりの証明だ――

 

 

赫正拳(せきせいけん)……」

 

 赫い雷電が、俺の拳に集約される。

 

「やめろぉぉぉおおおおおおおおおお!」

 

 踵に集めた(ちから)を使い、その懐に潜り込み。

 

 

「――(なる)(かみ)ぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 赫い雷を宿す拳はその腹に直撃し、赫を背より貫通させる。

 

 赫だけが。

 その部屋に充満し。

 全てを染め上げた。

 

 

 残ったのは。

 ボロボロというより、バラッバラッに成っちまった悪魔だけ。

 

 その体は、ダンジョンの魔物と同じ、溶ける様に消えていく寸前。

 

「ニィィィンゲェェェンンンンン!!

 これで終わりだと思うなよ!

 ダンジョンがある限り僕は蘇る!

 必ずお前を殺してやるからな!」

 

「その前に、ダンジョンなんざぶっ潰してやるよ」

 

「だったら来なよ!

 僕の城(ダンジョン)に!

 待ってるからさぁ! 絶対来なよ!?」

 

 捨て台詞を吐いて、悪魔は溶ける様に消滅した。

 

「クソ、一発で今までに無ぇくらい身体がボロボロだ……」

 

 細胞一つ一つがぶっ壊れてる。

 完治には何分も掛かっちまいそうだ。

 首斬って再生し直した方が早ぇ位。

 

 こんな力を、アンタは嗤いながら振り回してやがったのかよ。

 

 壁は高ぇな。

 

「ケヘヘヘヘヘヘヘ」

 

 ケヘヘヘヘヘヘヘ。

 

 ケヘヘ。

 

「気持ちの悪い笑い方……

 何か、服が着崩れてるし……」

 

 あぁ、そりゃまぁ、あの色欲女の事だから。

 黙っとこ。

 

「それに、何があったらこうなるの……?」

 

 立花吟が近寄って、俺にそんな事を聞いて来る。

 俺が開けた大穴を見て。

 

 一夜にして、城が消し飛んだ。

 

「私でも、ここまではできない。

 粉々に破壊したんじゃ無くて、完全に消滅してる」

 

「何、前総帥が暴れて行っただけだ」

 

「どういう意味?」

 

「なんでもねぇよ。

 それで、エリスとか言ったか?」

 

 頭を押さえて起き上がり、城だった跡地の光景に唖然としながら。

 

「はい」

 

 それでも、落ち着いた返事をできるだけ上等だ。

 

「悪魔は撃退した。

 これでも、俺は不合格か?」

 

「……いいえ、あの悪魔に敵対した以上、この島の道は一つ。

 私たち夫婦は、貴方に従ってこの島を運営する事を誓いましょう」

 

 第一目標・迷宮島征服。

 これで、完了だ。

 

 問題は死ぬ程あるだろう。

 だが全部、死ぬ気でやるだけだ。

 そう、あんたに教わったからな。

 


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