ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 なんかいろいろ詰め込んでゴタゴタになってしまった感。


都市伝説は存在を語るか?

将監が告げたポイントは、海辺の市街地。ここからでもそう遠くない場所だった。

いわく、将監のほかに十組の民警ペアがおり、総出で奇襲をかけるとのことらしい。

本当にうまくいくのだろうか。友幸と蓮太郎に一抹の不安がよぎる。一般人でも見ただけで判断できそうな伊熊将監の性格を考えても、即席のチームで連携がうまくいくとはとても思えなかった。

その考えが口から洩れていたのか知らないが、武器の手入れを行いながら夏世が愚痴をこぼし始めた。

 

「まぁ、将監さんは脳味噌まで筋肉でできているうえに堪え性がないのでそもそもバックアップなんてできません。連携とは名ばかりのリンチになるのが関の山でしょう。そしていまだに戦闘職のシェアをイニシエーターに取られたのをひがんでいますし、考え方が旧態依然としていて困るんですよね、あの人は。そもそもにして計画性がないというか、連携するなら最初からチームを組んでおけって話ですよ、まったく――」

 

棘のある言い方が怒涛の勢いで吐き出されるなか、友幸と蓮太郎も持ち前の武器をチェックして異常がないか確かめる。夏世の愚痴は時折生返事を返すだけでほとんど聞き流していた。

友幸は蓮太郎と夏世に背を向けると、ケースから伸びた配線をタブレットにつなげ、内部の機能状態をチェックする。

どうやら崖でパージした時に姿勢制御用の推進剤をいくらか消費したようだが、内部にまで障害が残っている様子はなさそうだ。まぁ、コレが戦闘時以外に損傷を負うこと自体が稀なのだが。

ざり、と後ろで靴が擦れる音がする。夏世が右足で焚火を踏み消していた。

 

「行くのか?」

「あんな人でも、一応ペアなので。里見さんはどうします?」

 

蓮太郎が数瞬ののちに、首を縦に振る。その間の心中に渦巻く不安を察して、友幸は苦い顔をした。カマキリに殺されかける前も、彼は影胤に一泡吹かせることはできなかった。そのコンプレックスと、対峙した時の恐怖はそう簡単に忘れられるものではないはずだ。

 

「芹沢さんは?」

 

ケースを一瞬だけ見やってから、頷いた。正直、伊熊を含めたほかの民警たちに丸投げしてしまいたい気持ちもあるにはある。そのほうが、コレを使わずに済むかもしれないから。だが、影胤と対峙していたからこそ友幸は分かっていた。

彼らは、絶対に負ける。

 

「腕はどう?」

 

友幸の質問に夏世は黙って包帯を解く。キズは残らず治癒していた。

 

「じゃあ、俺は延珠たちを呼んでくる」

 

蓮太郎がそういってトーチカを出る。

時間を確認すれば、ずいぶんと時間をつぶしている。その分幼い二人を長い間見張りに立ててしまったことに罪悪感を覚えてしまった。

友幸も装備の最終チェックを終え、背負った。忘れかけていた重さが肩にのしかかる。

重そうな装備ですね、と夏世に言われたその時、なにやら騒ぎ声が外から聞こえてきた。蓮太郎と延珠、そしてリンダの声だ。

友幸と夏世はなんだろうと目を合わせる。まさかガストレアだろうか?

それぞれ銃を構えて二人はトーチカの外に出る。

 

「おい、どうした?」

「蓮太郎、撃つな! こやつは敵ではない!」

 

友幸と延珠の声が重なったのは同時だった。

暗闇に目を凝らすと、そこには戸惑いながらも拳銃を下ろす蓮太郎の背中と、何かをかばうようにして両手を広げている延珠の姿があった。

 

「……あの二人は何をしているのですか?」

 

ショットガンを下げた夏世が呆れた声で、唯一こちらに駆け寄ってきたリンダに質問する。リンダは黙って、延珠の後ろを顎でしゃくった。

見ると、延珠の後ろで何かがうずくまっている。キューキューとくぐもった鳴き声がするところを聞くに、何かの動物だろうか。

延珠が振り返って、その怪しげな生き物をなでた。

 

「よしよし、怖がるな。もう大丈夫だぞ」

 

言葉がわかるのか、ピイと鳥のように甲高い鳴き声がしたかと思うと、おずおずと怯えるように延珠の後ろから奇怪な『珍獣』が顔をのぞかせた。

その姿に、友幸は思わず目を疑った。

 

