ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 ゴジラについての、海外の反応。想像以上に長くなってしまった。

 ちなみにガストレアは「奴ら」怪獣たちは「彼ら」と分けておきます。


 首脳陣は、神に畏怖するようです

 西暦、二〇二一年。ガストレアによって、「世界」は敗北した。

 

 十数年前のいつからだったか。世界各地で同時多発的に蔓延した生物に寄生してその遺伝子を書き換え、寄生した生物の性質を保持したまま巨大化や凶暴化するという、マンガの中でしかありえないような特性をもつ新種のウイルスが発生した。その名はガストレアウイルス。現在も人類を脅かす、いわば「世界の敵」である。世界で同時多発的に出現した「奴ら」は瞬く間にその数を増やし、多数の生命を喰らい、生態系を激変させていった。

 

 当然、人類も手をこまねいて見ていたわけではなく、もてる限りの軍事力を総動員してこれに対処。殲滅にあたったのだが、もう一つの特性「再生能力」がこれを不可能にした。考えてみてほしい。銃弾で撃たれた傷口がものの数秒でふさがり、腕や足などのちぎれた部位から数分もしないうちに新たに再生されたら誰もが目を疑うだろう。ウイルスに寄生された生物はこれを可能としていたのだ。既存の生物学を根本から否定するその再生速度は、通常兵器によるガストレアの殲滅を困難にし、また「奴ら」の等比級数的に増えるその早さに追いつけず、戦力も戦線も早々に崩壊。後は一方的ななぶり殺しであり、人類は瞬く間にその数を減らしていった。

 

 総人口率が四十パーセントを切り、もはや人類は絶滅を待つだけかと思われたが、ある時火山帯の地層で発見された鉱物がそれを押しとどめた。バラニウムと命名されたこの鉱物は、精錬するとガストレアの嫌う特殊な電磁波を発する上にその再生能力を著しく阻害し、ガストレアを大幅に弱体化させることができるのだ。それは、人類がガストレアに対抗できる唯一の手段だった。

 

 しかし発見当時の各国の生産力は大きく疲弊しており、ガストレアを殲滅する軍事力など文字通り「ないも同然」であった。そのため、人類は「壁」を作ることになる。「モノリス」という、バラニウムで作られたブロックで構成された巨大な塔だ。この巨塔により、人類の生活圏へのガストレアの進行を阻止することができた。しかし、それは国家の分断という結果となり、政治的機能も疲弊しきっていたため数年で政治制度は廃止。各エリアの統治者による「統治制」となった。

 

 

 

 

 

 東京エリアの統治者、聖天子は両開きの扉が発する金属同士がこすれる音にわずかに顔をしかめ、これまでの回想からそちらに意識を移した。ばれないようあたりを見回すと、他のエリアの統治者も入り口にあたるドアに目を向けている。

 

 聖天子をはじめとした世界各国のエリア統治者がいる場所は、アメリカのニューヨークエリア統治者の公館………少し前は国連総本部と呼ばれていた建物の会議場だった。

 

 入室してきた肥満体の男、ニューヨークエリア統治者は側近らしき長身で禿頭の男を引き連れ、用意されていた席に静かに座ると、わざわざ各国より来てもらったエリア統治者たちに感謝を申し上げると同時に、この建物の職員に各統治者へ資料を配らせた。聖天子は予想に反して丁寧な人物だと感心し、ニューヨークエリア統治者への評価を上げる。しかし、配られた資料の題名を読むと、わずかに緩んでいたその表情は困惑に変わった。

 

 資料の題名には、要約すれば「モナークによる未確認巨大生物の報告」といった題名が印刷されている。

 

 どういうことだ? と各国統治者に疑問が走る。ガストレアに滅亡寸前まで追いやられ、それに対処すると同時に統治するエリアの政策に追われている現状で、未確認の巨大生物という全く関係がなさそうなことをわざわざ議論するのか。そもそもモナークとは何かと。ガストレアに匹敵するような、新たな面倒事が迷い込んできたのだろうか。と軽い偏頭痛を覚え、聖天子は額を指で押さえた。

 

