ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 まぁ、ケースは展開上こうしないといけないよね……。

 でも、後半はまるで違います。


 ケースは結局奪われ、青年たちはとばっちりを受けるようです

 

 

 

「降りた、あそこか!」

 

 上空を旋回していた『影』がいきなり急降下したのを確認した友幸は手持ちの電子双眼鏡を懐にしまうと、すぐにアクセルをふかして森の中を疾走する。足元は木の根や小石、おまけに雨のぬかるみで非常に不安定なので、高速走行は避けたいところだったのだが、いちいち文句を言ってはいられない。ガクガクと内臓が揺さぶられるような衝撃に視線が上下左右に揺れるなか、友幸は絶妙な動きでバイクを操作して障害物を避けていった。

 

「しっかし、むこうも無茶振るもんだな……っとと。衛星で、見れないからってッ、確認して、映像と、位置情報を、送っ、て来いなんて……よおっ!」

 

 しゃべるな、と悪路の走行中に無駄口をたたくリンダに注意する。舌を噛んだらどうするつもりだ。

 だが、リンダの言っていることも事実だった。

 政府に連絡して『影』のことを伝えたまではよかったものの、その全体像までは報告できなかった。『影』は非常に高速で飛行していたので、おおざっぱにしか確認できなかったからだ。

 それを聞いた政府は、その正体を、なるべく接近して確認するよう、友幸に命じた。曰く、衛星で確認しようにも分厚い雨雲のため姿どころか位置さえ特定できなかったらしい。具体的な対策を取りやすくするためだと向こうは言っていたが、それを一組の民警に任せるのはいささか無理があるのではないかと思う。

 

 やがて友幸は、道とは言えない道に何かが複数倒れているのを見つけた。うげ、とそれらがなんなのか理解したリンダが声を漏らす。

 倒れていたのは、人間の死体だった。おそらく、先に駆け付けたのであろうプロモーターやイニシエーター達だ。首を切られ、腕を飛ばされ、頭を吹き飛ばされ、全員が殺されていた。

 まさか、と脳裏に最悪のビジョンが浮かび上がる。こんなことをする人物は二人しかいない。

 

「ゆーこー、川辺に何かいるぞ!」

 

 リンダの言葉にはっとなってそこを見ると、確かに木々の間から山吹色の何かがぞいていた。あれが探している『影』なのかもしれない。全体像こそ見えないが、かなりの巨体だ。

 音でこちらの存在に気づかれないよう、すぐにバイクを止めて降りた。しばらく走ると、川辺が見えてくる。

 だが、木々の間を見上げると、ぎょっとして思わず立ち止まってしまった。そこには、二十メートルもありそうな巨大なカマキリが、巨大なカマでモデル・スパイダーのガストレアを串刺しにしていた。そしてその近く、それこそまさに手が届きそうな場所に、蓮太郎と延珠が腰を抜かした体勢で座っていた。

 すかさず、小石を投げる。見事、蓮太郎の頭に命中した。

 

「……芹沢!」

 

 友幸を見て驚いている蓮太郎に、口の前で人差し指を立てて、手招きする。蓮太郎と延珠もそれに頷き、そろそろと這い寄ってきた。幸い、巨大なカマキリは仕留めた獲物に気を取られていたようで、こちらの存在に気づいていなかった。

 近くの木陰と草むらに退避すると、蓮太郎が話しかけた。

 

「あんたも、感染源ガストレアを追ってやってきたのか?」

「最初はね。でも、向かう途中にぶんぶん飛び回るでっかい影を見つけたから、なんだと思って追ってみたら」

「俺たちと偶然合流したってわけか……」

「そう、それで俺たちが追ってた『影』ってのが、あれさ」

 

 友幸は巨大なカマキリに指を向けた。

 