「……蓮太郎君、あれなに?」

 

真っ先に生物好きな同僚に質問する。だが、蓮太郎は無言で首を振った。わからないようだ。それもそうだろうな、と友幸も思う。もしあんな生き物がいたら絶対に動物図鑑に記載され、どこかの番組で取り上げられているに違いない。

再び延珠の後ろに隠れていた珍獣に視線を移す。

大きさは一メートル半。シルエットは尻尾のない恐竜のような前傾姿勢で、ニュージーランドに生息しているキーウィという飛べない鳥に似ていた。

次に目に入ったのはド派手な色彩だった。節くれだったヒビに似た模様の入った、カンガルーのような薄灰色の足を除けば、全身が赤いサンゴのような形をした、柔らかそうな体毛のようなもので覆われている。

その体毛をかぶせた丸々とした体形は卵を思い起こさせ、胸元から突き出たトカゲのような三本指の前肢は、指こそ長いが第一指と他の指が向かい合った、物をつかむのに適した構造になっていた。

月の光に照らされた顔は霊長類と鳥類を半分ずつ混ぜ合わせたかのようで、とび色の瞳の比率が多いくりくりとした目は、幼そうな見た目も相まってちょっとした庇護欲をそそらせる。

いまだに半身を延珠の後ろに隠れさせているところを見ると、警戒心が強いのだろうか、ピクピクと震えている様子はむしろちょっと臆病にも見えた。

 

「あの生き物はどうしたのですか?」

「見張りをしていたら森から出てきた。ガストレアかと思ったらなんか懐いてくるし、そしたらいつの間にか延珠があいつにチョコあげて仲良くなっていた」

 

夏世の質問にリンダが簡潔に答える。確かに、あの生き物は延珠に懐いているらしく、彼女に頭をなでられても特に嫌がるそぶりを見せていない。

蓮太郎は正体不明の生き物に年相応にじゃれ付いている延珠を見ていると、自然と頬がゆるんでいるのがわかった。

顔は完全におとなしい動物をかわいがる女の子のそれで、あそこまで楽しそうな延珠を見るのは久しぶりだ。

一瞬、蓮太郎は延珠をいったんここに預けてあの生き物と一緒にいさせることを考えてしまったが、すぐに頭から振り払った。あまりにも非現実的だ。

 

「延珠、行くぞ。影胤が見つかった」

「む、そうか。見つかったのか」

 

彼女に移動することを伝えると、延珠は名残惜しそうに生き物から離れた。急に離れたことに疑問を覚えたのか、生き物は不思議そうに首をかしげた。

延珠が生き物に顔を向けると頭に手を置き、言い聞かせるように言った。

 

「すまぬ、赤いの。妾はこれから戦いに向かわなければならぬことになった。おそらく、このさきお主と会うことは、もうなくなるであろう」

 

そういって、パーカーポケットのチャックを開けて、中から板チョコレートを一枚取り出す。包んでいたアルミ箔を一気にはがすと、こげ茶色のチョコレートが顔を出し、延珠はそれを生き物の手にそっと握らせた。

 

「それは選別だ。妾の暮らす場所では貴重な菓子だから、よく味わって食うのだぞ」

 

生き物は受け取ったチョコレートと延珠で視線を行き来させる。延珠は「さあ、いけ」と顔を小さく横に動かした。

生き物は延珠のまねをするように首をかしげた。そして意味が分かったのか、身体の向きを変えてもう一度延珠を振り向いてから、カンガルーのようにジャンプ移動して森の中へと消えていった。

無言でそれを見送ると、延珠は振り返る。

 

「さあ、いくぞお主ら!!」

 

そして、にっこりと笑った。

 

 

 

午前四時。

新たに夏世を加えた五人は森の中を進んでいく。

長い間見張りをしていたのもあったぶん延珠とリンダは暗視ゴーグル越しの視界がきくようで、延珠が先頭に、リンダがしんがりとなっている。

影胤がいるとされる市街地の場所へ行くには思いのほか時間がかかった。行く手を阻むような森の密度は濃くなり、運の悪いことに進む方向が緩い坂道となって進行速度をさらに遅れさせる。体力の消耗を抑えることを考えれば無難に回り道を探したほうがいいかもしれないが、一刻も早く着くにはここを通るのがベストだった。

