ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 誰か『シン・ゴジラ』の予告音楽でブラック・ブレットの予告パロやってください(超唐突)

 


矛×鎧×盾

 

 集音機からけたたましい笑い声が響いたのは、スーツを装着し終えて名乗りを上げてからだった。

 

「そうか、そうだったのかッ! 里見くん、君を一目見た時から何故か気になっていたが、まさか私と同類だったとはねぇ!! 芹沢くんはちょっと違ったが、限りなく近い存在とでもいおうか!? ヒ、ヒヒヒヒヒヒ!!」

 

 備わっている分析機能が彼の体内を自動的にスキャンし、マスクの内側のディスプレイが、笑ってよがり狂う影胤の心拍数が上昇していることを淡々と伝えてくる。他にも、透けた骨格から体内に内蔵された斥力発生装置がオレンジ色の三次元映像として捉えられた。

 隣を見やれば、右腕と右足がバラニウムの義肢に変わった蓮太郎も影胤と同様にスキャンされ、腕に十発、足に十五発仕込まれたカートリッジが映像認識で確認される。影胤が防御を重視したものなら、蓮太郎は攻撃重視ということなのだろう。

 絶対的防御力と絶対的攻撃力。まさに『盾』と『矛』の『矛盾』した戦い。自分はさしずめ、両者を併せ持ったバランスタイプ。悪い言い方をすれば、半端者といったところか。

 

「いくぞ、芹沢」

「あぁ」

 

 スピーカーを通してやや機械的になった声で頷き返すと、鋼鉄の足で地面を踏みしめる。思考操作で、内外のセンサーや綿密にハッキングした衛星通信を使って、常にスーツの状態をフィードバックしているオペレーティングシステムを戦闘モードに移行し、様々な戦術的な情報を提供させてもらう。

 

「里見蓮太郎、これより貴様を排除する」

「同じくジンラ號。貴殿を殲滅せんとす」

 

 ひとしきり笑い終えた影胤は、さも嬉しそうに右手を掲げると、手の甲を外側に向け、折り曲げられた中指に親指が添えられる。

 

「よろしい。ならば見せてみたまえ、この私に――」

 

 グッと力を込め、ずれた指先が付け根へと叩きつける。

 

「マキシマムペインッ!! 潰れろおおおおおおおッ!!!!」

 

 青白い燐光を放つ斥力場が扇状に膨張し、凄まじい速度で迫りくる。だが、両者共に引く気配はない。

 

「その技……もう見飽きてんだよッ!!」

 

 友幸が吼えると、右の拳を固く握りしめ引き絞る。分解収納されていたジャマダハルが再構築されるのと同時に、エンジンが空気を取り込む甲高い音が高鳴っていくのが聞こえる。次の瞬間肘の装甲が展開し、スラスターユニットが露出。そこから蒼白い炎を迸らせながら加速し、突き出す拳に更なる力を与える。

 

「『エルボーロケット』ッ!!」

 

 音速を超えて繰り出された切っ先と斥力フィールドが激突し、轟音を奏でる。衝撃波が空気を押しのけ、接触面が青白い電撃をまき散らす。数瞬の拮抗の後、刀剣はガラスを打ち破るような音を立てて貫通。鍔迫り合いに打ち勝ったのは友幸だった。

 着弾点が爆発し、影胤が大きくノックバックする。

 

「斥力フィールドが破られた……?」

 

 粉塵が巨大な煙幕となってあたり一帯を覆うなか、影胤は驚愕に目を見開く。

 防ぎきれると思っていたが、違った。突き出された拳はそれ以上に強力だった。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!!」

 

 不意に蓮太郎の声が聞こえてきたかと思うと、粉塵の一部が暴発した。そして、そこから蓮太郎本人が弾丸のように飛び出してきた。

 

「天童式戦闘術一の型三番ッ!!」

 

 咆哮を上げて、蓮太郎は超バラニウムでできた右の拳を影胤へと向かわせる。

 だが、影胤は動じなかった。二重攻撃は彼の予想の範疇だった。

 手のひらをかざし、再び斥力フィールドを展開させようと、装置に指令を送る。

 しかしその瞬間、影胤の腹に鋭い痛みが走ってそれを阻害した。

 

「なッ……」

「轆轤鹿伏鬼ぉッ!!」

 

