ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 新年あけましておめでとうございます!

 今年中にゴジラを、ゴジラ怪獣たちを登場させることを目標に、さっそく更新しました!

 ではどうぞ!


 青年は少女を預けるようです

 

 

 

 

 

「二人とも、すっかり寝てしまいましたね」

「夜も遅いし、なにより年頃だもの。仕方ないわ」

 

 ベッドの上でがあがあと少女らしからぬいびきを上げて寝ているリンダと、それに寄り添いくうくうと可愛らしい寝息を立てている少女に、ヒオとマナが優しい手つきで毛布を掛ける。

 

「アカネちゃん、本当にうれしそうでしたね」

「リンダちゃんも、『妹ができたみたいだ』って喜んでいたよね」

 

 少女に名前はなかった。

 外周区で生活している間はもちろん、同じ境遇の『呪われた子供たち』と行動することはあったが、『君』や『あなた』というやり取りでコミュニケーションが成立していたため、生まれてこのかた、自分の名前など考えることなく育ってきたらしい。

 そのため、少女はショッピングモールでリンダがとっさに考え付いた「アカネ」という名をそのまま自分の名前としたのだ。

 友幸とヒオが共同で料理を作っている間は、リンダがアカネをお風呂に連れて薄汚れた体を洗い流し、上がったあとはマナが慣れた手つきで乱れた髪を小綺麗にして、体格がほぼ同じなリンダの服を着せていく。抵抗するかと思われたがそうでもなく、素直に応じるその姿はまるで着せ替え人形のようで、マナはそれが可愛らしくもおかしくて、思わず笑ってしまった。

 その後、いつもの食卓に一人追加した今日の夕食は、買ってきた大量の食材を盛大に使ったので、まるでパーティーのように豪華だった。連れ込まれて早々、たくさんのおもてなしを受けているアカネは最初こそ遠慮していたものの、時間がたつごとに打ち解けていき、そして最後には一緒に笑うようになった。コロコロと笑うその姿は、それこそ彼女の本来の姿だったのかもしれない。

 

「ごめんね、二人とも。帰りが遅くなったうえに見知らぬ子を連れ込んできちゃって」

 

 友幸の謝罪に気にしないでいいと二人はやんわりと返した。

 確かに突然家に上がり込んできた彼女には驚いた。だが、それにやむを得ない事情があれば迎え入れることあれど、追い出すような真似は決してしないと二人は心に誓っている。特に、それが子供たちであった場合はなおさらだった。

 

「むしろこの子が罪を重ねる前に、お義兄様が防ぐことができてよかったと思うわ」

 

 マナが言う。髪型を整える際中に聞いたことだが、アカネはこれ以前にも食料品や衣服などをくすねていたらしい。

 友幸とリンダが止めていなかったら、アカネはどうなっていたであろうか。柄にもなくふとそんなことを思う。また盗みを働いて、もし捕まったりでもしたら……。

 とっさに頭を振ってその考えを払う。マナはそこから先を想像したくなかった。

 

「確かに、生きていくためとはいえ物を盗むことは老若男女問わず許されることではありません」ヒオが続ける。

「ですが、彼女たちはそれをわかっているはずです。いえ、わかっているのです。でも、そうせざるを得ないほどの状況に追い込んでいるのは、他でもない私たちなのです」

 

 可哀想に、とヒオの言葉に悲しみがこもる。

 

「ガストレアの因子を、体内に保持しているだけで、ここまで差別されるなんて……」

 

 『呪われた子供たち』への差別はいささか常軌を逸脱している節があると、彼らは思う。ガストレア大戦を経験した者は『奪われた世代』と言われ、そのほとんどが 彼女たちに対して差別的な感情を抱いている。ウイルスを宿した彼女たちを、ガストレアと同種だと思い込んでいるのだ。ゆえに彼女たちは迫害の対象となる。再生能力があるせいで、暴行が激しくなることも少なくない。

 

「人間離れした能力なら、私たちだって持っているのに……」

 

 それと同時に、マナは片手を指揮者のように振る。すると、皿の上で余っていた食べ残しが、肉、魚、野菜とそれぞれ細かく分別され、皿に乗せられていく。ヒオも同じように手を振ると、今度は何も乗っていない食器が大きさごとに区分けされて順番に重ねられていった。

 どちらも常識では考えられない現象。それをいとも簡単に実行できる二人は、超能力者だったのだ。

 ある程度整理した後も、ヒオの独白は続いた。

 

「彼らの気持ちもわかります。私たちもガストレアのせいでお義父様を亡くしていますから、その気持ちは分かっているつもりです。ですが、だからと言って彼女たちへの暴力を正当化する理由にはなりません」

 

 彼女たちには感情がある。

 悲しいことがあれば泣き、悔しい時や、許せないときには思いっきり怒り、そしてうれしいことや面白いことがあれば思い切り笑う。ガストレアの因子を宿している以外は、人間と変わりない。彼女らのどこにガストレアと同じ要素があるのだろうか。むしろ、そうやって何でも決めつける『奪われた世代』のほうが、よほどガストレアに近いのではないか?