暗視ゴーグルなしの友幸も暗闇に慣れた目で彼女たちの後に続く。すると、一瞬だけ開けた森の天蓋に何かが見え、それに目を向けた。

見上げれば、小高い丘の上、薄くかかった雲の中に走る梯子上の物体。崖から落ちるときに垣間見えた、巨大な建造物だった。

 

「芹沢さんは、あれが何かご存知ですか?」

 

隣を歩いていた夏世が訪ねてきた。友幸は頷く。今度はじっくり見られた分、名前を思い出すのも早かった。

 

「うん、確か『天の梯子』だったね。あんな兵器、以前の日本じゃ考えられなかっただろうね。まぁ、この十年でちゃんと復興してはいるけど――」

「そうなのでしょうか」

 

さえぎるように紡がれた夏世の言葉に、友幸は押し黙った。

 

「私は戦争を知らない『無垢の世代』です。しかし、先の大戦で自分の大切な人たちを目の前で貪り食われ、人でないものに変貌させられた『奪われた世代』の胸中には、むき出しの憎悪が見え隠れしているような気がします。『天の梯子』は、その十年の間に開発された数多ある殺戮兵器の代表です。『奪われた世代』の憎悪の象徴といえる超兵器は、今も天と地を結びながら人類の敗戦を見守っています」

 

友幸は何も言わず、黙って天の梯子を見上げた。

夏世は続ける。

 

「これは氷山の一角にすぎません。芹沢さんは蛭子影胤の言った『新人類創造計画』に聞き覚えありますよね?」

「あぁ、国連G対策センターの極秘計画『超人兵士計画』の一環で、バラニウム合金の力を使って最強の兵士を作ろうとした実験ね。人体実験も行われていたという」

「えぇ、その後は『呪われた子供たち』の戦闘能力の高さによって立ち消えてしまったそうです……まぁ、私は蛭子影胤を見るまで都市伝説かと思っていましたが」

 

そう言って夏世はチューブに入ったドリンクを一口すすった。

 

「そういえば、一時期世間を騒がせたゴジラも、元は昔の都市伝説の一環だったそうですよ。『ゴジラ』という名前こそありませんでしたが、なんでも、当時の太平洋上で行われた核実験はすべて、ゴジラのような『巨大生物』“ただ一匹”を殺すためという荒唐無稽なものだったそうです」

 

核の業火を生き延びられる生物なんているはずがないでしょうに。と呆れた一言を漏らしつつ夏世はドリンクを飲み干すと、「巨大生物の存在自体はゴジラで事実になりましたけどね」と一言付け足した。

 

「『新人類創造計画』や『巨大生物』が真実と判明した以上、他の一見ありえなさそうな都市伝説もにわかに現実味を帯びてきてしまいますね。防衛技研の上空を飛ぶ、『東京エリアの極秘決戦兵器X』。大戦時に各地で出没した『青白いリングをまとった円盤』。序列二位のイニシエーターの代わりに処女宮を撃破したという、“生きた火山”と称された『亀の化け物』。他にも、太平洋戦争時、トラック諸島に停泊していた戦艦大和、以下十数隻の軍艦を襲撃した『深海獣零号』。日本海軍の残党が孤島で建造した、陸海空を制する『万能原子戦艦』。二次大戦終結後に、南米に逃げのびたナチスドイツの一派が計画した『改造兵士』と、それに離反し闇にまぎれてその野望を打ち砕かんと暗躍する『昆虫型改造兵士』の紛争。……まぁ、この辺までくるとさすがに眉唾モノですがね」

 

聞いたことのあるものや、初めて聞くものが、指折り数えられていく。友幸は何も言わず、話に聞き入っていた。

 

「まぁ、何が言いたいのかというと、これらの説の大半は、種の存続や、国の正義、大義、名分といったものを賭けた大きな戦争という、なりふり構っていられなかった時代を通り過ぎてから流れたものです。世道人心は乱れ、ただ殺戮能力に特化した武器がいくつも開発された時代を。……私、思うんです。ガストレア大戦で生まれた『奪われた世代』も『無垢の世代』も、結局はそういったものについた、ただの『おまけ』。本当はただ繰り返しているだけで、何も変わっていないんじゃないのか、と。……今も過去も、戦いを終えた後の復興は、本当に『健全な復興』なのでしょうか」

 