 いきなり足に力が入らなくなり、自分の口の中に突如広がった鉄の味に困惑したのも束の間、腹に強烈な一撃を受けた影胤の身体が凄まじい勢いで吹き飛ばされる。

 

「パパァッ!」

「……くひ、くひひひひ」

 

 そうか、そういうことか。影胤は笑いながら理解する。

 最初に打ち出された友幸の拳が、フィールドダメージを殺しきれなかったのだ。

 

「パパを、いじめるなああああああっ!!」

 

 一連の流れを見ていた小比奈が激昂しながら走り出したかと思うと、十メートルもの距離を一瞬に移動して間合いを詰める。一回転して小太刀を大きく振りかぶる。

 剣戟音が鋭く響いた後、小比奈の顔は驚愕に彩られる。

 

「お主こそ、蓮太郎に、友幸に手を出すなっ!!」

 

 同じく、一瞬にして十メートルもの距離を移動した延珠が、バラニウムでできた靴の裏で小比奈の剣戟を受け止めていた。

 延珠はそのまま馬鹿力で小比奈を押し返すと、蓮太郎を抱えて急加速し、その場から離れる。

 友幸もそれに続いた。

 背中のバックユニットが割れ、そこから二本のスラスターが突き出てくる。同時に脚部の機構にも動きが加わって、ふくらはぎと足裏から同様にスラスターが顔を出した。

 レーザー核融合炉が発する莫大なエネルギーがノズルを青く輝かせ、膨大な熱量を一気に放出する。たとえ人間の身体が航空力学的に飛行に適していなくても、それを可能にする暴力的な熱風は、重装甲で覆われた友幸を空へ舞い上がらせるのにさほど時間を有さなかった。

 次の瞬間、三人のいた場所が爆発したかのように土煙が上がる。影胤が持つカスタムベレッタの援護射撃だ。

 

「楽しい、楽しいよ二人ともッ!! この痛み、この空気、私が生きていることが確認できる、戦場の空気だッ!! 素晴らしい、素晴らしいよッ、素晴らしきかな我が人生!!」

 

 フィールドに負荷がかかり、内臓の軋み上がるような痛さを感じながら、影胤は声を殺して笑った。

 あの宇宙人と戦った時にはなかった、湧き上がる昂揚感に歓喜した。

 銃口を向ける。悪趣味な装飾がつけられた拳銃が一斉に火を噴いた。

 

「ハレルゥヤァァッ!!!!」

 

 マシンピストルと化したベレッタがフルオート射撃を開始する。それを見た延珠は変則的に飛び回りながら回避に専念する。だが、影胤は高速で動き回る彼女に正確に狙いをつけて銃弾を叩き込んでいった。先ほどまで飛び乗っていた係留ボートが瞬く間にハチの巣にされて海底に沈む。

 強烈なGに翻弄されながらも、蓮太郎は改めて影胤の馬鹿げた能力に戦慄する。ただでさえ狙いがつけづらい二丁拳銃の上にフルオート射撃でありながら、なおのことここまで正確に射撃ができるとは。

 友幸はそれほど回避に専念せず、影胤の銃撃を真正面から受けた。銃弾が表面にあたって火花を散らすが、耐衝撃性に優れた装甲はベレッタ銃程度の威力ではかすり傷ひとつつかない。

 スラスターをふかし、友幸は単身で影胤へと突撃していく。

 

「いかせないっ!!」

 

 小比奈が立ち塞がったが、その瞬間スラスターの出力を上げ、加速する。想定よりも早く間合いを詰められてしまった小比奈は、友幸に懐へ入られることを許してしまった。

 加速した勢いにひじのスラスターの噴射力を加えて、渾身の斬撃を繰り出す。小比奈はそれを、小太刀を交差させることで受け止めた。

 しかし、空中でとっさにとった態勢だったためにその勢いを満足に殺し切ることはできず、想像以上の重い一撃を受け止めた小比奈の小さな体は、まるで人形のように吹き飛ばされた。

 続けて本陣の影胤に渾身の右ストレートを叩き込む。貫通に適した構造のジャマダハルが空気を切り裂く唸り声を上げ、首元に迫る。影胤はそれを掌に展開した小型の斥力フィールドで上手く受け流すが、友幸はすぐに斜め上から左ストレートを叩き込む。砲弾もかくやという勢いで振り下ろされた左腕は、これも展開されたフィールドによってうまく受け流されたが、友幸は動きを止めずにそのまま体を回転させる。逆の足で放たれた両足の踵落としが影胤を捕らえた。

