ナリタトップロードと新人トレーナーがすごくすごいイチャイチャしながら頂点を目指す物語+α   作:YMS.bot

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124 誘引

 聖蹄祭。

 それはトレセン学園で行われる秋のファン感謝祭。

 スポーツ等の運動系がメインとされる春のファン感謝祭とは違い、文化的な催しモノがメインとなる一年に一度のお祭り。

 トレセン学園の生徒たちがその準備に奔走している時。

 俺はトレーナー室に居た。

 

「……どうぞ」

「ん? ありがとう」

 

 コト、っと静かにコーヒーカップを置いたのはカフェさん。

 俺はカップの取っ手に指を入れ、一口飲む。

 カフェさんの淹れてくれたコーヒーはとても味わい深く、コーヒーという飲み物を楽しませてくれる。香り、味、それらが鼻や口いっぱいに広がる。

 

「カフェさんはコーヒーを淹れるのが上手いね」

「ありがとうございます。豆から拘っているので、楽しんで頂ければ」

 

 ニコリと優しく笑うカフェさん。

 物静かでミステリアスな印象を受けるけれど、割と表情豊かだよな。

 俺はもう一口コーヒーを飲むと、カフェさんはソファーに腰を下ろし、虚空を見つめる。

 それから会話を始めた。

 

『え? 今日は皆、忙しいから』

「トプロちゃんとアヤベさん、デジタルさんは聖蹄祭の手伝いだからな」

 

 書類を纏めながらカフェさんの見つめる虚空の先に声を掛けてみる俺。

 それにカフェさんは驚き、目を丸くする。

 

「話しかけてるんですか?」

「一応な。聞こえてるかも通じてるかも分からないけど」

「……ふふ、そうですか」

「何がおかしいんだ?」

「いえ。相変わらず不思議な方だな、と」

 

 カフェさんは猫のマークがついたカップを手に取り、コーヒーを飲む。

 カチカチ、と時計が時を刻む音だけが響き渡る。

 静かな時間だ。

 トプロちゃんとかが居ると意外と話していたりして静かな時間は少なかったりする。

 こういうのも新鮮だ。

 ただ、俺は少しカフェさんに聞きたい事があった。

 

「そういやさ、カフェさん。カフェさんって目指してる場所とか夢ってある?」

「夢……ですか?」

「うん。そういえば聞いた事無かったなって思って」

 

 トプロちゃんは頂点。

 アヤベさんは自分の道を見つける事。

 デジタルさんは芝とダートの両方を走る戦場を選ばない勇者となり、トプロちゃんを倒す事。

 皆それぞれ目指すべき場所、夢の為に日々を積み重ねている。

 それをカフェさんに聞いた事が無かった。

 カフェさんはしばしの沈黙をしてから、遠い場所を眺めるような目をする。

 

「私は……行きたい場所があるんです。行かなくちゃいけない場所があるんです……。そこに呼ばれている気がするから……」

「呼ばれてる?」

「はい。フランス、凱旋門に」

 

 初めてのケースだ。

 俺は思わず心の中で頭を抱えてしまう。

 呼ばれている、か。そういう表現をする子が居ない訳じゃない。

 そういう子は大抵、その舞台を最初から目指していたりする。夢は凱旋門!! 私は凱旋門賞を勝つために生まれてきた!! みたいな感じに。

 でも、何だろう。カフェさんは違う気がする。

 このヤな胸騒ぎは一体何なんだろう。

 

「そっか。凱旋門か。良いんじゃないか。夢はデカくないと意味ないからな」

「トレーナーさんは夢、無いんですか?」

「俺の夢? 俺はトプロちゃんを頂点に連れて行く事さ」

 

 俺が答えると、カフェさんは可愛らしくコテン、と首を傾げる。

 

「いえ、その先です……」

「先?」

「だって、トップロードさんって引退する時が来るじゃないですか。その後、トレーナーとしてどうするのかなって……」

「辞めるよ」

「え、辞めるんですか?」

 

 意外そうに目を丸くするカフェさんに俺は笑顔を向ける。

 

「うん、辞める。トプロちゃん、アヤベさん、デジタルさん。皆を見終わったら俺は辞める。トレーナーを続ける意味はもう無いからな。ただ、その間に全部、やるつもり」

「全部、ですか?」

「そう。全部。トプロちゃんで頂点に行く事。その頂点に立ったトプロちゃんをデジタルさんで叩き潰す事。んで、アヤベさんにトレーナー資格を取らせる事。この全部。あ、カフェさんがもしも、ウチのチームに入ってくれるんなら、カフェさんも最後まで面倒を見るからね。そこは安心して、うん」

「……チームですか」

 

 さらりと勧誘を織り交ぜる。最近、アヤベさんから教わった技だ。

 自然に出来ただろうか。

 俺がカフェさんの様子を伺っていると、カフェさんは考える素振りを見せる。

 お、もしかして、好感触か?

