悪の組織の元幹部、釈放されたらダンジョンが出現していた   作:水色の山葵

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第7話 死ぬ気

 

 平均日給640万DP。

 蟲は人気が無い分、素材の供給量が少ない。

 ドロップ品は高く売れた。

 

 金は玲のカードに移している。

 どうせ俺は最低限しか金を使わない。

 玲に必要な設備を揃える。

 それが、第一の目標だ。

 

 そして、目標金額が大体定まった。

 2億5000万DPだと。

 

 スー。

 

 まぁ、最新の装置が必要って話だ。

 量子コンピューターを連結して、使いたいらしい。

 何にそんなモン。

 てかなんだ……量子コンピューターって。

 

 ソーラも良く働いている。

 俺の操る蟲の上に乗って、素材を回収して回る仕事だ。

 

 最初は嫌がっていたが、慣れたらしい。

 乗ってるのは巨大ゴキブリ。

 機動力と飛翔能力を持つ。

 外骨格を持ち防御力もマル。

 知っての通り、生命力も最強だ。

 

 一日で討伐できる巨大昆虫の数。

 かなり慣れて、今は約200体。

 魔石が一つ2200DP。

 ドロップが1万だ。

 ドロップ率が1割程度、計640万DP。

 

「ソーラ、日給アップだ」

 

「いいんですか?

 僕は、ついて行って採取してるだけですよ。

 それに、僕が自分で採取してる素材。

 全部僕にくれてるじゃないですか」

 

「いいんだよ。

 夢を叶えてぇなら、貰える金は貰っとけ」

 

 そっぽを向いてそう言う俺を見て。

 ソーラは驚いていた。

 

「正直、諦めかけてたんです。

 僕に才能が無い事は、痛い程分かってますから」

 

 その言葉を聞いて、俺は昔の事を思い出した。

 

 俺も、玲も、総帥も。

 悪の組織に居た殆ど奴が……

 

 この世界で、生きていく才能がねぇ奴だった。

 だから、そういう出来損ない通しで集まって。

 お互いを慰めてた。

 

 そんな、側面が悪の組織には在った。

 

 だが。

 憂いは怒りに転じる物だ。

 それを、俺は知っている。

 

「強い奴は囲んで殺せ。

 人気者は一人の所を狙え。

 そうすりゃ言い訳は、地獄で勝手にやってくれる」

 

「……やはり貴方は、悪人なんですね」

 

「頼るのは嫌か?

 俺なんかに」

 

 雑魚は、いつもプライドを持ってる。

 目的の達成に条件(オプション)を付け続ける。

 だから雑魚で、馬鹿と呼ばれる。

 

「その程度で、叶う夢ならテメェの夢も底が知れるな」

 

 世界征服。

 その為なら、人も殺す。

 盗みもする、嘘も吐く。

 国家も滅ぼし、大勢を不幸にする。

 

 少なくとも幹部には全員……

 

 

 ――覚悟があった。

 

 

 だからこそ、俺はその姿に憧れた。

 

「確かに、貴方の言っている事の方が強いのかもしれない。

 悪党の力でも、利用できる物はするべきなのかもしれない」

 

 正しいは、脆く弱い。

 弱点を大勢持っているから。

 

 だが、悪道に違反はない。

 何をしても、目的を達成する。

 その究極系が、ニーズヘッグだと俺は思う。

 

「でも、自分の才能は選べないでしょ。

 僕は貴方とは違う」

 

 そう言った、コイツの顔を殴りたい衝動を、俺は抑える。

 今日の収入に関わる。

 

「生まれた時から、病気の奴だっている」

 

 冷たく、人を越えた再生能力を持ってる奴とか。

 死体に感染するウイルスを発症してる奴とか。

 

 寝たきりの奴もいる。

 寿命が短い奴もいる。

 腕や足が無い奴もいる。

 

 けど、そんな奴らも抗ってる。

 選択肢が無いから、何をすればいいのか明確化されてるなんて、プラスに捉えてる奴もいる。

 

「能力ってのは、目的に沿って最適化してくモンだ。

 殴りてねぇなら筋力を。

 発明をしてぇなら頭脳を。

 金を稼ぎてぇなら仲間を。

 そうやって、目的(ユメ)の上に手段(のうりょく)は成り立つ。

 お前に才能がねぇのは当然ことだ」

 

「目的と手段……

 それでも僕なんかには……」

 

「だが、良かったな」

 

「え……?」

 

「お前は、才能がある奴を()めんだから。

 それを、感じられるのは今だけだ。

 才能を越えた後じゃ、抱けねぇ。

 だが、それを抱けた奴は、強くなれる人間だ」

 

 それだけが、努力をする理由になる。

 他人と比べて持たざる部分が多いほど。

 それを、悔しいを考えるほど。

 

 人には、行動力が宿る。

 

「ぶっ殺したくねぇのか?