 マジかよ。

 蓮太郎は驚愕の表情でカマキリを見上げる。カマキリはこちらに見向きもせずに、獲物をなめまわすように見つめていた。

 最初はステージⅠかと思ったが、それにしては大きすぎる。これまでの経験からすれば、最大でも三メートル強が限界だったはずだ。しかし、あのカマキリはどう見てもそれの数倍、ステージⅢほどもある。しかし、ガストレアはステージの進行段階でさまざまな生物のDNAを取り込むため、ステージⅡ以降のガストレアはそれぞれに異なる異形の姿と特徴を持つ。あれが本当にステージⅢならば、もっと醜悪に変貌した身体になるはずだ。だが、巨大と言う点を除けば、ほぼ現生のカマキリに限りなく似ている。そしてなにより、すべてのガストレアの最大の特徴である赤目がなかった。

 あれはガストレアじゃないのか? ならば、いったい何に区別すればいいのだろう。

 少しの間沈黙があたりを包む。

 そのあいだに友幸はカマキリの映像を撮ってそれを座標と共に政府へ送る。これで相手の予想できる規格にあった戦力をこちらに回してくれるはずだ。しかし友幸は、なるべく早く来てほしいと願うと同時に、疑念も渦巻き始める。果たして、あれをガストレアと同一として見てもいいのだろうか? もし相手が規格外の存在だったらどうするのだろう?

 ――あと、何か重要な事柄を忘れているような――

 

「なあ延珠」

 

 すると何かを思い出したのか、リンダが延珠に聞いた。

 

「ケースはどうしたんだ? 回収したのか?」

「えっ……」

 

 蓮太郎がかっと目を見開き、草むらから顔を出す。カマキリは今まさに、カマの先に突き刺していた獲物を、カミソリのような牙が並んだ口先でくわえている。数秒もしないうちに飲み込まれてしまいそうだ。

 

「や、やべえ!」

 

 蓮太郎は一瞬にして顔を青ざめさせると拳銃を構え、延珠もそれに続いて飛び出そうとする。すぐに友幸は二人の襟首をつかんで引き戻した。

 

「何してんだ阿呆!」

「あのカマキリが食おうとしてるガストレアがそうなのだ! ケースはまだあの中に埋まっておる!」

「だから取り返すってか? だが君たちだけであの馬鹿でかいカマキリに立ち向かうのはさすがに無謀すぎる! 政府に援軍を要請したからしばらく待て!」

「その前に逃げたらどうすんだよ! 中身は“大絶滅”を引き起こすシロモノなんだぞ!」

 

 蓮太郎が友幸の胸倉をつかむ。

 大絶滅。モノリスが崩壊し、ガストレアが街になだれ込んでくる、最悪のシナリオ。

 それを防ぐためにも、ケースの回収はなによりも優先される。あのカマキリが獲物に気を取られて油断している今こそ、絶好のチャンスではないか。

 

「わかっているさ! だが、正体のわからない相手にいきなり挑んで無駄死にするより、待ってチャンスをうかがったほうが合理的だろう!」

 

 しかし、現在それを持っているのは、自分たちが今までに見たこともない、これまでの常識に当てはめればガストレアであるかどうかも怪しい生物だ。勝手が違う。さらに手持ちの武器も少ない。これ程までに巨体な生物がモノリス内に潜入しているなど想像もしておらず、皆が持っている武器はあくまで対ステージⅠからⅡ用としての装備だ。仮に戦闘を行えば、返り討ちにあってしまう可能性も高かった。

 

「けどよ!」

「仮に食ったあと逃げて回収が難しくなったとしても、今日死ぬか、後で死ぬかの違いになるだけだ」

「……クソッ」

 

 蓮太郎は舌打ちしながら手を放す。今の自分にできるのは、目の前で大事なケースを食おうとしているカマキリを、苦々しい表情で見つめることだけだった。

 

 ――後方に空気対流の異変、バラニウム金属、血液反応を探知。目標は戦闘態勢の模様。敵と判断。第三種警戒態勢。目標の早急なる迎撃および撃破、または緊急回避を推奨します。

