ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 そのころの蛭子影胤。


 (たぶん)ウザいオリキャラ(……なのかなあ?)が登場。

 あと今話はルビを多様に使っていますので、携帯版の方は不便な思いをされるかもしれませんが、ご了承ください。



 描写するのは空白の時間のようです その三

 

 

 

 

 

 そこは恐ろしいほど静かな場所だった。

 未踏査領域に存在する海岸に面した小さな町は戦争で放棄されてすでに電気は通っておらず、青白い光を放ちながら空から自分たちを見下ろす月光が唯一の光源だった。

 道路の脇などには錆びついた金属製の調理器具や、壊れた家電製品などが散乱しており、この小さな町にもかつては人が生活していたのだろうという事実がはっきり見て取れる。住民たちはどのような思いでこの町を去ったのだろうか。おそらく再び戻ってこれるだろうと、仄かな期待を抱いていたのかもしれない。だが、この名も知らぬ町はいまや海風にさらされ、やがて人々から忘れ去られてただ朽ち果てるのを待つだけの存在となっていた。

 その中に二人、一人は楽しそうにステップする蛭子小比奈と、ゆったりとした足取りで歩く蛭子影胤がいた。

 

「ねえパパ。本当にそれでおっきなガストレアを呼び寄せられるの?」

 

 バラニウム製の小太刀をぶんぶんと振り回し小比奈が無邪気に尋ねてきた。その視線の先には、影胤が持ち込んでいる銀色に光るジュラルミンケースがある。

 

「その通りだよ」

「だったら、私たちを止めようとして延珠やリンダたちが来るのかな」

「そうだ。わが娘よ」

「あのモノリスの向こう側から?」

 

 ちらりと影胤は、視線の遥か彼方に存在するモノリスを見やる。

 東京エリアをぐるりと覆うモノリスは全高約一.六キロメートル、横に一キロメートルもある板状の構造物。バラニウムを積み重ねてできた巨大な塔だが、人類とガストレアを十年間も住み分けてきた重要な境界線だ。

 そして、その外にはガストレアと、ガストレアにされた哀れな人間であふれかえっている。ひとたびモノリスの外へ出たら、たちまち奴らに食い殺されてしまうであろう。

 だが、ガストレアは二人を襲わなかった。それ以前に彼らを襲ったガストレアが、瞬く間に肉塊と化したのを目にしたからだ。

 ガストレアは本能的に理解した。この二人に手を出してはならない。手を出したらそれが最後なのだと。

 それもあって、序列百番台である二人にとって未踏査領域など庭も同然だった。強者である彼らだからこそ、この町を平気で出歩けるのだった。

 

「ああ、彼女たちだけでなく、いっぱいくるだろうね」

「本当に? たくさん人が来て戦いが始まるの?」

 

 影胤はこれから自分が行う“神聖なる所業”に興奮を隠せなかった。

 これを用いてステージⅤを呼び寄せれば、東京エリアは微塵に破壊され、多くの住人が死ぬ。人々は絶望し、いずれ混乱と混沌の渦へ叩き込まれ狂い始めるだろう。

 影胤はそれを望んでいる。それは非難されて然るべきものなのかもしれない。現にこうして歩いている間にも“向こう側”は自分を追って着々と準備を進めているはずだ。

 小比奈の言うとおり、そのうち戦いが始まることだろう。自分のもとへ、数えきれないほどの敵が来るに違いない。

 だが、影胤はそれに不安や恐れなど微塵もない。そんなことは些細なものだ。

 

「そうだ」

「じゃあいっぱい人が斬れるね!」

 

 自分は戦うことができる。それは自分の生きがいであり、存在意義だ。

 モノリスが崩壊し戦争が再開すれば、自分たちは必要な存在となる。つまり好きなだけ殺せる。一度死んで、機械化兵士として生まれ変わった己の存在意義を証明できる。

 蛭子影胤は殺すために作られた存在だ。殺すことを求めて何が悪いのだろう。

 

「あぁ、いっぱいだ。小比奈がもう嫌って言う位ね」

 

 影胤が欲しいのは闘争。ただそれだけが望みだった。

 影胤は余韻に浸っていた。これから始まる、戦争に期待して。

 

「ほお。ずいぶんと崇高なる、狂った思考をお持ちのようだ」

 