 影胤はそれを頭上で両腕を交差させてガードし、右掌で右足首、左掌で左足首を掴むと、紙を引き裂くような勢いで両腕を広げる。突然加わった回転運動に面食らうも、スラスターを噴かして強引に姿勢を制御。横回転を止めると今度はバーニアの出力を上げ高速で縦回転し、両腕のジャマダハルを巨大な鉄槌のように振り下ろした。

 だが、青白い障壁によっていとも簡単に阻まれる。断頭台は悔しそうな金切り声を上げると、弾き返された。

 影胤はそこにできたわずか一瞬の隙を突き、マキシマム・ペインを最大出力で放つ。が、それを先読みしていた友幸はバーニアの出力を限界までふかして後方へ離脱する。

 しかし彼の猛攻は止まらない。

 友幸は再び影胤をにらみつけると、肩から二門の大砲が伸びた。

 三十ミリライフル砲。バラニウム弾、劣化ウラン弾及び爆裂徹鋼焼夷弾を使用。特殊機能として、圧縮したプラズマを電磁加速させて発射することも可能な、生身の人間にはとても扱えない火砲だ。

 

「喰らえっ!!」

 

 思考操作によって狙いを定められた機関砲が、火を噴いた。

 手始めに放たれた数発の劣化ウラン弾が空気を切り裂いて影胤に殺到する。人に発射するには明らかにオーバーキルなそれはしかし、やはりというべきか青白い燐光に阻まれ、弾き飛ばされた。

 影胤からカウンターとしてベレッタ銃が顔面めがけて撃ち込まれるが、顔に腕をかざして防御する。しかし、それは小比奈を接近させるための囮だった。

 接近する反応を見てそう悟ってから数秒。間近に強烈な殺気を感じて飛び上がると、先ほどまで友幸が立っていた場所の舗装されたタイルが切り裂かれた。

 その時、延珠が眼下の倉庫街に着陸する。だが友幸の戦術システムが、影胤が撃ち込んだ銃弾が二人のすぐ近くまで接近していることを捉えていた。

 

「――!?」

 

 不味い、そう思ったときにはすでにスラスターを全開にしてその間に割り込んでいた。腕を交差し身をかがめ、防御に徹する。次の瞬間、ガキィンと金槌を鉄板に振り下ろしたような音がいくつか響き、衝撃が骨の髄まで届いた。

 

「大丈夫か?」

「あぁ、サンキュ」

 

 蓮太郎は友幸を背に銃を構えると大きく息を吸って吐くと、正面を見ながら問う。

 

「延珠、一対一で影胤を倒すのにどれくらいかかる?」

「わからん、だが時間はかけさせん」

「ならその前に俺に任せてくれ。奴を消耗させる」

「どうやるんだ?」

 

 マスクの下で友幸はふっと笑った。

 

「ねぇ蓮太郎君、飛行場で言った武装は大体ウソだったけどさ、一つだけ本当のことがあるんだよ」

「そいつは?」

「弾丸その他が合計数百発もあるってこと」

 

 瞬間、友幸の装甲が大きく変化する。

 バックユニットから二門のライフル砲のほかに、七・六二ミリの『ベ八八式三銃身ガトリング銃』と、肩の装甲から小型の多連装ペンシルミサイルポッドがせり上がる。その他にも、腕部装甲の手首外側の零式レールガンや、内側に据え付けられた実弾式マシンガン、アタッチメントでジャマダハルに装着していた機銃をも持ち出して、それらすべてが影胤に照準を合わせる。

 

「全弾発射!」

 

 そう指示したかと思うと、両肩のミサイルポッドからホーミング式ペンシルミサイルが十二発放たれ、遅れて背中と四肢の火砲が一斉に連続射撃を開始する。バックブラストや硝煙が舞い上がり、圧倒的かつ暴力的な火の雨が影胤に向けて叩き込まれた。