 

 脳髄に、眼球をえぐりだされるような痛みが走る。

 次の瞬間、轟音と共にカマキリが吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 突如起こった異変に目を丸くする。カマキリの、象の何倍もありそうな巨体が一瞬だけ宙を舞い、鋭いとげの生えた背中から森の中に叩きつけられたのだ。

 たとえるなら、いきなり突き飛ばされたかのようだった。

 

「やれやれ、楽に奪えると思ったんだが、とんだ邪魔が入ったものだ」

 

 緊張感のない呆れ声に、背筋が際立つような殺気。

 ぞっとして振り向くと木々の間から白い仮面が指を鳴らしていた。瞬間、青白い燐光が空気の層と雨を押しのけ迫ってくる。防衛省で受けた、あれとまったく同じものだ。

 立て続けに起こる事態に四人は対処できず、暴走列車のように迫ってくる見えない壁に、先ほどまでカマキリが立っていた地点まで吹き飛ばされた。

 背中から濡れた地面へ乱暴に叩き付けられても勢いは止まらず、そのまま慣性に従って頭から一回転して着地し、うつ伏せになってようやく止まる。鼻と口の中に泥が入り、たまらず友幸は咳き込んだ。

 立ち上がってあたりを見回せば、リンダも蓮太郎も延珠もいる。三人とも泥だらけにはなっているものの、大した怪我はしていないようだった。

 

「まァ、ベリーイージーがイージーになっただけだから、楽に奪えたことには変わりはないんだけどね」

「蛭子……影胤ぇぇ!!」

 

 仮面を抑えて笑う男、蛭子影胤に、蓮太郎が立ち上がってすさまじい形相で吠える。

 友幸は歯噛みした。そうだった、カマキリの情報を送った直後の違和感はこれだった。こいつがいる可能性をすっかり失念していた。忘れていたのだ。道中、あれ程のむごい死体を見たのに。なぜ思い出さなかったのだろう。

 

「蓮太郎!! 友幸!!」

「延珠、後ろだ!!」

 

 リンダの言葉を受けて延珠は反射的に横に転がると、小さな影が風切り音と共に斬撃を繰り出す。小比奈が、バラニウム製の小太刀を構えていた。

 

「もう、あと少し――」

 

 言い終わらないうちに、彼女の後ろから凄まじい速さで拳が振り下ろされようとしていた。小比奈は腰をかがめて横に飛び退いた。殴る対象を失った拳は何もない地面に直撃し、直径三メートルのクレーターを作り上げた。

 小比奈が、金切り声で叫ぶ。

 

「そこの赤毛、邪魔しないでよ!」

「Shut up war mad !!」

「パパぁ、コイツわけわかんないこといってくる!! 斬っていい!?」

「いや、駄目だ。もう目的の物は回収したからね」

「うぅぅもうパパの意地悪ッ!! いいじゃん別にィ!!」

 

 そこで蓮太郎は影胤の手にケースが握られているのを見つけ目を見開いた。後ろには、モデル・スパイダーの腹部が転がっている。たしか、巨大カマキリが口に入れていたのは胸部までで、腹部はぶら下がっていたはずだ。おそらく吹き飛ばされた瞬間、体の節が衝撃に耐えきれず千切れて、影胤たちのところまで飛んでしまったのだろう。ハンマーで何度も叩かれたドラム缶のように変形した肉には、ひときわ大きく陥没した穴があった。

 友幸と蓮太郎はたがいに目を見やる。知り合ってからまだ日は浅かったが、この時だけは考えていることは同じだった。こいつにだけは絶対に奪わせてたまるものか。

 友幸が腰のホルスターからシグ拳銃をドロウして二、三発発砲する。影胤は呆れたように「イマジナリー・ギミック」とつぶやく。ドーム状の青白い燐光が銃弾をあさっての方向へと弾いた。

