王と音 作:リル
「ジン、腹が減った。なにか作ってくれ。」
「普通に嫌だ。」
クロノスの頼みを普通に断るジンであった。
二人は相変わらず、お互いに減らず口を叩いている。
「そういえば〜、アルフィアとのデートはどうじゃった?流石にキスくらいはしたんじゃろ?」
「してねぇよ。」
「このヘタレ!まったく、貴様は恋愛事に関しては奥手すぎるわ!」
叱責するクロノスの言葉を何とか心に刺さらないようにして聞き流すジンであった。
ジン自身もアルフィアとの関係を友人では無く恋人になりたいと思ってはいる。
しかし、根性はない。
先日の怪物祭でアルフィアを誘ったのが一番頑張った結果である。
「はぁ~、お前だけのせいでは無いがヘタレだのう。」
クロノスは少し拗らせているアルフィアのことも思い浮かべてため息をついていた。
そのアルフィアはベルと共にダンジョンへと足を踏み入れていた。
アルフィアはベルを鍛えると同時にもう一人の小人族の少女の心を鍛え直していた。
「そんなものか?もっと、素早く動け。敵は待ってくれないぞ。【福音】」
アルフィアの魔法が小人族の少女に直撃して小人族の少女は吹き飛んだ。
「リリを殺す気ですか!?」
「貴様のネジ曲がった考えを変えてやろうと言うのだ。」
リリと名乗った小人族の少女リリルカ・アーデは酷く後悔していた。
噴水の前のベンチでカモれそうな男の子を見つけて取り入ろうとしたら、まさかの保護者登場。
リリルカの本能が逃げようとしたがアルフィアに捕まり、洗いざらい吐かされた。
ベル自身は気にしていなかったが、アルフィアはベルをカモにしようとしたリリルカのことを許さず、ダンジョンでの地獄を味あわせている。
まず、アルフィアの魔法を避けながらモンスターと戦わなければならない。
モンスターに殺られそうになるときはギリギリ助けられて再び地獄を始めてくる。
死ぬこともできず逃げることも出来ない、まさに地獄のような更生プログラムが用意された。
「さっさっと起き上がれ。」
「お義母さん、少しやり過ぎなんじゃ…。それに昨日から少し不機嫌だし…」
「やり過ぎではいない。本来なら深層へと放り投げるところだが、加減をして中層にしてある。ベル、お前も他人の心配をしている暇はないぞ。」
「えっ!?それって…」
「【福音】」
ドゴンッ!
アルフィアの魔法がベルを直撃した。
明らかにリリルカに放ったのよりも威力が上がっていた。
「レベル2となったからにはさらにシゴいて行くぞ。剣を取れ。」
「やっぱり不機嫌!」
アルフィアが不機嫌なのは先日の怪物祭でジンとのデートを邪魔されたせいだ。
三十を越えての拗らせた恋。
デートを邪魔されたアルフィアの怒りはMAXを超えていた。
怪物祭のときはベルの手前、怒りをあまり見せていなかった。
しかし、怪物祭が終わるとフレイヤ・ファミリアを襲撃し幹部たちを血祭りにあげた。
クロノスがフレイヤ・ファミリアから帰るときその光景を見てゾッとしたとか。
フレイヤもアルフィアと敵対したくは無いので何とか幹部たちが半殺しにされるというので事なきを得た。
だが、いくらフレイヤ・ファミリアの幹部たちを半殺しにしたからといってアルフィアの機嫌が直るということにはならない。
せいぜいマシになるというだけである。
故に面倒だが、ベルの訓連のついでにベルをカモにしようとしたリリルカで憂さ晴らしをしている。
ベルはレベル2となったことでアルフィアと少し戦えるようになっている。
無論、かなりの手加減をされているがそれでもレベル2になったばかりとは思えないほどの強さである。
そして、時が経つとベルとリリルカの訓練は終わった。
ベルは慣れているので疲れた程度だが、リリルカは目が死んでいた。
「おい、小人族の小娘。貴様、どこのファミリアだ?」
「ソーマ・ファミリアです。」
「あぁ、そうか。だから、冒険者をカモにして金を得ようとしたのか。酒を飲む欲しさに。」
「お義母さん、どういうこと?」
アルフィアはソーマ・ファミリアの実態をベルに明かした。
ベルはお酒のためにそこまでやるんだと少し辛そうにしている。
「さて、貴様はどうしたいんだ?」
「どうとは?」
「これからも盗みをして生きていくのかと聞いている。ファミリアから抜けるためとはいえ、人のものを盗んで自由を手に入れてもそれは自由などではない。」
「あなたにリリの何が分かるというのですか!!」
リリルカはアルフィアの言葉が気に障り苛立った。
アルフィアに言い返したもののアルフィアの言葉は正しかった。
「分からんな。貴様の気持ちなど分かりたくもない。」
アルフィアはどこまでも厳しかった。
世の中が残酷でどうしようもない事なのはアルフィア自身が分かっている。