 蓮太郎も友幸の影から飛び出し、生身の影胤めがけてXD拳銃で応射する。しかし、その火力は隣で人型の砲台となっている友幸の足もとに及ばない。

 目を見張るような攻撃力だ。彼のそれは、まるで旧ソビエト連邦が得意としていた面制圧砲撃だ。

 着弾の熱波と爆風が押し寄せる中、蓮太郎はその凄まじい火力を間近で見せつけられ、その出鱈目さに息を飲む。今になって、この人間が味方でいることに心底感謝した。

 少ししてから、冷却と様子見を兼ねて砲撃を中断する。むせ返るような硝煙と火薬のにおいが立ち込め、発生した粉塵は倉庫街一帯を完全に覆い尽くしていた。

 

「……やったのか?」

「いや、全然」

 

 ディスプレイが送ってくる情報に友幸は舌打ちする。煙が晴れた先には、砲撃によって耕されクレーターだらけの月面のような有様となった中で、青白い燐光を発し続けるドーム状のフィールドがあった。

 

「でも、効果はあったらしいね」

「ぐっ……」

 

 イマジナリー・ギミックを解除した影胤が苦悶の声を漏らす。どうやら制圧砲撃は彼に負荷をかけるのには十分だったようだ。

 延珠がモデルラビットの脚力を生かして、友幸がスラスターを噴射し一気に加速して影胤に迫る。小比奈がまた迎撃しようと前に出て小太刀を振るおうとするが、次の瞬間友幸の弾幕によって妨害された。その隙を狙って延珠は小比奈を通り過ぎると、影胤めがけて突進する。

 小比奈も遅れてその意図を理解し、痛恨の表情を浮かべすぐさま影胤を援護しようと振り返ろうとした。しかしその瞬間、足元に銃弾が数十発撃ちこまれて思わず足を止める。

 友幸のガトリング銃の全自動射撃だ。どうしても行かせるつもりはないらしい。

 第一そんなことは彼女の相棒が許すはずがない。

 

「お前の相手は、こっちだッ…!!」

「……糞がぁっ!!」

 

 

 

 友幸と延珠が二人掛かりで影胤に飛び掛かる。影胤にとっては、二人は決して与しやすい相手ではないはずだ。

 接近しながら放つライフル砲による砲撃を影胤が斥力フィールドで弾いている間に、背後から延珠が接近、右脚を振り上げ回し蹴りを放つ。頭部めがけて繰り出された脚を、影胤はすんでのところで首を反らして回避する。続けて繰り出される破壊的な蹴りを、影胤は必要最低限の動きで回避し、時に掌でいなしていく。顔を上げて延珠と向き直ると、彼女の赤い目と視線が絡んだ。

 その隙に、火砲の類を収納した友幸が影胤の懐へ滑り込むように踏み込み、ストレートを叩き込む。ここまで密着すると延珠への誤射を防ぐために下手な銃撃はできない。繰り出された友幸の鋼鉄に包まれた右拳は受け止めた影胤の腕を軋ませる。

 二撃目の左拳を掬い取るように振り上げ、鳩尾へ一気に放つ。しかし敵もさるもので、軌道をずらしてうまく避けたのち脇腹で抱え込み、関節技を決めようと力を込める。友幸はとっさに拘束を振りほどくと、また影胤の懐に飛び出す。

 次の瞬間始まる、互いの保持する格闘術による接近戦。だが、繰り出すパンチは影胤の手甲によって弾かれ、いなされ、脇にずらされる。友幸はマスクの下で苦い表情を浮かべる。これに関してもやはり影胤が一歩先を行っていた。

 数歩だけ後ろに下がれば、風を切る音が耳に響いた。影胤の背後からタイミングを見計らって割り込んできた延珠の脚が振り下ろされる。遅れて友幸も脚部のスラスターを全開にし、右脚を振り上げ回し蹴りを放った。

 しかし繰り出された二連打撃は、一度目は部分展開したイマジナリー・ギミックに阻まれ、続く二撃目は後方に跳躍されたことで回避された。

 攻撃がなかなか当たらない煮え湯を飲まされ、思わず舌打ちする。

 

――上方にバラニウム金属、血液反応を探知。迎撃不能。緊急回避推奨。

 

 その時、上から何かが落ちてくるのが捉えられ、その旨が義眼に表示された。

 

「上だ、二人とも!!」

 

 続いて響く蓮太郎の言葉。だが、友幸はそれらの意味を頭ですべて理解する前に、延珠を抱えてその場を飛びのいた。

 次の瞬間、小太刀を下にして爆弾のように落ちてきた小比奈が地面を串刺しにする。

 