 確かに自分たちも先の戦争で身内を失った『奪われた世代』だ。だが、その怒りを『呪われた子供たち』にぶつけるほど短慮ではなかった。

 ふとつけっぱなしのテレビに目が行く。聖天子が掲げる『ガストレア新法』について報道していた。『呪われた子供たち』に対する基本的人権を尊重する法案だ。

 今はまだ賛同者が少ないためなかなか通らないが、いつか通過してほしいと思う。

 彼女たちは、ガストレアによって大切な人たちを奪われた自分たちと同じく、これから楽しく過ごせるはずだった『未来を奪われた被害者』なのだから。

 

「……俺たちは俺たちで、できる限りのことをしていかなきゃな」

 

 友幸の言葉に、ヒオとマナが大きく頷く。

 東京エリアのトップが彼女らに理解がある人物であることは歓迎したい。だが、聖天子だけに任せるつもりはなかった。

 ヒオとマナは外周区に赴き、子供たちのために炊き出しのボランティアに入っているほか、『呪われた子供たち』との相互理解を深めるため交流会を開こうという意見書を学校に提出している。

 友幸も、本心から彼女らに理解を示している政治家を支持したり、貯めた報酬を『呪われた子供たち』も隠れて保護している孤児院に寄付をするなど、精力的に活動していた。

 理想の未来を実現させるには、自分たちも活動し、創り、導いていかなければならないのだ。『奪われた世代』と『無垢の世代』が悔恨なく、笑顔で過ごせる理想の未来へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 リビングに一人交えて集まった芹沢一家は、朝食を食べて食後のお茶で一息つくと、みんなに話があると改めて席についた。周囲を見渡すと、ヒオとマナが並んで座り、その向かいにはリンダとアカネがちょこんと座っている。今日は平日だったが、ヒオとマナの学校は代休なので問題なかった。

 

「これからのことなんだけど」友幸が口火を切って、アカネに語りかける。

「アカネちゃんをこのままうちに置いておくのは、はっきり言って無理だ」

「え……」

 

 アカネの顔が一気に不安そうな面もちになった。

 

「残念なことだけど、戸籍のない君をこのまま一緒に住んでいくのには限界があるんだ。IISOに許可をもらってイニシエーターになれば大丈夫かもしれないけど……ガストレアと戦いたくないでしょう?」

「……はい」

 

 アカネは力なく頷く。

 友幸の言うとおり、イニシエーターになれば衣食住は保証される。自分の知り合いも、安定した生活を求めてイニシエーターになったものも少なくない。だが、それはガストレアと戦い続けることを余儀なくされる、つまり自分が常に死と隣り合わせとなるのだ。

 今の自分にそのような覚悟があるかと問われれば、答えは否。そもそも荒事が得意ではない自分には、ガストレアと戦うということ自体が想像できなかった。

 

「そこでね、アカネちゃんをあるところに預けようと思うんだ」

「あるところ?」

 

 

 

 

「……ここがそうなの?」

「そうだけど?」

「いや、だってここ……」

「まあなんていうの? 『トーダイモトクラシ』ってやつ? それだよ」

 

 隣でリンダがからからと笑っているが、あまりに見覚えのある光景をキョロキョロと見回すアカネの表情は不安と困惑で塗りつぶされている。当然だろう。友幸たちに連れられて自分がやってきたところは、東京エリア三十九区、モノリスと接している国境線区域だ。現在は別の区域に住んでいるアカネも、ここで何度か寝泊まりしたことがあったのでそれとなく覚えていた。

 廃墟と化した建物を吹き抜けた風が奏でる奇妙な音と、ギャアギャアとうるさくわめくカラスの声。その不気味さに自然と寒気を覚え二の腕をこする。今日の風はやけに湿っぽかった。そのうち雨でも降るのかもしれない。

 人の生活圏から少しでも離れれば、自分が生まれる前に起こったという戦争の傷跡が、廃墟と瓦礫の山と、大量のゴミというかたちで見せつけられる。

 そんな中でも、きれいに舗装された道路がやけにミスマッチだった。

 すっと視線を前に戻す。目の前では、友幸、ヒオ、マナ、の三人が何かを探していた。もっとも、動き回っているのは友幸だけで、ヒオとマナは不思議な力で大きめのガレキやゴミを撤去していただけなのだが。

 

「確かここらへんだったよな……」

「あ、お義兄様、ありましたよ」

「お~、ありがとうヒオ」

 

 目的のものを見つけたらしい友幸はその場でしゃがみこむ。それは一つのマンホールだった。なんの変哲もないマンホールの蓋を屈んでノックする友幸を心配そうな目で見るアカネ。普通に見ていれば変人にしか見えない。しかし、次の瞬間驚いたのはアカネだった。重い音を立ててマンホールの蓋が開いたと同時に「なんですのでー?」と間延びした声が聞こえ。少女が頭をだしたのだ。瞳は赤かったので、彼女も自分と同じ『呪われた子供たち』なのだろうとアカネは思った。