「さて、各国エリア統治者の皆様方はこちらの資料の題名にひどく困惑していることでしょう」ニューヨークエリア統治者が口火を切った。

「まずはこちらの映像をご覧ください」そう言い切ると同時に会議室がうす暗くなり、壁面の巨大モニターにとある映像が映し出された。

 

「これは先月、わがエリアのモノリス外の海上で海棲ガストレア退治に赴いた漁師が撮影した映像です」

 

 各国エリアの統治者は息をのんだ。映像は直接手で撮影されたのか揺れが激しかったが、そのレンズ視点は海上を優雅に泳ぐ得体のしれない、岩石から直接削り出したような巨大な三列のヒレをとらえていた。同僚の船なのか、映像の奥、ヒレの手前を並走する五メートル級の漁船と比べると、そのヒレがいかに巨大なのかがわかる。

 

「当初、漁船に乗船していた人々は、その巨大さからガストレアの変異種であるステージVであると断定し、もてる限りの装備でこれを攻撃しましたが、まるで歯が立たなかったそうです」

 

 当然だろう。と幾人かのエリア統治者はその無謀ともいえる顔も名も知らぬ漁師たちに無言で毒づいた。

 ガストレアウイルスに感染し、遺伝子を書き換えられた生物はそのまま「ガストレア」と呼ばれ、感染前の種にちなんだモデル名、例えば、クモの場合は「モデル・スパイダー」ウサギの場合は「モデル・ラビット」等で呼ばれ、識別される。また、感染して間もないステージIから完成形であるステージIVまで四段階に分けられる。ガストレアはステージが進行していく段階で様々な生物のDNAを取り込み、巨大化するため、ステージII以降のガストレアはそれぞれに異なる異形の姿と特徴を持ち、「オリジナル」とも呼ばれている。その中でも「例外中の例外」とされる存在がステージVであり、人類はこれを「ゾディアック」と総称している。ステージIVのガストレアが子供に見えるほど巨大な体躯、通常兵器をほぼ無力化させる硬度の皮膚、分子レベルの再生能力などを持つ。また、通常のガストレアと違ってモノリスの磁場の影響を受けない。こういった特性などによりガストレア大戦において各戦線で猛威をふるい、ある意味世界を滅ぼした存在といえる。現在確認されている数は十一体存在し、それぞれ黄道十二星座の名で呼ばれているが、巨蟹宮――キャンサー――はそれに匹敵するステージVが確認されていないため欠番扱いになっている。絶対に確認されてほしくないのが各国統治者の本音だが。

 

「この巨大なヒレの生物は特に反撃もせずにそのまま潜航し、深海へと行方をくらませました」

 

「……質問してもよろしいでしょうか」

 

 フランスの元首都パリのエリアの統治者が手を上げて発言許可を求める。ニューヨークエリア統治者が許可すると、居住まいを正し、口を開いた。

 

「なぜそちらはこの巨大生物を『生物』と断言できるのですか。これまでの説明をお聞きしていると、これは『ガストレア』ではなく『生物』であると確信しているかのように思えます」

 

「その質問はごもっとも。かくいう私も、最初はその巨大さからステージVと思っておりました。その疑問についてはこれから順を追って説明しましょう」

 

 ニューヨークエリア統治者はゆっくりと立ち上がると、手元の情報端末を操作してモニターの映像を切り替える。先ほどと同じく大海原の光景だが、映像は安定しており、画面右下の端にある日付と時刻で、つい最近の映像だと確認できる。

 

「こちらの映像はその数日後、別の海域でわがエリアの軍艦が撮影したものです。この艦は、哨戒中に発見したオリジナル・ステージIIの大型海棲ガストレアを追撃しておりました。ですがその途中、艦のソナーが追撃中のガストレアの真下に、これより巨大な影をとらえたのです」

 

 ニューヨークエリア統治者が言い終わると同時に、映されている海面が白く煮え立った。かと思うと、渦巻く泡を切り裂いて巨大な影が上がった。その影を覆う水柱は目測で百メートルをゆうに超え、海水がナイアガラの滝のように轟々と音を立てて流れ落ちていく。その水や泡の向こうから、巨人のような姿がぼんやりと浮かび上がった。