「哭け、ソドミーッ、唄え、ゴスペルッ!!」

 

 間髪入れず放たれる影胤の追い打ちの射撃。半身のスラスターユニットを全力で噴かし、加速しながら身をよじらせ、背中を向けて後退する。だが、完全に反転する前に弾丸のうち一発が延珠の上腕に命中してしまった。

 

「あぐぅッ……」

「延珠ちゃん!!」

 

 腕の中の延珠が苦悶の声を漏らす。まずいことに、撃ち込まれたのはバラニウム弾だ。これではイニシエータ特有の再生速度が大幅に抑えられてしまう。

 

「くっ!!」

 

 無駄だとわかっていながらも、友幸は背部のガトリング銃を連続射撃。全周防御使用のため可動範囲がかなり広く設定されたそれは難なく真後ろを指向し、数えきれない銃弾の嵐を叩き付ける。

 だが数秒たてば、発生した青白い燐光がすべての弾丸をあらぬ方向へと弾き飛ばしていた。

 

「芹沢、もう撃つなっ!!」

 

 蓮太郎の突然の頼みにどういうことかと一瞬いぶかしむが、彼の手に持っている物を見てその意図を察する。

 その時、暗闇の中から小比奈が猛追し、三人に迫る。その瞬間、蓮太郎が手に持っていた円筒缶のピンを引き抜いて投擲する。小比奈が構わず切り払おうとして影胤が初めて大声を上げた。

 

「いかん小比奈!それは―――」

 

 直後、スチール缶の物体が小比奈の目の前で炸裂し、爆音と閃光を撒き散らした。

 

――特殊音響閃光弾とはなかなかえげつないことをするなぁ。

 

 マスクの遮光フィルターと音響制御装置で軽減された光と音をその身に受けながら友幸は口笛を鳴らす。

 一度爆発すれば、数百万カンデラの爆光と百七十デシベルの爆音が発生する。いかに訓練された人間でも無防備な状態でそれを受けてしまえば、一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状が現れるという。

 事実、超至近距離でその洗礼を浴びてしまった小比奈は目を固く閉じてしまい、耳を抑えて苦悶の叫びを上げ身をよじらせた。それは小比奈にほど近い場所にいた影胤も例外ではない。そして、その機会を逃すほど彼らは愚鈍でもなかった。

 

「いまだっ!!」

 

 生じた隙を狙って、三人は一斉に駆け出す。

 まずはあらかじめ耳を押さえていたモデル・ラビットのイニシエーターが先手を切った。訳も分からず混乱の極みにあった小比奈だが勘だけで小太刀を交差させて身を守る。

 

「これで終わりだ――『ちっちゃいの』」

 

 意趣返しとしていつか言われたのと同じ言葉を吐き、満身の力を込めた蹴りを入れる。薄手の鋼板をもぶち抜ける打力を持った全力の一発は、ガードした小太刀を一本へし折りながらもなお勢いは減らず。蹴りぬかれた脚はさらに先を行って小比奈の体躯を身体ごと押し上げ、交差させた両腕の骨がミシリと悲鳴を上げる。次の瞬間には、小比奈は埠頭から遠くの海上にまで吹き飛ばされていた。

 そして、友幸と蓮太郎が残った影胤の前に回り込んだ。

 一瞬だけアイコンタクトを交わすと、頷く。今の二人には、このタイミングが両者の間で合致しているという確信があった。

 

「天童式戦闘術、二の型十四番――」

「俺の必殺技、パートワン――」

 

 二人同時に構え、ベレッタ銃が二人に銃口を合わせる前に友幸は脚部のスラスターを全力噴射。蓮太郎は脚部のカートリッジを排出することで、蹴りを爆発的に加速させる。

 

「『隠禅・玄明窩』ッ!!」

「『ホーミューショット』レベル参ッ!!」

 

 ジェット噴射の惰力が付加されたジンラ號のスペースチタニウム鋼の脚と、カートリッジの撃発推進で凄まじい速度を出す蓮太郎の超バラニウム鋼で出来た右脚、両者の尋常ではない脚力がほぼ同時に叩き込まれた。

 激突の瞬間、新たな斥力フィールドが発生する。部分的に展開された障壁から青白い燐光が迸るが、それでこの蹴りを阻むことができたとしても、その勢いを殺すことなどできない。