 

「無駄だよ。そんな石ころのような攻撃で斥力フィールドを突破できるものか」

「あぁ、わかっているさ!!」

 

 蓮太郎がぬかるんだ地面を蹴ると、一気に影胤へ肉薄する。その速さは友幸でも見切ることができなかった。影胤も「お?」と間の抜けた声を漏らす。蓮太郎は右手を構え、腰に力を入れた。

 

 ――天童式戦闘術一の型八番。

 

「焔火扇ッ!!」

 

 初心者が比較的早めに習う基本的な技だが、当たり所が悪ければ常人なら容易く昏倒し、達人ですらよろめかせることができる一撃。それを影胤の腹へめがけて拳を打ち込んだ。しかし、標的には当たらずバリアに弾かれてむなしく空を切る。

 体勢を立て直そうと踏ん張った瞬間、目に映ったのは細長い足。顔に強烈な一撃が入り、蓮太郎は吹き飛ばされた。

 

「蓮太郎!!」

 

 思わずそれを目で追って気をそらしてしまい、気が付けば目の前に白の仮面。直後、胸に衝撃が走って友幸は地面に叩き付けられる。意識が一瞬遠のき、身体に力が入らなくなる。肺から絞り出された空気を補充しようと無意識に喘ぎ、咳き込んだ。

 その様子を見て影胤が声を上げて笑う。

 

「残念だったね。これは全方位に対応するタイプなのさ」

「……反則もいいところだな」

「なんとでも言いたまえ。まあ別にこれがなくとも君たちには勝てるけどね」

 

 ここで影胤は娘を見る。戦うのはやめておけと言っておいたはずだが、はたしてどうだろうか……。

 

「きゃはははははは!!」

 

 馬鹿げた笑い声が響き渡る。やはり小比奈は言いつけを破って“遊び”に興じていた。

 彼女と“遊んであげている”のは、目の前で倒れている青年たちのイニシエーター。一人は蹴り技が主体の藍原延珠。小比奈が強いと認めた数少ない少女。そして、もう一人は名も知らない、おそらく拳による近接格闘が主体の少女。

 小比奈が笑顔で斬撃を繰り出すたびに、範囲内に入った雨滴が四散し、空気が悲鳴を上げ、分割された草木が乱れ飛ぶ。剣戟を繰り返す中でその重さも尋常ならざる域に達していることが窺えた。常人が入れば瞬く間にずたずたに切り裂かれ、血まみれのひき肉が出来上がることだろう。

 そんな中で、延珠はバラニウム鉄塊が仕込まれたブーツを、少女は身の丈に見合わぬ巨大なガントレットを、的確に己の得物を繰り出して凌ぎ、受け流し、打ち合っていた。

 ほう、と影胤は仮面の下の目を細める。延珠だけでなく、もう一人の少女も娘を楽しませるぐらいの実力は持っていたようだ。

 袖をまくって腕時計を確認する。そろそろひき時だ。戦闘でそれなりに時間を食ってしまったが、誤差の範囲内なので余裕で間に合うだろう。

 

「時間も時間だし、そろそろおいとまさせてもらうとしようか。小比奈、遊んでいないで早くおいで」

「いい、楽しいよ延珠ぅ!! 赤毛ぇ!! もっと、もっと遊ぼうヨォ!!」

 

 駄目だ。楽しすぎるのか完全に我を忘れている。どうやら周りのことは一切見えていないようだ。

 彼女の顔を見れば、戦いに喜んでいるのがわかった。無理もない、これまで彼女が戦ってきた相手はすべて素人に毛が生えた程度の実力しか持たない者ばかりだった。そんな弱い敵が続いてマンネリ化してきたときに現れた、同程度の実力を持つ相手が二人。いい加減強い敵に飢えていた小比奈にとっては、切りたくて仕方ないのだろう。

