悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第6話 案内役の少年

 

 金の問題は解決した。

 訳じゃない。

 

 玲の貯金や、俺が昨日稼いだ金額。

 毎日あの金額を稼げると計算した。

 

 必要な設備や、その維持費には全く足りていない事が分かった。

 

 当然だ。

 世界征服を成し遂げる悪の組織。

 その、設立と運営費用だ。

 幾ら有っても多過ぎる事は無い。

 

 もっと多くの金を稼ぐ。

 それに並行して、構成員を見つける。

 

 俺に向いてるとは言い難い。

 頭が必要な仕事。

 

 だが、やる。

 指示された事を熟していた昔とは違う。

 自分で考えて行動する事が必要だ。

 

 これでも、大人になった訳だしな。

 

「で、ダンジョンにやって来た訳だが……」

 

 塔に入ると、階段に繋がっていた。

 昨日の最後の地点。

 何故か、昨日と出た場所が違った。

 

 まぁどうせ、一階の雑魚を倒しても金は増えない。

 俺は迷う事無く、二階へ降りた。

 

 そこは草原だった。

 洞窟から階段で降りると草原とか。

 意味が分からん。

 

 だが、そこは問題じゃ無い。

 草原である事が問題なのではなく。

 

「囲え囲え!」

 

「おい、タンク前出ろ!」

 

「ヒーラー、こっちこっち」

 

 他の探索者の数だ。

 洞窟では立花吟以外には出合わなかった。

 しかし、この階は至る場所に探索者が居る。

 

 煩い声で叫んでいるから耳が痛い。

 喋ってるのはゲーム用語か?

 

 もっと深い所に行きたいな。

 

「お前……」

 

 近くに居た若い男に話しかける。

 

 褐色の肌を持つ、黒髪の男。

 まだ高校生くらいに見える。

 そいつは、疑問符を浮かべながら応えた。

 

「ぼ、僕ですか?」

 

「次の階層へ行きたい」

 

「は、はぁ……」

 

「案内しろ」

 

「え、いやいやいや。

 貴方はどうか知りませんけど、僕はここで採取をしてるんです。

 魔物となんて真面戦えるレベルもスキルもありませんよ!」

 

「俺が戦うから心配するな。

 さっさと案内しろ」

 

「いやだから……」

 

 そう、少年が言いかけた所で、俺たちに声が叫ばれる。

 

「あんたら! 危ねぇぞ!」

 

 その声の方向から、猪の様な魔物が猛進して来ていた。

 

「邪魔、すんじゃねぇ」

 

 猪の突進に合わせて、拳を突き出す。

 それだけで、猪は速度を停止。

 反転して、吹き飛んだ。

 

 生えていた牙も折れ、昏倒している。

 

 死んでないから、ゾンビにはならない。

 

「案内をよぉ……してくれるよなぁ?」

 

「……はい」

 

 怯えた顔で、少年はそう言ってくれた。

 優しい少年で良かったよ。

 

 

 少年に次の階層への入り口まで案内させながら、色々と質問してみる。

 

「お前、名前は?」

 

「ソーラ・レヴィです」

 

「ソーラね。俺は黒木棺だ。

 できれば末永くよろしく」

 

「かなり嫌ではあります。

 けど、死にたくないので言う事は聞きますよ」

 

「探索者相手に死んだりすんだな」

 

「そりゃ、そういう場所ですから。

 だから、周りの目が沢山ある第二階層は人気なんです。

 それを知らない貴方は、新参者ですか?」

 

「まぁな、昨日この島に来たばっかだ」

 

「だったら、今から街に戻って研修を受けた方がいいですよ」

 

「へー。3階の入り口まだ?」

 

「……まだです」

 

 そう言いながら、ソーラは進んでいく。

 俺はその背中を追って歩く。

 

「昨日来たばかりで、どうやったらワイルドボアを一撃で倒せるんですか?」

 

「ワイルドボア?」

 

「さっき貴方が殴り飛ばした猪です」

 