 衝撃に耐えきれなかった影胤が大気を切り裂きながら吹き飛び、暴力的な勢いを伴って海面に着水。砲弾が着弾したかのような水柱を上げる。やがてシンと静まり返った夜の闇に、冷却口から蒸気が噴出する音が二つ響いた。

 レーダーサイトに映された影胤のシグナルが消失したのを確認し、万が一のために展開していた兵装を収納する。

 それに続けて、ヘルメットを展開させる。吹き抜ける潮風が妙に心地よく感じて、自分の頭が汗でびっしょりと濡れていることに気が付いた。

 

「延珠、その腕――」

「……へへ、一発だけ当たってしまったのだ」

 

 隣から聞こえてきた声にハッとする。

 へたり込んでいる延珠の左腕から、血がとめどなく流れていた。スキャンした結果判明した、銃弾が骨や大きな動脈や静脈といった部分を貫通していなかったことが不幸中の幸いだった。

 

「……すまない、蓮太郎君。あの時しっかりガードしておけば……」

「……いや、気にしていない」

 

 友幸の詫びをやんわりと受け止めながらも、粛々とした態度で応急セットを取り出す。

 手当てを受けて少々痛そうに顔をしかめながら、延珠は蓮太郎に問いかけた。

 

「……蓮太郎、妾たちは勝ったのか……?」

「分からねぇケド……少なくとも戦闘不能にはしたはずだ。あんな勢いで海面に叩き付けられちゃ、内臓破裂を起こしていてもおかしくない」

 

 それを聞いた延珠は頬をほころばせると「じゃあ、あとは遺産だな」とつぶやいた。

 

「……二人とも、俺は教会に行って『七星の遺産』を回収してくる。二人はそのまま治療に専念しといて」

「あぁ、そうする」

「なるべく早くせねばな! このあとも夏世とリンダを迎えに行くぞ!」

 

 そういって延珠は満面の笑みを浮かべた。

 腕を撃たれて痛いはずなのに、先ほどまで凄絶な戦闘があったのに、それらを一切感じさせない無垢な笑顔と明るい声音に、こちらも張りつめていた緊張感が自然とほぐれていくのがわかる。

 

 

――だからこそ、義眼が「警報」の赤い二文字を点滅させた時は、機器の故障を一瞬だけ疑ってしまった。

 

 

「……まだ生きてる」

「え?」

 

 振り向いた先は何の変哲もない、静かな波をたたえる穏やかな海面。今しがた飲み込んだ怪物の気配すら感じさせない。

 だが、友幸は慄然たる思いでその信じられない光景を凝視した。

 ゴポリ、と気泡が生まれ浮かび上がる音が嫌に大きく聞こえる。

 さざ波が立つ海面にふと小さな穴が開いたかと思うと、そこから一気に拡大し、まるでくりぬかれた粘土のような円筒形の虚ろとなった。

 この世のものとは思えぬ超常的な現象を作り上げた恐るべき白貌の仮面は、狂気じみた赤い光を眼窩より放つ小娘と寄り添いながら、海抜はおおよそ八メートルの深淵よりこちらを覗き、睨みつけている。ダメージはあるようで、影胤の持つ冒涜的な装飾が施された拳銃は見当たらないし、小比奈の小太刀は片方を失っている。しかし、総合的に見れば戦闘不能には程遠い。瞳から伺える闘志には微塵の揺らぎも感じられない。なぜだろう、視覚の位置的には圧倒的優位に立たされている状況なのに、精神がそれをことごとく否定する。

 これが、超高序列者。

 全身の血液が液体窒素に摩り替えられたような悪寒が走るなか、激しく動悸している心臓は原子炉のような熱を持ってその逆を行く。

 制御装置を切られたわけでもないのに、四肢が装甲服の重さでその場に縫い付けられたように動かない。

 その時、がくんと足場が不安定になり、よろめく。埠頭のタイルが異音を立て大規模なひびが入り、足元にまで広がっていた。我に返った友幸は再びヘルメットを閉じ、大きく跳んで蓮太郎と延珠の後ろに立つ。

 

「芹沢、はやくここから離れるぞ!」

「あぁ、落ちるなよっ!」

 