友幸は何と言っていいかわからなかった。

夏世も、特に答えを求めていなかった。

それは彼女なりの疑問だったのだろう。そして、それを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

やはり、友幸は何と言っていいかわからなかった。

その後も移動を続ける彼らだったが、突然、何か異常を察知した延珠が立ち止まり、しゃがむように言った。

さっと身をかがめて息をひそめる。

友幸は腰からシグ拳銃、蓮太郎はXD拳銃、夏世はショットガンをそれぞれ取り出し、サイレンサーを銃口に取り付ける。ハンドサインで疎通しながら、音のなるほうへと静かに近寄った。茂みの奥から小川が流れる音が聞こえ、段々と大きくなる。視界前方に何かが見え、友幸は止まれと手で合図した。

巨大なワニが、半身を川の中に沈めていた。全長はおよそ二十メートル。口吻は箸のように細長く、細長い歯がびっしりと並んでいる。見るからに堅そうなうろこが余すことなくその身を覆い、藻や苔が背中に繁茂し模様のような彩りを見せていた。

とはいえガストレアウイルスに感染している以上、何らかの異常はあるわけで、わき腹からは本来あるはずのない第五の足が生え、頭部には通常の一対の目に加え異常なほど肥大化した右目。下顎にも小さな目があった。

あちらも既にこちらに気づいているだろうが、襲ってくる様子はない。じっと、その場に鎮座しているだけだ。

蓮太郎が友幸を見る。友幸は無言で首を振って撤退の意思を見せると、蓮太郎は頷いた。

ゆっくりと後ずさりをしながら、ワニから離れようとした、その時だった。

急に向かい風が吹き、運ばれてきた、つんとした臭いが鼻の奥をつく。友幸はそれに違和感を覚えてその場に立ち止まった。

友幸を除いた四人が訝しげに友幸を見る。それを無視して友幸はこの臭いがなんなのか分析する。

ガストレアを討伐するときに感じる血と臓物のそれに近いが、限りなく違うもの。吸い込むたびに胃がひっくり返りそうになる嫌な気分。

友幸はその臭いに覚えがあった。

間違いない、死臭だ。まさか?

ぐっと両腕に力を入れて友幸はその場から立ち上がった。

 

「ちょ、ゆーこーお前なにやってっ!!」

「大丈夫だ。あのワニ、死んでいるぞ」

 

何を根拠に、と四人は疑心に駆られた顔をしていたが、自分たちの息遣いを除き、物音が何一つ聞こえないのに気がついた。確かに、ワニは先ほどと同じ姿勢で一切動かない。ここまで目立つ行動をしていれば、向こう側は絶対に何かしらのアクションを起こすはずだ。

恐る恐る立ち上がり、四人はそっとワニへと歩み寄っていく。

やがてその全貌が明らかになった時、延珠がひっと息をのんだ。ワニが死んでいる明確な理由がそこにあった。

ワニは川から半身を乗り出していたのではなく、半身そのものがなかった。茂みに隠れて見えていなかったのだ。

頭蓋には杭で撃ち抜かれたような穴があり、喉笛が大きく切り裂かれている。この二つが致命傷であることは間違いない。腰から下は無理やり引きちぎられ、流れる血が下流を赤黒く染めていた。断面から生々しくのぞく筋張った肉の間から、縮れたゴムホースのように垂れ下がった腸の切れ端が川を漂い、うろこの間から背骨らしきものが露出している。

さらに奥のほうを見ると、岸の向こう側に巨大な肉塊が見えた。何かに吐き出されたような巨大ワニの下半身、そのなれの果てだった。

死んでいると分かった途端、濃密な腐臭があたりに漂う。ぶんぶんとハエが飛び回っているところを見ると、殺されてからずいぶんと時間が経過しているようだった。

 

「こりゃ、ひでぇな……」

 

漂う腐臭に顔をしかめながら、リンダがうめいた。

 

「蓮太郎、いったい、なにが……なにがこいつを襲ったのだ……?」

 

延珠が蓮太郎の後ろに隠れ、がたがたと震えている。憎むべき敵とはいえ、あまりにもあんまりなショッキングな光景に、耐えることができなくなったのだろう。

 

「可能性としちゃあ、ステージⅢからⅣあたりのガストレアに襲われたんだろうな。だけど……」

 