「ちょっと力入れて殴っただけだ」

 

「……」

 

 

 そんな他愛無い会話をしながら、歩く事1時間程。

 岸壁の中に埋まった階段があった。

 上と下、双方に向いている。

 

「上に行けば第一階層。

 下に行けば第三階層です」

 

「助かった」

 

「それじゃあ、僕はこれで」

 

「いや、お前も行くんだよ」

 

「は?」

 

 焦った表情を隠すことも無く、少年はそう言う。

 

「だって、第4階層への入り口分かんねぇし」

 

「僕だって行った事無いですよ!」

 

「でも、分かるだろ……」

 

「何を根拠に……」

 

「ビビりってのは、ちゃんと準備する。

 だから、割と優秀な奴が多い。

 遭難した時とか、置いて行かれた時とか、困るだろ。

 だからお前は知ってる筈だ」

 

 まぁ、確証はない。

 証拠も別に無い。

 しいて言えば、直観だ。

 見て来た人間の特徴と性格を、コイツに当てはめてみただけ。

 

「10階層までの地図は、頭に入ってます」

 

「そいつはラッキーだ」

 

「死にますよ……?」

 

 俺の目を見て、諭す様に言う。

 

「死なねぇよ」

 

 そう答えるしか、俺に選択肢はない。

 

「根拠は……」

 

「まだ、俺が生きてる事だ」

 

 少しだけ、殺気を込めて睨む。

 少年は、一歩下がって俺に問いかけた。

 

「貴方、何者ですか?」

 

「自分の目で、独断しとけ」

 

 そのまま、俺たちは3階へ降りて行った。

 

 

 ◆

 

 

 第8階層。それは森林だった。

 

 ソーラ曰く。

 第2から第10までは、草原と森らしい。

 第1階層だけ洞窟なのは、練習用の階層だから。

 らしい。

 

 なんで、建造物の方がこっちに練習させるんだ。

 なんて思うが、誰も解明した事が無いから知らないと、突っぱねられた。

 

 こいつ、ビビりの割には物怖じせず喋って来る。

 こんなのでも、探索者だという事なのだろう。

 

「ここ気に入ったぜ」

 

「他の探索者から、大不評の階層ですよ」

 

「だってよぉ、他の探索者が誰も居ねぇ」

 

「そりゃ、出て来るモンスターが巨大化した蟲ですからね」

 

 そんな会話をしながら、巨大芋虫の胴体に風穴を開ける。

 すると、紫色の体液が噴出した。

 

「キメェのが難点だな」

 

「難点というか、普通の人は確実に避けます」

 

 昨日知った事だが、魔物の死体は一定時間経つと消える。

 魔石と、場合によってはドロップ品と呼ばれる素材を残して。

 

 ゾンビ化している時は、消えないんだけどな。

 まぁ、芋虫はキメェし足も遅ぇから要らねぇ。

 

「おい、魔石回収しといてくれ」

 

「え、でも僕の鞄そんなに入りませんよ」

 

「これ使っとけ」

 

 ステータスカードを放る。

 バランスを崩しながら、ソーラはそれをキャッチした。

 

「これって……最上品質のステータスカード。

 っていうか、何ですかこのスキル……

 EX級が2つにS級2つって……

 Sランク探索者並みですよ」

 

「どうでもいい、さっさと回収しとけ」

 

「僕なんかEランクスキル2つなのに……」

 

 ボソボソと何か言いながら、カードに魔石を押し込めていく。

 収納機能、便利だ。

 全自動機能(ソーラ)もついたし。

 

 その後も、適当に蟲を狩っていく。

 体はでけぇ。身体能力もたけぇ。

 殻がある奴はかてぇ。

 

 だが、そんだけだ。

 厄介の特殊能力もそんなにない。

 殴れば死ぬ。

 

 昨日のゴブリンの方が、おもろかったな。

 うざかったが。

 

「お前さ」

 

「はい」

 

「普段一日で幾ら稼いでんだ?」

 

「多くないですよ。

 魔物を倒せませんから、薬草や鉱石の採取だけ。

 一日だと1万DP程度ですね」

 

「じゃあ、10万やるから明日も来い」

 

「10万ですか……?