「さて、憂さ晴らしも済んだことだ。ベル、帰るぞ。リリルカ・アーデ、次、ベルを騙そうとしたら容赦はしないぞ。」
ベルとアルフィア、そしてリリルカは地上へと帰還した。
地上へと帰還した三人は魔石を換金した。
「これが貴様の取り分だ。」
リリルカの目の前に置かれた袋にはお金が入っている。
そのお金は今日魔石を換金したお金の半分である。
「こんなに…何が目的ですか!リリは何もしていない!憐れみですか!同情ですか!」
どこまでもバカにされたと思ったリリルカは怒鳴った。
ベルの目にはどこか辛そうに見えていた。
「憐れみや同情などはしない。私からすればこれでベルと関わるなという意味もある。ではな。」
アルフィアはベルを連れてホームへと帰った。
二人の後ろ姿を見てリリルカは袋を握りしめている。
「リリは…どうすれば良いんですか…」
ベルは隣に歩いているアルフィアに話しかけた。
「お義母さん…その、良かったの?リリルカさんのこと…」
「お前は優しいな。メーテリアのように優しい。」
懐かしむように優しい瞳を向けるアルフィア。
ベルはそんなアルフィアを見るのは久しぶりでどこか嬉しかった。
何よりも母と同じで優しくと言われたのがベルにとっては誇らしかった。
「あの少女が盗みを続ける限り救われはしないだろう。だが、盗みを辞めて英雄を求めるのならば、救ってやれ。」
「うん!でも、良かったぁ。お義母さんの機嫌が直って。」
「私は不機嫌では無かったぞ。」
「そ、そうなんだ…」
絶対に不機嫌だったアルフィアだが、それを追求することはベルには出来なかった。
次の日
再びダンジョンで訓練をしているベルとアルフィア。
ある程度して地上へと戻ろうとするとリリルカがモンスターに殺されかけていた。
「リリルカさん!」
ベルはリリルカとモンスターの間に入りモンスターを倒した。
「どうして…どうして助けたりするんですか!昨日、会ったばかりのリリを助けるんですか!リリは助けられる資格もないんです!騙して!盗んで!汚い道を歩いて来たんです!助けられる資格なんて無いんです!」
「確かにリリルカさんは盗みをしたのかもしれない。でも、だからといって見捨てるなんて僕には出来ないんです!」
「ベル様はお人好しのバカですね。」
リリルカは泣きながらベルに抱きついた。
ベルは泣き止むまで胸を貸した。
ドゴンッ!
「痛いです!!」
アルフィアはいつまでも抱きついて動かないリリルカの頭を殴った。
「いつまで抱きついているつもりだ。さっさっと帰るぞ。」
「リリも良いのですか?」
「貴様が死のうが生きようが知ったことではない。だが、ベルが助けると決めたのならば助けられておけ。」
アルフィアは地上へと帰還するとベルをホームに帰らせてアルフィアとリリルカでソーマ・ファミリアへと向かった。
そして、アルフィアはソーマ・ファミリアの連中を半殺しにした。
「貴様、こんなことをしてタダで済むと思うな!」
ソーマ・ファミリア団長のザニス・ルストラがアルフィアに向かって言った。
「知らん。」
レベル7のアルフィアに勝てるものなどソーマ・ファミリアにはいなかった。
団長であるザニスを倒してアルフィアはソーマの元へと向かった。
「ソーマだな。リリルカ・アーデの改宗を許可しろ。」
「興味ない。」
「そうか。お前がファミリアを放置したせいで、ほとんどの団員たちは問題行動を起こしている。今頃はギルドやガネーシャ・ファミリアに伝わっているはずだ。お前の酒作りは出来なくなるな。」
その言葉を聞いたソーマは顔を真っ青にしている。
ソーマにとって酒作りは命であり、それができなくなるのは死も同然。
「だが、最後に良いことをしろ。リリルカ・アーデの改宗を認めろ。」
「ならば、その子の覚悟を見せてもらう。私の酒を飲んで正気を保つことが出来れば認めよう。」
リリルカの前にソーマの酒が置かれた。
普通の者ならその酒を飲むと正気を失う。
耐えることが出来るのは一握りだ。
「分かりました。」
リリルカはソーマの酒を飲んだ。
気が狂いそうになるのを耐えようとするがリリルカには耐えられそうにも無かった。
「やはり、だめか…」
ソーマは興味無さそうに再び酒を作ろうとした。
すると、リリルカは泣きながら懇願した。
「耐えました!お酒なんていりません!」
リリルカが耐えれたのはアルフィアの訓練で心が強くなったおかげか、はたまたベルの言葉を思い出したおかげか。
リリルカは様々な理由で何とか耐えることが出来た。
「そうか…改宗を認めよう。」
その後、リリルカはヘスティア・ファミリアへと改宗した。
ソーマ・ファミリアの問題を起こしていた団員たちは捕まり牢へと入れられた。
残ったまともな団員たちはソーマと共にファミリアをまともなものにしていくと誓った。