 

 水のヴェールから姿を現した巨獣の姿を見た各国統治者は皆一様に驚きを隠せなかった。あるものは目を見開き、あるものは神に祈った。聖天子は口元に両手を添えてわずかに悲鳴を上げ、一瞬だけ自分の息遣いと早鐘を打つ心臓の音しか聞こえなくなった。

 

 規則的に羅列されたワニの鱗のような表皮が、遥か太古に滅びた恐竜を思わせる巨獣の全身を覆い、背中には先ほどの映像で見たヒレと酷似しているものが見えた。海上から上半身しか姿を現していなかったが、ステージIIのガストレアをその大顎にくわえていることから大体の大きさが予想できる。おおよそ五十メートルはあるだろうか。

 

「見ての通りですが、この巨大生物は『ガストレア』に分別するには生物としてあまりにも整い過ぎています。なにより、ガストレア最大の特徴である赤目がこの身体のどこにも存在しません。以上の点から、我々はこの巨獣を『生物』としたのです。ちなみにこの映像の背びれを分析した結果、先ほどの映像の背びれと完全に一致。同一個体と推測しています」

 

「生物なんかじゃない……モンスターだ………」

 

 どこかの統治者が漏らした言葉に他の統治者は同意する。間違いなく、あの巨獣はガストレアと全く異なる次元に存在していた。

 

「皆さんが映像で確認していますこの生物ですが…………」と、ここでニューヨークエリア統治者が一息おいて額の汗をぬぐって水を口に含む。見ると、当人は非常に言いづらそうな表情をしていた。その雰囲気の異常を察したのか各国エリアの統治者はニューヨークエリア統治者を見る。当人はしばらく口ごもっていたが、意を決して説明を続けた。「……この生物が確認されたのはつい最近ですが、その存在は七十年以上も前から確認されていました」

 

 途端、会議場がザワザワと騒がしくなった。どういうことだと説明を求む者や、ガストレア以外にもこのような生物がこの地球に存在していたことに驚く者、そしてそれを疑う者。会議場は混乱の体を現していた。

 

「これ以上の説明は専門的な話になるので私にはできません。この生物がどういった存在であるかについては、日本から専門家をお呼びしております」

 

 日本、という単語に聖天子の興味がそちらへと向いた。

 

「紹介します。古生物学の世界的権威である、山根英二博士です」

 

 ニューヨークエリア統治者が入ってきた両開きの扉が開き、一人の老紳士と女性が中央へと向う。老紳士――山根英二は銀縁の丸い老眼鏡をかけており、白髪のやや額の部分が後退した頭と髪の毛と同じく真っ白な口髭が特徴的で、垂れた目とあいまって好々爺の印象を受ける風貌の持ち主だった。

 

「各国統治者の皆様方、始めまして。ご紹介に預かりました山根英二であります。こちらは助手のアニカ・エメリッヒです」

 

 紹介されてお辞儀をしたアニカ・エメリッヒはくすんだ金髪で、オールバックの前髪を一部垂らした髪型と少し吊り上った目が印象的な三十代のドイツ人女性だ。

 

「早速ですが、皆様方のお手元にあります資料の一ページ目をご覧ください」

 

 山根に促され各国統治者はページをめくる。すると、そこには何やら報告書のようなもののコピーが印刷されていた。報告書を書いたのは世界初の原子力潜水艦「ノーチラス」号の艦長らしい。だが、それには『極秘事項』という文字が捺されている。山根が説明を始めた。

 

「一九五四年、アメリカ初の原子力潜水艦がそれまでもっとも深い水深に達したとき『なにか』を目覚めさせました」

 

「当初、アメリカは『それ』を旧ソビエト軍の最新兵器であると思っていました」アニカが言い添え、山根が説明を続ける。「一方のソビエトも、全く逆の見解を示していました。当時、太平洋上で核実験が何度も繰り返されていたのはご存知ですね? しかし、それは実験ではなく……」

 