 幾ら強いからって、蟲一匹3000DP程度ですよ。

 大量に倒すなら、遭遇率自体を上げないと……」

 

「あぁ、心配すんな。

 こっからは、本気でやるから」

 

 今までは、面白そうな奴が居ねぇか、確かめてただけだ。

 そんで、居なかった。

 

「立て、クソ蟲共」

 

 俺の声に応える様に、死体が起きる。

 殺す度に、その数は増えた。

 

「なんですか……これ……?」

 

「ゾンビだ。

 知らねぇのか?」

 

「倒した魔物を使役してる……?

 そんなスキル、聞いたことも……」

 

 俺も、俺以外には聞いた事ねぇな。

 まぁ、今そんな事はどうでもいい。

 

「来るのか来ねぇのか、今決めろ。

 こんな島まで来て、日給3000円の貧乏暮らしすんのか。

 それとも、俺に賭けて金を稼ぐか。

 好きに選べ、どうせ代わりは幾らでもいる」

 

 俺が殆ど脅しに近い言葉を発しても。

 ソーラは、堂々を答える。

 こいつの腹は据わっている。

 

 それだけの、目的があるのだろう。

 

 じゃなきゃ、俺を相手にその面はねぇ。

 

「……好きでこの島に来た訳じゃありませんよ。

 両親の出稼ぎに連れて来られたんです。

 でも、両親は数年前にダンジョンで死んだ。

 それからは、路上生活だって経験しました。

 死に掛けた事も、一度や二度じゃない」

 

「テメェの身の上なんざ知らねぇよ」

 

 昨日今日初めて会った奴の話に、涙も何もねぇ。

 不幸なんてのは、ありふれたモンだ。

 

 自分が不幸だと自覚して、異常に思い込み。

 何もしなくなる奴なんざ死ぬ程居る。

 

 頑張って、逆転を狙って努力しても。

 それでも、叶わず沈んでいく奴も同じ位居る。

 

 逆に、幸運で全部を持ってる奴だっている。

 人生を賭けたって、必ず上手くいく訳じゃねぇ

 だけど、本当に人生を掛けられる奴は稀だ。

 

 死ぬ気で、本気で。

 口にするのは簡単だ。

 だが、その言葉の本当の意味は。

 己の人生に置いて、その目的にそぐわない事を、一切しないという事だ。

 

 それはつまり……

 

「僕は、この命を懸けて夢を継ぎたい」

 

 

 ――人生を終える時、これ以上は無かったと、思えるかどうか。

 

 

「聞かせろ」

 

「僕の両親の夢。

 それは、ダンジョンの最終地点への到達です。

 僕は、その夢に憧れて育った。

 だから、その為に貴方を利用する。

 それでもいいですか?」

 

 真っ直ぐと、強い意思の籠った目を俺に向ける。

 

 俺を相手に、そんな馬鹿を言ったのは2人目だ。

 

 なぁ、総帥。

 

「荷物持ちが、調子乗ってんじゃねぇ。小僧(クソガキ)

 

 ソーラの頭を小突く。

 すると、ソーラは少し恥ずかしそうに頭を押さえた。

 

「毎朝10時、塔の前集合だ」

 

「はい」

 

「もしお前が使える奴なら、お前の願いも一つくらいは手伝ってやる」

 

 俺がそう言うと、驚いた様にソーラは口を開ける。

 

 どうせ、物の序でだ。

 世界征服の為の足掛かりに、コイツの夢を叶えてやるにも面白そうだと思っただけ。

 

「はい!」

 

 これで、荷物持ちはゲットだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ソーラ・レヴィ。

 後に彼は、新生ニーズヘッグという悪の組織で、【薬王】の名を持つ事になる。


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