ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 今回は短めです。現在のところ一番少ない文字数だと思います。


 青年は狂人親子と邂逅したようです

 時刻は午後四時を回っていた。

 見上げれば日は少し傾いており、雲間から除くその光は赤みがかっている。

 友幸は仰々しい悪魔のバストアップが描かれた扉を背にして部屋を出ると、急な階段を上って廊下に出てから南側に続く廊下を移動し、時折通り過ぎる病院の職員に会釈して勾田病院を後にした。その後は夕食のメニューを考え、近所のスーパーマーケットに足を運び、材料を購入した後、帰り道を歩いていた。

 

「…………」

 

 疲れたのか、友幸はふっとため息をついて、材料がいっぱいに詰まった買い物袋を地面に置くと両手を組んで思い切り伸びをする。ペキポキと関節が音を鳴らした。

 

 そして、組んでいた両手をほどくとそのまま背中に手をかけてジャマダハルを抜き取り、背後から迫る殺気に対して防御姿勢を取った。

 金属同士が激しくぶつかる音があたりに響き渡る。襲撃してきた影は弾き飛ばされるも、華麗な身のこなしで道路に着地する。

 驚きの声は両者から上がった。

 

「え? 斬れなかった!?」

「な、子供ッ!?」

 

 友幸が弾き返したのは両目を真っ赤に光らせた十代前半の少女だった。

 癖が強いウェーブ状の黒髪は短くまとめられており、フリルのついたワンピースがヒラヒラ舞ってとても可愛らしい。

 だが、その両手に持つ黒光りの小太刀を満面の笑みを浮かべて取り扱う様子はそれを狂気に染め上げているような感覚を覚え、思わず身震いした。

 

「おやおや、小比奈の一撃を弾き返すとは。なかなかやるじゃないか」

 

 反射的に声が聞こえた場所に顔を上げる。

 電信柱の上で奇妙な格好をした長身の男が立っていた。

 身長は一九〇センチほどの細い体つきで、ワインレッドの燕尾服にシルクハット、顔をつけている白い仮面には三日月状の目と口が、気味の悪い笑顔を形作っている。

 

「よっと」と男は軽い調子で電柱から飛び降りると、スタスタと歩いてきて小比奈と呼ばれた少女の隣に並んだ。

 

「パパ、このひと意外とつよい。斬っていい?」

「さっきも駄目だと言っただろう。なのに急に飛び出しおって。まったく愚かな娘よ」

「むぅ~、パパぁ」

 

 不満そうな小比奈の様子を見るに、どうやら男は彼女の父親のようだ。だが、友幸を殺したいとまるで欲しいおもちゃをせがむ子供のように小比奈が指差したのを見て背筋が震える。一体どんな教育を施したらあんなふうに育つのだろうか。

 

「私の名前は蛭子影胤。娘の小比奈が飛んだ迷惑をかけたようだ。謝罪しよう。君と戦うつもりはないからその物騒なものをおろしてくれたまえ」

「遠慮します。いきなり襲撃してきた自称敵意のないお方に対して武器を向けないなんて寛大な心、自分は持ち合わせていませんからね」

 

 影胤と名乗った男はそれほど目立つ武器を持っていないため、一見すると丸腰に見えたが、全身から溢れ出る威圧感がそれを否定した。相手は強者だ、それも飛び切りの。

 友幸は腰を低くし攻撃に対応できるように構えると、二人への警戒を緩めずに聞いた。

 

「して、自分に一体何の用です? 人探しですか? なら人違いだと言っておきますよ」

「おやおや、なかなか面白い冗談を言うじゃないか。安心したまえ、私が探していたのは君だからね。マァ、探すと言ってもこんな状況に持っていかずにただ静かに見るだけのつもりだったのだが」

「…………どういうことだ?」

 

 友幸は敬語を捨て、言葉に力を込めた。

 正直に言って、自分がこの怪人の標的になる理由が思い浮かばない。何があってコイツにストーカーされなければならないのだ。

 だが、全くないというわけではなかった。あるとすれば、一つだけ、ある。

 

「芹沢猪四郎…」

 

影胤は居住まいを正すと、やや芝居がかったふざけた調子で両手を軽く広げて演説する。やっぱりそれか、と友幸は下唇を噛んだ。

 

「国連G対策センターの極秘計画、『超人兵士計画』に参加したドイツのアルブレヒト・グリューネワルト、アメリカのエイン・ランド、オーストラリアのアーザー・ザナック、日本の室戸菫、フランスのオーバン・マリク、そして中国のフー・クーリンに続く『七賢人』の一人で物理学者。それぞれのアクが強く、最後まで心を通わせなかった彼らの中で唯一の常識人であり、積極的に他の賢人とかかわった『最後の良心』。レーザー核融合の開発とその小型化に成功し、実用化。そして海水の重水素から作り出すプラズマエネルギー理論を提唱。現在は試験起動にまで持ち込んでいる。各国エリアのエネルギー問題の解決に貢献したその功績は非常に大きい」

 

 ――だが、彼は死んだ。

 影胤は仮面を抑え、押し殺すような声でつぶやいた。そのわざとらしいふるまいに、友幸は次第に苛立ちを募らせていく。

 