 反射的に拳銃をドロウし、声が聞こえたほうに向けて発砲。声が聞こえたのは自分たちがこれから進もうとしている建物の影からだった。

 空薬莢が渇いた音を立てて地面に落ちた音と同時に拳銃を下ろす。

 違和感を抱いた。

 機械化兵士である影胤はたとえ真後ろから狙撃されようとも、逆にそこを見ずに返り討ちにすることができる。蓮太郎と初めて対峙したあの日も武装した警官隊を無力化した。

 自分の勘が正しければ今ので急所にあたり、相手は致命傷を負ったはずだ。

 しかしそれにしては手ごたえがない。銃弾が人体を貫くくぐもった音も聞こえなければ、血が飛び散る音も聞こえない。まるで虚空をから射ちしたかのようだ。

 誤射したのだろうか? しかし声は確かに聞こえた。小比奈も赤く目を光らせて小太刀を構えている。

 影胤は言い知れぬ不安を抱き始めた。

 

――だからこそ、後ろから響いた同じ声には驚愕でしか反応できなかった。

 

「おいおい、ちょっと声をかけただけでいきなり発砲なんて危ないじゃないか」

 

 ゆっくりと振り向く。自分たちの歩いてきた闇の中からカツカツと靴の音が響いてきた。

 最初に現れたのは漆黒の革靴だった。斜めにさした月光が、こちらに近づいてくる人影を足元から照らし出していく。

 

「トーキョーにもこんなにアブナイ人間がいるとは。ここに来て幾分か経つけど、やはり人間と言うものは理解できないものだねえ。それが個性と言うものなのかな。ん~ッフェヒヒヒ~フ」

 

 ふざけた笑いをこぼしながら現れたのは男だった。

 身長は影胤に負けず劣らずの長身で、全身を黒づくめのスーツ、その上も真っ黒なトレンチコートで覆われており、手でさえも革製の黒い手袋が着用されたいでたち。唯一のぞいていた顔も、漆黒のソフト帽に黒いサングラスがかけられていた。

 何より目を引いたのは、暗闇の中でも怪しく光る日本人離れした、ともすればインド人に見える堀りの深い顔立ちだった。顔色はまるで絵の具で塗りつぶしたように白く、サングラスから除く目の周囲は微妙に黒ずんでおり、月光によってうっすらと見える切れ長の瞳と常にニヤけている口と相まって、影胤はまるで自分がすべてを見透かされているような気分になった。

 

「そういう君は何者なのだね、民警か? イニシエーターがいないのを見るところ、そうではないようだが」

「んぅん? なぁんのことかなぁ??」

 

 影胤の言葉に男はわざとらしく首をかしげるが、やがてああそうかと合点が言ったように、わざとらしく指を鳴らす。

 

「どうやら君たちはとんでもない勘違いをされているようだが、別に私は君たちが思っているような人間ではないから、安心したまえ」

「……フム。少なくとも民警ではないようだな」

「ムフフ~ん、民警が何のことなのか全くわからないけど、いやホントはわかるんだけど、つまりはそゆことよ。だからそんなに警戒しないでくれないかい? そんなに警戒されちゃうとおじさん泣いちゃうよ?」

 

 ほらこれみてよ、ボクチャン丸腰よ?

 そう言って男はトレンチコートを広げる。確かに銃器などの類は所持していないようだった。

 

「……パパ、あいつウザい。斬っていい?」

 

 小太刀を抜いて今にも跳びかかりそうな小比奈を駄目だの一言で押さえつける。小比奈は瞳を真っ赤に光らせ、見るからに苛立っていた。

 影胤にはその理由が手に取るようにわかった。男はコートの中身を見せつけながら腰をフリフリと躍らせている。目の前の奇人は自分たちに全く物怖じせず、それどころか余裕の表情をうかべているのだ。動作の一つ一つから発せられる軽くて安い挑発には、もともと気の長いほうでない小比奈はもちろん、めったなことでは動じることのない影胤もさすがに辟易とし始めていた。

 

「おやおや、お嬢ちゃんどうしたのその顔は、うぅん? かわいい顔が台無しじゃないか。女の子は笑顔が一番、そんな刀なんて物騒なものはしまっちゃおうねぇ」

 