「これを殺すことが目的でした」山根がそう言い切った途端に壁面の巨大モニターにとある画像が映し出された。それは、背中から海面に浮かびあがるあの巨大生物の写真だった。古い写真のためか損傷がありぼんやりとしか見えないが、全体的な輪郭は先ほどの巨大生物と一致していた。再び会議場にざわめきが広がる。

 

「見ての通り、全体的なフォルムが先ほどの映像の巨大生物に酷似しています。この巨大生物は、一九五八年のハードタック作戦を最後に姿を消しました。続けて、資料の三ページ目を御覧ください」

 

 言われ、各国統治者はややけだるそうにページをめくっていく。衝撃的な事実が続いたせいなのか、いよいよ偏頭痛がひどくなり、聖天子は手の甲で額を抑え肘をデスクにつきながら手元の資料をめくった。ほとんどの統治者たちも付き添いでやってきた護衛たちも聖天子と同じくグロッキー状態になっている。

 モニターも切り替わり、古生物学の生物についての資料が映し出された。

 

「今皆様が御覧になっているのは、今から約二億九千万年前から約二億五千百万年前まで続いた地質時代、通称『ペルム記』に生息した生物の資料です。恐竜とはまた違う系統に分類される生物の時代であり、現在の生態系とはまったくの別物でした」

 

 そして、と山根は付け加える。

 

「そのころの地球の地表および大気中は、 『ガストレア大戦以前の地球』より十倍以上の放射性物質で満ちており、ほとんどの動物も、動物以外も、その放射性物質を根源的な食糧源としていたと推測されています。もちろん、他の動物を捕食し、栄養源としていたのも事実です。ところが、数万年と時がたつにつれ地表の放射能濃度は次第に低下。結果多くの生物が餓死しました。ペルム紀の大絶滅です。これは当時の地球の九十パーセントの生物を絶滅に追いやったとされ、現在最新の古生物学でもいまだに過去最大級の大量絶滅とされております」

 

 『ガストレア大戦以前の地球』という山根の言葉に各国統治者は眉間にしわを寄せる。

 核兵器は、ガストレア大戦において何回も使用されていた。最初こそ使用は控えられていたものの、人類がガストレアに追い詰められるとそうもいっていられなくなり、多くの核保有国は禁忌を破って使用に踏み切った。結果としてたしかに核兵器はガストレアの広域殲滅には有効に働いた。しかし、使用された土地は深刻な放射能汚染に見舞われることとなり、結果的に人類の生存区域を減らし、大気中の放射線濃度を上げただけに終わってしまった。

 モニターの映像が、再び先ほどの巨獣の静止映像にかわった。いつみてもそのとてつもない大きさに圧倒される。

 

「しかし、一部の生物たちは生き延びました」山根は続ける。

「『彼ら』は海中や地中に深くもぐり、地核から発せられる放射能を吸い上げることによって餓死を免れ、大量絶滅を乗り切ったのです。しかし、地表の放射能濃度が低下した状態では『彼ら』が生きていくのはとても無理な話。やむなくそこに定住し、仮死状態のまま現在にまで至りました。この巨大生物はそのうちの、海棲爬虫類から陸上獣類への進化過程にある生物の末裔の一体で、太平洋上の核実験やガストレア大戦での核兵器使用による、大気中の全体的な放射線濃度の上昇を受け、つい最近に活動を再開。地上への再進出を図ったものではないかと思われます」

 

 各国統治者達の反応は様々であった。あまりの内容に眼を丸くする者。バカバカしいと哂うもそれを否定できる証拠がなく、逆に肯定するには十分な物的証拠を睨む者。聖天子はどちらかというと前者に近かった。十代後半で東京エリアの統治者になったとはいえ、その経緯は世襲制のそれ。一応彼女は通っている女学校では主席をキープするほどに優秀ではあるが、あまりにも衝撃的かつ荒唐無稽な事実が重なりすぎてついていけなくなってしまったのだ。

 

「資料の題名にある『モナーク』とはこのような巨大生物の発見を機に設立された国際研究組織なのです。この生物を探索し、調査し、それに関するあらゆる情報を収集するために、世界各国の専門家が集まり、秘密裏に結成されました。私もエメリッヒも、かつてはこの組織に所属していました。しかし、先のガストレア大戦の影響で多くの研究員が亡くなってしまい、組織は自然と縮小。事実上の解散状態となっておりましたが、今回の巨大生物の出現をきっかけに、過去の記録を持ち寄り再結成されました」