 影胤は愛銃『サイケデリック・ゴスペル』を取り出すと、彼女たちの足もとへ一発撃ち込む、やっと小比奈が動きを止めた。

 

「小比奈。もうお遊びの時間は終わりだ」

「パパぁ、どうしてぇ……? もっとあそびたいよぉ……」

「駄目だ。愚かな娘よ」

 

 名残惜しいのか、小比奈が悲しそうに影胤を見る。娘が楽しんでいることは父親としてうれしいことこの上ないが、影胤は心を鬼にして彼女のわがままを切り捨てた。

 

「でぇもぉ……」

「大丈夫だ。これをもっていけば、多くの人が私たちのところに来る。その時は思いきり斬っていいからね」

「……そっか! そうだよね! じゃあ我慢する!」

 

 一瞬にして笑顔になった小比奈は、くるりとまわってリンダと延珠に向き直る。二人は息を荒げながらも態勢を整え、小比奈をギッと睨みつけた。

 

「じゃあね延珠、わたし行くから。あとそこの赤毛、名前はなあに?」

 

 リンダがペッと唾を吐いた。

 

「悪ぃな、名前を聞くならまず自分からっていう常識を知らないてめぇみてぇなルナティック野郎には名乗らない性分なんだよ」

「へぇ……言うじゃない。じゃあ私はモデル・マンティス、蛭子小比奈。接近戦では無敵だよ」

「けっ……あたしはリンダ・レイ、モデルはゴリラだ。殴り合いは得意分野だから気をつけな」

「リンダ、リンダ……うん、覚えた。次に会ったら、その首頂戴ね?」

「言ってろ。逆にてめぇの首を脊髄ごとぶっこ抜いてやる」

 

 売り言葉に買い言葉。それを見た影胤はやれやれと言わんばかりにシルクハットの位置を直すと友幸たちに向き直る。ケースはすでに手の中にあった。

 

「さよならの挨拶は終わったかい? では、我々はこれで失礼しよう」

「ま、待て!!」

「待たないよ」

 

 蓮太郎が慌てて立ち上がろうとするが、影胤は懐から黒い筒状の物体を取り出し、こちらに投げてきた。それがスタングレネードだとわかった瞬間、大音響と共に強烈な光が視界一面を覆う。目つぶしを喰らった蓮太郎は目と耳を抑え、バランスを崩して膝をついてしまった。動けないのは友幸も同様だった。どうも三半規管を狂わされたらしい。耳鳴りが周囲の音を掻き消し、視界がぐらぐらと歪み、頭は壁に押し付けられたかのような痛みを訴えていた。

 

 

 

 

 やがて視界が回復し、目の前を見る。案の定、そこには影胤と小比奈の姿はなかった。リンダや蓮太郎たちも視力を回復させたのか、影胤たちを見失ったことを悔しがっている。

 だが友幸は、黙ったままだった。彼が考えていたのは、影胤を取り逃がしたことによる悔しさではない。いや、あるにはあったが、それ以上に気になることがあった。

 

 

 

 

『あぁそうそう、たとえ回復しても私たちを追うことは諦めてくれ。『アイツ』が君たちの相手になるから』

 

 視力を奪われて何も見えないなか、影胤は、確かにこう言っていた。

 眉をひそめる。『アイツ』とはいったい誰なのだろう?

 

『気をつけなよ? 『お楽しみの時間』を邪魔されて、かなりご機嫌斜めのようだからねぇ?』

 

 ますます混乱する。影胤はほかに手を組んでいた人物がいたのだろうか? そして『お楽しみの時間』とはなんだ? まるで訳が分からない。

 寒気を覚え、友幸は二の腕をさする。何か、嫌な予感がする。

 

 

 ザーザーと、壊れたビデオデッキのノイズのような雨音が耳に響いていた。

 

 

 ――ん?