 しかし、男はそんな空気などどこ吹く風、といった様子で人を小ばかにしたような態度を改めようともしない。それがますます影胤の精神を疲れさせ、小比奈の機嫌を悪いものにしていく。

 

「あっれぇどうしたんですかお二人さん、だんまりしちゃって。あ、ひょっとしてお嬢ちゃんのお寝むの時間だった? 時間はまだ夕方のはずなんだけどねえ。まさか私の時計が壊れたか? ヤだなぁこないだ買ったばかりなのに」

 

 いやぁこれは失敬失敬、今度新しいの購入しなきゃなぁ。

 影胤の耳にギリギリと歯軋りする音が聞こえた。

 小比奈が深く押し殺した声で告げる。

 

「あんた……さっきから聞いてりゃ調子乗っちゃって………」

「んんぅ?」

 

 その無造作な言葉に、男はわずかばかりの間呆けた顔を見せ、次の瞬間爆笑した。

 哄笑が響き渡る。

 男性にしては甲高い笑い声が、まるでおぞましい怪人のように夜の空気を震わせる。

 一通り笑うと男はふっとテンションを下げて「こりゃ失礼」とハンカチを取り出し、目に浮かんだ涙をピッピとふき取った。

 

「……何がおかしいのよ」

「おおこりゃ怖い怖い。でも調子? 面白いことを言うねお嬢ちゃん。私は別にそんなものに乗っかった覚えはないね。そんなことでいちいち怒ってちゃあ、ちっちゃいままでおっきくなれないよ。牛乳でも飲んでカルシウムを補給したらどうだい?」

 

 思い切り睨んでも変わらない男の態度に、ついに小比奈が切れた。

 

「――ッざけんなあ!!」

「小比奈!!」

「なんで止めるのパパ!! アイツ斬りたい!! 今すぐ斬りたいぃい!!」

 

 飛び出そうとした小比奈を無理やり押さえつけと、小太刀をぶんぶん振り回して泣き喚く。

 その様子を見て、男はケラケラ笑っていた。

 

「いやはや、癇癪持ちのお子さんを持つのはやはり苦労しますかね?」

「娘のことでこんなに苦労したのは初めてだよ。主に君のせいでね」

「あららァ~んムフフ、そりゃ悪いことしちゃったねぇ。メンゴメンゴぉ」

 

 それは死語だ。

 

「それで、君は何故こんなところにいるのかね? モノリスの外へわざわざ出歩くほど重要なことなのかい?」

「う~ん、そうだねえ。とぉくに重要というわけではないが……」

 

 男は顎をさすり始め、考えるような姿勢を取った。

 いったい何者なのだろうか?

 先ほどまで小比奈との会話に夢中になり、自らの注意が散漫になっていたのもあるが、なにせ自分に気配を何も感じさせずに、ここまで来たのだ。

 影胤は警戒を強める。自分の勘と経験が危険を告げた。

 こいつはただの人間ではない。

 

「そうさねえ」

 

 じっとなめつけるように影胤を見る。

 正確には、その手に持つものに視線を向けていた。

 

「そのジュラルミンケースだけどさ、その中身よければこっちにくれない?」

「……そうか。ならば死んでもらおう」

 

 その瞬間、影胤は男を敵と判断した。

 パチンと指を弾く。隣にいる天使の気配が消えた。

 

「小比奈、いいぞ」

「えちょい待ち、なんか会話が噛み合って――」

「やったあ!! パパ大好き!!」

 

 男の背後に小比奈が現れた。

 

 

 

***

 

 

 

 小比奈の脳内には二つの欲求があった。『ウザい』と『斬りたい』の二つ。この男は小比奈にとって最も嫌いな部類に入る人間だった。

 男もこの事態は予想外だったようで、呆けた顔を晒している。

 小比奈は、常人には視認することの難しい速度で男に接近する。幸いにして相手は丸腰だ。まずはこのふざけた人間の手足を一本か二本切り落として恐怖に陥れてから、自分の気が済むまで切り刻むことに決めた。

 小比奈は、これから行われるであろう残虐行為に大きく心を躍らせていた。

 

「死んじゃえ!!」

 

 そして次の瞬間、意識が一瞬飛んだ。

 小比奈の顔面に突如走る衝撃。刀が男の首を掻き切る前に、小比奈の頭部が轟音と共に弾き飛ばされていた。

 首から上が無くなるような衝撃に襲われ、小比奈は為す術も無く、そのまま体ごと後方へ吹き飛び、地面に叩き付けられて転がった。

 