 

 聖天子は画像を見つめた。ピンボケとはいえ、このとてつもない大きさと輪郭ははっきり見て取れる。一体、この巨大な生物の名はなんと呼ぶのだろうか。そんな聖天子の心中の疑問に答えるように、山根が言った。

 

「我々はこの巨大生物を『ゴジラ』と名付けています」

 

 その名前に聞き覚えがあった聖天子は思い返す。確か、日本神話に登場する破壊をつかさどる神獣の名前で、幾多の神々を殺し回った罪に問われ、複数の神獣によって冥途に封印されたのだったか。おそらく、それが由来なのだろう。

 

「先史時代最強の捕食者で、原始の生態系の頂点に君臨する生物であり」と、アニカは続ける。「『神』……そう呼んでもいい存在でしょう」

 

 各国エリアの統治者は画像を見つめ、今見たことと説明されたことを何とか理解しようとした。そしてその中で、スッと手を上げるものがいた。ロリシカのニューカークエリア統治者だった。

 

「山根博士、ゴジラと呼ばれるこの巨大生物ですが、今後ガストレアと同じく我々の脅威となる可能性はあるのでしょうか?」

 

 それは、この会議場に集まるすべての各国エリア統治者たちの疑問だった。ガストレアだけでも手一杯なのに、さらに人類史以前の太古の昔より生息せし巨大生物ときた。もしこの怪物が自分のエリアに侵入してきたらとてもではないが、対処できそうもない。

 

「いえ、今のところそれはありません。むしろ、ガストレアと敵対するでしょう。ガストレアはその性質上自然の生物を率先して襲いますから、ゴジラも例外ではないはずです。脅威度はガストレアのほうがはるかに上でしょうから、ゴジラも自衛のためにガストレアと敵対する可能性は十分にあります」

 

 山根の返答に各国エリアの統治者はひとまず安心する。つまり、こちらから手を出してゴジラの脅威度が変わらなければ、ゴジラがこちらの脅威に陥る可能性は低いだろう。

 再び質問の声が上がった。聖天子はその人物をみて、おや、と思った。それは彼女にとって見知った人物だった

 

「山根博士。日本の大阪エリア統治者の斉武宗玄です。質問の発言許可を求めます」

 

「許可します」

 

 では、と斉武は疑問を口にした。

 

「率直に申し上げます。このゴジラとやらは殺すことができるのでしょうか?」 

 

「不可能ではありませんが、各国の軍事力が疲弊している現状ではかなり厳しいでしょう。ゴジラは、気の遠くなるほどの長い年月を深海で過ごしていたと考えられます。その表皮は深海の圧力に適応するため、かなり頑丈に進化しているに違いありません」

 

「では核、核兵器ならば、昔みたいに使ってあの生物を葬り去ることも可能では?」

 

「確かに、旧アメリカ軍はゴジラを殺すために核実験と称して核攻撃を続けました」ですが、と山根はモニターの画像を一瞬見て、言った。「逆に考えてみてください。そんなに核実験を続けたということは、それだけ何度も同じゴジラに核攻撃を行ったということにもなるのです」

 

「では山根博士は、ゴジラを殺すことはできないと、そうおっしゃるのですか!?」

 

 斉武は目を見開き、机から立ち上がった。

 

「断言はしません。核攻撃が成功したあとに、ゴジラの別個体が出現しただけかもしれませんし、その後続けた実験は本当の核実験だったとも言えます。ですが、当時の記録の多くはガストレア大戦で消失しました。生き証人も同様です。情けないことですが、今はわからないとしか言えないのです」

 

「………山根博士。こちらも質問してよろしいですか?」

 

 ここでもうひとつ手を上げる人物がいた。聖天子だった。

 

「博士はペルム紀の大量絶滅を生き延びた生物たちを『彼ら』と呼称しましておりましたね。それはすなわち、今後もゴジラの同類、もしくは同じ時代を生きた『巨大』生物たちが、この地上に現れるということなのでしょうか?」

