悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第4話 クエスト

 

 面倒極まりない相手。

 俺がこいつに向ける感情は、そんな所だ。

 

「ブースト」

 

 それが、立花吟(たちばなぎん)の持つ異能力。

 

 の一つ。

 強化。

 

 あらゆる物の異階を上昇させる。

 肉体に使えば、硬度や身体能力が向上。

 銃なら弾丸の速度と射程、威力が上がる。

 

「カカカカ……KKKkkkkkkkk」

 

 不気味な、骨の鳴る音が響く。

 その出所は一目瞭然。

 

 大鎌を振り上げ、巨大なそれは動き始める。

 

「シールド」

 

 半透明な盾が、立花の身体を守る。

 あの女の『2つ目』の異能力だ。

 鎌の一撃を完全に、ノーモーションで受け止めた。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐きながら、二つの銃口が骨に向く。

 狙いは頭蓋。

 

 強化(ブースト)された銃は、青く輝き。

 

「フレイム」

 

 青い炎が、銃口から放たれた。

 

 ブースト。シールド。フレイム。

 どれも単純な異能力。

 だがコイツは、単身で3つの異能を保有する。

 

 それが、この女を最強たらしめる理由。

 

 こいつの銃。

 シルバーイーグルの装填数は9発。

 それが2丁で18発。

 

 全弾撃ち尽くして行く。

 

 完璧な人間。

 そんな在り方が、俺に怒りを沸かせる。

 

 

 この女は9年前の時点でも、裏の顔よりも表の顔が知れていた。

 

 祖父は元総理大臣。

 父親は財閥のオーナー。

 母親は裁判官。

 

 そして、コイツはあらゆるスポーツ大会で上位を取った経験を持ち。

 勉学も上等以上。

 

 その上、大手芸能事務所に在籍し、モデルや歌手として活躍していた。

 

 9年前。

 高1時点でだ。

 

 世界から愛されている。

 超人と呼んで、間違いは無いだろう。

 

 

「よし」

 

 彼女は振り返る。

 その背の向こうで、骨の王は倒れ伏す。

 

「怪我は無い?」

 

「心配は要らねぇよ。

 お前に助けて貰う事は、何もねぇ」

 

「なんで、私をそんなに憎むの?

 これでも、人を助けられている自信はあるんだけどね」

 

「お前はただ、嫌いな奴を殴ってるだ」

 

 少し、怒ったような面で。

 

「……何処が?」

 

 立花吟は俺を見る。

 

「お前は、死にたいと願う人間を前にした時、どうする?」

 

「願うよ。死なないで欲しいって。

 その為に、私にできる事があるのなら、それをする」

 

「悪人は、生きたいと願う人間をぶっ殺す。

 お前と同じ様に」

 

「それの何処が、私と同じなのかな……」

 

「お前がやってるのは、お前の都合だ。

 ただ、やりてぇ事をやってるだけ。

 死にたいと願ってる連中の頼みを聞いて、叶える。

 そんな大層な仕事があんのなら、俺を助けてる暇なんかねぇ筈だ」

 

 お前じゃ世界なんか守れない。

 今現在が、その証拠だ。

 

 死にたい奴なんて、世界中に死ぬ程居る。

 

 目の前いなけりゃそういう奴を救おうとはしない癖に、目の前にもいない悪党を好き好んで追い回す。

 

 それが正義の偽善者(ヒーロー)様だ。

 

「さっさと、全員幸せになれるルールを作ってくれよ」

 

「……貴方の語っている事は、貴方が語れる程単純な事じゃない。

 沢山の色んな関係や要素が組み合わさって世界はできている。

 その全てを把握して、全人が幸福になれる世界を作るなんていうのは。

 

 ――非現実的(ふかのう)

 

「あぁ、だから、どういうルールにするか悩んでる最中だ。

 けどまぁ、その前に酷く単純な前提を満たさなきゃならねぇ」

 

 影が差す。

 巨大な影。

 

 あの骸骨が、倒れた先にあった。

 立花吟が撃ち抜いた、俺のゾンビ共。

 その中にはまだウイルスが残ってる。

 その菌は、骨にすら感染し。

 

 

 ――蘇る。

 

 

「なんで……倒した筈なのに……」

 

 まぁ元々、俺の能力で呼ばれて来た存在だろう。

 

 助けてくれなんて言ってみたが、自分の始末を人任せにはしねぇさ。

 

 完全な暴走状態。

 俺にも支配できない程上位な相手。

 

 だから、俺の能力で呼ばれた存在なのに。

 ゾンビウイルスも感染していても。

 

 言う事を聞かねぇ。

 

 そんな、欠損兵は要らねぇわ。

 

「下がって。もう一度、私が倒すから」

 

 そう言って、立花吟の出した手を。

 俺が掴む。

 

「何するの!」

 

「黙れ、下がってろ」

 

 強引に腕を引いて、後ろに下がらせる。

 

「私が……力で負けた……?」

 

 呆けた面の立花を無視して、俺の目は敵を向く。

 

 立花のブーストは、身体能力を強化する。

 それは、俺の全力を容易く受け止める程。

 

 しかし、俺には全力の上がある。

 

「貴方……一体……」

 

 全力とは、俺の身体が壊れない最大威力。

 

 だが、ゾンビである俺は驚異的な速度で再生能力できる。

 

 生まれつき、俺には身体能力のリミッターは無かった。

 