 胴に腕をまわして二人を抱きかかえ、噴射炎が当たらないように気を配りながら飛翔する。湾に停泊していた大型客船に着地すると、まもなく影胤も小比奈を連れて舞台に立つ。担がれた様子はない。足の裏から斥力フィールドを放出して自身の身体を押し上げたのだろう。

 蓮太郎はすぐさま天童式戦闘術の構えを取り、友幸は全武装を展開して影胤に狙いを定める。だが、影胤は何もしてこない。ただ、憎悪の籠った眼差しを向けたままだ。

 

「ねェ、里見君、芹沢君。君たちは、なぜ生きているんだい?」

 

 唐突に口を開いた。

 何も関係もなさそうなことをいきなり尋ねられ、たじろぐ。

 言葉は続いた。

 

「私と、キミは、キミたちは、いわば兄弟だ。他人の都合で生死を決められ、歩く道を勝手に作られた“人ではない人”、新人類創造計画の機械化兵士じゃないか? 遺伝子をいじくられ、冷たい鉄の子宮の中で生み出され、親の顔すら知らぬまま育った人造人間ではないか? 小比奈も、延珠ちゃんも、芹沢君の相棒もそうだ。自らの意思で生まれたわけでもないのに、世界から否定された」

 

 腕を伸ばし、拳を上向きに握る。

 

「この世の道理、この世の定義、それらをすべて覆すような存在がこの星に出現した。してしまった! ガストレアに、あのカマキリの化け物、蘇った巨大生物たち、そしてゴジラ……はたしてそれは大地の摂理か、悪魔の御業か、神の意志かッ!? とにかく、人はそれらに抗するために『機械化兵士(われわれ)』は生み出されたッ!! それらを糧に『呪われた子供たち(彼女ら)』は生み出されたッ!!」

「お前、一体何が言いたいんだ……?」

 

 蓮太郎がせかす。よくぞ聞いてくれたといわんばかりに両手を広げた。

 

「そいつらがいなくなれば我々はどうなる? 安寧とした世界で、我々はどうすればいい? 必要とされなくなった我々は、人とも、機械ともいえない身体のまま、世界から隠れて過ごすのか? そして我々は、やがて忘れ去られ、誰にも顧みられることなく、消えていかなければならないのか? 我々は――」

 

――存在してはならないのか?

 静かに問いかける影胤は、仮面の下で目を迫るように大きく広げていた。その瞳に写るのは、自分たちの境遇に対するただ純粋な疑問。

 

「私は東京エリアに大絶滅を引き起こすよ。そして、再びこの世界に戦争の灯をともす。終わらない闘争と戦争の渦を引き起こす。その時こそ出番だ。機械化兵士は必要とされ、その存在意義を証明されるッ!」

 

 蓮太郎が信じられないという顔をする。友幸も唖然とした。

 ついにわかったのだ。蛭子影胤が、如何なる理由でこのテロ事件を引き起こしたのか。

 

「戦争が継続している世界、それが、それこそが、私が求める新人類創造計画なのだ!!」

「ふざけるなアッ!!!!」

 

 蓮太郎の怒号が甲板を揺らした。

 

「『機械化兵士(俺たち)』と『呪われた子供たち(延珠)』を一緒にすんな! こいつは『人間』の、ただの十歳の子供だ! こいつらの未来は、明るくなきゃダメなんだよッ!」

「ならば思い出せ! キミの相棒が『呪われた子供たち』だと露見した時、周りの反応はどうだった? 笑顔と共に祝福されたか? 鳴り止まぬ歓声に心洗われたか? 歓喜のうちに抱き留められたか? 違うだろう!? 私と共に来い、里見蓮太郎ッ、芹沢友幸ッ、藍原延珠ッ!! どうせ彼らは、いつだって裏切り、蔑み、罵るだけだ。いくらあがいたって、キミの言う未来などありはしない!! なぜなら――彼らと我々の望む世界は違うのだからッ!!」

「それこそ違う!!!!」

 

 不意に、それまで沈黙を保っていた延珠が声を荒げた。

 

「妾はお主たちとは違う。蓮太郎も違う。友幸だって違う。妾たちはお主らと違う! 確かに、妾は人間のカテゴリーに入るかと言われたら、そうじゃないかもしれない。ガストレアの血が混じった妾は、人の形をした『化け物』かもしれない。それでも、それでも……妾を人間でいることを、望んでくれる人がいる!! 人間として、見てくれる者がいる!! たとえどんなに嫌われていようと、どんなに嫌いになろうと、妾たちはやっぱり大好きなのだ。だから妾は、戦っていられるのだ!!」

