「っし、屋上まで一直線だな。確か、ルーフトップバーがあったみてぇだが……」
『かなり地図と変わっているな。』
『恐ろしい量のレッドオーブだ。逃げ遅れた者は全員死んでいるであろう。』
アグニとルドラでもこれほどの量のレッドオーブは見たことが無いという。まぁホテル内の全員が死んでるのだからそれもそうだが……
『クリフォトの木でも生やすのか?』
「なんだそれは?」
『クリフォト……クリフォトとは?』
『レッドオーブを吸い込んで成長する木である。』
「……それ以外に?」
『知らぬ。』
知ってた。けど明らかに魔界の植物だからロクな事にならなさそうである。とは言え、そうであればここにそのクリフォトとやらが生えていないのが気になるし、貯めるのであればレッドオーブが散乱しているのにも違和感がある。
「何がしたいってんだ……?」
『見よ、ライアットが出てきたぞ。』
そう言われ、即座にアグニとルドラを抜く。爬虫類の様な悪魔。手首から伸びる鉤爪が特徴的であるからして、腕を焼くのが即座に戦闘能力を奪えるであろう。
「しかも複数……ま、どうにかなるだろ!」
前衛と見られるライアットが二体同時に襲い掛かる。それぞれの鉤爪をアグニとルドラで受けとめ、属性開放。後衛が来た。
「テムペスト!!」
『Dust to dust!!』
『Ash to ash!!』
「Go to Hell! Baby!!」
鉤爪が引っ掛かったライアットごとアグニとルドラを連結させてテムペストを放つ。高速で回る二刀に引っ掛かったライアットは勿論、先頭を完全に焼き払った。残りは二体、しかも手負い。だが、油断は出来ない。
壁に向かって走り出すライアット。正面からはもう一体が飛び掛かってくる。
「んじゃまずは……こっちだ!」
X字の斬り払いでライアットの腕を切り落とす。背後からは壁から壁にジャンプしたライアットの強襲。それをジャンプで躱すと共に先ほど切ったライアットに同志討ちさせる。
「コイツで決まりだ!!」
二刀をの連続した斬撃の嵐をライアットへと見舞う。中々にタフだが、それでも雑魚にしては、といったところだ。
「っし終わッ!?」
急激な寒気。ルドラを咄嗟に背後へ振るうと確かな手ごたえがあった。赤いライアット。だが、その鉤爪は深紅に染まり、ライアットとは違い二足歩行。
『ヒューリー!気を付けろ!』
『非常に素早い、気を付けろ!』
「分かってる!」
中級悪魔、と見えるが正直ヤバい。あの速度は今までの悪魔の中で最速と断言できる。魔術でのかく乱もしているとなると相当の強敵だ。
「オーケーオーケー、観察だ……」
ヒューリーの目が妖しく光った後、その姿が掻き消える。相手は一撃離脱。よく見て、反応するのだ。
「……チィッ!」
最初は攻撃パターンが読めない、故に初撃の背後からの襲撃は回避を選ぶ。やはり厄介極まりない悪魔だ。だが、一撃離脱という事はパターンさえ読めれば行ける。
「……そこか!」
横からの急襲に反応して、アグニを振るう。パリィによりヒューリーの攻撃が中断されるが、俺はそこに攻撃を叩き込む事が出来ない。理由は簡単だ、そこまで移動して攻撃する手段がない。投げナイフもあるが、偏差が難しい故に追撃はモーゼルを扱うしかないのだ。
「クッソ、なんて相性の悪い!」
ヒューリーが再び腕のスリットから赤い鉤爪を出して姿勢を取る。今度は真正面から!
「この野郎!!」
アグニルドラをナギナタにして、左手にモーゼルを持った俺は正面から来たヒューリーの攻撃に合わせて得物を弾く。ガキィン!と小気味良い音と共にヒューリーが空中に浮く。
「そこっ!!」
モーゼルを三連射。一発は鉤爪、二、三発目は胴体に。三発目は落下で頭部へと命中した。
「終わり!!」
懐からナイフを出してヒューリーの頭へと投擲する。眉間へと突き刺さったそれに呻き声をあげると、ヒューリーは地に倒れ伏した。
「畜生、コイツが主なんて訳ねぇよな?じゃ主は一体どういう奴なんだ……?」
その言葉と共に、俺はルーフトップバーへと足を踏み入れた。酒の臭いと血の臭い。不快感を隠せない俺だが、とにかく調査せねば。それまでに比べてかなりの死体の数だ。それも仕立てが良い服ばかり、となるとかなり金持ちが多い。
恐らく下の喧騒に気付かなかったか、それともここが一番最初に襲撃されたか。
「……ここの死体、レッドオーブの回収が中途半端だな。全部心臓が刳り貫かれてやがる。何の為にこんな―」
……はて、俺は今どうして立ち上がったのだろう?待てよ、まだ調べ切ってないじゃないか?それより、目の前に出たこの赤いのは何だ?