 大した努力もしてねぇのに、なんでも持ってる奴らをよ」

 

 俺も同じだ。

 望んで得た力じゃない。

 こんな、化物みたいな身体。

 

 それを見て、普通(バカ)な奴らが言いやがる。

 

 気味が悪いと……

 羨ましいと……

 

 どっちを言った奴にも、俺は同じ感情を抱く。

 

 

 ――死ね。

 

 

 けど、その悪意に満ちた感情は、強さに変換できる。

 

「その感情の名前はな」

 

 言葉を借りるぜ、総帥。

 

 

 ――棺。その黒く燃える感情の名はな。

 

 

「――死ぬ気っつうんだ」

 

 

 叶えるか。

 死ぬか。

 

 二者択一で、人生を賭ける。

 

 それ以外に。

 満足の方法はない。

 

「まだお前が、死ぬ気になれねぇなら。

 今ここで殺してやるよ。

 

 無能」

 

 その二文字が、ソーラの顔付きを変えた。

 

 拳を握り込み、目の中が黒く渦巻く。

 唇を嚙み切って、良い顔をした。

 

「謝罪、してくれるんですよね……?

 僕が、そうじゃ無くなった時は」

 

「ケヘ……いいぜ。

 やってみろよ、クソガキ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 次の日。

 蟲を殺した後の休憩中。

 ソーラは、試験管を差し出して来た。

 

「なんだそりゃ」

 

「毒です」

 

「はぁ?」

 

「僕のスキルは、植物図鑑Eと製薬Eです。

 今まで僕は、スキルを強くするために薬を作って居ました。

 簡単に作れる薬の製薬も繰り返していた。

 それが、僕のスキルを強くするためにベターな方法だったから」

 

 けど。

 と、ソーラは続ける。

 その目は真剣だ。

 

 だから俺も、口を出さず聞く。

 

「でも、スキルなんてまだ良く分かってない力です。

 ダンジョンができて、9年しか経ってないんですから。

 今まで、僕が努力だと自分に言い聞かせてやって来た反復運動。

 それを今日、辞めました」

 

「それで、結果がこいつか」

 

「製薬で、人体に対して致死性を持つ薬品を作りました。

 原理は同じですから。

 僕はこれから毎日、新しい薬を作ります。

 良薬も毒薬もなんでも。

 それが、僕に想像できた死ぬ気です」

 

 赤い液体。

 毒か……

 

「魔物にも有効な薬品を開発して、僕も戦う」

 

「あぁ、なら言った通り、俺も手伝ってやる」

 

 そう言って、俺は薬品を一息に呷った。

 

「ちょ――」

 

 頭がくらくらすんな。

 意識が変な感じ。

 それに手足が若干痺れてる。

 後は、腹がいてぇ。

 

「ぺっ」

 

 淡と一緒に薬品を吐く。

 治った。

 

「超速再生……

 毒にも有効なのか……」

 

 まぁ確かに普通の人間なら、死ねそうだな。

 

「取り合えず、俺を殺せそうな薬を目指せ」

 

「何言ってるんですか、それで本気で死んだら」

 

 もし、その薬が完成すれば俺も……

 

「いや、どうせお前の薬は俺が使うんだ。

 俺の細胞の特性を解析して、合う薬を目指せって事だ」

 

「なるほど……

 確かに、その再生能力があれば副作用の強い薬も投与できるかも……」

 

「まぁ、そんなとこだ」

 

「分かりました。

 その路線で薬の実験をしてみます」

 

「あぁ、人体実験は全部俺でやれ」

 

「はい!」

 

 って事は、コイツにもある程度金を渡す必要があるな。

 

 そんな憂鬱な事を考えていると、ソーラが申し訳なさそうに言った。

 

「それと明日は休みを貰っても大丈夫ですか?」

 

「なんか予定があんのか?」

 

「はい。

 白の教会というギルドが行っている研修がありまして。

 新発見された素材等の情報共有もあるので、薬を作る上でも参加したいんです」

 

 白の教会。

 確か、立花吟の所属する組織だ。

 玲が言っていた気がする。

 

「なぁ、それって新人探索者が行くんだよな?」

 

「まぁ、殆どはそうですね。

 ダンジョンの知識の勉強会があるので、研究職で参加してる人もいますけど。

 あ、白の教会の精鋭による実技演習もありますよ」

 

 実技……

 

「立花吟って奴、知ってるか?」

 

「えぇ、白の教会の副団長さんですよね。

 僕も何度か話した事があります。

 落ち込んでる新人に積極的に話しかけてくれる良い人ですよ。

 研修には殆ど参加してると思います」

 

 あの女。

 この島じゃ群を抜いて怠い相手。

 それが、どんな事をしてんのか。

 ヒーローを引退して、探索者になった理由も知りたい。

 

「面白そうだ。

 俺も行く」

 

「いいですけど、変な事しないで下さいね?」

 

 ふざけた事を言うソーラを小突く。

 

「痛い……」

 

 小突いた場所を抑えて、ソーラはジト目を俺に向けた。


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