 

 延珠の心から、あふれてくるものがあった。

 外周区で出会った、子供たちを世話する一人の老紳士。

 学校においてきたはずの汚れたランドセルと、そこに入っていた手紙。拙く書かれた『おしごとがんばってね』の文字。それだけで、どれほど荒んだ心が洗われたか。

 

「――お主たちとは違うのだァッ!!」

「延珠……」

 

 なにより、自分の愛する相棒の存在。

 それらが、どれだけ自分の心を支えてきただろうか。

 

「そうか……ならば、死ね」

 

 いつの間にか小比奈が後ろへと回り込んでいたのを見て仰天する。初動こそレーダーで捉えていたものの、その速度事態が異常だった。

 延珠は反射的に蹴りつけるが、深く沈むようにして小比奈は回避、そのまま延朱の軸足を抱え込むとジャイアントスイングの要領で蓮太郎めがけ投げ飛ばす。当の蓮太郎は延珠を受け止めながらも勢いを殺し切れず、そのままパラソルの付いたテーブルセットの山へ突っ込んでいく。

 影胤に視線を向けると、まさにそんな彼らに追い打ちをかけようと残っていたベレッタ銃を向け照準を合わせていた。

 

「危ないッ!!!!」

 

 とっさに射線上へ飛び出そうとするも、小さな影がそれを阻む。

 

「邪魔するなこのクソガキャあッ!!」

「るっさい!! 鎧にはいい思いがねぇんだよ!!」

 

 次の瞬間振るわれる一本の凶刃。凄まじい速度で振るわれるそれを腕の装甲で防ぐ。幾多の剣戟を打ち合わせいったん後退すると、壁をけって加速した勢いを乗せた小比奈が小太刀を振り下ろす。ジャマダハルを交差させて受け止めると、両腕を思い切りふるった。生ずる抵抗もアーマーのパワーアシストで押し返す。甲高い金属同士の摩擦音を立て火花が散った。

 

「あんたのそれ、なかなか堅いね」

「スペースチタニウムをなめんな」

 

 右腕が多機能な義手の知り合いの博士曰く、宇宙で作られた特殊金属らしいし。

 会話を交わして数コンマ秒。再び激しく火花を散らしながら、二つの影が交錯した。かと思えば二人は再び軌道を変え、再び刃を交えようと激突する。

 そして、小比奈は徐々に押されていった。これは単純な体格差やアーマーによる馬力の違いというのもあったが、決定的な差をつけたのは修練だった。友幸のそれは少々のオリジナルが入っているとはいえ、その根本には剣術で習った技と知識がある。対して小比奈は先天的な天性の勘に、いままで戦ってきたときの感覚でこれに挑んでいる。たとえ実力は互角でも、技に通じているか否かで差をつけられることは多い。

 やがて焦りから来たのか、無造作に刺突された小太刀を眼前で白刃取りし、振り払う。そしてさらけ出された腹部に中腰で膝蹴り。壁際まで吹き飛ばされると、数回ほど痙攣して動かなくなった。

 その瞬間、今まで聞いたこともないような爆音が轟いて、周囲を赤白く照らした。

 

「――蓮太郎、君?」

 

 友幸は、その鼓膜を揺らした轟音の方へと目をやり、ぽつりとその名を呟く。

 そこには、腹を刺し貫かれた蓮太郎の姿があった。

 

 

 







 Q:ジンラ號の弾薬量は?

 A:百万発のコスモガンだ(要はほぼ無限)。



 ジンラ號はウォーマシン。
 弾薬無制限だが決してチートではない。いいね?












《没ゼリフ》

友幸「俺の必殺技、パートワン――『本郷猛』お墨付きィ!!!!」
蓮太郎「(誰だよそいつ……)」


影胤「この世の道理、この世の定義、それらをすべて覆すような存在がこの星に出現した。してしまった! 『西暦二〇〇〇年の未確認生物事件』をはじめとして、ガストレアに、『亀の化け物』、『姫神島の怪鳥』、そしてゴジラ……」
友幸「ミヅヅゾゾパバンバギボガガスベド……?(三つほどわかんないのがあるけど……?)」
蓮太郎「おい、ここではリントの言葉で話せ(汗)」







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