蓮太郎は考えうる限りの推測を立てるが、どれも確証を得ない。ガストレア同士が食い合うことはすでに証明されている生態の一つだが、それでもここまで巨大なガストレアを襲う個体などいるのだろうか? 襲った際の相手の反撃等を想定しても、リスクが高すぎる。それこそ、この巨大なガストレアを圧倒するほどの体格の持ち主でないと無理だ。

顎に手を当てて考える蓮太郎だったが、ふと川の中に何か白いものが沈んでいるのに気が付いた。

ワニの手前、やたら大きなくぼみを降りたり登ったりしながら、川に近づく。深さを確かめ、異常がないか確認してからざぶざぶと川に入ると、それを拾い上げた。

 

「これは……牙か?」

 

拾い上げた牙は二メートル以上、一抱えもあるサイズの太いもので、櫛のように細長く並ぶワニのものにはとてもみえない。両側はステーキナイフのようなギザギザが、シャープな形をした先端まで続いており、肉に歯を深く食い込ませるのに適した構造になっていた。このワニをかみ砕いた際に折れたのだろうか。

蓮太郎はいぶかった。なんだろう、この牙、妙に既視感がある。

サメの歯? いや違う。サメはこんなバナナのような形をした牙をしていない。ガストレアウイルスによる進化の跳躍も考えたが、それでもなぜか蓮太郎にはイマイチ納得ができなかった。

その時、延珠が駆け寄ってきた。

 

「蓮太郎、その歯、『ティラノサウルス』のものに似ていないか?」

「ティラノサウルス?」

「うむ。図鑑で見たことがあるが、そっくりだぞ」

 

言われ、蓮太郎はもう一度自分の記憶と照らし合わせて観察する。好きではない古生物の知識はおぼろげだったが、骨格ぐらいなら容易に思い出せた。

両側のギザギザに、先端に向かってゆるくカーブを描いたシャープな形、は延珠の言うとおり、ティラノサウルスのものに似ている。だが、大きさが桁違いだ。

 

「でも……ティラノサウルスの歯はここまでデカくならないぞ」

「……なら、『戦場の巨大恐龍』では?」

 

突然、夏世が聞き覚えのない単語を言い、皆の注意を引いた。

友幸が疑問を口にする。

 

「夏世、『戦場の巨大恐龍』ってなんだ?」

「ガストレア大戦後に流れた都市伝説の一つです。第一次関東大戦時、埼玉県を防衛していた自衛隊の守備隊が孤立し、ガストレアの大群に追い詰められて壊滅状態に陥りかけた時、どこからともなく現れて、大群を一掃したというものです。恐龍の姿かたちは、ティラノサウルスに酷似していたとのことですが、その大きさは五十メートルを裕に超えていたとか……今では、ゴジラのことではないかと言われていますが、別の未確認巨大生物という意見もあります」

「まさか……ありえねえよ、そんなもん」

 

口では否定しつつも、蓮太郎も疑念を抑えられなかった。ゴジラという前例がある以上、それと同じような巨大生物が復活している可能性が必ずしもないわけではないということを、薄々感じ始めている自分がいる。

その時、ワニの死骸によじのぼった友幸が何かに気が付いた。

 

「……どうもその都市伝説、あながち間違っちゃいないようだね」

「え、芹沢、そりゃどういうことだよ?」

「れ、蓮太郎……」

 

蓮太郎の裾がぎゅっと握られた。

延珠が顔面を蒼白にして下を見つめている。

だが、延珠と同じ方向を見ても、踏み固められた地面は特に異常は見当たらない。

 

「蓮太郎、この大きなくぼみ……よく見ろ」

「え?」

 

もう一度立っているくぼみを見渡し、蓮太郎は驚愕に目を見開いた。

自分たちがたっていたのは、足跡だった。

長さはおよそ六メートル以上ある。よく見ると、視線の先には三つに分岐した道があるが、それが道ではなく、足跡の主の指の数であることは言を俟たない。低地の移動に特化した扁平型の足跡は、鳥のほっそりとした指とは比べ物にならないほどがっしりとしている。

それは、まさに『恐龍』の足跡だった。





 夏世がただの解説役になっちゃったよ。つーか都市伝説でいろいろフラグ立てちゃったよ。どうすりゃいいんだよ。


<発音>

友幸&リンダ&延珠&蓮太郎「恐竜?」
夏世「いえ、恐↑龍↓です。『きょう』に抑揚をつけ、『りゅう』で一気に下げます」







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