『主!?』
『カイよ!?』
アグニとルドラの声が聞こえる。待ってくれよ、まさかこれは……俺の心臓か?
『なるほど、良い心臓だ。相当に鍛えているな。』
貫かれた手が、俺の背中から引き抜かれる。
痛い。痛いのか?痛くない。いや痛い。熱い。寒い。
『冥土の土産に教えてやる、我の名は“心奪者ヒューリー”。弱き者よ、さようなら。』
その瞬間、銃声が響き渡った。
「カイ!!」
「マズイ、心臓を刳り貫かれてる!ダンテ、相手を任せたわよ!」
「ハッ、言われずともな。」
「レディは永劫機関を持ってきなさい!」
意識がはっきりしているのに、薄れていく。約束、守らねぇといけねぇのに……
「アイ……」
「ったく、楽しめそうだがそうも言ってられねぇな?」
『お前はスパーダの息子……!面白い。貴様の心臓も、我のコレクションに加えてやる。』
「心臓集めが趣味か?じゃヤキトリでも食ってるんだな!確かハツだったか?あれ美味かったぜ?」
『食わぬ上に下らん。人の心の臓こそ至高よ。特に、貴様のものはよい鼓動を放ちそうだ。』
「Huh...まぁいい。ちょいと気掛かりになる事もあるんでな、速攻で片を付けてやる。」
愛剣のリベリオンを構え、大して心奪者は両腕の鉤爪を大きくレッドオーブで補強する。心奪者……ヒューリーの特殊個体に見えるそれは、全身の鱗が鎧の様に変質しているが運動性は損なわれていない。そして攻撃性が明らかに上昇した鋭い両腕の鉤爪。リベリオンにも劣らぬ頑強さを誇るだろう。
『その心臓……貰い受ける!!』
「Too easy!」
ロイヤルブロックにてダンテは機動も俊敏性も上がったそれを、初見の技にも関わらず完全に防ぐ。黙ってやられる心奪者でもなく、両腕を存分に使った連撃を開始する。それに対してダンテはケルベロスのアイスエイジにて全方位に完全な防御。鉤爪を弾き返された心奪者に対し、エアトリックで接近するとリベリオンの兜割りで一気に撃墜する。そこから更にイフリートを叩き込もうとするが、心奪者が消えてしまい攻撃を中断する。
『やはり俺では敵わぬか……だが久方ぶりに楽しめたぞ。良いコレクションも手に入ったしな。』
「なっ、おい!」
『もし俺と戦うのであれば……テメンニグルにて待つ。好きな時に来るがよい。』
そう言うと、心奪者は消えてしまった。
「クソッ、案外やるなアイツ……」
ダンテが珍しく悪態をつく。が、直ぐに倒れ伏すカイの元へと向かった。
「おい!聞こえてるか!トリッシュ、バイタルスターは?」
「駄目よ、この子魔力を持ってない。回復出来ないわ。今レディが―」
どうやら、もう無理みたいだ。案外、死は安らかなものか……けど、約束したんだ。
「アイ……」
「!カイ!聞こえるか!」
「帰る、って……」
クソ、こうなる運命だったんなら先に言っとくんだったな……
「トリッシュ!持ってきたわよ!」
「直ぐに改造するわ、どうにか持たせて!」
愛してるって……
心奪者ヒューリー
ヒューリーがレッドオーブを大量に浴びたことによる突然変異。脆い原種とは違って全身が鎧の様に硬質化しており堅い(ボスの中では脆い方)。そのくせスピードも運動性も損なわれていない。腕の鉤爪がより鋭く、硬質になっている。
イメージはヒューリーとバイオ4のヴェルデューゴを足した様な感じ。
心を奪う(物理)