「……ぇ?」

 

 思わず、呆けた声が出る。何が起きたのかわからなかった。

 割れるような頭の痛みが襲ってくる。

 目の前にいるムカつく男を切り殺そうとした自分が蹴り飛ばされたという事実を理解するのにしばらくの間が必要だった。

 

「な、にが……!?」

 

 両腕をついて立ち上がろうとするが、あまり力が入らない。どうやら急所の顎をやられたらしく、平衡感覚を失って再び地面へ倒れ込みそうになった。

 それでも小比奈は何とか立ち上がる。足がまるで生まれたての小鹿のようにがくがくと震えた。

 その時、背中にゾクリと悪寒が走る。気のせいだと思ったが、確かに地面が微かに揺れているのを感じた。ふらつきながらも反射的にその場から飛びのく。

 甲高い音が聞こえたかと思うと地面に亀裂が走る。次の瞬間大きく隆起してまるで爆発したかのように土砂が飛び散り、小比奈がさっきまで立っていた場所を中心に直径五メートルほどの大穴があいた。

 そして、轟音と共に下側から突き破るように何かが飛び出てくる。

 円錐状のそれは空中で一回転すると瞬く間に人型となり、着地する。

 

「すっごーい!! ボクのきしゅーこーげきをよけたー!!」

「ふむ……地球人、ひいては『呪われた子供たち』の一人にしてはそこそこやるようですね」

 

 冷静で大人びた声と、無邪気なうえに幼稚で舌足らずな声が聞こえた。

 

「おいおい、手荒な真似はよしてくれ。こちとらなるべく穏便にすませたいんだから」

「先に仕掛けてきたのは向こうです。私たちには貴方の護衛が任務であるとプログラムされていますから、対処するのは当然のことと思われます」

「そーそーっ!! とーせーかんをまもるのはぁ、ボクたちのおやくめなんだからね!!」

「やれやれ、テーダはともかくシーズは真面目だねえ。まるで計算機だ」

 

 暗がりでよく見えなかったが、男の隣にいつの間にか二人の少女が立っているのを見て、小比奈は混濁する意識の中で思わず目を見張る。いったいいつからそこにいた?

 

「検索の結果、その言葉の概要は皮肉か嫌味であると結果に出ましたが、あえて褒め言葉として記憶媒体に保存させていただきます」

「えー、シーズほめられたのー? うらやましー!!」

「やかましーぞ、テーダ」

「えへへ、とーせーかんごめんなさーい」

 

 やがて前に進み出ると男の後ろに立って背中合わせとなる。夜闇に隠れ見えづらかった姿が月明かりに照らし出された。

 どちらも歳は小比奈と同年代だ。

 一人は流れるような銀髪で頭頂部には触角のような大きなアホ毛がはねており、レザースーツを基調とした刃の如き鋭利な印象を与える戦闘服を着込んでいる。服のあちらこちらにはトゲのような装飾が飾り付けられており、特に目を引いたのが胸にある半分の丸ノコで、少女がまるでサイボーグであるようなイメージを植え付けられる服装だ。

 感情の読めない表情がのぞく顔の本来目がある場所には、中央がつながった真っ赤なサングラスが着用されていた。

 両手に握られているものは、反りの入った片刃の刀剣。ただし刃は反りのほう、つまり内側にあり、簡単に言えば鎌のような独特な形状だ。同じく刃物を扱う小比奈には、その曲刀の種類がわかった。ハルパーとよばれる、古代ギリシアで使用されていた刀剣の一種だ。持ち手の部分には何かを発射する機構が取り付けられている。おそらく特注品なのだろう。

 もう一人に目をやる。

 銀髪の少女の恰好は奇妙なものだったが、もう一人はさらに奇妙だった。

 思わずその異形の物体を凝視する。もう一人は小柄な体格ながらも、深緑色に光る鎧を身に着けていたのだ。

 外見は西洋の騎士甲冑を基調とした生物的なデザインで、まるでハンマーのような重々しく無骨な印象を与える。頭部の全体を覆う兜はまるでガスマスクのようで、カブトムシのような角があり、その下には昆虫の複眼のような二つのバイザーが黄色く発光していた。呼吸のために口元を隠しているからなのだろうか、着用されているセミのようなマスクからは時折蒸気が抜けるような不気味な呼吸音が聞こえてくる。