「七賢人の中で直接その死が確認されたのは今のところ彼のみ。そして、その血を引いた一人息子がどこの会社にも属さずフリーで民警をやっていて、その実力は序列一九五四位と、それなりに興味が湧く要素は一通りそろっている」

「そうかよ、だからなんだっていうんだ。確かに俺は父さんの息子だ、だがそれだけだ」

 

 友幸がそう言い切ると、影胤は仮面の奥でくつくつと笑い声を漏らした。

 

「結果はこうなったとはいえ、これで俺を影から見るっていうあんたらの目的は達成しただろ。これ以上俺に用がないならさっさとどこかに行ってくれ」

「フフフ、君は蓮太郎君とはまた違った面白さがあるね。私としてはまだ君と話をしてみたいのは山々だが、私にもこれから外せない用事があるからそろそろ退散するとしよう」

 

 そういうと、友幸を見た。仮面の奥にある瞳がじっと見据える。

 

「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったね。せっかくこちらが名乗ったんだ。君の名前を聞かせてもらおう」

「………友幸…芹沢友幸だ」

 

 影胤は「友幸くんね…覚えたよ」とつぶやきながら回れ右をした。

 

「近いうちに、このエリアに滅亡の嵐が吹き荒れる。そのとき君は私と再び会うことになるだろうね。いくよ小比奈」

「また会おうね、トモユキ! 次はそのくび絶対に斬ってアゲル!」

 

 二人は悠然と歩いていくと、闇の中へ消えた。

 友幸はその後ろ姿を見送ると、静かに力を抜き、腕をおろす。惰性で地面にぶつかったジャマダハルの切っ先がガリガリと地面を削る音が聞こえた。

 

「………二度と会いたく無ェよ」

 

 地面に下ろしたままだった買い物袋を手に取り、影胤とは逆の方向に歩いていく。緊迫した状況から解放された倦怠感が全身を包んでいたのだが、自宅で心配しているであろう義妹と相棒の姿を思い浮かぶと、自然と駆け足になる。

 どれほど対峙していたのか日はすっかり落ちてしまい、一等星がいくつか瞬いていた。

 

 




機械化兵士計画⇒超人兵士計画
 身体の一部を機械化するだけでなく、バイオテクノロジー、物理学、超能力など複数の工学、学問を用いた改造を人体に施し、超人的な攻撃力や防御力を持つ兵士を造り出す極秘計画に変更。そのため他の工学専門の学者や超能力者なども加わっている設定。ただし「人造人間」などの倫理に欠ける研究は禁止されていた。
 また、この極秘計画は度重なるガストレアの脅威から世界を解放するために発足した『国連G対策センター』が打ち出したものとなっている。

芹沢猪四郎
 七賢人の一人。友幸の父親。
 その専門は核融合エネルギーをはじめとした物理学全般。当初は機械化などの人体改造に難色を示していたが、「生命の誓い」により強制的な執刀はせず、被験者との「生きるか死ぬか」の同意を得て執刀するという方針により渋々承諾した。
 最後まで馴れ合うことのなかったほかの賢人たちとは違って「学ぶことがある」とほかの賢人と交流し、知識や技術を吸収していた。特にグリューネワルトからは多くのことを学んだらしい。同業の菫は「オッサン」呼ばわりしているが、率先してほかの賢人たちから学んでいくその姿勢には感心している。
 レーザー核融合の開発とその小型化に成功し、実用化したうえ、海水の重水素から作り出すプラズマエネルギー理論を提唱。現在は試験起動にまで持ち込んでいる。各国エリアのエネルギー事情を解決したため、『七賢人の中でもっとも世界に貢献した男』と評されている。
 某月某日、正体不明のガストレアの襲撃を受け死亡。七賢人唯一の死者になってしまった。

オーバン・マリク
 七賢人の一人。
 超人兵士計画フランス支部「ブラッドロック」の元最高責任者。
 動物の因子を用いたバイオ技術が専門。七賢人の誓いである「生命を尊重する」約束を真っ先に破棄し、複数の生物を組み合わせた生物兵器「キメラ」や、ガストレアウイルスを用いて「呪われた子供たち」と同等の能力を持った人造人間「バイオ・ソルジャー」を作りだそうとしていたため、他の賢人から危険視されていた。現在行方不明。

フー・クーリン
 七賢人の一人で、通称「ドクター・フー」。
 超人兵士計画中華人民共和国支部「ガリフレイ」の元最高責任者。
 サイボーグ技術はもとより、それを発展させたロボット工学やバイオ技術も専門としている。七賢人の誓いである「生命を尊重する」約束を当初は守っていたが、唯一の家族だった妹がガストレア化し、死亡してからは性格が一変。約束を破棄し「呪われた子供たち」を使った機械化兵士「ハイブリッド」を作り出すだけでなく、マリクと共にバイオ・ソルジャーも作りだし、さらに機械化手術を施そうと考えていたため、他人はおろか他の賢人からもマリクに続いて危険視されていた。現在は行方不明。



 本当は白神博士や岩本博士も入れる予定でしたが、日本人の比率が多くなると思ったのでボツ(本編に出さないとは言っていません)。

 本編より設定のほうが早く書けたってどういうことなの………………。







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