 

「……あの、トレーナーさん」

「な、何だ?」

「あ、いえ、そうではなく……いや、前向きには考えているんですけど……。トレーナーさんって」

 

 と、カフェさんが言いかけたとき。

 コンコン、と扉がノックされる。

 

「ん? はい、どうぞー」

「失礼するよ。トレーナーくん」

「ん? アグネスタキオンさん」

 

 静かに開かれた扉の先にはアグネスタキオンさんが居た。

 そういえば、彼女には俺の血を採取されていたっけ。

 アグネスタキオンさんは部屋の中へと足を進めると、ソファーに座っているカフェさんを見つけると同時に顎に手を当て、意外そうな顔をする。

 

「おやおや、カフェ~。こんな所に居たのかい? 最近、準備室に来てくれなくて寂しかったんだぞ~」

「……今、あの部屋には居たくないので」

「準備室?」

「タキオンさんの実験室です。ただ、会長さんから問題児一人に独占させるのは危険なので、私が監視役に……」

「心外だね~」

 

 やれやれ、といった様子で肩を竦めるアグネスタキオンさん。

 そういえば、血を採ってもらった場所も理科準備室だったっけ。

 確かに、あの部屋は趣味が二つにバックリ別れていたのを思い出す。

 片方は実験所のような雰囲気でもう片方はスピリチュアルなモノが並んでいて、コーヒーの香りが印象的だったのを思い出す。

 

「それで? 何かあった?」

「血について色々と調べ終わったからね。せっかくだから共有しておこうと思って。今、時間は良かったかい?」

「勿論。カフェさんも大丈夫?」

「問題ありません。コーヒーを淹れますね」

「いや、紅茶で頼むよ」

 

 アグネスタキオンさんが紅茶と言った瞬間、カフェさんの顔が何だかションボリした気がする。

 紅茶はあったはず。

 俺は椅子から立ち上がり、部屋に備え付けられたキッチンへと向かう。

 

「しかし、キッチンまで備え付けているなんて、ここで生活しているのかい?」

「生活、まではしてないけど、ご飯は基本的に全部ココだよ。朝、昼、夜ね」

「なるほど……それはまさに理想的な環境だ。ふむ……」

「……よからぬ事を考えないで下さいね」

「何も考えていないさ」

 

 俺は紅茶を淹れてから、ソファーに座るアグネスタキオンさんの前にカップを置く。

 すると、アグネスタキオンさんはそれを一口飲む。

 

「ふむ……砂糖をくれないかい?」

「え? 角砂糖で良い?」

「ああ」

 

 アグネスタキオンさんの前に砂糖を置くと、それを一心不乱に紅茶の中に落としていく。

 それを苦虫を噛み潰したような微妙な表情で見つめるカフェさん。

 あれ、糖尿病になるだろ……ウマ娘だから大丈夫なのか?

 俺は椅子に腰を落とすと、アグネスタキオンさんが口を開いた。

 

「さて、じゃあ、話を始めようかな。まず、単刀直入に言うが、やはり、君は特殊な体質である事は間違いないね。それに関して自覚はあるかい?」

「勿論。まぁ、あんまり言いたくない事だけどね。絶対に変な奴らに目を付けられるから」

 

 俺の体質は誰よりも俺自身が良く分かっている。

 それを誰かに言うことは殆どしてこなかった。それこそ――トプロちゃん以外には。

 カフェさんはズズっと一口コーヒーを飲み、静観している。

 

「そうだろうね。アレは知られない方が良い。かくいう私も噂程度でしか知らなかったからね」

「それ……私が知っても良いんですか?」

「カフェは公言するようなタイプではないだろう? トレーナーくんもそう思っているんだろう?」

「まぁね。ただ、本気で公言だけはして欲しくない。これで嫌な思いは割りとしてきてるから」

「……分かりました」

 

 カフェさんが頷くのを確認してからアグネスタキオンさんは口を開いた。

 

「まず、トレーナーくんが自覚している所を教えて欲しい」

「俺が自覚してるのはウマ娘に好かれやすい体質って事だな。ただ、その好かれ方ってのは時折、変な方向に向かうことがあるくらいか」

「そう。君の血は特にその作用が強かった。これを私は『誘引』と呼んでいる。カフェ、最近、準備室に来なかったのはあの部屋に居ると落ち着かなかったからじゃないのかい?」

 

 アグネスタキオンさんの問いにカフェさんは小さく頷く。

 

「そうですね。その通りです。タキオンさんがトレーナーさんの血を研究し始めた時から、あの部屋は何だか居心地が悪くて……こう何ていうんでしょうか、意識を奪われそうで、何か別の物が引っ張り出されそうな……」

「そうだ。それで間違いない。特に『血』ともなるとその作用が強く出てくる。何しろ、血とは生命の根源だからね。カフェもまた『誘引』の影響を受けていたんだろう」

「『誘引』……ですか?」

「ああ。彼の身体にはウマ娘が好むフェロモンのような物質が極めて高い濃度で含まれているんだ。それが血の中には多く含まれ、全身にくまなく送られていて、それを常に発してる。つまり、ものすご~く分かりやすく言うと、ウマ娘ホイホイ、という事だね」

「……天然ジゴロ」

「そうとも言うね」

「……やめてくれないか?」

 