 何より目を引いたのが両腕で肩に担いでいる、身の丈の数倍はありそうな大きさの槍だった。槍の部分がそのまま巨大なドリルとなっていて、甲高い音を立てて回転していたのだ。先ほどの攻撃はおそらく、これで地中を掘って奇襲を仕掛けたのだろう。

 

外骨格(エクサスケルトン)……?」

 

 小比奈は瞠目し、思わずつぶやいた。

 知識の上でしか知らないが、対ガストレア用に生産されているパワードスーツの一種だ。バラニウムの合金やカーボンナノチューブなどのハイテク素材で構成されており、耐久性はもちろん、強化機構などにより使用者の身体能力も強化される代物である。

 鎧がビシッと指をさした。

 

「きみ、なにいってんの? ボクのよろいをあんなガラクタといっしょにしないでよ」

 

 舌足らずな声が聞こえる。声と会話から察するに、子供っぽい性格で鎧を着込んだ者がテーダ、冷静で落ち着いている銀髪の少女がシーズなのだろう。

 

「全く……とりあえずあの娘の足止めはお前たちに任せる。なるべく傷つけずにこっちへ近寄らせるなよ」

「りょーかいであります!!」

「はい、統制官」

 

 シーズは淡々と答え、テーダは子供のように勢いよく敬礼する。

 小比奈も刀身を交差させ構えを取った。

 

「あんたたち……一体何者なのよッ!!」

 

 ぐらぐらする意識を振り払い、痛みを我慢しながら噛みつくような勢いで吠える。

 並のプロモーターどころか、中くらいのイニシエーターでもすくみ上がるような鋭い殺気を放つ小比奈に対して、しかし相対する二人はまるで動じる様子がない。

 すっとシーズが口を開いた。

 

「私はシーズ。一度死に、そして統制官の護衛のために生まれ変わりし存在」

 

 テーダもそれに続く。

 

「んーとね、ボクはテーダ!! ボクもいちどしんでてね、とーせーかんのごえーのためにうまれかわったの!!」

「共通するのは、どちらも前世の記憶がないことですね」

「うん、ボクもまえのことなんてぜーんぜんわかんない!!」

 

 寒気を感じた。

 相手は自分の殺気にまるで動じないどころか、意気揚々と話している。

 そのうえ露骨な殺気や敵意なども感じられない。だからこそ淡々とした恐ろしさが募っていく。

 小比奈には、このような敵に出会うのは初めてだった。

 空気が徐々に張りつめていく。小太刀を持つ手に、いつの間にか汗がにじんでいた。それをごまかすように、握る手にギュッと力を込める。

 

「私はイニシエーターの蛭子小比奈、モデルはマンティス――」

 

 小比奈は足に力を込めて――

 

「――接近戦では、無敵だあッ!!!!」

 

 怒号と共に飛び出した。

 

「そこをどけえええええ!!!!」

「ボクたちを」

「馬鹿にしないでくださいね」

 

 二人の少女もそれぞれの得物を手にして、これを迎え撃った。

 

 

 

***

 

 

 

 それを見ていた男は、改めて影胤に向き直った。

 

「これでやっと一対一で話せますねえ、蛭子影胤さん」

「やはり私の名は知っていたか」

 

 短かったが、意気揚々とした雰囲気は鳴りを潜め、低い声音で影胤は返事をする。銃を向けて相手の警戒を強めていたのがわかった。

 

「そりゃあもちろん。オマケにそのジュラルミンケースの中身がどんなもので、どのような効果があるのかもすでに把握済みだ」

「聖居からの差し金か」

「いやいや、私は東京エリアどころかどの世界のエリアの差し金でもないよ。信じられないだろうけど」

「信じられんな」

「あー、やっぱそう思うよねぇー」

 

 男はあちゃーと手で顔を覆った。

 

「ま、そのうちどこかに仮住まいを作ってそこに定住はするだろうね」

 

 おちゃらけた態度で告げる男に影胤はため息をついた。普段から周りを振り回している自分が言えたことではないが、この面倒くさい人物を相手にしているとどうも調子が狂う。

 