「人生――全霊で生きなきゃ意味もねぇ。

 不可能何て言葉を口にするなら、最初から俯いて生きてろよ」

 

 起き上がった巨骨の服が、青く燃え盛る。

 

 俺の後ろから、銃声が響いた。

 

 しかし、放たれた青い炎は奴の身体に吸い取られ。

 

「私の炎を、制御して纏ってる……

 普通の骸賢王(ハイエストリッチ)じゃない……」

 

 諦めるなら勝手にしろ。

 俺も勝手に、諦めねぇ。

 

「逃げて!」

 

 全身の毛穴から、血が零れていく。

 全身の筋肉が、悲鳴を上げている。

 全身の骨が、咽び泣いている。

 

「貴方が勝てる相手じゃない」

 

 身体能力の上限突破。

 肉体という前提を越えて。

 俺の身体は加速し、力を蓄えた。

 

「私に任せて、貴方が下がって!」

 

 

 ――前提だ。

 

 

「次のルールを作るには、今あるルールを壊さなきゃならねぇ」

 

 

 ――それが、この世界に存在する前提。

 

 

「だから、取り合えず気に入らねぇモンはぶっ壊す」

 

 

 身体がブレる。

 意識を越え、想像した未来へ跳躍する。

 

 眼下に見えた。

 骨の化物の脳天。

 

 

 ――まず、テメェは(いら)ね。

 

 

 洞窟の天井を足場した。

 逆を向き全霊で跳ぶ。

 

 天への一歩目で左足が。

 地を向く二歩目で右足が。

 

 千切れ飛んだ。

 

 だが、速度は得た。

 

 その推進力を、全て一点(こぶし)へ。

 

「カッ――――――」

 

 奴の放った青い炎を突き抜けて……

 

 奴の視線よりずっと速く。

 

 俺は、地面に着地している。

 

 残ったのは、胴と頭と左腕だけ。

 

 しかし、失っただけの価値はあった。

 

 怪物が消えていく。

 まるで、魂が消えていくように。

 まるで、高熱に蝋が融けていくように。

 

 骨は、砕けた。

 

 

報酬(ギフト):ステータスカード》

《ランク:S》

 

 

 そんな声が、頭に響く。

 目の前に、謎の札が舞い降りる。

 パタリと、地面に倒れた。

 

 地を這いずる俺に、女が近づいて来る。

 俺の頭へ銃口を向けて。

 

「貴方みたいな戦い方をする悪党を、1人知ってる。

 ニーズヘッグの【デビルアンデッド】……

 なんで、生きてるの……」

 

 そもそも、俺は幹部換算されてねぇ。

 幹部全員死んだって聞いたお前が、勝手に勘違いしていただけだ。

 

「罪を償って出所した」

 

「ふざけないで。

 ニーズヘッグの幹部が、9年で出所できる訳ない」

 

「そうだな。

 だが、俺が幹部だったなんて証拠は無い」

 

 俺の情報は、全て玲が消した。

 昔の研究データを含めて全て。

 物理的な書類も、俺自身が葬って回った。

 もう、何処にも残ってねぇ。

 

 ニーズヘッグの幹部以外には、8番目の幹部の存在は伏せられていた。

 知っているのは、実際に俺と相対したヒーロー様くらい。

 

 だが、俺が昔お前達と遭遇した8番目の幹部であると証明する手段はない。

 

「そもそも、ニーズヘッグの幹部は7人だしな」

 

「そんな言い訳が通じるとでも……」

 

「少なくとも、法律には通用したな。

 これが、お前の守ってる正義(ルール)だろ。

 違うと思うなら、変えるしかねぇ」

 

「そんな事をしなくても、私が貴方をここで倒せばいいだけ」

 

 シルバーイーグルの引き金に、指が掛かった。

 

 それを見て、俺は笑みを抑えきれない。

 

 お前にそれはできない。

 

 法律ガン無視の暗部ならともかく。

 お前は根っからのヒーローだ。

 そんなお前には、俺は撃てねぇ。

 

「やれよ。

 法律的に何の罪も無い俺を、勝手な考えで死刑にしよう。

 悪の組織に転職希望でも出してみるか?

 歓迎するぜ、この悪党」

 

「……このっ」

 

 祈る様に立花吟は目を瞑る。

 眉間に皺をよせ、願う様に悩む。

 カタカタと怒りで手が震え始め、勢いよく目が開く。

 

「その獰猛な面の方が、似合ってるぞ」

 

「……自分で帰って」

 

 そう言って、彼女は銃を仕舞う。

 そのまま、場を後にしていく。

 

「瀕死の探索者をダンジョンに置いて行くなんて、とんでもねぇヒーローだぁ!」

 

 そう、背中に声を掛けた瞬間、銃弾が俺の頬を掠める。

 弾痕が、地面を汚す。

 

「瀕死じゃ無いでしょ、ゾンビ」

 

 ケヘ。

 バレた。

 

 損傷に意識を向け、手足を生やす。

 再生能力も、コントロールは利く。

 

「ヒーローってのはめんどくせぇな」

 

 一人残された俺は立ち上がる。

 そのまま、目の前に落ちていたカードを拾い上げる。

 

 ステータスカードとか言ってたが。

 なんだこりゃ。

 

 青い札。

 特に文字も絵も写って居ない。

 幾何学的な模様が見える程度。

 

 だが、俺の指に付いてた血が、それに吸い取られた。

 

 

 ――その瞬間、カードに文字が浮かんだ。


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