 

 

 ここで違和感を覚え、友幸はもう一度耳を凝らす。耳鳴りはすでにおさまり、ザーザーと降りつける雨の音が耳に響いている。

 続いて、自分が腰を下ろしている地べたに目をやる。森の中とはいえ、ここは比較的開けた場所だったはずだ。自分たちはそこに、防雨具を着用しないまま腰を下ろしているのに、本来当たるはずのものが当たっていない。“ザーザーと音が鳴るぐらい雨が降りつけている”のに“雨粒が自分たちに全然降り注いでいない”のだ。

 そして、友幸は“それ”に気付いた。

 

「みんな、逃げろ!!!!」

 

 切羽詰まったさせた友幸の言葉に、蓮太郎たちは咄嗟に左右に飛んでいた。途端、頭上の枝が弾け飛び、風切り音から連続する轟音と共に大地が切り裂かれる。

 先ほどまで腰を下ろしていた地点が、深さ三メートル強のクレバスとなった。その場にいた全員が身を震わせる。あれと同じものを作るなら、重機一機で掘り返すだけでも何時間もかかってしまう。

 だが、巨大なカマを持つ“それ”は、たった数秒の間でいとも簡単に成し遂げてしまったのだ。細身の体格に似あわぬ、強靭な筋力とスピードで。

 

「……ウソだろおい」

 

 天をつくほどの巨容を見上げ、友幸は驚きで目を見開いた。まさか、そんな。影胤はこれを見越していたというのか。

 “それ”は地面からカマを引き抜くと、四本の脚を巧みに操ってその巨体ごと回り、地面に這いつくばっている友幸たちに向けられる。

 ガチガチと口元の部分から、顎を何度も強く打ち合う音が聞こえる。鮮やかな黄色だった双眼を炎のように真っ赤に変色させてこちらをじっとみすえていた。

 

 不意に触角をピンと立てて、小さく身を震わせる。

 次の瞬間、友幸たちは耳をふさぐ。“それ”は咆哮した。

 

 

 

 キイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!

 

 

 

 甲高い鳴き声にビリビリと森が震える。

 まるで、世界中にあるガラスを持ち寄って同時に引っ掻いたような大音響だった。いくら強い力で耳をふさいでも鼓膜を震わす。たまらず叫び声をあげた。この音を相殺するために。

 気づいた時には咆哮はもう聞こえず、そっと耳から手を放す。叫び過ぎたせいだろうか、のどがカラカラに乾き、おさまったはずの耳鳴りが、また耳の中で反響している。

 友幸たちは、影胤に吹き飛ばされ、つい先ほどまで死んだように動かなかった巨大カマキリの眼を正面に捉えた。赤くなったこと以外は表情のない、不気味な眼だ。この巨大昆虫が何を見て、何を考えているのかなど人の身であってはまったく読めない。知る術がない。

 

 

 

 

 

 

だが、言えることはただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 ――自分たちは、いまこの瞬間、コイツに『獲物』と認識されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 カマキラス、飯を邪魔され、ブチ切れる。



 友幸たちは完全なとばっちりです。ちなみにカマキラスが影胤に受けた攻撃は『エンドレス・スクリーム』です。原作では結構威力が高かったのですが、カマキラスの装甲には通用しなかったようです。





【ちょっとした特撮ネタ解説】

「Shut up war mad !!」

 リンダが小比奈についたこの悪態。元ネタは『海底軍艦』のセリフから。中盤に登場した神宮司大佐に向けて主人公が言った言葉をちょっといじって英訳したものです。
「戦争キ〇ガイとは話をしたくありません!!」


「言ってろ。逆にてめぇの首を脊髄ごとぶっこ抜いてやる」

 これもリンダのセリフ。元ネタは『真・仮面ライダー序章』のワンシーンより。仮面ライダーであそこまでエグイ技(?)を繰り出したのは後にも先にもこの人だけ。
 ハカイダーや実写版トランスフォーマーなど、関係ない他作品でも似たような技がある。案外メジャーな技なのかもしれない。







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