「彼女たちは一体なんだ、君のイニシエーターかね?」

「ああ、あの二人?」

 

 影胤はふと目に入った娘と、それと戦う二人の少女が気になった。

 男が重なっていて見えづらかったが、二人は小比奈を圧倒していた。

 その様子を見て内心舌を巻く。

 単純に二対一と言う理由もあるかもしれないが、影胤は直感でわかった。

 おそらく、今の小比奈の実力ではたとえ一対一でも勝つのは難しいだろう。

 

「そうだねえ、イニシエーターといえばそうかもしれないけど、ちがうんだなこれが」

「ほう」

「彼女たちは、私が()()()にやってきて初めて出会った『呪われた子供たち』さ。あの時の彼女たちは、体は四肢欠損するほどボロボロ、浸食率も五十パー超えててさ、すでにガストレアになりかけていたんだよ」

「……なんだと?」

 

 影胤は仮面の下にある目を細める。

 

「では彼女たちはハイブリットか?」

「う~ん、ハッキングして盗んだ()()()の技術を基盤にして彼女たちに施したから一応そういうことになるかな? 一発で成功したよ。一人で()()()()()()()()()()()()()()()のはちょっと苦労したけど」

 

 今度は大きく見開いた。今、この男はなんといった?

 

「……君は自分が何を言っているのかわかっているのかね?」

「うん? ああそうか、()()()はまだその辺の技術が確立していなかったね」

 

 男はケラケラと笑った。

 影胤は自分の耳が信じられなかった。

 浸食率が限界値になり、ガストレア化寸前の子供たちを治療した上に、体内のウイルスをすべて除去。

 世界のどこでも確立していない、それどころか基礎理論すら提唱できていないであろう技術をこの男は持っており、それをたった一人でこなしたというのだ。

 もしそれを全世界へ発表されたとしたら、世界へ計り知れない衝撃と影響を与えることだろう。

 

「その技術を知っているのは、君だけかね?」

「う~ん、たぶんそうだね。世界中どこ探したっていないんじゃない?」

「……そうか」

 

 影胤は確信した。

 銃をおろし、ゆっくりと近寄っていく。

 真実などわからない。この男が言っていることは妄言の可能性もある。

 

「じゃあ、私は世界の救世主と言うことになるのかな?」

「……そうなのか」

「ん?」

 

 それでもただ、なんとなく確信した。

 この男の言うことは真実だ。

 その技術が世界に拡散すれば、真っ先に『呪われた子供たち』へ施されることだろう。

 

「……ならばッ!!」

 

 右手の掌に、込められるだけ力を込めていく。

 その次は、ガストレアに対する有効手段として兵器転用されることだろう。

 そうすれば、世界中のガストレアが駆逐されるかもしれない。

 そうなれば、自分の立場は完全になくなるだろう。

 殺すために生まれてきた自分の存在意義が、完全に崩壊してしまう。

 

 そんな技術など、認められない。

 そんな技術など、この世に必要ない。

 ならばすることは一つ。

 

「『エンドレス――」

 

 その技術の所有者を、まるごと消し去るのみ。

 

「――スクリィィィィィィム』!!!!」

 

 限界まで圧縮された斥力フィールドが青白い燐光から赤い色へと変わり、紫電をまき散らし大気を斬り裂きながら男へ迫る。もはや逃れようのない必殺の一撃。

 全力の一撃は果たして、男の腹に赤い光が直撃する。

 やったか。と影胤は確信する。

 しかし、いつまでたっても斥力フィールドの赤い光は消えない。

 

「……斥力フィールドか。なるほど、なかなか面白い武器じゃないか。でも――」

 

 影胤は驚愕を顕にする。

 斥力フィールドは貫通せず、男の腹部で止まったまま。

 正確には、先端が男の手によって受け止められていた。

 ひょいと軽く腕を振ると、真っ赤な光はあらぬ方向へ飛んでいく。

 

「こんな子供だましのオモチャ、うちにはどこにでもあるんだよね」

 

 影胤は小さく口を開けたまま凍りついた。

 遠くでなにかが直撃し、家屋が倒壊する音が聞こえてきた。

 

 

 

 






 出てきた男オリキャラのイメージ俳優

 北村一輝。

 別に転生者とかそういう類ではありません(断言)。







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