 

「マリアちゃん? 俺たちのこと覚えているかな?」

「あ、トモ兄ィ!」

「マリアちゃん、お久しぶりです」

「ヒオ姉さんにマナ姉さんも! おしさしぶりですので!」

 

 マリアと呼ばれた少女は奇妙な節回しで三人と会話している。彼女の顔はとてもうれしそうだったので、過去になにか、あの三人にお世話になったのだろうとアカネは推測した。すると、マリアが会話を止めてこちらに目を向けてくる。

 

「そこにいるのはリンちゃんと……誰ですので?」

「あぁ、実はその子のことで話があるんだ。長老さんを呼んでくれないかい?」

「ではただいま呼んできますので、少々中でお待ちくださいますので」

 

 言われ、友幸たちは順番に降りて下水道に立つ。中は意外と広くて暖かく、自分が以前寝床にしていた場所よりも遥かに清潔だった。臭いこそきつかったが、慣れれば問題ないだろう。

 マリアはその長老とやらを呼びに行ったのか、すでにその場にはいなかった。

 くい、と友幸の袖を引っ張って意識をこちらに向ける。

 

「ここは、どういうところなの?」

「ここは子供たちの面倒をみている人が自主的に住んでいる場所だよ。僕たちもたまにここへきて、絵本やご飯をあげたり、遊んであげているんだ。その人はいい人だから、君のようにいく当てのない子供たちがいれば、喜んで引き取ってくれるよ」

「お、ウワサをすれば来たみたいだぜ」

 

 リンダの言うとおり、奥からカツンカツンと硬質な音を響かせて、一人の男性がやってきた。頭は白髪だったが背筋はしゃんとしており、柔和な表情にメガネをかけていたため知的な印象を受けた。

 

「あー、眼帯のおにーちゃんだ!」

「あの長い髪の子は誰?」

「リンダちゃんの新しいお友達かな!」

「きれーな髪だね、ちょっとさわらせて!」

「わ、まっ、やや、やめてよ!」

 

 そして、同時にどこからともなくほかの『呪われた子供たち』がわらわらと集まってきて友幸たちを取り囲む。

 中でも、知らない人であったアカネは特に子供たちの興味を引いたらしく、集団に引き込まれ、はやしたてられる。アカネは彼女らの好奇心旺盛な視線に思わず圧倒されてしまった。

 

「やあ芹沢君。久しぶりだね」

「こんにちは、松崎さん」

「マリアから事情は聞いたよ。あの子がそうなのかい?」

「はい」

 

 散々もみくちゃにされ乱れてしまった髪を手櫛で整えているアカネを子供たちの集団から引っ張りだし、背中を少しだけ押して松崎に紹介する。

 助けた経由、どの様な状況だったか。大まかな事を説明すると松崎は軽く頷いた。

 

「大丈夫。そんな丁寧に頼まれなくても、預かりますよ。むしろ大歓迎です」

「助かります」

 

 ここで、ヒオがじゃれついてきた子供たちをさがらせアカネに向き直ると、しゃがんで目線を合わせる。

 

「ねえアカネちゃん。あとはアカネちゃんがどうしたいかなんだけど、君はここに住んでもいいって思っていますか?」

「うん」

 

 即答だった。ここにきてからまだ十分もたっていないが、松崎という男性も、一緒に住んでいる子供たちのことも気に入った。すぐに打ち解けることができるかもしれない。いや、できる。

 マナが言った。

 

「じゃあ約束。もう食べ物を盗むことはしないでね。私たちはたまにしかここにこれないけど、来たらその時にいっぱい食べ物やお洋服、おもちゃも絵本も、いっぱいあげるからね」

 

 アカネはうれしくて思わず浮かんだ涙をぐっとこらえて、友幸たちをじっと見つめ返して、大きく頷いた。

 これまでの生活に、いいことはなかった。食べ物と言えばそこら辺の雑草や虫が生ごみで、盗んだ食料がたまに来るごちそうだった。いつ崩れるかわからない廃屋では、風雨はしのげても寒さだけはあらがいようがなく、街を出歩けば罵倒され、蔑まれ、暴力を振るわれた。おそらく自分は、これからもそういった生活をしていくのだと思っていた。

 それがどうだろう。

 彼らはたった一日で、たくさんの仲間をひき会わせてくれた。一日だけ一緒にいただけの、赤の他人である自分に、街の人間曰く『化け物』である自分に。これまで自分のことは自分でやってきたアカネにとって、他人にここまで尽くしてもらえたのは生まれて初めてだった。この人たちには感謝してもしきれないだろう。

 アカネはもう分かっていた。この人たちは、こんな自分でも家族のように接してくれる、優しい人間たちだ。

 友幸たちが優しく笑って頭をなでると、いつの間にか涙で濡れていたアカネの顔が笑顔になった。

 その表情はとてもうれしそうで、つられてこちらも笑ってしまうくらいの、満面の笑顔だった。








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