 それは何だか嫌だ。

 俺が渋い顔をし、言葉を続ける。

 

「それで昔、大変な思いをしたんだからな」

「あまり蒸し返すのは辞めておこう。良い話ではなさそうだ」

「まぁ、ね。それで? それだけじゃないのか?」

 

 俺が自覚しているのはその『誘引』だけ。

 アグネスタキオンさんは小さく頷いて、言葉を続ける。

 

「ああ、それだけではなかった。これは私と今のカフェの言葉にしか証拠が無い。だから、空論である事を許して欲しい。まず、私は最近、ある『夢』を見るんだ」

「夢?」

「私はメイクデビューを果たし、競争ウマ娘としてトゥインクルシリーズを駆ける事になる。しかし、その夢は必ず、4戦目の皐月賞で終わりを迎える事になるんだ。必ず左足を怪我してね」

「偶然じゃないんですか?」

「偶然……という言葉で片付けるには鮮明すぎるんだ。私はその夢に何か……そう、根源的な恐怖を覚えた。これから迎える未来のようにも感じたよ」

 

 その言葉に身に覚えがあった。

 それはトプロちゃんと再会したばかりの頃。

 あの時、トプロちゃんは顔も知らないはずのテイエムオペラオーに恐怖していた。

 テイエムオペラオーに何度挑んでも勝てないという悪夢を何度も見続けていた。

 それを克服して今がある。

 

「それ、トプロちゃんも似たような事を言ってたな。テイエムオペラオーが怖いって」

「何? そうなのかい?」

「ああ、テイエムオペラオーの事を知らなかった頃に、いきなり言い出したんだよ。夢の中で何回挑んでも絶対に勝てなくて、そんな未来がやってきそうで物凄く怖いって」

「……なるほど。カフェ、君は何か見ていないかい?」

「私ですか? 私は……凱旋門に呼ばれている感覚が……」

 

 さっき言っていた事か。

 アグネスタキオンさんは顎に手を当て、呟く。

 

「呼ばれている? 恐怖は無いのかい?」

「恐怖はありませんが、この話をするとお友だちが……少しうるさくなります」

「……なるほどね。トップロードくんがテイエムオペラオーに恐怖を抱く……その当時はテイエムオペラオーを知らなかった……という事は未来の出来事、なのか?」

「アグネスタキオンさん?」

「ふむ……トレーナーくん、トップロードくんはそれを乗り越えたのかい?」

 

 真剣な眼差しで尋ねるアグネスタキオンさんに俺は小さく頷く。

 

「ああ、乗り越えたよ。今じゃ何も怖くなんてない。むしろ、オペラオーさんとは仲良しだ」

「……それがトップロードくんの強さの原点? いや、それだとあれほどの強い想いの結びつきは? ただの恋愛関係の延長……それにしては……引き出しすぎている」

「アグネスタキオンさん?」

「すまない。少し考え事をしていた。私は一度戻らせてもらう。少し調べたい事が出来た。では」

 

 と、言い放つとそそくさとアグネスタキオンさんが部屋を去っていった。

 何だったんだろうか。何かに気づいたのかそれとも。

 俺とカフェさんは互いに顔を見合し、首を捻る。

 

「どうしたんだろう」

「分かりません……それに何かに気づいたとき、何処かに行ってしまうのは今に始まった事ではないので」

「そっか……なら良いけど」

 

 俺は軽く背筋を伸ばす為に、グーっと身体を伸ばし、パソコンを眺める。

 まぁ、また何か分かったら来るだろう。

 俺は仕事に戻り、カフェさんは一人ゆっくりとコーヒーを飲んでいた――。

 

 

 

 

 

 

 

 ブツブツと呟きながら歩くアグネスタキオン。

 その足取りは異様に軽かった。

 

「もしも、私達ウマ娘に……『運命』というものが本当にあるのだとすれば。君のソレは私達に大いなる可能性を齎す事になる。そう、私達ウマ娘の運命を『喚起』させるのなら……私達、ウマ娘とは一体何だ? 何故、そんな運命じみたモノを持っているのか。フフ、興味が尽きないね」

 

 

 

 




 〜アグネスタキオンのメモ〜
 『誘引』
 ウマ娘を魅了するフェロモン。推測の域だが、接触物によって濃度と影響は異なる。最も濃度が高いのは体液。次点で粘膜接触であろうと推察。身体接触による影響は少ないと言える。
 ウマ娘の個体毎に影響の度合いは異なる。
 濃度が高くなれば『惚れ薬』の制作も可能。
 人間にも効果があるのかは不明だが、一つ生成。
 現在、準備室にて保管中。

 『喚起』
 ヴィーナストレーナーの血中に含まれていた特異物質。
 ウマ娘に何かしらの影響を齎しているはずだが不明。要観察。
 ただ、数百年前、それが確認されていたであろう人物を発見。
 彼の名は『フランキー』
 奇しくも彼と同じタイプのトレーナーであり、生涯たったひとりのウマ娘と愛し合い、添い遂げたという。
 彼との類似点は多く研究の価値あり。
 今後、ヴィーナストレーナーを要観察。

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