 

 その言葉に他の統治者たちは目を丸くする。考えてみれば確かにそうだ。復活している生物があのゴジラ一体だけどは絶対に限らない。

 

「……質問に質問で返すようで申し訳ありませんが、なぜ聖天子様は今後出現する生物が巨大であるとお思いなのでしょうか?」

 

「数多の生物の因子を取り込んで巨大化していくガストレアと違い、ゴジラはもとからの巨大生物です。象やクジラなど多くの巨大生物は、その巨体を維持するため多量の食物を摂取します。ペルム紀の生態系の頂点に君臨していたゴジラは、歯などの特徴から食性は肉食。つまり捕食者であることは確実です。捕食者は被食者がいないと成り立ちませんが、ゴジラがあのような巨体では被食者もそれ相応に巨体である可能性は十分にあります。もしゴジラの獲物となる生物が巨大で、同じくペルム紀の大絶滅を生き延びた生物たちの中にいるとしたら……自然の摂理に従い、必然的に被食者の割合は大きくなるはずです」

 

 聖天子は、通っている女学院で主席をキープするほどの高学歴保持者であり、わずか十七歳で東京エリアの統治者になるほど為政者としての器もある。ガストレアはもちろん、ゴジラという巨大生物も危険生物として早々に要警戒対象に入れていたのだ。

 

「なるほど……聖天子様の懸念もごもっともです。自然界は捕食者一の割合に被食者は六の割合でなりたっています。被食者が巨大生物ということも十分に考えられます。ですが………それらがもし復活したとしても、我々人類に害が及ぶことはないでしょう」

 

「………何故に?」

 

「聖天子様の仰られた『自然の摂理』です。崩れた自然界のバランスを、修正させる力。神代の時代より生息せし『彼ら』は、人類より自然界のバランスを崩しまわっている『奴ら』を、決して許しはしないでしょう」

 

「つまり、ゴジラ以外の怪獣が出現しても、そのほとんどがガストレアの駆除にあたると? 本当にそんなことがあり得るのですか?」

 

 山根は壁に映された画像を見上げた。ゴジラの姿が映し出されている。

 

「人類が傲慢と呼ばれる所以は、自然は人間の支配下にありその逆ではないと考えていることです。その疑問も、かつて地球の支配者だと思い込んでいた人類が上から目線で見た観点に過ぎないでしょう」

 

 山根は当時と最近の映像を思い浮かべた。実は少し前、彼は当時の映像と最近の映像……それぞれに映っていた背びれの部分をあわせていた。結果、背びれはピッタリと合わさっていた。これはすなわち、現在出現しているゴジラは過去の個体と同一とみても間違いないだろう。

 

「『彼ら』は『奴ら』と必ず戦います。この地球を、かつての故郷に戻すために」

 

 そうつぶやく山根の言葉には、ある確信めいたものがあった。




破壊神『呉爾羅』
 日本神話に登場する破壊をつかさどる神。龍神族の中でも最強の一角であり数多の神々の国を滅ぼし、神々を殺し回ったとされる。その後は天空の神『魏怒羅(ギドラ)』風の神『波羅蛇麒(バラダキ)』水の神『曼陀(マンダ)』火の神『螺燉(ラドン)』土の神『罵螺醍羅(バラゴラ)』識の神『晏麒羅(アンギラ)』の六聖獣によって冥界に封印された。
 現世でヒトが制御できない『チカラ』を持つと冥界から海へ出て上陸し、破壊の限りをつくしてヒトの生活を原始に戻すとされている。

(「日本神獣伝記」より引用:出版社不明)







~おまけ~


山根博士「人類が傲慢と呼ばれる所以は、自然は人間の支配下にありその逆ではないと考えていることです。その疑問も支配者から見た観点にすぎません…………Let,Them,Fight」

聖天子「人類にできることは本当にないのですか?」

山根博士「Let,Them,Fight」

聖天子「言いたくないですが、核攻撃は?」

山根博士「Let,Them,Fight」

聖天子「…………それが言いたいだけでは?」

山根博士「……早く戦ってよ…」







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